第8話

まさか、再びゆり子に会う日が来るとは思わなかった。

それも、私が引き受けることになった離婚案件の依頼人として。

その日の深夜、ゆり子はみすぼらしい姿で事務所に現れた。

私はちょうど退勤しようとしていたが、来客があったので手を止めた。

そして、顔を上げた瞬間、彼女の腫れ上がった鼻と青あざだらけの顔が目に飛び込んできた。

昔の彼女とはまるで別人だった。

彼女の顔には辛い表情が浮かび、家庭のトラブルに疲れ切った中年女性そのものだった。

ゆり子も私を見て、一瞬動きを止め、驚きの声を上げた。

「雅史、あなた……弁護士になったの？」

彼女の視線は、私の胸に掛かった名札に釘付けになっていた。

数秒の沈黙の後、彼女は突然私の胸に飛び込み、泣き崩れた。

「雅史、本当にごめんなさい……私が間違ってた、私が悪かったの。お願い助けて」

「高梨のクソ野郎とはもう一緒にいられない。お願い、やり直してくれない？」

話を聞くと、ゆり子は私と離婚して間もなく、高梨と念願の結婚を果たしたらしい。

そうか、高梨はゆり子のしつこい執着に負けて結婚を承諾したのか。

彼は他の女性を狙う度に、ゆり子が手段を尽くして邪魔をし、仕方なく彼女との結婚を選んだという。

とはいえ、彼にとってゆり子との結婚は百利あって一害なしだった。

ゆり子は無料の家政婦として利用でき、家事もすべて任せられる。

だが、高梨の女遊びは一切止まらず、結婚後も浮気を続けていた。

結婚からわずか数か月、ゆり子は彼の秘密を知った。

彼は数年前に闇金を貸し、借金を踏み倒す人だ。

さらに、彼のスマホには既婚女性を騙して金を巻き上げる証拠も残されていた。

その日、ゆり子は妊娠したことを高梨に伝えようと、サプライズのつもりで話を切り出した。

しかし、真実を暴かれた高梨は激怒し、彼女に暴力を振るった。

その結果、ゆり子は流産してしまった。

ガッカリした彼女は離婚を申し出るが、高梨に監視され、家から出ることすら許されなかった。

彼は日常的に暴力を振るい、言葉でも脅し続けたという。

やがて、ゆり子はようやく家から逃げ出し、私の事務所に助けを求めてやってきたのだ。

彼女の話を聞き終え、私は冷静に彼女を突き放した。

その話は今の私にとって、ただの依頼人情報に過ぎなかった。

「今は営業時間外です。予約もされてい