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第3話

著者: ぶどう一果
last update 最終更新日: 2024-12-02 10:25:31
昼夜を問わず忙しさに追われ、何日も休む暇がなかった私。ついには朦朧とした状態になり、主任から強制的に休暇を取らされることになった。

「しっかり休んで体調を整えてから来なさい」との命令。失恋の痛みを仕事で紛らわせるという計画は、あっさりと潰えてしまった。

ベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめる。そんなとき、スマホが振動して通知が届いた。画面に映る送り主の名前を見て、一瞬、自分が幻覚を見ているのかと思った。

送り主は……悠真。

両手で目を何度もこすり、再び画面を見ても、確かに「悠真」と書かれている。驚きで体を起こし、急いでメッセージを確認すると、そこには一枚の集合写真が添付されていた。

それは彼の卒業写真だった。

ブロックされてから再び連絡が来るまで、半月以上が経っていた。

「怒りが収まったのかな?」と思いながら、私は少し期待してメッセージを開いた。きっとこれがきっかけで、また彼と話せるようになるのではないかと。

ところが、続けて送られてきたメッセージには、こう書かれていた。

「ねえ、お姉ちゃん。この中でどの子が一番可愛いと思う?」

私は写真を拡大し、彼の立ち位置を探す。中央に立ち、少し口元を上げた微笑みを浮かべる悠真。しばらく彼を見つめた後、ふと思い出した彼の質問に目を向けた。

悠真が男子の中で目立つのと同じように、女子の中で一際目を引く子がいた。その子は女子列の中央に立っている。私はその子の顔をマークして、悠真に送り返した。

返事はすぐに来た。

「ハハハ、同じこと考えてたな!」

『同じこと』、それは心の通じ合いでもなく、私の目が良いという称賛でもない。

私はその言葉に含まれる意味を敏感に捉えた。

「新しいターゲットってこと?」

「お姉ちゃんはどう思う?僕、彼女を狙ってもいいかな。それとも、狙ってほしくない?」

「ダメだし、そんなの望んでない」と答えたい気持ちをぐっと飲み込む。

少しの間ためらった末、こう返した。

「もし彼女が悠真にとってぴったりだと思うなら、そして彼女を手に入れられるなら……私も嬉しいよ」

「それなら、お姉ちゃんの望み通りにしてあげるさ」

その後、私たちは意地を張るかのように連絡を絶った。

さらに後日、彼のSNSでカップル写真が投稿されたのを目にした。

悠真はターゲットを見つけてから落とすまでが早い。

彼はイケメンだし、アプローチの際には犬のように従順で、甘え上手。相手を夢中にさせるのが得意なのだ。

その投稿に私はこっそり「いいね」を押して、そっとアプリを閉じた。

正直、その女の子が羨ましかった。

私にはもうない「若さ」と「輝き」を彼女は持っている。卒業写真で見せた無邪気な笑顔を見ていると、心が少し萎んでいくような気がした。

私は認めざるを得なかった。彼女のその明るさの前では、自分が無力に感じる、と。

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    あっという間に出国の日がやってきた。 私は友達が少ないから、空港まで見送りに来てくれる人なんていない。 それに、そもそも別れの日というのが好きじゃない。 それでも、両親には伝えた。 二年もの間、異国で過ごすのだから。私が戻る頃には、もう三十手前だ。 両親が「絶対に見送りに行く」と聞かなかったので、私はそれを止めることはしなかった。 心のどこかで、誰かが見送りに来てくれるのを期待している自分がいる。 けれど、その「誰か」に会いたくない自分もいる。 自分がなぜこんなに矛盾しているのか、私には分からなかった。 頭の中で、これまで歩んできた道を思い返す。 私は天才なんかじゃない。 たとえ一万人に一人の天才だとしても、一億人の中には数万人の天才がいる。 たとえ私が輝く金のような存在だったとしても、この世界はどこもかしこも金色に輝いている。 私はただ、少しでも努力して、もっと頑張って、押しつぶされないようにしているだけだ。 十数年の学び、受験で奇跡的な実力を発揮して医大に合格した。 それは両親に少しは誇りを与えられたと思う。 研修後も地道に働き続けて、大病院に残るために必死に努力した。 その努力が認められて、今回の海外研修の機会を掴むことができた。 二年間の研修を終えて戻ったときには、少なくとも「ただの医者」ではなくなっていたい。 もしかしたら、私が掴み損ねたものは、別の形で戻ってくるのかもしれない。 この恋があまりにも雑な形で終わったことを、いつか後悔するのかもしれない。 それでも、私には仕事がある。 仕事で一つの完璧な結末を迎えられたら、それで十分だと思う。

  • 君がいない季節を超えて   第7話

    考え事で頭がいっぱいのまま夜勤を終え、考え事を抱えたままオフィスに戻って医師指示を書き始めた。 しばらくすると、夜勤の看護師がドアをノックしてやってきた。 「深川先生、3番ベッドの処方、ちょっと確認してもらえますか?量が違う気がするんです」 慌てて確認すると、まさにその通りだった。 本来50mgの薬を500mgで処方していたのだ! 危うく大問題を起こすところだった。「やっぱり、私って一つのことに集中できない人間なんだよね。二つのことを同時にこなすのは向いてないのかも」そう思いながら、看護師に申し訳なく笑い、顔を軽く叩いて気合いを入れた。「どうしたんですか?私が一緒のシフトのときって、そんなミスしないじゃないですか」 「……ちょっと寝不足でね」 「出国が近いから、ストレス溜まってるんじゃないですか?」 「まあ、そんなところかな」 無理に笑顔を作って答えると、彼女はため息をついてそれ以上は何も言わなかった。 よく「恋に破れたら仕事で成功する」と言うけれど、私は医療事故なんて絶対に起こさないよう気を引き締めた。 出国が近いからか、最近は担当患者も減っていて、新しい患者もあまり来ない。 だけど、心のどこかで悠真のことが気になってしまう。結局、看護師に連絡を頼んで、家に戻ることにした。 家に帰ると、悠真はベッドで相変わらずじっと寝ていた。 「……まさか、動かなくなった?」 慌てて彼の額に手を当てる。 ……良かった。熱はもう下がっている。焼けつくような熱があったから、正直、脳に影響が出たんじゃないかと心配していた。 そのとき、不意に彼が目を開けた。 「悠真!目が覚めたの?」 気まずさを隠しきれず、苦笑いを浮かべる私に、彼はボソリと口を開いた。 「お姉ちゃん……もう仕事終わったの?」 「そうよ。じゃあ、起きたついでに荷物を片づけてくれる?」 自分が心配で抜け出して帰ってきたなんて、言えるわけがない。 「……後悔してるんだ、お姉ちゃん。僕たち、もう一度やり直せないかな?」 彼の言葉に一瞬だけ迷ったけれど、深く息を吸い、窓の向こうから差し込む明かりを背に彼を見つめた。 「悠真。今日あなたがここに泊まれたのは、私たちにまだ可能性があるからじゃないの。私たちはもう終わってるのよ

  • 君がいない季節を超えて   第6話

    車に揺られながら、胸の奥がどうしようもなく締めつけられているような気がして、思わず行き先を変えるように運転手に頼んだ。 「少し遠回りしてもらえますか」 街をいくつか巡り、気持ちを紛らわせてからようやく家に戻ったのは、もう深夜に近い時間だった。 ふらふらと階段を上がり、鍵を探してドアを開ける。 すると、不意に誰かが私を壁際に押しつけた。 何が起こったのかわからず戸惑っている間に、唇に降り注ぐ荒々しいキスの雨。 慌てて力いっぱい突き放そうとしたが、相手はびくともしない。だが、次第にその香りが誰のものなのかを理解した。 「何、これ……?」 目の前の状況に混乱する。彼には新しい彼女がいるはずなのに…… 思いが巡るほど、抑えきれない悔しさと悲しみが押し寄せてくる。気づくと、涙が頬を伝っていた。 彼の唇が涙に触れた瞬間、動きが止まった。 「どうしたの?お姉ちゃん、泣かないで」 彼はそっと私の目元の涙を拭いながら、優しく語りかけてきた。 「何で……?何でキスなんてするの?私を何だと思ってるの?それに、あなたの彼女をどう思ってるのよ!」 言葉が詰まりそうになるほど嗚咽が込み上げる。 彼は明らかに狼狽え、必死に涙を拭き続けた。 「お姉ちゃん……ごめん。僕、どうしても諦めきれないんだ。愛してるのはお姉ちゃんだけだよ……彼女と付き合ったのだって、ただお姉ちゃんを怒らせたかっただけなんだ」 「出ていって。もうあなたが嫌いになった。これ以上、憎ませないで」 悠真は口を開きかけたが、結局何も言わずにその場を去った。 私はドアを閉め、鍵をかけた後、念のため二重ロックにした。 その後、無意識のまま洗顔を済ませ、ベッドに倒れ込むように横たわり、すぐに深い眠りについた。 翌日、目を覚ますとすでに昼近く。二日酔いのせいで頭がズキズキと痛む。 こめかみを揉みながら洗面所に向かい、支度を始めた。今日は夜勤だったのが幸いだ。 軽く片づけを済ませてから玄関を開けると、そこには眠そうな顔をした悠真が立っていた。 「何、ずっと起きてたの?それとも朝からここにいたの?」 「昨日、結構飲んでたみたいだからさ。二日酔いが辛いだろうと思ってスープ持ってきたんだ」 しゃがれた低い声でそう言う彼の顔は、少し疲れているように見

  • 君がいない季節を超えて   第5話

    真心を疑ったことはないけれど、真心は儚く変わるものだ。 悠真が私を愛してくれたのは確かだった。そして、もう私を愛していないのもまた確かなことだった。 私たちはいつからこんなにも遠ざかってしまったのだろう。 いつも鈍感な私は、それすらはっきりとは分からない。 もしかしたら、彼が私を「お姉ちゃん」と呼んでいたのが「透子さん」に変わり、また「お姉ちゃん」に戻った時だったのかもしれない。 同僚たちに簡単な挨拶を済ませてから、私は家に帰ることにした。気持ちを少しだけ整えて、迎えの車を待つために交差点で立っていると…… 「悠真、今夜は一緒にいてもいい?」 背後からそんな声が聞こえ、胸がドキリと鳴る。まさか、こんな偶然があるだろうか? 次の瞬間、聞き覚えのある声が続いた。 「一緒に?何するのさ?」 「もう、やだぁ」 女の子の甘えた声が耳に届く。 私は視線を下げ、できる限り自分の存在感を消そうとした。でも、彼らもどうやら車を待っているようだ。 「お姉ちゃん?」 その声が私を完全に動けなくさせた。もう知らないふりはできない。 仕方なく振り返り、できるだけ自然な笑顔を作ってみせた。 「悠真、偶然だね」 「誰、この人?」 悠真の隣にいる女の子が私を見て問いかけた。その顔は写真で見たときよりも可愛らしく、生き生きとして見えた。 「俺が小さい頃、腕を骨折した時の主治医だよ」 それだけ。たった十数文字で、私たちの関係を片付けてしまった。 前の恋人という言葉すら出てこない。それが何とも苦々しくて、心の中で小さく笑った。 「信頼できる、とてもいいお姉ちゃんだよ」 悠真がすぐに補足し、「お姉ちゃん」という部分を妙に強調していた。 「お姉さん、こんにちは。私、水無瀬瑠奈(みなせ るな)って言います」 その女の子はにこやかに手を差し出してきた。 もし彼女が、私が彼の元カノだと知ったら、それでもこんなに友好的でいられるのだろうか? 「ごめんね。外科医の癖でさっき手を洗って消毒したばかりだから、握手は控えておくよ」 そう言って、私は軽く彼女をかわしながら、二人から少し距離を取って離れた場所で車を待つことにした。 今日の迎えの車はなぜだかやけに遅い。 その間、彼女は悠真の胸に小さく身を寄せて

  • 君がいない季節を超えて   第4話

    病院から2年間の海外研修の話が持ち上がったのは、まだ悠真と別れる前のことだった。 彼を置いて行くのが寂しくて断りたい気持ちと、せっかくのチャンスを無駄にしたくない気持ちで、どう切り出すべきか迷っていた。彼の意見を聞いてから決めたいと思っていたけれど、その前に私たちは別れてしまった。 今となっては、あの時すぐに断らなくて良かったと思っている。 研修の準備をするため、久々に英単語帳を開いた。英語の試験が終わってからずっと放置していたせいで、語彙力はすっかり落ちている。それに加えて、医療用語まで覚えなければならないのは本当に大変だ。 ふと、無意識に口をついて出た言葉に、自分で驚いた。 「悠真、お水持ってきて」 気づいた時には、彼がもういないのだと思い知らされる。それと同時に、もし彼がまだそばにいてくれたらと、切ない気持ちが胸を締めつけた。 そして再び、悠真に会うことになる。 それは思わぬ形で訪れた。胸の奥が締めつけられるような痛みとともに、遠くの席でサイコロゲームを楽しんでいる彼の姿を目にしたのだ。 彼の傍らには、卒業写真で見たあの女の子がいる。悠真は彼女の背もたれに軽く手を置き、柔らかく笑っていた。 「どうしたの?透子、ぼーっとして」 一緒に来ていた同僚が、不思議そうに声をかけてきた。 「ううん、何でもないよ。行こう」 私の送別会が行われたその日、ディナーの後で誰かが「クラブで踊ろう」と提案した。普段なら社交的ではない私は断るところだが、みんなの熱意に押されて仕方なく同行することにした。 まさか、その場で悠真たちに出くわすなんて思いもしなかった。 普段は酒をほとんど飲まない私が、この日はひたすらグラスを重ねていた。頭がぼんやりして、胸がじわりと痛む。 周りの喧騒に混ざれない私は、一人で隅に縮こまり、彼らが楽しそうに乾杯を繰り返す様子を眺めていた。 なんだかこの賑やかさが、自分にはまるで合わない気がした。今日の送別会は私が主役のはずなのに、どこかよそよそしい居心地の悪さを感じていた。 おしっこしたくなって、トイレに向かうことにした。ふらつく足取りで歩いていると、運悪く悠真たちと鉢合わせてしまった。 彼らのグループは、悠真とその女の子をからかって盛り上がっていた。 彼女は恥ずかしそうに悠真の腕の

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