第101話

「君と共に蝉の夏を歩き、都市の喧騒を越えて。歌声はまだ漂い、君のザクロのような瞳が思い出される。君の優しさは見えず、花の間の笑い声は失われた。年月は留まらず、流れる雲の待ち合わせ。

私は本当に君が恋しい、毎年の雨季に。君が忘れたものは、私が一番惜しんでいる。短い紙に長い思いをつづっても、波紋を尽くせない。私の物語は全て君についてだ。

どうして彼に恋して、彼と一緒に帰る決心をしたのか。私の全てを諦めても構わない。短い紙に長い思いをつづっても、当時の青春は語り尽くせない。私の物語もやはり君についてだ……」

歌手の声は特別優れているわけでもなく、音程も普通だったが、客が少ないせいか、歌声に少しだらしなさがあった。

それでも由佳は目頭が熱くなり、心に深い痛みを感じた。

一日中我慢していた感情が、この瞬間に突然爆発した。

十年間、彼女は観察者として山口清次を見守り、青臭い大学生から現在の自立した山口氏の社長へと成長するのを見てきた。

彼は彼女が追い求める目標であり、暗い夜の中の光であり、彼女のこの十年間唯一の物語だった。

彼女は暗闇から這い出し、全身泥だらけで、全力で彼のもとへ向かった。

三年間の結婚生活を全力で維持し、情熱を尽くしてきた。

彼も努力して一人前の夫を演じていた。

しかし、偽りは結局偽りでしかない。

年月は留まらず、彼はすでに愛する人を追い求めていた。

彼女だけが愚かにもその場に留まり、彼が振り向いてくれることを期待していた。

彼の心の中で、彼女は決して妻ではなく、誰も知らない恋人、光の届かない存在だった。

三年間、彼は毎年加波歩美に会いに行きながら、結婚していることを加波歩美には知らせなかった。加波歩美が言ったように、感情の中で愛されていない者が第三者となる。

彼女は山口清次と加波歩美の間に介入した第三者だった。

数日前の甘い日々が、今日の心の痛みに変わった。

彼が彼女に対して示した全ての優しさが演技であり、目的を持っていたことがやっと理解できた。

彼女はもう彼を信じることはない。

「由佳ちゃん？本当に君だったんだ！こんなところで会えるなんて運が良いね」

身近に聞き覚えのある声がした。

由佳は振り向くと、一人の男性が全身を覆い隠し、目だけが見えている状態で向かいに座っていた。

由佳はすぐに吉村総峰だと気付き、感情を