-102 厄災は突然に?-将軍「だっしー、大変だ!!」 警察の関係者3人を含む数名がご飯のお供に舌鼓を打つ場所に慌てた様子で王国軍の鎧を身に纏った軍人が慌てた様子で裏庭に入って来た。恰好から見るに将軍(ジェネラル)らしい、と思ったらいつしかのニコフ・デランドだった。林田警部の友人で鳥獣人族のキェルダと先日籍を入れたあの人だ。林田「ニコフ・・・、そんなに慌ててどうした。カレーくらいゆっくり食わせてくれよ。」ニコフ「流暢にとても美味そうなキーマカレーを食ってる場合じゃないぞ、ドラゴンだ!!ドラゴンが出たんだよ!!」 林田は全然慌てていない、ダンラルタ王国警察の爆弾処理班でレッドドラゴンが立派に堂々と働いているからだ。それに観光目的でネフェテルサ王国にやって来て温泉を楽しんでいる者もいる、それにも関わらずニコフは慌てた様子で続けた。理由が理由だったからだ。ニコフ「何言っているんだ、ドラゴンはドラゴンでもブラックドラゴンだぞ!!」林田「ブラックドラゴンだって?!」 その名を聞いて初めて林田が慌てだした、光は未だ訳が分かっていない。光「林田さん、ブラックドラゴンって?」林田「レッドドラゴンと同じで上級のドラゴンなのですが、暗黒魔法により魔の手に落ちたドラゴン達がブラックドラゴンになるのです。民家等から放火などの被害が相次いでいて最近は外界に追放されていたのでずっと姿を見なかったのですが、今になってどうしていきなり・・・。」 本人自身も何かしらの被害を受けた覚えがあるのだろうか、林田は震える両手で頭を抱えていた。林田「急いで向かおう、被害者が出る前に食い止めるんだ。ニコフ、案内してくれ。」ニコフ「案内するも何も・・・、お前の真上にいるじゃんか。気付かなかったのか?」林田「ほへ?」光「あはは・・・、大きいですね・・・、バタン!!」 目の前の大きなドラゴンを見てその場に倒れてしまう光、それを見て林田は拳を握った。林田「光さん!!こいつよくも・・・。」 歯を食いしばりながら目の前にいる巨大な上級のドラゴンを見上げる林田、それを見てブラックドラゴンは慌てている様子だった。人語を話せるらしいが外界の言葉らしく、全員が理解できていない。ブラックドラゴン「・・・・・!!・・・・・・・・・・(外界語)!!」 ただ目が覚めた光は神様のお陰ですぐに理解出来
-103 龍の正体と探し人- クォーツを案内し、光達は街の東側の出入口へと向かった。ニコフが守衛にその美女を紹介するとブラックドラゴンの姿に変化した訳では無いのに守衛たちが震えだしている。守衛「そ・・・、そのお方があのブラックドラゴンなのですか?」ニコフ「クォーツさんと言います、適性検査とカードの発行をお願いします。」女性「クォーツさんですって?!そこのお方、お待ちください!!」 聞き覚えのある声が響き渡る、振り向いてみるとアーク・ビショップのメイスではないか。見た感じは素面なのだが息を切らしながら走って来たらしく、顔が赤くなっている。メイス「そのお方の適性はこの私が証明致します、カードの即時発行をお願い出来ますでしょうか。」守衛「アーク・ビショップ様・・・、これはどういう・・・。」クォーツ「メイスさん、やっと見つけた!!」 メイスより指示を受けた守衛が出入口横の事務局でカードの発行を行っている間にメイスの方から改めてクォーツが紹介された、ただ全員が大きな勘違いをしていたみたいでそれによりメイスがかなり焦っている。メイス「クォーツ様がブラックドラゴンですって?!何を仰っているのですか、ドラゴンはドラゴンでも古龍(エンシェントドラゴン)ですよ!!」林田「え・・・、古龍(エンシェントドラゴン)ってあの1000年以上生き、伝説の存在とされているあのドラゴンですか?!」クォーツ「そんな大げさな、俺は齢たった1872年の若者ですよ。」 謙遜する古龍を横目に古代の歴史書を開くメイス、そこには先程のクォーツと同じ特徴を持ったドラゴンを描いた挿絵が見える。横には長々とした説明書きがあった。 【古龍(エンシェントドラゴン)】-古来より1000年以上生き、他のドラゴンや上級魔獣等の比にならない位の知識と権威を持つ伝説のドラゴン。その代表とされるラルー家は各々が「一柱の神」とも称され崇められている。ただその見た目によりブラックドラゴンと間違われやすいが角の生え方と鱗の硬さ、そして使用できる魔法の多さに大きな違いがありその威厳を人々に見せつけている。存在すら伝説とされているので会える事はこの上ない幸福・・・。クォーツ「一柱の神だなんてそんな・・・。あ、どうも。」 メイスが丁寧な口調で説明書きを読み終えると全員改めてクォーツの方を見た、目線の先の古龍は守衛か
-104 神の目的- 王女のペプリは2人に迫られ怖気づいてしまっていたが、正直に自らの腹痛の理由を話そうとしていた。震えながらも重い口を開く。ペプリ「2人共何か勘違いしてない?吐き気なんてしてないし相手って何?それと今一番食べたいのは大好きなカレー!!」 一柱の神と称される古龍は開いた口が閉まらなくなっている、その隣でアーク・ビショップが冷静に尋ねた。メイス「では王女様、腹痛はどこから来ているのです?」クォーツ「メイスさん・・・、多分俺ですわ。急いで来たんだけど間に合わなかったみたいです。」 ゆっくりと挙手するクォーツ、どうやら今回の訪問に大きく関係しているらしい。クォーツ「ペプリ・・・、今朝何食べたんだ?」ペプリ「クォーツ姉ちゃんが送ってくれた生牡蠣だけど。」 古龍は頭を抱えた。クォーツ「やっぱりか・・・、悪かった。生食用と間違えて加熱用の物を送っちゃったんだわ。それに当たっちゃったみたいだね、本当にごめんなさい。メイスさん、回復魔法(ヒーリング)をお願い出来ますか?」メイス「勿論です、すぐしますね。」 メイスはペプリのお腹に手を当て魔力を込め始めた、痛みが引いて来たらしくゆっくりと落ち着いた様子で深呼吸をしている。クォーツ「本当にごめんなさい、カキフライにして俺が食べようとした方だったんだ。何かお詫びをさせてくれや。」 どうやら神は謝罪の為に来たようでお詫びとして何か自分に出来ることは無いかと尋ねると王女は空を飛んでみたいと答えた、幼少の頃からずっと王宮に籠りきりなので「自由」というものを改めて感じてみたいのだという。クォーツ「そんな事なら俺の背中に乗ると良い、飽きる位まで飛んでやるよ。」ペプリ「えっ・・・、本当に良いの?」メイス「王女様、いけません。一柱の神に乗るなど罰が当たります!!」 クォーツが原因は自分にあるのだからと必死になってメイスを宥めようとしている、その様子を見てペプリはクスクスと笑っていた。 そんなペプリを横目にクォーツは古龍の姿に変化し、自らの背中に招待した。クォーツ「罰が当たる訳が無い、俺の方に非があるんだし了承しているんだから。さぁ、おいで。」 王女がキラキラと目を輝かせ招待されるがままに古龍の背中に乗ると、古龍は大きく翼を広げ空へと上昇していった。メイス「あらあら。まぁ、いいか。光さん、すみ
-105 神の帰還と王女の訪問- 2人が午後の優雅な紅茶タイムを楽しんでいた頃、王女を背に乗せた古龍は何としてでも謝罪をしたいと思っていたので空を飛ぶ以外に何かしたい事は無いかと尋ねてみた。ペプリ「うーん・・・、やっぱりカレーが食べたいかな。」 相も変わらずだが、一国の王族が全員カレー好きとは変わっているとクォーツは思った。これは彼女の勝手なイメージなのだが王族は毎日絢爛豪華なフルコースを食べている様な、正直たかがカレーにそれを越える何があるのだろうかと。ただ、カレーとカレーが大好きな全人類に失礼なのだが。クォーツ「本当にお前はカレーが好きなんだな、会う度いつもカレーじゃないか。」ペプリ「だって・・・、王宮の食堂のシェフが作ってくれないんだもん。」 王宮では毎朝シェフが市場に通い、自らの目利きで拘った食材を使った豪華で美味しい料理をじっくりと楽しんでほしいと張り切ってフルコースを作るのだがその中にカレーライスどころか米料理は含まれていない。理由は非常にシンプルで外界出身のシェフの地元では米文化が発達しておらず、余り食べた事が無い食材で料理は出来ないとの事なのだ。 ある日王宮をこそこそと抜け出し自由に街を散策していた時、そこら中のお店というお店から芳しいスパイスの匂いに誘われたまたま入ったお店で初めて食べたシンプルな見た目のカレーライスの味を忘れる事が出来ずに今に至る。ただ、何処のお店かを思い出すことが出来ない。 今でもあの味にもう一度会いたいと一人で王宮からこっそりと抜け出して色んなお店のカレーを食べに行くのだがそのタイミングが家族と被って結局目立ってしまい、懐かしの味を見つけ出すまでに至らずに終わる。クォーツ「よし、今回は私のおすすめのお店を紹介しよう。お前の言う懐かしの味かどうか分からないが俺の大好きなお店だ、少し遠くまで行くが大丈夫か?」ペプリ「平気、楽しいから良い。クォーツ姉ちゃんの好きなカレー楽しみ。」 クォーツは翼を大きく広げ、雲の上に向かって勢いよく飛んでいった。雲の合間を縫って一面真っ青な空の世界に抜け出して暫く飛んでいくと、大きな島のような物が浮かんでいるのが見えた。ペプリを乗せたクォーツはその島の先端に降り立ち、王女を降ろして人の姿に戻ると歩きながら案内を始めた。まず最初に街の入り口らしき場所へと向かう、そこでは国境検問所
-106 優しさの塊- 裏路地の食堂に入るなり辛さを聞いて来た主人は片手で持てる雪平鍋とお玉を持っていた、傍らにはスパイスが入った小瓶を集めている小さな棚が置かれている。主人「おい、クォーツ。辛さはどうするって?それとも今日はカレーじゃないのか?」 どうやらクォーツはこの店の常連らしく、いつもカレーを食べている様だ・・・、とペプリは思っていていると。クォーツ「3番のロースカツ、唐辛子と飯マシマシ。福神漬け多めで。」 主人「あいよ、隣の姉ちゃんは辛さはどうする?」 ペプリ「えっ・・・?」 調理場の上に大きなメニュー表らしき物が掲示されている、どうやら主人が「辛さ」を聞いた時に某有名ラーメン屋みたくメインとなるカレーの注文の詳細を全て伝える事になっているらしい。サイドメニューも充実していて気持ち程度だが少な目に作られているのでセットで食べる神々が多い様だ、カレーだけ食べたいなら量を増やせばいい。 王女は一先ず見様見真似でゆっくりと注文してみる事にした。ペプリ「えっと・・・、8番のウインナーフライ・・・、飯・・・、マシ・・・。ポテトサラダ・・・、1つ。」 主人「姉ちゃん、許可証は?」 ペプリ「許可証?」 改めてメニュー表を見てみるとどうやら最初の番号がカレーの辛さの事らしく、6番以上は5番を食べた客に店主が発行する「許可証」が無いと注文出来ないシステムになっている様だ。スパイスに拘っているので6番以上はなかなか作れないが故にそうしているとの事。ペプリ「ごめんなさい、とりあえず5番で。」 主人「5番でも結構辛いけど良いのかい?それに見た感じ華奢みたいだから飯マシでポテトサラダを付けたら食べ切れないんじゃないの?」 ペプリ「辛いの好きなので平気です、それとポテトサラダは山ほど食べても足りない位大好きなんです。」 主人「ははは・・・、そうか。疑って悪かったな、お詫びにポテトサラダはおまけさせてもらうよ!!好きな所座りな!!」 店内を見回すと調理場の傍にカウンターが15席とテーブルが8卓ほど設置されている、主人の他に数人のエルフがホールを担当して店を回している様だ。空になった皿を見るに全ての客がカレーを注文して美味しそうに食べている。2人は奥のテーブル席を選んで座った。クォーツ「ここはこの国で有名な食堂でね、俺なんか週1でカレーを食いに来るん
-107 王女の好み- 主人のサービスで普段3本のウインナーフライが5本乗ったカレーとお代わり自由な山盛りのポテトサラダを完食して幸せそうな表情を見せるペプリに会計を済ませたクォーツが店の外で口に合ったかと尋ねる。ペプリ「初めて食べたのに何処か懐かしさがあったカレーは見た目以上に優しくて、それでいて刺激的な辛さがあって美味しかった。それとポテトサラダも最高、大好物をもっと好きになれたよ。」クォーツ「そうか、お前さんの好きなあの味に近かったか?」ペプリ「うーん・・・、何か違う様な。」クォーツ「そうか、一先ず帰ろうか。」 その頃、メイスとのお茶会を終えた光は夕飯の支度を始めようとしていた。王女と古龍の話を聞いていたら食べたくなってきたのでカレーを仕掛ける事にした。どうやらメイスも同様に食べたくなって来たらしく、調理を手伝うと申し出てきた。ついでに気になっていた事を尋ねてみる事に。メイス「そう言えば王女様はこの世界から出た事が無いはずなのですが言語的な問題は大丈夫なのでしょうか、古龍様が何処に向かわれたかによったら・・・。」光「大丈夫ですよ、こっそりとですが王女様にも『自動翻訳』を『付与』しておきましたから。」メイス「それなら安心ですね、もう今からカレーを作るのですか?」 光は野菜の仕込みを始める為に冷蔵庫を開けて隅々まで材料を探した。光「そうですね・・・、あれ?ごめんなさい、すぐには出来なさそうです。今見たら肉を柔らかくするためのある材料を切らしているみたいなのでゲオルさんのお店で買ってこないといけないみたいでして、すぐに買ってきますね。」 光は『瞬間移動』でゲオルの店へと移動し、肉を柔らかくするための「ある材料」を購入してすぐに家に戻った。メイス「お帰りなさい、早かったですね。えっと・・・、それで肉が柔らかくなるのですか?」光「火を加える30分前から「これ」につけると柔らかくなるんですよ。」 早速角切りにしていた牛肉を買って来た「ある材料」につけて冷蔵庫に入れなおした、その傍らで野菜の準備をしていく。 「ある材料」につけてから30分経ったお肉を冷蔵庫から取り出して水気を取ると、鍋で油を熱して硬い物から野菜を炒めていく。光のカレーには定番の根菜類とは別にえのきだけとぶなしめじが入る、その2種類の茸と一緒に牛肉を入れると一気に炒めていった
-108 求めていたのは家庭の味- 少し前なのだが光はパン屋の仕事が休みの日に街中にある食堂の手伝いをした事があった、そこで自分が家で食べるカレーを作って出したのだがたまたまその店に立ち寄った王女が気に入ったとの事なのだ。 光が皿に白飯をよそって出来たばかりのカレーをかけてペプリの前に出すと、目の前の王女は目をキラキラと輝かせ始めた。右手には匙、そして左手には水の入ったグラスが握られている。グラスの水を右手の匙につけると待ってましたと言わんばかりの勢いで一口目を掬い、口に運んだ。 じっくりと咀嚼し、味わっていくペプリの目には涙が流れ始めている。ペプリ「光お姉様、これをずっと探していたの。この刺激的な香りと根菜類と共に入った2種類の茸。それと不思議な位に柔らかな牛肉、そしてすべてを包み込み受け止めるルウと白飯。美味しい。」クォーツ「おいおい、言っちゃ悪いがたかだか家庭のカレーだろ?泣くほど美味い訳・・・。」 知らぬ間に光を「お姉様」と呼ぶ王女の隣で1口食べた古龍。クォーツ「美味しい・・・。」 カレーの味に言葉が途切れたクォーツの目からも涙が流れている。メイス「あの・・・、貴女方さっきどこかでカレーを食べて来たのですよね。それなのにですか?」2人「これは別物です!!」 光のカレーを食べ涙しながらペプリは以前から気になっていた事を尋ねた、その事に関してはメイスも気になっていた様だ。ペプリ「どうしてこんなにこの牛肉は柔らかいのですか?」光「それはね、炒める前の牛肉をコーラにつけていたからですよ。」 牛ステーキを中心に焼いた時に硬くなってしまいがちなお肉は火を加える30分前からコーラにつけていると焼いた後でも柔らかいままなのだ。 勢いが衰える事無いまま3杯を完食した王女はかなり無茶とも言えるお願いをしてみた、あの「一柱の神」とも言える古龍の背に乗ってカレーを食べに行く程の者が恐る恐る尋ねる。ペプリ「あの・・・、お願いがあるのですが。」光「はい?」ペプリ「このカレーを王宮のシェフに伝授して頂けませんか?」光「こんな家庭のカレーでいいのですか?」ペプリ「勿論です、是非宜しくお願い致します!!」 ペプリは深々と頭を下げてお願いした、その様子を見たクォーツも頭を下げる。クォーツ「俺からも頼むよ、コイツ程の上級古龍使い(エンシェントドラゴン
-109 王宮にて- 王女に抱きしめられ続けながら王宮の入り口へと向かう光は何かを思い出したかのように門番をしていた大隊長に声を掛け、耳打ちをしてとある連絡をしておいた。 王宮の中に入り食堂の厨房を目指す、石を敷き詰めて出来た広々とした床が広がり奥にはまさかの日本古来のおくどさんが見える。これはどうやら先祖代々米好きの王族の為に用意された物らしく、他の火を使う調理用として真ん中にガスオーブンや魔力(IH)クッキングヒーターが用意されているが拘った調理をする時は米以外にもおくどさんを使用する時もあるようだ。今回はペプリの指示で調理前から焚火が仕掛けられており、すぐにでも調理ができる様になっていた。横ではお釜で白米を炊飯しているらしい、米の良い香りが調理場中に広がっている。 木製の調理台が仕掛けられておりレンジやオーブン等と言った調理家電が揃っており、冷蔵を必要とするもの以外の新鮮な食材たちが一緒に並べられている。要冷蔵の物は厨房の真ん中に大型の魔力保冷庫があり、調理台の下にも小型の魔力保冷庫が仕掛けられ保管された食材をすぐに取れるようになっていた。 光はその壮大さ故に口を引きつかせながらドン引きしている。光「ははは・・・。こ・・・、こんな所で今から家庭のカレーを作んの?」ペプリ「そうですわ、お姉様。こちらにある食材をご遠慮なく使ったカレーを教えて下さいまし。」光「き・・・、昨日ので良いんだよね・・・。」 知らぬ間にエプロンを身につけた王女は満面の笑みで答える。ペプリ「はい、宜しくお願いいたします。光お姉様。」 ペプリがメモを片手に嬉しそうにしている隣で光の技と味を盗もうとする厨房のシェフ達や王国軍の者達が数名、そしてまさかのニコフ・デランド将軍までいた。そう、あの新婚の。光「ニコフさんじゃないですか、どうされたんですか?」ニコフ「たまには自分もキェルダと料理をしてみようかと思いまして、そのきっかけになればいいなと。本日はご教授お願い致します、光師匠!!」光「「師匠」だなんて・・・、だったら悪い事しちゃったかな・・・。」ニコフ「あら、どういう事です?」光「まぁ、いずれ分かりますよ。取り敢えず始めていき・・・、ん?」 厨房の出入口の陰からじっと睨みつける様な視線を感じた光は視線の方向へと睨み返した、何故か覗きの犯人を見つけたような表情をし
-130 新しい仕事の為- タンクに珠洲田がある程度魔力を貯めておいてくれたので、渚はごく少量の魔力を流したのみでエンジンを起動する事が出来た。先程も聞いたのだが日本にいた頃と全く変わらないけたたましい排気音、渚の頬には感動の涙が流れていた。渚「懐かしいね・・・、またコイツで走れるんだね。」シューゴ「大きくてかっこいいですね、これが乗用車ってやつですか?」 シューゴもまた「乗用車は貴族の乗り物」と言う考えの持ち主で、すぐ目の前で見るのは人生初めてだそうだ。因みに本人の免許は林田警部の妻・ドワーフのネスタと同様に「軽トラ限定」となっていて、正直今の屋台のサイズはギリギリらしい。渚「これは・・・、スポーツカーって言った方が良いのかもしれませんね・・・。」 シューゴは初めて見たエボⅢをちらちらと見ながらも気を取り直し、屋台を追加する上で確認する事が1点あったので説明をしながら確認した。シューゴ「渚さん、ギルドカードをお見せして頂けますか?」 渚は取得したばかりのギルドカードを見せた。シューゴ「これは冒険者ギルドのカードですね。実は・・・、屋台を増やす上でまず考慮しないといけない事が一点、この国では「屋台」も「個人事業主・商店」の扱いになります。今回の様に2台目と言う名の「支店」の場合でもです。普通に企業やお店に雇われて働く場合は冒険者ギルドへの登録だけで十分ですが、今回の場合は前者なので「商人兼商業者ギルド」に登録する必要があるんです。渚さんはこちらのカードはお持ちでは無いですか?」 シューゴは商人兼商業者ギルドのギルドカードを見せながら聞いた。勿論初見なので首を横に振る渚、それにまだ必要な物や登録事項があった。いずれにせよギルドカードは偽造不可能なので必須となる、ただ渚とたまたまだがこの場に来たばかりの光は全くもってチンプンカンプンだった。シューゴ「そして最も重要なのは車です、ギルドで商用登録した上で屋台として造られた軽トラ等を購入する必要があるんです。」渚「光、知ってたかい?」光「うん・・・、全部初耳。」 取り敢えずだが屋台をするのだから車を用意する必要がある事は分かった、ただたった今職を失いシューゴと屋台をする事になった渚には正直資金が無かった。 渚は隣にいた光に、小声で毎日欠かさず大盛りの夕飯を作る事を条件に資金を貸してほしいと相談
-129 渚の転職- 電話を切った渚は震えながらシューゴに尋ねた。渚「シュ・・・、シューゴさん・・・。拉麵屋台って私にも出来ますかね?」シューゴ「あの・・・、どうされました?」渚「どうしましょう・・・。今の電話勤め先の八百屋さんの大将なんですがね、自分達ももう歳だから店を畳むって言ってるんです。」 急な知らせに動揺を隠せない渚はあからさまに震えていた、八百屋の店主によると一応渚の次の就職先は探すとの事なのだが念の為に自身でも探してみて欲しいと通達してきたのだ。 たった今、新メニューの開発に協力してもらった恩義がある。それに2台目の拉麺屋台に乗るのが女性だと話題と良い宣伝になりそうだ。シューゴ「渚さん、免許証はお持ちですか?」渚「勿論、こちらです。」 渚は日本で取得した運転免許証を見せた、今更だが日本語はこの世界の言葉に訳されて見えている。 シューゴは渡された免許証をしっかりと確認し、返却した。シューゴ「なるほど、ウチの屋台のトラックはMTなんだけど大丈夫ですか?何ならATをご用意致しますが。」渚「大丈夫です、日常的にMTに乗って・・・。」 その時外から聞き覚えのあるけたたましい排気音がし始め、渚の言葉をかき消してしまった。シューゴ「な・・・。何ですか、この音は?」渚「えっと・・・、愛車と言う名の証拠品が来ました・・・。」 窓の外を見ると、駐車場に洗車を終えピカピカになった真紅のエボⅢが爆音と共に到着した。車内から珠洲田が手を振っている。 渚はシューゴの手を握り、この世界の仕様になった愛車を迎えに行った。 自然の流れでだが、渚は思わずシューゴの手を握ってしまった事に気付くのに少し時間が掛かった。その上自分で気づいた訳では無い。珠洲田「なっちょ・・・、いつの間にこの世界で彼氏が出来たんだ?」渚「えっ・・・?あっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」 渚は慌てて手を放し、シューゴに何度も何度も謝った。シューゴ「構いませんよ・・・、まだ独身ですし・・・。」珠洲田「あれ?よく見たら拉麵屋台の店主さんじゃないですか、どうしてなっちょと一緒にいるんですか?」渚「あの・・・、ここはこの人の・・・。」シューゴ「今日からウチの屋台で働いてもらう事になったんです。」 渚は震えながらゆっくりとシューゴの方に振り向きじっと目を見た。渚「
-128 新メニューと渚の驚愕- とにかく辛く仕上げたこの焼きそば、光が渚の遺伝で辛い物好きになるのも納得がいく。渚「ウチは昔、決して裕福とは言えなかったんだがね。せめて夕飯は豪華にしようとインスタントの焼きそばに残った豚キムチとウインナーを入れて、少しだけでも豪華に見せる様にしてたんだ。」 当初はまだ幼少だった光用に普通のソース味の焼きそばを作っていたのだが、渚自身の分として作っていたこの「辛い焼きそば」に興味を持った小さな光に恐る恐る少しだけ与えるとハマってしまったらしくそれから「何か食べたいものは?」と聞かれるとこの焼きそばをねだる程になっていた。 それから渚はこの焼きそばを酒の肴に、まだ未成年だった光はご飯のお供にしてよく食べていたのだ。 光はこの焼きそばの作り方を聞くことが出来ないまま渚が亡く・・・、いや渚と生き別れになってしまったので代用品としてあのツナマヨをよく食べていたんだそうだ。 その事を聞き、林田が号泣していた。林田「泣かせてくれるじゃないですか・・・、やはり私は罪深き男・・・。」渚「林田ちゃん、何を泣いているんだい。もう、伸びちまうから早く食べちまおうよ。」光「懐かしの味、頂きます!!」 辛子マヨネーズを麺に絡ませ一気に啜ると辛さがガツンとやって来て食欲をそそった、豚肉と一緒に食べると少し甘みのある脂が麺にピッタリだ。白米や酒が進む。 ソースの絡んだウインナーを食べるとそれも白米と酒に合うので最高の組み合わせだ。皆一気に完食してしまいそうになった時、店の出入口が開きある男性が入ってきた。レンカルドの兄で拉麺屋台店主、シューゴだ。少し落ち込んでいるっぽいが。レンカルド「兄さん、どうした?」シューゴ「レンカルド、実は相談が2つあって。その内の1つなんだが俺も新メニューを考えようと思っててな・・・。ん?この香りは?」レンカルド「あそこにいる渚さんが拘りの、そして娘の光さんとの思い出の味として作ってくれた焼きそばだよ。良かったら食べてみる?」 レンカルドがシューゴに自分の皿を差し出すと香りに料理の誘われ1口、決して豪華だとは言えないその料理の味に刺激され感動した兄は渚にお願いした。シューゴ「渚・・・、さんでしたっけ?このお料理のレシピをお教え願えますか?」渚「何を仰っているんですか、決して料理なんて呼べない代物ですの
-127 渚の拘り- 林田は友人であるデカルトに唐突なお願いをした。ただ相手は隣国の王、表情はおそるおそるといった感じだ。林田「デカルト、すまん・・・。少しお願いがあるんだがいいか?」デカルト「ん?どうした、のっち。」林田「ははは・・・、もう良いか。この新メニューの値段を決めてくれないか?」 店主のレンカルドが決めかねているので国王の権限で決めてしまって欲しいとの事なのだ。デカルト「俺は良いけど・・・。店主さん・・・、宜しいのですか?かなり拘って作っておられるとお聞きしましたが。」レンカルド「何を仰いますやら。1国の王様にお決め頂けるとはこの上ない幸せ、どうぞ宜しくお願い致します。」 価格を決めるヒントとして1つ質問してみる。デカルト「確か・・・、お兄さんの作られる拉麺のスープを使っておられるのですよね?お兄さんのお名前をお伺い出来ませんか?」レンカルド「兄・・・、ですか?シューゴと申しますが。」 メニュー表のパスタの欄を改めて見直しながら考え始めた。デカルト「パスタ料理の平均価格から見てそうですね・・・、「シューゴさん」だから1500円でいかがでしょうか?」レンカルド「あ・・・、ありがとうございます。光栄でございます。」 レンカルドが涙ながらに感謝を伝える横でデカルトが話題を変えようと「拘り」について聞いてみる事にしてみた。デカルト「そう言えば他の皆さんは何か拘っておられる事はありませんか?結構拘っておられる品を食べたので是非と思いまして。」渚「そうですね・・・、うちは「焼きそば」でしょうか。光、覚えているかい?あんたも女子高生だった時から好きだったインスタントの焼きそばに豚キムチを入れたやつ。」光「あれね、いつ作っても麺がやわやわになっちゃうやつ。いつもウインナーを入れてくれてたのを覚えてるよ、母さんの影響で辛い物が好きになったきっかけだったな。」 かなり腹に来ているはずの林田が唾を飲み込みながら渚に尋ねた、この世界の住民は皆美味い物に目が無い。林田「美味そうですね、宜しければ作って頂けませんか?」渚「私は構いませんが、店主さん良いんですか?」レンカルド「大丈夫ですよ、魔力保冷庫の中にある食材も良かったらお使いください。」渚「恩に切ります。んっと・・・、韮と豚の小間切れ肉、それとキムチはあるから後は「あれ」と「あれ」
-126 飲食店に拘る理由- 店主が思い出に浸っていると勢いよく出入口のドアが開いた、ドアを開けたのは愛車の修理を待つ渚の娘・光だ。店主「ごめん光ちゃん、今「準備中」というか休憩してたんだよ。」光「こちらこそごめんなさい、レンカルドさん。車屋の珠洲田さんに母の場所を聞いたらここだって聞きまして。」 光は懐からハンカチを出して汗を拭った、息を整えようとするとレンカルドがお冷を渡した。レンカルド「ほら、これ飲んで。それにしても光ちゃんのお母様だったんですね、何となく雰囲気が似ていた訳だ。」渚「こちらこそ娘がお世話になっています。」レンカルド「いえいえ、何を仰いますやら。光ちゃんはここの常連になってくれましてね、いつも美味しそうに私の料理を食べてくれるんです。」 料理と聞いて渚は先程の昔話について疑問に思っていた事をレンカルド本人にぶつけてみた、不自然すぎる事が一点。渚「そう言えば先程ヨーロッパや日本の洋食屋で修業をしたと仰っていましたが、どうやってそう言った国々に?」レンカルド「私が18歳になったばかりの頃です。実は兄が祖父の拉麺屋台の修繕とスープの再現に勤しんでいた傍らで、私は不治の病に倒れ入院先の病院で意識と霊魂の一部のみが異世界に飛ばされていたんです。そして現地の料理人見習の方に一時的に憑依する形でその方と一緒に洋食の修業をし、終わった頃に私本人として復活致しました。意識と霊魂の一部が自分自身の体に戻ったのですが、異世界で学んだ技能などははっきりと覚えていたのでこの経験を是非活かそうとこの飲食店を始めました。」光「初めて食べた時に何処か懐かしさを感じたから常連になっちゃったって訳。」男性「あのー・・・、とても良い話をお聞かせ頂いた後に恐縮なのですが、私はずっとほったらかしですか?」 光は後ろに振り返り、飲食店に来た目的等をやっと思い出した。レンカルドの話につい聞き入ってしまっていたのだ。 焦りの表情を見せながら一緒に連れてきたその男性を急いで招き入れた。光「あ、ごめんなさい。珠洲田さんの所に行ったらこの人がいてね、一緒に連れて行ってくれって頼まれたんだ。」デカルト「来ちゃったー。」林田「デカ・・・、ダンラルタ国王様。どうしてこちらに?」 周囲に他の人がいるので林田はいつも通り名前で呼びかけたが急いで言い直した。デカルト「のっ
-125 兄弟の頑固な拘りと料理- 渚はふと疑問に思ったことを店主にぶつけてみた、店内が不自然な位にスープの匂いで満たされていたからだ。渚「お店で出されるんですか?」店主「いえ、軽トラを改造した屋台で各国を放浪して売っているんです。」 ふと窓の外を見ると木製の屋根と煙突が付いた軽トラがあった、ぶら下がっている赤提灯に「拉麺」と書かれている。店主「屋台で販売する事が兄の拘りみたいでして、1箇所に留まりたくないそうなんです。」渚「お2人で拉麺屋をするおつもりは無いんですか?」店主「自分は自分で洋食の修業をしてきましたので大切にしたいんです。」渚「そうですか・・・。」 匂いの素となっていたスープの入った寸胴鍋を軽トラに乗せると兄らしき男性はまた何処かへと行ってしまった。 お店では再びハンバーグの香りがし始めた。店主は何故か「営業中」の札を「準備中」に返すと渚たち以外にお客がいない店内で店主が珈琲を淹れ始めた、自分用だろうか。ただ不自然なのは他にもカップが数個。 全てのカップに珈琲を淹れると渚たちが座るテーブルへと持って来た。店主「実はそろそろ休憩にしようかと思っていたんです、こちらの珈琲は私からご馳走させて頂きますので良かったらちょっと昔話にお付き合い願えますか?」 そう言うと淹れてきた珈琲を配膳し、他のテーブルから持って来た椅子に座り語りだした。店主「私達兄弟は学生の頃に祖父母を亡くしましてね。当時2人はずっと、昼間に小さな町工場を経営しながら夜に拉麵屋台をやっていたんです。私も兄もたまに食べていた2人の拉麺が大好きだったんですよ。ただ私も含め先祖代々そうなのですが、バーサーカーが故の頑固さで休みなくずっと働いていたが故に祖父は過労で倒れてそのまま・・・。 あ、バーサーカーと言っても我々は全く好戦的ではないのでご安心を。 実は私達の両親は私達が小学生の頃に離婚しましてね、2人共父に引き取られたんです。ただ父は務めていた会社が倒産してから全く働くこと無く酒と煙草、そしてギャンブルばかりしていました。 そんな中、祖母は私達に苦労をさせまいと1人になってもずっと町工場と屋台を続けていました。そんな祖母も祖父の後を追う様に急病に倒れ亡くなりました。 せめてもの感謝の気持ちとして2人の工場と味を残していきたいと兄が父に町工場を存続する様に説得
-124 大将の秘密の工房- デカルトが王宮からネフェテルサ王国に向かって飛び立った頃、ロラーシュ大臣によって一時的にだが鉱石がすっからかんになった採掘場を見てゴブリンキングのリーダー・ブロキントは一言呟いた。ブロキント「見た感じ美味そうに食うてたけど、そんなに美味いもんなんかいな・・・。言うてしもたらあれやけど石やで。」 味を一応想像したけど全くもって美味しいイメージが湧かない。 その時、たまたま近くを通った屋台から聞こえたチャルメラの音を聞き、魔法で誘われたかの様に腹をさすりながら食べに行った。ブロキント「大将ー、1杯くれまっか。」大将「あいよ、椅子出すからちょっと待っててくれな。」 大将は軽トラを改造した屋台から小さな椅子を数脚持ち出すとその一つに座るように誘った、ブロキントがそれに座るとスープの入った寸胴に火にかけ徐々に熱を加えていく。 丁寧に血を拭き取った豚骨と鶏ガラから丹念に煮だしたスープが香りだし食欲を湧かせる。大将「兄ちゃん、麺の硬さは?」ブロキント「粉落としで頼んま。」 採掘場で働くゴブリン達は皆歯応えのある硬い麺を好んだ、特にブロキントは茹でた後も生麺の香りがする粉落としを好んだ。2~10秒ほどで湯から上げるので名前の通り表面の打粉を落とすだけの茹で方。 濃い目の醤油ベースのタレを丼の底に入れ、香りの迸るスープを注いだ後茹でたての麺を湯切りして入れる。具材はもやしにシナチク、ナルト、そして豚肩ロースを丸めて作った特製の大きな叉焼。この叉焼は先程の醤油ダレで煮込み味を染み込ませている。大将「お待ちどうさん、待ってもらったから叉焼おまけしてあるよ。」ブロキント「それはおおきに、頂きますぅ。」 普段は2枚入れている叉焼を3枚にしてくれている美味そうな拉麺を前に、リーダーが割り箸を割り感動の1口目に入ろうとすると腹を空かせた部下たちが続々と屋台の席を埋めていった。ブロキントはおまけ分の大きな叉焼を急いで口に入れた、トロトロの食感と肉汁が舌を楽しませる。大将「ほらよ、絶対に合うぞ。」 大将が笑顔で白く光る銀シャリを渡すとブロキントは一気にがっついた。素直に合う、本当に合う。因みに炊飯器は太陽光発電で動く様にし、降水時でも大丈夫な様にバッテリーに繋いでいる。ゴブリン「リーダー早いでんな、ずるいですわ。大将、わいらにも一つ
-123 鉱石蜥蜴の正体と謝罪- 採掘場に潜み、その場のミスリルをメタル代わりに食べ尽くしてしまったが故に本人も気づかぬ内に鉱石蜥蜴(メタルリザード)の上級種である希少鉱石蜥蜴(ミスリルリザード)になっていたのはダンラルタ国王の側近である食いしん坊のロラーシュ大臣であった。 大臣を含む鉱石蜥蜴(メタルリザード)種の者達は人間や他の魔獣と同様の食物を普通に食べても体質的には問題ないのだが、デカルトはロラーシュ本人がたまにこっそり他の採掘場でメタルを勿論迷惑を掛けない程度におやつとして食べていた事を黙認していた。しかし、どうやら普通のメタルに飽きてしまったらしくぶらっとこの採掘場に来て1口ミスリルを食べたら一気にハマってしまったとの事だ。夢中になっていたが故に気付けば1週間ずっと食べ続けてしまっていたそうだ。 因みに王宮で大臣をしている位なのだから勿論人語を話せるのだが、正体がバレない様に敢えて人語を無視している事もデカルトは知っている。 別にミスリル鉱石自体は翌日にまた出現するので生産的には問題ないのだが流石に食べ過ぎだ、これは酷い。一先ずデカルトは採掘場のリーダーであるゴブリンキングのブロキントに頭を下げ小声で一言。デカルト「ブロキントさん、王宮の者がご迷惑をお掛けし大変申し訳ございません。心よりお詫び申し上げます。」ブロキント「国王はん、そんなんやめて下さい。誰だって美味いもん見つけたら独り占めしたくなるもんです。」デカルト「そう仰って頂けると幸いです。ご迷惑をお掛けしたゴブリンさんや発注元の方々にも王宮から謝罪させて下さい。勿論、1週間分の御給金は上乗せして王宮から支払わせて頂きます。」ブロキント「逆に申し訳ないです・・・。」デカルト「それ位のご迷惑をお掛けしたのです、せめてもの謝罪です。さてと・・・。」 デカルトはロラーシュに気付かれない様にこっそりと近づき、物陰に潜んだ。因みにロラーシュがまだ人語を理解しないフリを続けているのでデカルトは『完全翻訳』で話しかける事にした。ロラーシュ「誰だ・・・、誰がちょこまかと動いているんだ。コソコソせずに出て来い・・・。」デカルト「分かりました、ただ随分と長いおやつタイムですね。1週間も王宮に出勤できない程美味しい鉱石だった用ですね、大臣。」ロラーシュ「その声は・・・。こ・・・、国王様!!何故
-122 作業不可の理由と古き友人- 珠洲田からの連絡によるとこの国の車はエンジンの起動の為に予め魔力を貯めるタンクがあり、渚のエボⅢの様な乗用車は軽に比べて1まわり大きいのだがそのタンクを作るためのミスリル鉱石が足らないとの事なのだ。 この世界においてミスリル鉱石はそこまで希少という訳では無いのだが、全体の採掘量の8割以上を占めるダンラルタ王国での生産が滞りがちになっており、珠洲田自身も必要なので1週間前から採掘業者に何度も発注しているのだが全くもって品物が届いていないというのだ。 今までは軽自動車での作業ばかりだったので在庫で何とか持たせていたのだが、今回はエボⅢなのでどうしても追加が必要になる。 林田は状況を確認すべくある友人に連絡を取る事にした。林田「もしもし、今電話大丈夫か?」友人(電話)「のっちー、久々じゃん。」林田「デカルト・・・、それやめろと前から言ってるだろ。」 そう、林田が連絡を取ったのはダンラルタ国王でありやたらと「のっち」と呼びたがるコッカトリスのデカルトだ。デカルト(電話)「それは置いといて何か用か?」林田「実はな・・・。」 すぐさま珠洲田から聞いた事を報告し、ダンラルタ王国におけるミスリル鉱石の状況が知りたいと伝えた。デカルト(電話)「何だって?!それは迷惑を掛けて申し訳ない。すぐに王国軍の者と調べて来るから待ってくれ。何分俺も初耳だ、状況を知る必要があるから俺自身も出る事にしよう。待ってくれているお客さんにも俺の方から謝らせてくれ。」林田「すまない、宜しく頼む。」 デカルトは電話を切るとすぐに王国軍の者を呼び出した、応じたのは軍隊長のバルタン・ムカリトとウィダンだ。デカルト「南の採掘場の現状を知りたいので一緒について来て頂けますか?」ムカリト「勿論です。」ウィダン「かしこまりました、国王様。」 3人は王宮を出るとすぐに南の採掘場に向かって飛び立った。そこではゴブリン達が日々採掘作業に勤しんでいて、唯一人語を話せるゴブリンキングのリーダー・ブロキントが指揮を執っていた。 3人は採掘場の出入口の手前に降り立つと早速ブロキントに話を聞くことにした。ブロキント「お・・・、王様。おはようさんです。」 ブロキントは何故か関西弁を話した。デカルト「ブロキントさん、おはようございます。我々がここに来たのは他