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第4話
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「え？」さくらの期待に満ちた表情が一瞬で崩れた。これは彼女の想像とは全く違っていた。「お母さん、お兄ちゃんもその女の子に騙されているんだと思います......今お兄ちゃんを呼んで、ばらしてしまったら、大学入試前のお兄ちゃんの気持ちに影響するんじゃないでしょうか？」さくらは心配そうに諭した。「その女の子に話して、もうお兄ちゃんに近づかないようにするだけでいいんじゃないですか。お兄ちゃんを責めるなら、大学入試の後にした方が......」さくらは私の心をよく読んでいた。私が最も重視しているのが健太の大学入試だということを知っていたのだ。私はさくらを一瞥したが何も言わず、立ち上がって直接2階に上がり、健太の部屋のドアをノックして入った。「どうしたの、お母さん？」健太は部屋で本を読んでいて、私を見て一瞬戸惑った様子だった。私は直接ラブレターを彼の机に置いた。「妹が言うには、これは誰かがあなたに渡したラブレターだそうよ。学校で内緒で恋愛をして、勉強に影響が出ているって。本当？」健太は困惑した顔をした。「僕は......そんなことしてないよ......」このときさくらも後を追って上がってきた。私が全て話してしまったのを見て、目に動揺が走った。彼女は一計を案じ、思い切って健太の方を向いた。「お兄ちゃん、私はもうお母さんに全部話しちゃったの。お兄ちゃんのためを思って......こんな大事な時期に恋愛なんてダメよ。それに、大学に行ったら家から遠い街を選んで、お母さんから完全に離れるって約束までして......お母さんがお兄ちゃんにこんなに尽くしてるのに、そんなことしちゃダメでしょ」さくらは可哀想そうに、私を心配するような表情で話した。私は少し可笑しくなった。もう両方とも取り繕えなくなったから、いっそ健太を陥れようとしているのか。「何を言ってるんだ？」健太は困惑した顔で、机の上の所謂「ラブレター」を見て、顔を赤らめた。「僕はその女の子とほとんど知り合いでもないよ！ラブレターなんてあり得ない！」「私、見たのよ。二人が中庭で手をつないでるところ。それでも......お母さんに隠すつもり？」さくらは呆れたような顔をした。「いつそんなことが......」健太の目に苛立ち
息子の心の声が聞こえる恩知らずの養女 第6話
「何を台無しにしたって？」そのとき、健太がさくらの後ろに立ち、不思議そうに尋ねた。さくらは体が強張り、振り返って無事な健太を見て、呆然とした。「あ、あんたどうして......」どうして無事なの......？私はさくらの表情の変化を見逃さなかった。「不思議でしょう？なぜ彼が何ともなく、大学入試を最後まで受けられたのか」さくらは顔面蒼白になり、信じられない様子で私を見つめた。私は口元に薄笑いを浮かべ、続けて言った。「試験会場に入る前に、私が水筒の中身を取り替えたからよ」さくらの表情が一変し、必死に感情を抑えようとした。「お母さん、何のお話ですか？どんな水のことですか？私はただ、隣の教室で誰かが倒れたって聞いて、お兄ちゃんかと思って心配になっただけです......」私は無駄話をする気はなく、すぐに家の防犯カメラの映像を見せた。映像には試験初日の朝、さくらが健太の部屋に忍び込み、水筒を開けて薬を入れる様子が映っていた。さくらは目を見開いて、完全に固まってしまった。「俺の水に毒を入れたのか？！」健太も驚愕した。以前のことでさくらに不信感を抱いていたものの、まさかこんな酷いことをするとは思ってもみなかった。「ち、違います、私は......」さくらがまだ言い訳しようとしたが、私は遮って言った。「その水は既に検査に出した。強力な下剤よ。飲んでいたら、三日三晩トイレから出られなかったでしょうね」そうなれば、試験どころではない。三日間、病院で過ごすことになっていただろう。健太は愕然として、さくらを見つめた。「だから三日間も学校に泊まり込んで、顔を見せなかったのか......」勉強に集中したいと思っていたが、実は後ろめたさからだったのだ。「学校に隠れていれば、見つかっても先生方が守ってくれて、試験は受けられると思ったのでしょう......」試験が終われば、私が体面を気にして彼女を手放さないと踏んでいたのね。「でも残念でした。私が気にしているのは体面なんかじゃない。たとえ彼が試験で失敗しても、さくらを置くつもりはなかったわ！」私は冷ややかに彼女を見下ろした。さくらはようやく恐れを感じ、慌てて私の前に跪いた。「お母さん、私は故意じゃなかったんです......最近
息子の心の声が聞こえる恩知らずの養女 第7話
さくらの判決はすぐに出た。懲役一年だった。判決の際、健太は示談書にサインするか迷っていたが、私は断った。前世では私たち母子は彼女に殺されたのだ。今世では一年の懲役で済むなんて、むしろ軽すぎる。さくらが収監された後、健太は暫く落ち込んでいた。私は彼の気を紛らわすため、プラモデルのコンテストに申し込ませ、趣味に没頭させた。気がつけば大学入試の結果発表の日。健太の点数は難関大学合格ラインをちょうど超え、好きな大学に出願できる成績だった。志望校を決める時、健太は迷いがちに私を見た。「お母さん、やっぱり金融学部にしようかな？プラモデルは趣味でやれば......」「好きなものを選びなさいって言ったでしょう」私は笑って彼の頭を撫でた。「会社は私が誰かに任せるわ」前世では大学入試も見られなかった。今回、自分の手で大学に送り出せるだけで、私は十分満足だった。健太は結局、自分の好きな学部を選んだ。大学入学後は離れて暮らすことになったが、母子の関係は良好だった。私は専門の秘書を雇って会社を任せ、世界中を旅行して回り、何ヶ月も姿を見せないこともあった。健太はよく冗談で、忙しい学生の自分より、私の方が放任主義の社長として忙しいと言っていた。大学二年の夏休み、健太にせがまれて、とうとうコンテストに付き添うことを約束した。コンテスト前、私たちは実家で過ごすことになった。数日すると、外出時に誰かに見られているような奇妙な視線を感じるようになった。コンテスト当日、私は健太に付き添った。コンテストが終わった夕方、私たち母子はボディーガードが車を持ってくるのを待っていた。その時、突然黒い人影が私に向かって突進してきた。その細い体型の人物は、なんとフルーツナイフを握っていた！私が驚いて反応する間もなく、健太が飛び出して、その人物のナイフを持つ手を掴んだ。もみ合いの中で帽子が落ち、蒼白い顔が現れた。一年以上会っていなかったさくらだった！「さくら！」私は驚き、健太も呆然とした。「さくら！正気か！」健太は歯を食いしばり、さくらの手首を掴んでナイフを奪おうとした。さくらは狂気じみた目つきで、感情に任せてか、健太と互角の力で抵抗した。二人は揉み合い、どちらも譲らなかった。「私はとっくに狂ってる
息子の心の声が聞こえる恩知らずの養女 第8話
私は冷ややかに笑いながら彼女の言葉を遮り、二歩前に進んで、その蒼白い顔を直視した。一年以上経って、かつて私が大切に育てた上品な姿はもうなかった。まだ19歳そこそこなのに、肌はたるみ、目の下のクマは濃く、30歳のように憔悴していた。「実は最初の計画では、確かにさくらにも財産の一部を残すつもりだったのよ」会社の株式も、彼女の分を用意していた。これまで実の娘同然に育ててきたのだから。ただ残念なことに......彼女は表面上の思慮深い良い子ではなく、ただの恩知らずだった。そんな娘に資格などない。「でも今となっては、何を言っても遅いわね」さくらは目を見開いた。「う、嘘よ......」「私がこんな状態になった今、昔のことなんてあなたの言いなりじゃない？私にそんなに優しくするはずがない」「本当だよ」今度は、私が口を開く前に健太が遮った。「さくらが16歳の時、母さんはもう遺産分配の準備をしていたんだ」このことは、私は健太に隠してはいなかった。健太が5歳の時、夫が突然の事故で亡くなった。だから私はずっと、いつか自分も夫のように何の前触れもなく逝ってしまうのではないかと恐れていた。そのため早くから遺言を作成し、万が一のことがあっても、会社の資産の一部が彼らのものとなり、一生豊かに暮らせるようにしていた。さくらは顔面蒼白になり、もはや何も言えなくなった。彼女は震えながら私の方を向き、急に態度を軟化させた。「お母さん、私、知りませんでした......間違ってました！お母さんとお兄さんに手を出すべきじゃなかった。許してください......私もお母さんの娘じゃないですか！」彼女はそう言いながら必死にもがき、私の前に跪こうとした。「お母さんなんて呼ばないで」私は彼女の言葉を遮った。「一年前に養子縁組解消の手続きは済ませたわ。もう私たちに関係はないのよ」今の彼女の表情を見ても、本当に悔い改めているとは思えない。ただ同情を買って許しを得ようとしているだけだ。どんなに取り繕っても、心の中は真っ黒なのだ。「警察に連れて行きなさい。彼女は刑務所の方が好きみたいだから」私はボディーガードに指示した。そうでなければ、出所してすぐにこんな無謀なことはしなかっただろう。ボディ
息子の心の声が聞こえる恩知らずの養女 第1話
「お母さんの頭の中は成績のことばかりじゃないか！成績が悪けりゃお母さんの息子じゃないってことか！」息子の佐藤健太（さとう けんた）は目を真っ赤にして私を睨みつけ、怒りに満ちた目をしていた。私、佐藤美智子（さとう みちこ）が言葉を返す間もなく、彼の後ろにいたさくらが二歩進んで前に出た。「お母さん、お兄ちゃんを責めないで。実は彼は......」「そんなこと言う必要ないよ。どうせこの人の目には、テストの点数が悪かっただけで死罪も同然なんだから！」妹の佐藤さくら（さとう さくら）の言葉を遮り、健太は彼女を手で制しながら、私を刺すような冷たい言葉を吐いた。【妹が倒れたのを見て、保健室に連れて行くのに必死で、テストができなかったって言っても無駄だろう？この人は成績が何より大事なんだ。絶対に聞く耳持たないよ】健太は口に出しては言わなかったが、私には確かに彼の心の声が聞こえた。そうだったのか......これは大学入試前の重要な模擬試験だった。それまで私は家庭教師をつけて2、3ヶ月補習をさせ、良い結果を期待していた。ところが健太は試験を台無しにしてしまった。前世では私は怒り心頭に発し、問い詰めたが、彼は謝ろうとせず、むしろ反抗的な態度を取った。私は怒りのあまり、彼の大切なプラモデルのコレクションを叩き壊してしまった。それ以来、母子関係は修復不能なまでに悪化した。私が勉強を強いれば強いるほど、彼は反抗的になり、ついには荷物をまとめて家出をした。そして、空港に向かう途中で事故に遭い、命を落としてしまった。私は深い悲しみに暮れた。養女のさくらは表向き孝行な娘を演じ、私のそばにいたが、裏では精神に影響を与える薬を私に飲ませ続けていた。大学を卒業して私の財産を相続すると、すぐさま私を精神科病院に送り込んだのだ。一度死んでみて初めて分かった。さくらには健太の心の声が聞こえていたのだ。健太の表面上の幸せは全て演技で、実は私からのプレッシャーで息が詰まっていたことを。さくらは意図的に挑発し、表面上は健太の夢を追うよう励ましながら、実際には彼の反抗心を煽り、私たちの争いを激化させようとしていた。私たちの関係が決裂すれば、私の財産を相続できると考えていたのだ。まだ若いのに、なんという計算高さだろう。我
息子の心の声が聞こえる恩知らずの養女 第2話
「それなら、なぜ最初から言わなかったの？」「僕は......」健太は困惑した表情を浮かべた。私には分かっていた。彼はただ意地を張って、わざと黙っていただけなのだ。前世の私も同じだった。意地を張って対立し続け、結局お互いを傷つけ合っただけ。そして、あの恩知らずのさくらに付け込まれる結果となった。今度こそ、私たち親子はちゃんとコミュニケーションを取らなければ。「今度こういうことがあったら、ちゃんと話してね」私は優しく諭した。「お母さんがそんなに理不尽で、事情も聞かずに怒るような人間だと思っているの？」「......そんなことないよ」健太は恥ずかしそうに顔を赤らめ、俯いた。私は更に諭し、次からはきちんと話すと約束させた。「今回の試験は仕方ないわ。でも次の模擬試験は頑張るのよ？」私が言うと、健太は表面上は頷いたものの、やはり成績のことばかりだと思ったのか、表情が曇った。「もし良い点が取れたら、これがご褒美よ」私はハンドバッグからチケットを取り出した。彼がずっと行きたがっていたプラモデルショーのチケットだ。これは前世では、試験で良い点を取った時のご褒美のはずだった。でも誤解から結局渡せずじまいになってしまった。健太は目を見開き、自分の目を疑うような表情を浮かべた。手に取って暫く眺めた後も、まだ信じられないという様子で「本当に？」と尋ねた。「チケットはもう渡したでしょう？嘘なんかつくわけないじゃない」「ありがとう、お母さん！」健太は興奮して私に抱きついてきた。私も笑顔で彼の背中を軽く叩いた。私たち親子がこんなに和やかに過ごすのは久しぶりだった。私と健太が和やかに過ごす傍らで、さくらは表面上は喜んでいるように見せかけながら、内心では歯ぎしりするほど悔しがっていた。夜、私は果物を切って健太の勉強部屋に持って行った。ドアを開けた瞬間、彼が何かを教科書の中に慌てて隠すのが見えた。私は気付かないふりをして、果物を彼の前に置いた。「勉強で疲れたら、少し休憩してね」健太は笑顔で頷いた。部屋を出た後、彼の心の声が聞こえてきた。【やっとお母さんと仲直りできたのに、今週末の大会は辞退しようかな......】その途端、リビングのソファに座っていたさくらの表情が強張る
息子の心の声が聞こえる恩知らずの養女 第3話
健太を連れて行こうと思ったのは、会社の古株で、彼の父の親友たちに会わせるためだった。このことは、かなり前にさくらにも話してあった。翌日、健太は荷物をまとめ、私がまだ部屋にいる間にコンテストへ行こうとしていた。リビングに立ち、何度も迷った末、私の部屋に報告しようとした。「やっぱり、お母さんに言っておいた方がいいかな......」「お母さんに言ったら、絶対に行かせてくれないわよ！」さくらは慌てて止め、なだめるように言った。「私がお母さんに説明しておくから、お兄ちゃん、早く行って」健太は妹を信頼していたので、頷いて出て行った。私が部屋から出てきた時には、健太の姿はもうなかった。私は周りを見回し、わざと分からないふりをして「健太は？」と聞いた。「お兄ちゃんはコンテストに行きました」数分前まで説明すると言っていたさくらは、今度は事実を歪めて真面目な顔で言った。「お母さん、怒らないでください。お兄ちゃんは自分の夢を追いかけたいだけなんです！ご存知の通り、お兄ちゃんはプラモデルが大好きで、それ以外のことは何も眼中にないんです......」前世でも彼女はこう言い、私は怒りのあまり、さくらを会食会に連れて行った。そんな大切な場で彼女を連れて行くことは、暗に後継者として認めることと同じだった。さくらは期待に満ちた表情で私を見つめていた。私は怒った顔を装って言った。「今日がどんな日か、分かってるのかしら！」「お母さん、怒らないで。お兄ちゃんはコンテストを大切に思いすぎて、お母さんが用意した会食会のことを忘れてしまっただけです......」さくらは表面上なだめながら、実は火に油を注いでいた。「この親不孝者め！」私は文句を言いながらも、さくらを連れて行くとは一言も言わず、怒った様子で部屋に戻った。しばらくして、私が気が変わる様子がないのを見て、さくらは部屋のドアをノックした。「お母さん、今日の会食会は大切なものですから、私が先に行きましょうか？叔父さんたちには、お兄ちゃんに用事があったと説明しておきます......」前世では、彼女は確かに「説明」した。皆の前で、私の息子を「説明」して、反抗的で手に負えない子として描き、自分の良い子ぶりを際立たせた。「結構よ。今日は家にいて、
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息子の心の声が聞こえる恩知らずの養女 第4話
「お兄ちゃん、ごめんなさい。私が悪かったの！」さくらは焦って、急いで健太の腕を掴んだ。「私が悪かったの。きちんと説明しなかったから......お母さんとケンカになりそうになっちゃって......」健太は顔を曇らせ、強くさくらの手を振り払い、二歩後ずさった。さくらは慌てた様子で彼を見つめた。しかし健太は何も言わず、ただ俯いて私に謝罪した。「お母さん、僕が悪かった。会食会のことを知らなくて......二度とこんなことはしません」「分かってくれたなら、次は気を付けてね」私は注意しながら、笑顔を見せた。「叔父さんたちとは日程を変更したわ。来週末なら、他の予定はないでしょう？」健太の目が輝き、すぐに首を振った。「ありません！」その日は私たちの間で口論はなかった。この出来事以来、健太と私の関係は随分と良くなった。一方で、彼のさくらに対する態度は次第に冷たくなっていった。次の週末、私は健太を会食会に連れて行った。会社の古株たちは、亡き友人の息子を見て、皆喜んでくれた。会食会が終わり、車に乗ると、健太は突然私に抱きついてきた。「お母さん、やっと分かったよ。お母さんがこれまでどれだけ大変だったか......」「僕、もう遊んだりしない。卒業したら、ちゃんと会社を手伝うよ」私は複雑な気持ちで笑った。「無理しなくていいのよ。あなたの望むことじゃないでしょう好きなことをすればいいの」前世では、息子の成功を急ぎすぎて、彼を追い詰めてしまった。私も後悔している。だから今度は、彼の望む道を行かせてあげたい。「お母さん、大好き！」健太は嬉しそうに、もっと強く私を抱きしめた。私は笑いながら付け加えた。「でも、何をするにしても......まずは大学入試をしっかりと」「分かってます！」健太はすぐに答えた。私と健太の関係が修復され、まるで数年前、さくらを養子に迎える前の頃に戻ったかのようだった。一方さくらは、家族の中で自分の存在感が薄れていくのを感じ、焦り始めた。数日後の夜、彼女は一通のラブレターを私に渡してきた。「お母さん、これお兄ちゃんの机の上で見つけたんです......お兄ちゃんのプライバシーを侵すのは良くないと分かってます。でも、こんな大事なこと、お母さんに
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「それなら、なぜ最初から言わなかったの？」「僕は......」健太は困惑した表情を浮かべた。私には分かっていた。彼はただ意地を張って、わざと黙っていただけなのだ。前世の私も同じだった。意地を張って対立し続け、結局お互いを傷つけ合っただけ。そして、あの恩知らずのさくらに付け込まれる結果となった。今度こそ、私たち親子はちゃんとコミュニケーションを取らなければ。「今度こういうことがあったら、ちゃんと話してね」私は優しく諭した。「お母さんがそんなに理不尽で、事情も聞かずに怒るような人間だと思っているの？」「......そんなことないよ」健太は恥ずかしそうに顔を赤らめ、俯いた。私は更に諭し、次からはきちんと話すと約束させた。「今回の試験は仕方ないわ。でも次の模擬試験は頑張るのよ？」私が言うと、健太は表面上は頷いたものの、やはり成績のことばかりだと思ったのか、表情が曇った。「もし良い点が取れたら、これがご褒美よ」私はハンドバッグからチケットを取り出した。彼がずっと行きたがっていたプラモデルショーのチケットだ。これは前世では、試験で良い点を取った時のご褒美のはずだった。でも誤解から結局渡せずじまいになってしまった。健太は目を見開き、自分の目を疑うような表情を浮かべた。手に取って暫く眺めた後も、まだ信じられないという様子で「本当に？」と尋ねた。「チケットはもう渡したでしょう？嘘なんかつくわけないじゃない」「ありがとう、お母さん！」健太は興奮して私に抱きついてきた。私も笑顔で彼の背中を軽く叩いた。私たち親子がこんなに和やかに過ごすのは久しぶりだった。私と健太が和やかに過ごす傍らで、さくらは表面上は喜んでいるように見せかけながら、内心では歯ぎしりするほど悔しがっていた。夜、私は果物を切って健太の勉強部屋に持って行った。ドアを開けた瞬間、彼が何かを教科書の中に慌てて隠すのが見えた。私は気付かないふりをして、果物を彼の前に置いた。「勉強で疲れたら、少し休憩してね」健太は笑顔で頷いた。部屋を出た後、彼の心の声が聞こえてきた。【やっとお母さんと仲直りできたのに、今週末の大会は辞退しようかな......】その途端、リビングのソファに座っていたさくらの表情が強張る
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