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第275話

「赤ちゃん、ママは今、パパのことを憎んでないわ。だから、あなたも彼を憎まないで。憎しみを抱えて生きると、とても疲れるものよ」

「あなたのパパは、ただママを愛していないだけ。それだけのこと。彼にとって私は妹みたいな存在で、愛なんてない。私が勝手に想っていただけ、自分だけの片思いだったの」

「男が女を愛さないからといって、それが許されない罪なのかしら?」

「赤ちゃん、ママは......本当に頑張ったのよ。でも、あなたのパパは私を愛してくれなかった」

松本若子の瞳が次第に曇り、薄く水気が浮かんでくる。

彼女の頭には、藤沢曜の言葉が蘇る。

【若子に子供がいなくて幸いだったな。さもないと将来、お前と同じ苦しみを味わうことになる。それはまるで呪いのようだ】

松本若子はお腹の上の布を強く握りしめた。

いいえ、赤ちゃん、ママはこの呪いをあなたに引き継がせない。

将来、あなたが誰を愛しても、ママは応援する。決してあなたに愛していない人と結婚を強いることはしない。

「......お母さん」と、ベッドの上の男が突然つぶやく。

松本若子は顔を上げて耳を傾けると、彼は何かをぶつぶつと呟いているのが聞こえた。

藤沢修の体が微かに動く。

若子は布団をそっと下り、裸足で彼のベッドに近づいた。

近づいてみると、藤沢修は眉をひそめ、つぶやいている。

「お母さん、どこにいるの?お父さんもお母さんも、僕を置いていかないで......」

彼は布団の端をしっかりと握りしめ、離しては掴み、また離しては掴む。その動作を何度も繰り返し、何かをつかもうとしているようだったが、最終的にはその手が虚空をさまよい、悪夢の中に閉じ込められているようだった。

若子はすぐに彼の手を取って、握りしめた。

彼女の小さな手を掴んだ途端、彼の表情は徐々に落ち着き、しかめられた眉も次第に緩んでいく。

「お母さん、お話を聞かせてくれない?」と彼は小さな子供のように言った。

若子の目に少し涙が浮かんだ。彼はきっと、幼い頃の母親の夢を見ているのだろう。若子の目に少し涙が浮かんだ。彼はきっと、幼い頃の母親の夢を見ているのだろう。

「お母さん、行かないで。お父さんが帰ってこなくても僕が一緒にいるから」

「お母さん、僕を抱きしめてくれる?雷が怖いんだ」

窓の外から風が吹き込み、冷たい空気が部屋に入ってきた
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