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第2話

Author: 佐藤怜子
「どうしてこんなことに……」

私は息子を抱きしめ、涙をボロボロと流しながら泣き叫んだ。「明彦、あなたが連れて行かれたら、私たち母子二人だけでどうやって生きていけばいいの……」

表向きは悲痛に暮れる演技をしながらも、心の中では笑いが止まらなかった。

このクズ男、よくもまあ考えたものだ。自分が謝罪した後にすぐ捕まったことにして、本当に送られるのを回避しようとしているなんて。

私はお義母さんに提案した。「お義母さん、私、今すぐ明彦さんに会いに行きたい」

お義母さんはすぐに手を振り、まるで敵に囲まれたかのような警戒ぶりで私を拒んだ。

「警察が言ってたの。明彦は今、家族に会えないって」

そう言うと、お義母さんは目をくるりと動かしながら提案してきた。「明彦が今ああなってしまったんだから、相手の家族にお金を渡しましょう。そうすれば明彦の刑も軽くなるかもしれない」

お義母さんは涙を流しながらも、涼に目で合図を送るのを忘れていない。

「ママ、パパを助けて!」

涼はワッと泣き出し、私の手を掴んで離さない。

私は冷笑を浮かべた。なんてずる賢い計算だ。

要するに、彼女は私に明彦の昔の恋人とその子供に金を送らせようとしているのだ。

私を完全にバカにしている。

私はうなずいて言った。

「お義母さんの言う通りね。ちょっとカードを取ってくる」

そう言いながら部屋に戻るふりをすると、お義母さんの目には一瞬喜びの色が浮かんだ。

部屋に戻り、私はカードを手に取ったが、考え直して元に戻した。そして、明彦の引き出しから見つけた証拠書類を持って家を出た。

向かった先は中川遥香の家だった。

ドアを開けると、彼女は悲しそうな表情を浮かべていたが、その目元には前世で見覚えのある高慢な態度が見え隠れしていた。

私たちを睨みつけると、厳しい口調で言った。「何しに来たの?まだ私たち母子をこれ以上苦しめたいわけ?」

彼女は痩せ細った小さな女の子の手を握りしめ、その態度はまさに情に訴える演技そのものだった。

知らない人が見たら、彼女の夫が亡くなってどれほど悲惨な生活を送っているかと思い込むだろう。

お義母さんはそれを聞くなり、涼を引き寄せて中川遥香の前に跪き、涙を流しながら叫んだ。

「遥香、お義母さんが...いや私たちが悪かった。本当にごめんなさい。どうか明彦を許してあげてください」

彼女が吐きかけたその一言で、私の疑念は確信に変わった。

さらにお義母さんは私を引っ張り、彼女と一緒に跪いて頭を下げて謝るよう促してきた。

正妻が愛人に謝るなんてあり得ないでしょ!

ふざけないでよ。

私は彼女の手を振り払うと、お義母さんはよろめいて床に頭をぶつけ、痛そうに顔を歪めた。

私は目をしばたたかせながら、疑いの声で聞いた。「お義母さん、どうして彼女が『遥香』って名前だって知ってるのか?」

お義母さんは目を泳がせながら、痛みを堪えて答えた。「え、ええっと、最初は知らなかったのよ」

お義母さんは慌てて嘘をついた。

「明彦を連れて行く途中で、彼が教えてくれたのよ。『遥香にはちゃんと謝って補償してあげてくれ』って」

涼もそれに加勢するように言った。「そうだよ!パパ、前に言ってたもん!」

私は涼に冷たい視線を送り、心の中は完全に凍りついた。

私の息子は、明彦が「嘘をつくのを手伝ってくれたら新しいラジコンカーを買ってあげる」と約束しただけで、私を騙してこの家族に何十年も尽くさせようとしたのだ。

恩知らずな奴!

私は向かいの小さな女の子を見ると、警戒心むき出しの目でこちらを睨んでいた。

その顔立ちが私と似ているのに気づき、

心の中で大胆な推測が浮かんだ。

その時、遥香は私の視線をさりげなく遮り、

ちらりと私を睨んでから強気に言い放った。「許して欲しいならいいわ、一千万円。一円もまけない。さもなければ話にならない!」

その態度は強硬そのものだった。

そう言うと振り返り、バタンとドアを閉めて中に入っていった。

私はその場を動かずにいると、お義母さんが慌てふためき、ドア枠にしがみついた。

遥香はドア越しに嫌悪感をあらわにしながら怒鳴った。「出て行け!もうあなたたち家族の顔なんて見たくもない!あなたたちがいなければ、私の夫が死ぬことなんてなかったのに!」

お義母さんはすぐに振り返り、私の前に跪いて懇願した。「梨乃、お願いだよ!明彦を助けておくれ。この老婆の来世は使用人になっても償うからさ!私にはこの息子しかいないんだ。どうか、どうか助けておくれ!」

彼女は涙ながらに必死で叫んでいる。

私は表情を変えず、心の中で冷笑を浮かべた。

お義母さんは表面上は私に頼っているふりをして、実際には私の優しさにつけ込んでいるのだ。

「お義母さん、何をしているのか!明彦と私は夫婦だ。心配しないでください。明彦は私が必ず助け出すから」

そう言いながら、私は急いでお義母さんを地面から立たせた。

お義母さんは嬉しそうに目を輝かせ、遥香も得意げな表情を見せた。

だが次の瞬間、私は背後から書類を取り出し、遥香に差し出しながらため息をついた。

「でも、お義母さんの言う通り。

明彦がこれだけ責任を感じている以上、私も放っておけない。

これは明彦の犯罪を示す証拠だ。今すぐ警察に持って行って、彼に迷惑をかけないようにしよう」

そう言うと、私は立ち去るふりをした。

涼は顔面蒼白になり、震えながら固まってしまった。

お義母さんはすぐに私の行く手を遮り、立ちふさがった。

遥香はまるで熱湯に放り込まれた蟻のように焦りを隠せない様子だった。

さらに進めばお金を手に入れられず、退けば明彦が本当に警察に連れて行かれる。

彼女が慌てるのも当然だった。

お義母さんは急いで私を止めて言った。「梨乃、まず涼の世話を優先して。私がその証拠を届けてくるから」

さらに、私に気遣うような様子で水を勧めた。「今日は一日中動き回って大変だったでしょう?まずはこれを飲んで休んで」

お義母さんが差し出したコップを手に取ろうとした。

だが、底に不明な沈殿物があるのを見つけて手を止めた。

その時、遥香は気まずそうに話し始めた。「証拠のことなんてもういいわよ。明彦がわざとやったわけじゃないって信じてる」

強盗で人を殺しておいて「わざとじゃない」だって?

本当にふざけている!

私はその水を横に置き、心の中で呆れつつも毅然とした態度で言った。「いいえ。この件で夫があなたに迷惑をかけたのは事実だから。夫もここにいればきっと私の行動を支持するはずだ。

安心してください。あなたに必ず公正な結果をもたらすわ」

そう言い切ると、私は意を決したようにタクシーを呼び、外に出た。そして携帯で警察に通報し始めた。「もしもし、警察ですか?私、佐藤明彦の妻です。夫が2003年に強盗事件を起こしたことを通報したいのですが……」

私は彼らの制止を無視してタクシーに乗り込んだ。お義母さんと遥香は窓を叩きながら、私の名前を叫び続けている。

「早く出発してください!」そう言うと、車はスピードを上げ、二人の姿はどんどん遠ざかっていった。その間にも、携帯の右上には次々とメッセージ通知が表示される。

「梨乃、警察に本当に通報するなら、この老婆が命を懸けて止めてやる!」

「明彦の件については、もう少し話し合おう。彼をそんなに厳しく罰する必要もないでしょう?戻ってきて話し合おう!」

このタイミングで、遥香は急に大人ぶった態度を見せ、亡き夫のことなど気にしないかのような口調になっていた。

一方、隠れていた明彦からも、偽善的なメッセージが届いた。「梨乃、俺のことは気にしないでくれ。涼を大切に育ててくれればそれでいい。君にこれ以上苦労をかけたくないんだ」

画面に溢れる赤い通知マークは、彼ら三人の焦りを如実に物語っていた。

その時、書類から一枚の鑑定結果が滑り落ちた。私は震える手でそれを拾い上げ、中身を確認した。

その瞬間、胸の中で抱いていた疑念が確信に変わった。

顔を上げると、そこには警察署の入口が見えていた。

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  • 夫は愛人と偽りの罪を作り、私は彼を刑務所送りにした   第1話

    「ごめんよ。本当に申し訳ないけど、結婚してこんなに時間が経ったのに、どうしても言えなかったことがあるんだ。でももう、良心の呵責に耐えられない」ダイニングテーブルの向こうで、夫の佐藤明彦が私を見つめ、悲痛な表情を浮かべながら言った。私の胸はドキリと跳ねた。その瞬間、周りを見渡して気づいた。私は生まれ変わっている。そして戻ったのは、前世で夫が「指名手配犯」と装ったあの日だった!あの偽善的な顔を見ていると、むかついた。明彦は続けて頭を抱えながら泣き崩れる。「実は俺、指名手配犯なんだ。18歳の時、無知だった俺は金がなくて、他人の物を奪ってしまった。それで、その家の夫が亡くなってしまって、残された母子はどうやって生きていくかもわからない状態だ。今になって、その罪を償いたいと思うんだ」彼は涙ぐみながら私の手を握った。「俺を支えてくれるよね?」テーブルには息子の佐藤涼とお義母さんが座っているが、誰も慌てた様子を見せない。その様子を見て、私は笑いそうになった。なんと、彼の家族全員が真実を知っていたのに、私だけを騙していたのだ!前世では、夫の罪を償うために、私は休日ごとに頭を下げに行き、生活費のほとんどをその家族への贈り物に費やした。自分はパンと漬物だけで日々を過ごしていた。しかし死ぬ間際になって、夫が私に償わせていた相手が実は彼の昔の恋人であり、「母子家庭」とされていたのは夫の隠し子だったと知った。私が懸命に夫のために尽くしていると思い込んでいる間、彼らは私をあざ笑い、携帯で「バカな女だ」と話していた。そのことを思い出すと、怒りで胸がいっぱいになる。お義母さんはすぐに胸を押さえて大げさに嘆き始めた。「なんてことだ!なんて不幸な家なんだ!佐藤家は代々潔白だったのに、どうしてこんな息子が出てしまったのか!人の命まで奪ってしまうなんて。さあ、今すぐ自首しなさい!」そう言うと、お義母さんは明彦の腕を掴んで立たせ、玄関へと連れ出そうとする。夫は私の手を握りしめながら、切ない表情で言った。「ごめんよ。これからは涼を一人で育ててくれ」そう言って、彼は立ち去ろうとする。私は胸が高鳴り、悲しんでいるふりをしてお義母さんに言った。「お義母さん、明彦がどんなに間違っていても、あなたの息子だよね。こうしましょうか。私が彼を送ってい

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