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第79話 言い難い魅力

翔は言葉を聞いて、ほっとしたようだ。

それはよかった。若様に何か危険があるのかと心配していたのだ。

頭を下げて丁寧に言った。「一清さん、ご面倒をおかけして申し訳ありません」

一清が傍らに立ち、眉を寄せて、銀針の刺さった朱墨を見つめながら、銀針を抜くのを待っていた。

この治療は、彼女の想像以上に長引いたようだ。

終わったのは1時間後のことだった。

一清が集中しすぎていたため、針を抜き終えた瞬間、突然の脱力感を感じた。

ふらついて、地面に倒れそうになった。

朱墨は立っていて、シャツのボタンを締めていた。

余所見をしていると、彼女が倒れかけているのが見えた。慌ててそばに寄り、彼女を支えた。

一清は眩暈に包まれながら、温かい腕の中にいることに気づいた。

広くて強い腕が、安心感を与えてくれた。

朦朧とした意識の中、耳に澄んだ声が聞こえた。

「大丈夫か?」

それは朱墨の声だと判断した。

一清は我に返り、ようやく視界が明確になった。

「大丈夫」と答えた。

男の腕の中にいるのは失礼だと気づき、彼女は立ち上がろうとした。

目眩がしてきて、彼女はいらいらしながら頭を振った。

朱墨は眉間に皺を寄せた。彼女が本当は大丈夫なわけがない。

こんな遅い時間に、彼女をこのまま帰らせるのは危険だ。

そして彼は即座に言った。「しばらく休んでいてください。休憩してから出発するほうがいい」

そう言って、躊躇なく彼女を抱き上げた。

どうして、こんなに軽いのだろうか、と眉を寄せた。

体を抱き上げられたことに驚いて、彼女は「あなたの体調がまだ良くないのに、無理しちゃダメ!」と心配そうに言った。

彼女は心配そうに、彼の深い瞳を見つめ返した。

もし、彼の傷が再び悪化したら、どうしよう。

彼は不思議に思った。彼女がそんな状態なのに、なぜまだ彼のことを気にかけているのだろうか。

朱墨は眉を上げ、「抱くくらい余裕だ。それに、藍星を心配させたくないだろ」と言った。

彼女ほど軽い人間、まるで気にならない。

柔らかい彼女の体を抱いていると、想像以上の気持ちよさがあった。

近距離だからか、彼女の髪と薬の香りが混ざって、彼の中に染み込んでいく。

「温かい玉のようだ」朱墨はその言葉が頭に浮かび、思わずぼんやりとした。

藍星のことを思い出して、一清はそちらを向いた。
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