第 5 話

渡辺創はしばらく沈黙した後、少し考え、「気にしてるのか？」と尋ねた。

祐摩は無表情のまま、「気にしてない」と答えた。

渡辺創が「それならちょうどいい」と言いかけたところで、祐摩は皮肉っぽく笑みを浮かべ、「自分で彼女に聞いて、同意するかどうか確かめてみろ」と言った。

渡辺創は思わず舌打ちして、「彼女を大事にしてるのか、してないのか分からなくなるよ」と言った。

佳子は本当に美しいし、その気品も素晴らしい。スタイルも抜群で、どこを見ても完璧な女性だ。

だが、彼女は運悪く、祐摩のような冷血な男と付き合っている。

渡辺創は祐摩とは長い付き合いで、彼の性格もよく知っている。そして、美保以外の女性に対して彼が本気になったことは一度も見たことがなかった。

昔、祐摩が美保に対して本当に深い愛情を持っていたのは事実だ。

若かりし頃、初めて出会った少女に一目惚れし、誠実に彼女を愛した。

祐摩は少し眉を上げ、感情を込めずに淡々と言った。「ビジネスだ。彼女にとって相手が誰であろうと、ビジネスはビジネスだ」

渡辺創は冗談を言っただけだったが、祐摩がこれほど「気前がいい」とは思わなかった。

しかし、それも予想外ではなかった。

祐摩はいつも冷静だった。

渡辺創は「佳子がこれを聞いたら、傷つくんじゃないか？」と彼に忠告したが、祐摩は気だるそうにワインを一口飲み、その冷たく遠い声で「たぶんね」と答えた。

演技の場で一番のタブーは、本気になることだ。それは非常に厄介なことだから。

祐摩は、佳子がそんな愚かではないことを信じていた。

少なくとも、この半年間、彼女は賢く振る舞ってきた。

聞いてはいけないことは聞かず、してはいけないことはしなかった。

状況をよく理解し、体裁を守っていた。

渡辺創は、祐摩が本気で怒るかどうか少し興味を持っていた。

しばらくして、彼はワイングラスを持って佳子の前に歩み寄り、彼女の顔がとても青ざめていることに気づいた。

佳子はすべてを聞いていたが、何も知らないふりをするしかなかった。

手足が冷たく、心の痛みはすでに麻痺していた。

渡辺創は紳士的に挨拶した。「水上さん、またお会いしましたね」

佳子は反射的に二歩後退し、「渡辺さん」と返した。

近くで見ると、彼女は本当に美しく、整った顔立ちに、三分の色っぽさと三分の単純さが混ざり合い、その美しさは息をのむほどだった。

渡辺創は確かに彼女に心を奪われた。

渡辺創は彼女に微笑んで、「最近お時間ありますか？」と尋ねた。

佳子は深呼吸し、「あいにく忙しいんです」と答えた。

渡辺創の表情は特に変わらず、意味ありげに「昔と変わらないな」と言った。

冷たくて、虚勢を張っている、と。

佳子は唇を噛んで黙っていた。

渡辺創は本当に彼女が気に入っていた。美しく、スタイルも良く、どこへ連れて行っても恥ずかしくない。

祐摩がこちらにやってきた。彼はポケットに手を入れ、冷たく疎遠な表情で、何事もなかったかのように渡辺創に「話はどうなった？」と尋ねた。

渡辺創は笑いながら「まだ何も聞いていないのに、もう待ちきれないのか？」と返した。

祐摩は軽く眉を上げ、「考えすぎだ」とだけ言った。

佳子は手のひらを強く握りしめ、気を保ち、何も知らないふりをし続けた。自分が他人の話題にされているこの状況は、決して気持ちの良いものではなかった。

渡辺創は佳子をまっすぐ見つめ、前置きもなく「数日間私と一緒に過ごす気はないか？」とストレートに言った。

佳子は顔をこわばらせ、「興味はありません」と冷たく答えた。

渡辺創は気前よく「価格は君が決めてくれ。社長の目は確かだ」と言った。

佳子は顔色がさらに白くなったが、外見は冷静だった。

彼女はいつも誇りを大切にしている。少しの自尊心を守るため、わざと無関心を装った。

まるで自分が物のように取引されることも、話題にされることも気にしていないかのように。彼女は微笑んで、「社長はもっと気前がいいですから、まだ十分に稼げていません」と言った。

佳子がこのようなことを言うのは珍しく、祐摩と渡辺創は驚いた。

祐摩の表情から、彼女の反抗的な態度が気に入らないことが伝わってきた。彼の顔色は悪く、唇に浮かんでいた笑みも冷たくなっていた。

数秒後、祐摩は軽く鼻で笑い、無関心に「野心が大きいな」と言った。

佳子の心は鋭い痛みに襲われた。それは絶え間なく続く冷たい風のように、彼女を締めつけた。

彼女は笑みを浮かべて強がり、「そうですね」と答えた。

そのとき、緊張していたウェイターが彼女のそばを通り過ぎる際に、誤って飲み物を彼女のドレスにこぼしてしまった。

目立つ汚れで、見た目はよくなかった。

佳子は気まずい気持ちでいると、祐摩が突然彼女の手首をつかんで引っ張り、「上に休憩室がある」と言った。

佳子は唇をかみしめ、「でも、着替えがありません」と言った。

祐摩は静かに「誰かが持ってくる」と答えた。

二階の客室には誰もいなかった。

すぐにウェイターが新しいドレスを持ってきた。佳子はそれをつかんで洗面所に向かい、着替えようとしたが、背中のファスナーがどうしても上がらなかった。

仕方なく、彼女は外にいる祐摩に助けを求めた。

祐摩は何も言わず、冷たい指先で彼女の背中に触れた。冷えた感触が彼女の肌に伝わった。

彼の気配が耳の後ろにかすかに感じられ、かすかな痺れと熱さが広がった。

祐摩は彼女のファスナーを引き上げ、指先で彼女の髪を軽く撫でながら、彼女の全身をじっと見つめ、突然小声で「別に着替えなくてもいい」とつぶやいた。

佳子は彼と距離が近くなり、顔が赤くなったが、まだ反応する間もなかった。

その瞬間、祐摩は彼女の手首を強く背後に押さえつけ、膝で彼女の脚を開かせながら、冷たい息を吐きかけて「どうせ脱ぐことになるんだから」と低い声でささやいた。