共有

第307話

作者: リンフェイ
「結城さん、あなたも来ていたのね」

妹の旦那もいるのを見て、佐々木唯月は彼に笑顔を見せた。そして、息子を抱き上げてその可愛い顔に何度もキスをした。キスされた陽は嬉しそうにキャッキャッと笑った。

「義姉さん、こんにちは」

結城理仁は義姉に挨拶をした。

「あら、このワンちゃんと猫ちゃんどうしたの?可愛いわね!」

佐々木唯月は息子にキスをした後、店に増えた新しい仲間を見つけた。

「結城さんが飼っていいって私にプレゼントしてくれたの。お姉ちゃん、仕事が見つかったって?」姉が入って来る時に見せたあんなに嬉しそうな様子を内海唯花は久しぶりに見た。

佐々木唯月は先に義弟が買って来たペットたちが可愛いと褒めて、妹に返事をした。「見つかったの。本当に不思議なんだけど、知り合いに会ったのよ。唯花、私がどこで働くと思う?

東グループよ」

内海唯花は普段からあまり大企業に関心がなかった。この町にある有名な結城グループは親友がよく結城家の御曹司の話をしていたので彼女は知っていた。結城理仁とスピード結婚した後は、理仁が結城グループで働いているから、彼女はこの会社についてよく知ることになった。

神崎グループについては、神崎姫華のおかげで彼女は知ることになったのだ。それ以外の大企業の名前に関しては、内海唯花は本当に関心を持ったことがなかった。

彼女はそのような大企業に勤める人とは知り合うことはないと思っていて、興味を持つことすらなかったのだ。もしそんな時間があるなら、ハンドメイドをして売ってお金を稼いだほうがいい。

東グループだと聞いた後、彼女は笑って尋ねた。「お姉ちゃん、東グループって大企業なの?そこに転職した昔の同僚と会ったの?」

佐々木唯月は仕事が見つかって機嫌がとても良かった。妹の前で隠し事をする必要もないので、正直に事の経緯を妹に話した。

内海唯花は姉からそれを聞いて少し腹を立てた。姉は確かに太ってはいるが、その長澤とかいう面接官が姉を軽蔑するとは、少し性格が悪いと思った。東さんに偶然会わなかったら、姉は外に放り出されていたのだから。

「唯花、お姉ちゃんも悪かったの。私もその時かなり衝動的に話しちゃったし、長澤さんを怒らせてしまったのよ。もう終わったことだし、仕事も見つかったし、長澤さんとは今後同僚になるんだから、今日あった嫌な事はもう言わないことにするわ。
ロックされたチャプター
GoodNovel で続きを読む
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

関連チャプター

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第308話

    彼は振り向いたが、内海唯花は彼を見ておらず、料理を盛ったお皿二つを持っているのを見た。そのお皿を見てみると、一つは野菜炒めで、それ以外は全部海鮮料理だった。これは、神崎姫華が彼女に持って来た海鮮じゃないか!彼は大きな歩幅で近づいて行き、内海唯花の手から二つのお皿を受け取って言った。「キッチンに入ったんだし、これは俺が持って行くよ。君が何度も取りに来る必要ないだろう」「ありがとう、結城さん」そのお皿を持って行こうとしていた結城理仁は突然足を止め、振り返って彼女を見た。「どうしたの?」内海唯花は彼にお皿二つを渡した後に、また他の料理が入ったお皿二つを持った。真っ黒な瞳で見つめられて、彼女は顔を下に向け自分の服が汚れているのかと思ったが、別に汚れてはいなかった。「あの、今後『結城さん』って呼ばないでもらえるかな?」結城理仁は少し怒った様子で自分の不満を吐き出した。彼女との付き合いにおいて、彼が何か不満があるのなら直接彼女に言ってしまったほうがいい。曖昧な態度では彼女に気づいてもらおうとしても、申し訳ないが、彼女にはそんな時間もないし、どういうことなのか考えようともしないのだから。彼女は頑なに契約書に書かれてあることを厳守している。「じゃあ、なんて呼べばいいの?」結城理仁は唇を一の字に結び、瞬時には彼女にどう答えればいいのかわからなかった。「さん」付けで呼んでもらっても、まだ距離を感じると思った。呼び捨てで呼んでもらおうか。でも、よくよく考えると彼女は呼んでくれないだろう。それに彼も彼女からそう呼ばれるのは慣れないようだ。「好きに呼んでくれていい」結城理仁はそう言うと、お皿二つ持って出て行った。内海唯花は小声でぶつぶつ言った。「『結城さん』って呼ばないで、『理仁』って親しげに呼んでも、返事してくれるのかしら?」彼は今は結婚を隠しておくと言っていた。今に至るまで彼ら二人が夫婦だと知る者は多くない。内海唯花はもう気にせず、すぐに料理を運んで行った。牧野明凛と佐々木唯月はすでにテーブルや椅子を整え、きれいに拭いていた。夫婦二人が料理を運んで来るのを見て、牧野明凛と佐々木唯月も手伝った。今日はおばあさんがこの場にいなかったから、結城理仁に唯花のためにエビの殻を剥くようにという指示はなかったが

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第309話

    結城理仁もこう言っているので佐々木唯月はそれ以上何も言わず、息子に使い捨て手袋をはめてあげた。食事の後、結城理仁はまた妻を手伝いに食器を片付けてキッチンに入り皿洗いをしようとしていた。佐々木唯月は妹の前で義弟を褒め、妹にも結城理仁に必ずよくするように言っていた。彼女は自分の結婚が失敗したので、妹に結婚に対する悪い印象を植え付けてしまうのを恐れていたのだ。佐々木俊介はゲス男だが、全ての男が彼のようであるわけではないのだから。この世には良い旦那さんもいるのだ。ただ佐々木唯月の運が悪く、そのように良い男性と巡り合えなかっただけだ。内海唯花はしょうがないといった様子で言った。「お姉ちゃん、わかってるから。一日に何百回も彼を褒めなくていいってば。私もキッチンに行ってお皿洗い手伝ってくる」そう言うと、急いでキッチンに入っていった。また姉から結城理仁がいかに素晴らしいか説かれ、理仁によくしてやれと聞かされるのを避けるためだった。姉の言いっぷりでは、まるで彼女がいつも結城理仁をいじめて、悪く扱っているかのようだ。牧野明凛はその横でこっそり笑っていた。結城理仁が食器を洗おうとしたところに足音が聞こえてきて、キッチンの入り口へ目をやってみると、そこには内海唯花がいた。「俺が洗うよ。君は座って休んでて。こんなにたくさんの海鮮料理を作ったんだから、とても疲れているだろう」「あなたも食べにくると思ったから、こんなにたくさん作ったのよ」内海唯花は彼を押しのけた。「あなたこそゆっくり座ってお茶でも飲んでて、私が洗うから。お姉ちゃんったら私があなたを悪く扱って、いじめてるんじゃないかって心配してるんだからね。一日中私の前で『結城さんは良い人だから、よくしてあげなさい』ってぶつぶつ言われるのよ。もう耳にタコができるくらい」結城理仁は食器洗い争奪戦には参加せず、手を洗った後、それに賛同して言った。「お姉さんは自分自身で経験したから、何もかも全部わかっているわけだ。彼女の話は間違っていない」内海唯花「……」「君の義兄さんが不倫している証拠、持って来たよ。車に置いてあるんだけど、今お義姉さんに持って行こうか?」「こんなに早く証拠が集まったの?」結城理仁はうんと一言答え、言った。「俺の友人は情報網がすごいからな。あっという間に集めてくれ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第310話

    結城理仁は椅子に少し座ってから、会社に戻ろうとした。内海唯花が食器を洗い終わりキッチンから出てくると、彼が立ち上がり出ていこうとしていたので、彼に続いて外に出て行った。彼は一言もしゃべらず、車から大きな封筒を取り、振り返って内海唯花に手渡し声を低くして言った。「この中に入ってる」内海唯花は佐々木俊介の不倫の証拠を受け取り、もう一度お礼を言おうとした。その時彼のあの黒く深い瞳と目が合い、内海唯花は周りを見渡した。しかし、通りには人がいたので、やろうとしていたことを諦めた。「車の運転気をつけてね。会社にちゃんと着いたら私に連絡して教えてね」結城理仁は唇をきつく結び、低い声で返事をした。彼は車に乗ると、再び彼女をじいっと深く見つめて、それからエンジンをかけ運転して店を離れた。内海唯花はその場に立ったまま、遠ざかる彼の車を見つめ、彼らの間に少し変化があるのを感じた。彼が自分を見つめる瞳に愛が芽生えているような気がした。もしかしたら、彼女は気持ちをセーブせず、もう一度思い切って一歩踏み出し、愛を求めてもいいのかもしれない。半年の契約はまだ終わっていないのだから、まだまだチャンスはある。そう考えながら、内海唯花は携帯を取り出し結城理仁にLINEを送って彼に伝えた。「さっきキスしたかったけど、人がいたから遠慮しちゃったわ」メッセージを送った後、彼女は結城理仁の返事は待たなかった。少ししてから、内海唯花は大きな封筒を持って店に入っていった。佐々木陽は母親の懐でぐっすり寝ていた。牧野明凛は二匹の猫を抱っこして遊んでいて、内海唯花が入って来るのを見て尋ねた。「旦那さんは仕事に行った?」「うん、仕事の時間になるからね。彼は仕事がすごく忙しいから夜はよく深夜にやっと帰ってくるの」内海唯花も二匹の子猫を触った。結城理仁が彼女にラグドールを二匹プレゼントしてくれた。彼女に対して実際とてもよくしてくれている。犬もとても可愛い。ペットを飼うことになったので、彼女は後でネットショップで餌を買うことにした。「お姉ちゃん、あそこにソファベッドがあるから陽ちゃんをそこで寝かせたらいいよ。ずっと抱っこしてると疲れるでしょ」内海唯花は姉のもとへ行き、甥を抱き上げて大きな封筒を姉に渡して言った。「これ、理仁さんが友達に頼んで集め

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第311話

    佐々木唯月は強く下唇を噛みしめ、泣かないように堪えていた。彼女はもう佐々木俊介に泣かされた。だから、もう二度と彼のために涙を流すことはしたくなかった。彼女がどれだけ泣いても、彼がもう気にしないなら、流した涙で自分の目を腫らすような辛い思いをする必要があるのか?「大丈夫よ」佐々木唯月は証拠をまた封筒の中に戻し、気丈に平気なふりをして言った。「お姉ちゃんの気持ちはだいぶ落ち着いているわ。今彼の裏切りを知ったわけではないのだし」「唯花」佐々木唯月は封筒を妹に渡した。「お姉ちゃんの代わりにこの証拠をしっかり保管しておいてちょうだい。私が家に持って帰って、彼に見つかったら財産を私から奪われないように他所に移してしまうかもしれない。そうなると私が不利になるわ」「わかった」内海唯花は封筒を受け取った。佐々木唯月は冷静に言った。「あなたに言われた通り、まずは何もしらないふりをしておく。仕事が安定したら、離婚を切り出すわ。私がもらう権利のあるものは絶対に奪い取ってみせる。あんな奴の好きにはさせないんだから!」結婚した後、彼女は仕事を辞めてしまったが、彼女だって家庭のために多くのことをやってきたのだ。結婚してから佐々木俊介の稼ぎは夫婦二人の共通の財産である。彼の貯金の半分を奪い取って、発狂させてやる!それから、現在彼らが住んでいるあの家のリフォーム代は彼女が全部出したのだ。佐々木俊介にはそのお金も返してもらわなければならない。「お姉ちゃん、応援してるからね!」内海唯花は姉の手を握りしめた。「お姉ちゃん、私がいるんだから、思いっきりやってちょうだい!」「唯花」佐々木唯月は妹を抱きしめた。彼女が15歳の時に両親が亡くなり、それから姉妹二人で支え合って、一緒に手を取り合い今日までやってきた。だから、彼女は佐々木俊介というあのゲス男には負けたりしない。「プルプルプル……」佐々木唯月の携帯が突然鳴り響いた。妹から離れて、携帯の着信表示を見てみると佐々木俊介からだった。少し躊躇って、彼女は電話に出た。「唯月、今どこにいるんだ?」佐々木俊介は開口一番、彼女に詰問してきた。「一日中家にいないでさ、母さんと姉さんが来たらしいんだ、家に入れないって言ってるぞ」佐々木唯月は冷ややかな声で言った。「お義母さ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第312話

    「妹はあんたに何か貸しでも作ってたかしら?あんたの母親と姉が食べたいんでしょ、なんで妹がお金を出す必要があるのよ?俊介、結婚してから三年余り、私は仕事をしてないからお金を稼いでない。だけど、家庭のためにたくさん犠牲にしてきたのよ。私が裏であなたを支えてなかったら、あんたは安心して仕事ができた?今のあんたがいるのは一体誰のおかげだと思ってるの?お金をくれないってんなら、私だって買いに行かないわ。それから、送金するなら私の労働費もプラスしてもらわないとね。あんたが割り勘にしたいって言ってきたのよ。あれはあんたの母親と姉で私があの人たちに食事を作ってやる義務なんかないわ。私に料理をしてあの人たちに食べさせろっていうなら、お給料をもらわないとね。三年以上夫婦としてやってきたんだから、それを考慮して四千円で手をうってあげるわ」佐々木俊介は電話の中で怒鳴りつけた。「金の浪費と食べることしかできないやつがよく言うぜ。今の自分のデブさを見てみろよ。てめえが家庭のために何を犠牲にしたってんだ?俺には全く見えないんだがな。俺が今仕事で成功しているのは俺自身が努力した結果だ。てめえのおかげなんてこれっぽっちも思っていないからな。なにが給料だよ?俺の母さんはお前の義母だろ?どこの嫁が義母に飯を作るのに給料を要求するってんだ?そんなこと他所で言ってみ?世間様から批判されるぞ」「お金をくれないなら、私は何もしません」佐々木唯月はそう言うと電話を切ってしまった。佐々木俊介は妻に電話を切られてしまって、怒りで携帯を床に叩きつけたい衝動に駆られた。しかし、その携帯を買ってからまだそんなに経っていないのを思い出してその衝動を抑えた。その携帯は成瀬莉奈とお揃いで買ったものだ。一括で同じ携帯を二台買い、一つは自分に、もう片方は成瀬莉奈にあげたのだ。だからその携帯を壊すのは惜しい。「このクソデブ女、陽が幼稚園に上がったら見てろよ!俺と離婚したら、お前みたいなブスを誰がもらってくれるんだ?くたばっちまえ!」佐々木俊介はオフィスで佐々木唯月をしばらく罵り続け、結局は唯月に一万円送金し彼女に海鮮を買いに行かせることにした。しかし、唯月が買い物をした後、レシートを残しておくように言った。夜彼が家に帰ってからそれを確認するためだ。「あいつ、お姉ちゃんに帰ってご飯を作れって?

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第313話

    二回も早く帰るように佐々木唯月に催促しても、失敗した英子は腹を立てて電話を切った後、母親に言った。「お母さん、唯月は妹の店にいて、陽君が寝てるから起きてから帰るって。それでうちらに鍵を取りに来いってさ」佐々木家の母親は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに言った。「陽ちゃんが寝てるなら、唯月が抱っこして連れて帰って来ればいいじゃないの。唯花には車もあるし、車で二人を連れて来てくれればそんなに時間はかからないじゃないか」息子の嫁はわざと自分と娘を家の前で待たせるつもりだと思った。「わざとでしょ。わざと私たち二人をここで待たせる気なんだよ」佐々木英子も弟の嫁はそのつもりなのだと思っていた。「前、お母さんがわざと鍵を忘れて行ったことがあったじゃない。彼女が不在だったら、電話すれば唯月はすぐに帰ってきてドアを開けていたわ。今回みたいに私らを長時間待たせることなんかなかった。お母さん、俊介たち夫婦が大喧嘩してから唯月の態度がガラッと変わったと思うわ」佐々木母もそれに同意した。「確かにね」佐々木英子は怒って言った。「唯月はこの間うちの俊介をあんな姿にさせて、ずっと俊介を迎えに来るのを拒んでいたわ。だから、私たちで俊介を説得して帰らせることになった。私たちは全部陽君のためだったのよ。もし陽君のためじゃなければ、俊介に言ってあんな女追い出してやったのに。家は俊介のものよ。本気でうちらを怒らせたら、俊介にあいつを追い出させましょ!」昔の佐々木唯月は夫の顔を立てるために、義姉である佐々木英子には寛容だった。いつも英子から責められ、けちをつけられても許していたのだ。今佐々木英子は更に唯月のことが気に食わなくなり、弟にすぐにでも唯月を追い出してもらいたかった。離婚しても、彼女の弟みたいに条件が良ければ成瀬莉奈のように若くてきれいなお嬢さんを嫁として迎えることができるのだ。佐々木唯月が俊介と離婚したら、一体誰があんな女と結婚しようと思う?再婚したかったら、70や80過ぎのじいさんしか見つからないだろう。「この話は私の前でだけ話しなさい。俊介には言わないのよ」佐々木母は心の中では唯月に不満を持っていたが、孫のためにもやはり息子と嫁の家庭を壊したくなかったので、娘に忠告しておいた。娘が息子の前でまた嫁の悪口を言うのを止めたかったのだ。「お母さん、わ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第314話

    両親が佐々木英子の子供の世話をし、送り迎えしてくれている。唯月は誰も手伝ってくれる人がおらず自分一人で子供の世話をしているから、ずっと家で専業主婦をするしかなかったのだ。それで稼ぎはなく彼ら一家にこっぴどくいじめられてきた。母と娘はまたかなり待って、佐々木唯月はようやく息子を連れて帰ってきた。母子の後ろには内海唯花も一緒について来ていた。内海唯花の手にはスーパーで買ってきた魚介類の袋が下がっていた。佐々木家の母と娘は唯月が帰って来たのを見ると、すぐに怒鳴ろうとしたが、後ろに内海唯花がついて来ているのを見て、それを呑み込んでしまった。先日の家庭内暴力事件の後、佐々木家の母と娘は内海唯花に話しに行ったことがある。しかし、結果は唯花に言いくるめられて慌てて逃げるように帰ってきた。内海唯花とはあまり関わりたくなかった。「陽ちゃん」佐々木母はすぐにニコニコ笑って彼らのもとに行くと、ベビーカーの中から佐々木陽を抱き上げた。「陽ちゃん、おばあちゃんとっても会いたかったわ」佐々木母は孫を抱きながら両頬にキスの嵐を浴びせた。「おばあたん」陽は何度もキスをされた後、小さな手で祖母にキスされたところを拭きながら、祖母を呼んだ。佐々木英子は陽の顔を軽くつねながら笑って言った。「暫くの間会ってなかったら、陽君のお顔はぷくぷくしてきたわね。触った感じとても気持ちいいわ。うちの子みたいじゃないわね。あの子は痩せてるからなぁ」佐々木陽は手をあげて伯母が彼をつねる手を叩き払った。伯母の彼をつねるその手が痛かったからだ。佐々木唯月が何か言う前に佐々木母は娘に言った。「子供の目の前で太ってるなんて言ったらだめでしょう。陽ちゃんは太ってないわ。これくらいがちょうどいいの」佐々木母は外孫のほうが太っていると思っていた。「陽ちゃんの叔母さんも来たのね」佐々木母は今やっと内海唯花に気づいたふりをして、礼儀正しく唯花に挨拶をした。内海唯花は淡々とうんと一言返事をした。「お姉さんと陽ちゃんを送って来たんです」彼女はあの海鮮の入った袋を佐々木英子に手渡した。「これ、あなたが食べたいっていう魚介類です」佐々木英子は毎日なかなか良い生活を送っていた。両親が世話をしてくれているし、美味しい物が食べたいなら、いつでも食べられるのに、わざわざ弟の家に来

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第1話  

    十月の東京は残暑でまだ汗ばむほど暑く、朝夕だけ秋の気配があり涼しさを感じられた。 内海唯花は朝早く起きると姉家族三人に朝食を作り、戸籍謄本を持ってこっそりと家を出た。 「今日から俺たちは生活費にしろ、家や車のローンにしろ、全部半々で負担することにしよう。出費の全部だからな!お前の妹は俺たちの家に住んでるんだから、彼女にも半分出させろよ。一ヵ月四万なんて雀の涙程度の金じゃ、タダで住んで飲み食いしてるのと同じじゃないか」 これは昨夜姉と義兄が喧嘩している時に、内海唯花が聞こえた義兄の放った言葉だった。 彼女は、姉の家から出ていかなければならなかった。 しかし、姉を安心させるためには結婚するのがただ一つの方法だった。 短期間で結婚しようとしても、男友達すらいない彼女は結城おばあさんの申し出に応えることにした。彼女がなんとなく助けたおばあさんが、なかなか結婚できない自分の孫の結城理仁と結婚してほしいと言ってきたのだった。 二十分後、内海唯花は役所の前で車を降りた。 「内海唯花さん」 車から降りるとすぐ、内海唯花は聞きなれた声が自分を呼ぶのが聞こえた。結城おばあさんだ。 「結城おばあさん」 内海唯花は速足で近づいていき、結城おばあさんのすぐ横に立っている背の高い冷たい雰囲気の男の姿が目に入った。おそらく彼が結婚相手である結城理仁なのだろう。 もっと近づき、内海唯花が結城理仁をよく見てみると、思わず驚いてしまった。 結城おばあさんが言うには孫の結城理仁は、もう三十歳なのに、彼女すら作らないから心配しているらしかった。 だから内海唯花は彼がとても不細工な人なのだと勝手に思い込んでいたのだ。 しかも、聞いたところによると、彼はある大企業の幹部役員で、高給取りらしいのだ。 この時初めて彼に会って、自分が誤解していたことに気づいた。 結城理仁は少し冷たい印象を人に与えたが、とてもハンサムだった。結城おばあさんのそばに立ち、浮かない顔をしていたが、それがかえってクールに見えて、人を近づけない雰囲気を醸し出していた。 目線を少しずらしてみると、近くに駐車してある黒い車はホンダの車で、決して何百万もするような高級車ではなかった。それが内海唯花に結城理仁との距離を近づけされてくれた。 彼女は同級生の友人と一緒に公立星城

最新チャプター

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第314話

    両親が佐々木英子の子供の世話をし、送り迎えしてくれている。唯月は誰も手伝ってくれる人がおらず自分一人で子供の世話をしているから、ずっと家で専業主婦をするしかなかったのだ。それで稼ぎはなく彼ら一家にこっぴどくいじめられてきた。母と娘はまたかなり待って、佐々木唯月はようやく息子を連れて帰ってきた。母子の後ろには内海唯花も一緒について来ていた。内海唯花の手にはスーパーで買ってきた魚介類の袋が下がっていた。佐々木家の母と娘は唯月が帰って来たのを見ると、すぐに怒鳴ろうとしたが、後ろに内海唯花がついて来ているのを見て、それを呑み込んでしまった。先日の家庭内暴力事件の後、佐々木家の母と娘は内海唯花に話しに行ったことがある。しかし、結果は唯花に言いくるめられて慌てて逃げるように帰ってきた。内海唯花とはあまり関わりたくなかった。「陽ちゃん」佐々木母はすぐにニコニコ笑って彼らのもとに行くと、ベビーカーの中から佐々木陽を抱き上げた。「陽ちゃん、おばあちゃんとっても会いたかったわ」佐々木母は孫を抱きながら両頬にキスの嵐を浴びせた。「おばあたん」陽は何度もキスをされた後、小さな手で祖母にキスされたところを拭きながら、祖母を呼んだ。佐々木英子は陽の顔を軽くつねながら笑って言った。「暫くの間会ってなかったら、陽君のお顔はぷくぷくしてきたわね。触った感じとても気持ちいいわ。うちの子みたいじゃないわね。あの子は痩せてるからなぁ」佐々木陽は手をあげて伯母が彼をつねる手を叩き払った。伯母の彼をつねるその手が痛かったからだ。佐々木唯月が何か言う前に佐々木母は娘に言った。「子供の目の前で太ってるなんて言ったらだめでしょう。陽ちゃんは太ってないわ。これくらいがちょうどいいの」佐々木母は外孫のほうが太っていると思っていた。「陽ちゃんの叔母さんも来たのね」佐々木母は今やっと内海唯花に気づいたふりをして、礼儀正しく唯花に挨拶をした。内海唯花は淡々とうんと一言返事をした。「お姉さんと陽ちゃんを送って来たんです」彼女はあの海鮮の入った袋を佐々木英子に手渡した。「これ、あなたが食べたいっていう魚介類です」佐々木英子は毎日なかなか良い生活を送っていた。両親が世話をしてくれているし、美味しい物が食べたいなら、いつでも食べられるのに、わざわざ弟の家に来

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第313話

    二回も早く帰るように佐々木唯月に催促しても、失敗した英子は腹を立てて電話を切った後、母親に言った。「お母さん、唯月は妹の店にいて、陽君が寝てるから起きてから帰るって。それでうちらに鍵を取りに来いってさ」佐々木家の母親は眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに言った。「陽ちゃんが寝てるなら、唯月が抱っこして連れて帰って来ればいいじゃないの。唯花には車もあるし、車で二人を連れて来てくれればそんなに時間はかからないじゃないか」息子の嫁はわざと自分と娘を家の前で待たせるつもりだと思った。「わざとでしょ。わざと私たち二人をここで待たせる気なんだよ」佐々木英子も弟の嫁はそのつもりなのだと思っていた。「前、お母さんがわざと鍵を忘れて行ったことがあったじゃない。彼女が不在だったら、電話すれば唯月はすぐに帰ってきてドアを開けていたわ。今回みたいに私らを長時間待たせることなんかなかった。お母さん、俊介たち夫婦が大喧嘩してから唯月の態度がガラッと変わったと思うわ」佐々木母もそれに同意した。「確かにね」佐々木英子は怒って言った。「唯月はこの間うちの俊介をあんな姿にさせて、ずっと俊介を迎えに来るのを拒んでいたわ。だから、私たちで俊介を説得して帰らせることになった。私たちは全部陽君のためだったのよ。もし陽君のためじゃなければ、俊介に言ってあんな女追い出してやったのに。家は俊介のものよ。本気でうちらを怒らせたら、俊介にあいつを追い出させましょ!」昔の佐々木唯月は夫の顔を立てるために、義姉である佐々木英子には寛容だった。いつも英子から責められ、けちをつけられても許していたのだ。今佐々木英子は更に唯月のことが気に食わなくなり、弟にすぐにでも唯月を追い出してもらいたかった。離婚しても、彼女の弟みたいに条件が良ければ成瀬莉奈のように若くてきれいなお嬢さんを嫁として迎えることができるのだ。佐々木唯月が俊介と離婚したら、一体誰があんな女と結婚しようと思う?再婚したかったら、70や80過ぎのじいさんしか見つからないだろう。「この話は私の前でだけ話しなさい。俊介には言わないのよ」佐々木母は心の中では唯月に不満を持っていたが、孫のためにもやはり息子と嫁の家庭を壊したくなかったので、娘に忠告しておいた。娘が息子の前でまた嫁の悪口を言うのを止めたかったのだ。「お母さん、わ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第312話

    「妹はあんたに何か貸しでも作ってたかしら?あんたの母親と姉が食べたいんでしょ、なんで妹がお金を出す必要があるのよ?俊介、結婚してから三年余り、私は仕事をしてないからお金を稼いでない。だけど、家庭のためにたくさん犠牲にしてきたのよ。私が裏であなたを支えてなかったら、あんたは安心して仕事ができた?今のあんたがいるのは一体誰のおかげだと思ってるの?お金をくれないってんなら、私だって買いに行かないわ。それから、送金するなら私の労働費もプラスしてもらわないとね。あんたが割り勘にしたいって言ってきたのよ。あれはあんたの母親と姉で私があの人たちに食事を作ってやる義務なんかないわ。私に料理をしてあの人たちに食べさせろっていうなら、お給料をもらわないとね。三年以上夫婦としてやってきたんだから、それを考慮して四千円で手をうってあげるわ」佐々木俊介は電話の中で怒鳴りつけた。「金の浪費と食べることしかできないやつがよく言うぜ。今の自分のデブさを見てみろよ。てめえが家庭のために何を犠牲にしたってんだ?俺には全く見えないんだがな。俺が今仕事で成功しているのは俺自身が努力した結果だ。てめえのおかげなんてこれっぽっちも思っていないからな。なにが給料だよ?俺の母さんはお前の義母だろ?どこの嫁が義母に飯を作るのに給料を要求するってんだ?そんなこと他所で言ってみ?世間様から批判されるぞ」「お金をくれないなら、私は何もしません」佐々木唯月はそう言うと電話を切ってしまった。佐々木俊介は妻に電話を切られてしまって、怒りで携帯を床に叩きつけたい衝動に駆られた。しかし、その携帯を買ってからまだそんなに経っていないのを思い出してその衝動を抑えた。その携帯は成瀬莉奈とお揃いで買ったものだ。一括で同じ携帯を二台買い、一つは自分に、もう片方は成瀬莉奈にあげたのだ。だからその携帯を壊すのは惜しい。「このクソデブ女、陽が幼稚園に上がったら見てろよ!俺と離婚したら、お前みたいなブスを誰がもらってくれるんだ?くたばっちまえ!」佐々木俊介はオフィスで佐々木唯月をしばらく罵り続け、結局は唯月に一万円送金し彼女に海鮮を買いに行かせることにした。しかし、唯月が買い物をした後、レシートを残しておくように言った。夜彼が家に帰ってからそれを確認するためだ。「あいつ、お姉ちゃんに帰ってご飯を作れって?

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第311話

    佐々木唯月は強く下唇を噛みしめ、泣かないように堪えていた。彼女はもう佐々木俊介に泣かされた。だから、もう二度と彼のために涙を流すことはしたくなかった。彼女がどれだけ泣いても、彼がもう気にしないなら、流した涙で自分の目を腫らすような辛い思いをする必要があるのか?「大丈夫よ」佐々木唯月は証拠をまた封筒の中に戻し、気丈に平気なふりをして言った。「お姉ちゃんの気持ちはだいぶ落ち着いているわ。今彼の裏切りを知ったわけではないのだし」「唯花」佐々木唯月は封筒を妹に渡した。「お姉ちゃんの代わりにこの証拠をしっかり保管しておいてちょうだい。私が家に持って帰って、彼に見つかったら財産を私から奪われないように他所に移してしまうかもしれない。そうなると私が不利になるわ」「わかった」内海唯花は封筒を受け取った。佐々木唯月は冷静に言った。「あなたに言われた通り、まずは何もしらないふりをしておく。仕事が安定したら、離婚を切り出すわ。私がもらう権利のあるものは絶対に奪い取ってみせる。あんな奴の好きにはさせないんだから!」結婚した後、彼女は仕事を辞めてしまったが、彼女だって家庭のために多くのことをやってきたのだ。結婚してから佐々木俊介の稼ぎは夫婦二人の共通の財産である。彼の貯金の半分を奪い取って、発狂させてやる!それから、現在彼らが住んでいるあの家のリフォーム代は彼女が全部出したのだ。佐々木俊介にはそのお金も返してもらわなければならない。「お姉ちゃん、応援してるからね!」内海唯花は姉の手を握りしめた。「お姉ちゃん、私がいるんだから、思いっきりやってちょうだい!」「唯花」佐々木唯月は妹を抱きしめた。彼女が15歳の時に両親が亡くなり、それから姉妹二人で支え合って、一緒に手を取り合い今日までやってきた。だから、彼女は佐々木俊介というあのゲス男には負けたりしない。「プルプルプル……」佐々木唯月の携帯が突然鳴り響いた。妹から離れて、携帯の着信表示を見てみると佐々木俊介からだった。少し躊躇って、彼女は電話に出た。「唯月、今どこにいるんだ?」佐々木俊介は開口一番、彼女に詰問してきた。「一日中家にいないでさ、母さんと姉さんが来たらしいんだ、家に入れないって言ってるぞ」佐々木唯月は冷ややかな声で言った。「お義母さ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第310話

    結城理仁は椅子に少し座ってから、会社に戻ろうとした。内海唯花が食器を洗い終わりキッチンから出てくると、彼が立ち上がり出ていこうとしていたので、彼に続いて外に出て行った。彼は一言もしゃべらず、車から大きな封筒を取り、振り返って内海唯花に手渡し声を低くして言った。「この中に入ってる」内海唯花は佐々木俊介の不倫の証拠を受け取り、もう一度お礼を言おうとした。その時彼のあの黒く深い瞳と目が合い、内海唯花は周りを見渡した。しかし、通りには人がいたので、やろうとしていたことを諦めた。「車の運転気をつけてね。会社にちゃんと着いたら私に連絡して教えてね」結城理仁は唇をきつく結び、低い声で返事をした。彼は車に乗ると、再び彼女をじいっと深く見つめて、それからエンジンをかけ運転して店を離れた。内海唯花はその場に立ったまま、遠ざかる彼の車を見つめ、彼らの間に少し変化があるのを感じた。彼が自分を見つめる瞳に愛が芽生えているような気がした。もしかしたら、彼女は気持ちをセーブせず、もう一度思い切って一歩踏み出し、愛を求めてもいいのかもしれない。半年の契約はまだ終わっていないのだから、まだまだチャンスはある。そう考えながら、内海唯花は携帯を取り出し結城理仁にLINEを送って彼に伝えた。「さっきキスしたかったけど、人がいたから遠慮しちゃったわ」メッセージを送った後、彼女は結城理仁の返事は待たなかった。少ししてから、内海唯花は大きな封筒を持って店に入っていった。佐々木陽は母親の懐でぐっすり寝ていた。牧野明凛は二匹の猫を抱っこして遊んでいて、内海唯花が入って来るのを見て尋ねた。「旦那さんは仕事に行った?」「うん、仕事の時間になるからね。彼は仕事がすごく忙しいから夜はよく深夜にやっと帰ってくるの」内海唯花も二匹の子猫を触った。結城理仁が彼女にラグドールを二匹プレゼントしてくれた。彼女に対して実際とてもよくしてくれている。犬もとても可愛い。ペットを飼うことになったので、彼女は後でネットショップで餌を買うことにした。「お姉ちゃん、あそこにソファベッドがあるから陽ちゃんをそこで寝かせたらいいよ。ずっと抱っこしてると疲れるでしょ」内海唯花は姉のもとへ行き、甥を抱き上げて大きな封筒を姉に渡して言った。「これ、理仁さんが友達に頼んで集め

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第309話

    結城理仁もこう言っているので佐々木唯月はそれ以上何も言わず、息子に使い捨て手袋をはめてあげた。食事の後、結城理仁はまた妻を手伝いに食器を片付けてキッチンに入り皿洗いをしようとしていた。佐々木唯月は妹の前で義弟を褒め、妹にも結城理仁に必ずよくするように言っていた。彼女は自分の結婚が失敗したので、妹に結婚に対する悪い印象を植え付けてしまうのを恐れていたのだ。佐々木俊介はゲス男だが、全ての男が彼のようであるわけではないのだから。この世には良い旦那さんもいるのだ。ただ佐々木唯月の運が悪く、そのように良い男性と巡り合えなかっただけだ。内海唯花はしょうがないといった様子で言った。「お姉ちゃん、わかってるから。一日に何百回も彼を褒めなくていいってば。私もキッチンに行ってお皿洗い手伝ってくる」そう言うと、急いでキッチンに入っていった。また姉から結城理仁がいかに素晴らしいか説かれ、理仁によくしてやれと聞かされるのを避けるためだった。姉の言いっぷりでは、まるで彼女がいつも結城理仁をいじめて、悪く扱っているかのようだ。牧野明凛はその横でこっそり笑っていた。結城理仁が食器を洗おうとしたところに足音が聞こえてきて、キッチンの入り口へ目をやってみると、そこには内海唯花がいた。「俺が洗うよ。君は座って休んでて。こんなにたくさんの海鮮料理を作ったんだから、とても疲れているだろう」「あなたも食べにくると思ったから、こんなにたくさん作ったのよ」内海唯花は彼を押しのけた。「あなたこそゆっくり座ってお茶でも飲んでて、私が洗うから。お姉ちゃんったら私があなたを悪く扱って、いじめてるんじゃないかって心配してるんだからね。一日中私の前で『結城さんは良い人だから、よくしてあげなさい』ってぶつぶつ言われるのよ。もう耳にタコができるくらい」結城理仁は食器洗い争奪戦には参加せず、手を洗った後、それに賛同して言った。「お姉さんは自分自身で経験したから、何もかも全部わかっているわけだ。彼女の話は間違っていない」内海唯花「……」「君の義兄さんが不倫している証拠、持って来たよ。車に置いてあるんだけど、今お義姉さんに持って行こうか?」「こんなに早く証拠が集まったの?」結城理仁はうんと一言答え、言った。「俺の友人は情報網がすごいからな。あっという間に集めてくれ

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第308話

    彼は振り向いたが、内海唯花は彼を見ておらず、料理を盛ったお皿二つを持っているのを見た。そのお皿を見てみると、一つは野菜炒めで、それ以外は全部海鮮料理だった。これは、神崎姫華が彼女に持って来た海鮮じゃないか!彼は大きな歩幅で近づいて行き、内海唯花の手から二つのお皿を受け取って言った。「キッチンに入ったんだし、これは俺が持って行くよ。君が何度も取りに来る必要ないだろう」「ありがとう、結城さん」そのお皿を持って行こうとしていた結城理仁は突然足を止め、振り返って彼女を見た。「どうしたの?」内海唯花は彼にお皿二つを渡した後に、また他の料理が入ったお皿二つを持った。真っ黒な瞳で見つめられて、彼女は顔を下に向け自分の服が汚れているのかと思ったが、別に汚れてはいなかった。「あの、今後『結城さん』って呼ばないでもらえるかな?」結城理仁は少し怒った様子で自分の不満を吐き出した。彼女との付き合いにおいて、彼が何か不満があるのなら直接彼女に言ってしまったほうがいい。曖昧な態度では彼女に気づいてもらおうとしても、申し訳ないが、彼女にはそんな時間もないし、どういうことなのか考えようともしないのだから。彼女は頑なに契約書に書かれてあることを厳守している。「じゃあ、なんて呼べばいいの?」結城理仁は唇を一の字に結び、瞬時には彼女にどう答えればいいのかわからなかった。「さん」付けで呼んでもらっても、まだ距離を感じると思った。呼び捨てで呼んでもらおうか。でも、よくよく考えると彼女は呼んでくれないだろう。それに彼も彼女からそう呼ばれるのは慣れないようだ。「好きに呼んでくれていい」結城理仁はそう言うと、お皿二つ持って出て行った。内海唯花は小声でぶつぶつ言った。「『結城さん』って呼ばないで、『理仁』って親しげに呼んでも、返事してくれるのかしら?」彼は今は結婚を隠しておくと言っていた。今に至るまで彼ら二人が夫婦だと知る者は多くない。内海唯花はもう気にせず、すぐに料理を運んで行った。牧野明凛と佐々木唯月はすでにテーブルや椅子を整え、きれいに拭いていた。夫婦二人が料理を運んで来るのを見て、牧野明凛と佐々木唯月も手伝った。今日はおばあさんがこの場にいなかったから、結城理仁に唯花のためにエビの殻を剥くようにという指示はなかったが

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第307話

    「結城さん、あなたも来ていたのね」妹の旦那もいるのを見て、佐々木唯月は彼に笑顔を見せた。そして、息子を抱き上げてその可愛い顔に何度もキスをした。キスされた陽は嬉しそうにキャッキャッと笑った。「義姉さん、こんにちは」結城理仁は義姉に挨拶をした。「あら、このワンちゃんと猫ちゃんどうしたの?可愛いわね!」佐々木唯月は息子にキスをした後、店に増えた新しい仲間を見つけた。「結城さんが飼っていいって私にプレゼントしてくれたの。お姉ちゃん、仕事が見つかったって?」姉が入って来る時に見せたあんなに嬉しそうな様子を内海唯花は久しぶりに見た。佐々木唯月は先に義弟が買って来たペットたちが可愛いと褒めて、妹に返事をした。「見つかったの。本当に不思議なんだけど、知り合いに会ったのよ。唯花、私がどこで働くと思う?東グループよ」内海唯花は普段からあまり大企業に関心がなかった。この町にある有名な結城グループは親友がよく結城家の御曹司の話をしていたので彼女は知っていた。結城理仁とスピード結婚した後は、理仁が結城グループで働いているから、彼女はこの会社についてよく知ることになった。神崎グループについては、神崎姫華のおかげで彼女は知ることになったのだ。それ以外の大企業の名前に関しては、内海唯花は本当に関心を持ったことがなかった。彼女はそのような大企業に勤める人とは知り合うことはないと思っていて、興味を持つことすらなかったのだ。もしそんな時間があるなら、ハンドメイドをして売ってお金を稼いだほうがいい。東グループだと聞いた後、彼女は笑って尋ねた。「お姉ちゃん、東グループって大企業なの?そこに転職した昔の同僚と会ったの?」佐々木唯月は仕事が見つかって機嫌がとても良かった。妹の前で隠し事をする必要もないので、正直に事の経緯を妹に話した。内海唯花は姉からそれを聞いて少し腹を立てた。姉は確かに太ってはいるが、その長澤とかいう面接官が姉を軽蔑するとは、少し性格が悪いと思った。東さんに偶然会わなかったら、姉は外に放り出されていたのだから。「唯花、お姉ちゃんも悪かったの。私もその時かなり衝動的に話しちゃったし、長澤さんを怒らせてしまったのよ。もう終わったことだし、仕事も見つかったし、長澤さんとは今後同僚になるんだから、今日あった嫌な事はもう言わないことにするわ。

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第306話

    彼女のそのセリフを聞いて、結城理仁は口を引き攣らせた。しかし、言い返すことはしなかった。なぜなら、あれは彼が彼女に部屋に入るなと言ったからだ。それと同じように、彼女の部屋にも彼は入ってはいけない。結城理仁はまた自分が作成したあの契約書は自分の首を絞めることになったと思った。彼はまさか自分が先にその契約を破りたいと思うことになるとは夢にも思っていなかった。後悔してもいいだろうか?彼女の分の契約書はどこにあるのだろう?彼が彼女の不在時にこっそりとあの契約書を取り戻して跡形もなく消し去ってもいいだろうか?このような考えが結城理仁の頭の中によぎったが、彼はそれをすぐに抑え込んだ。結城家の当主たる者、そのような恥知らずな事はできるはずもない。「可愛い犬ね」牧野明凛は犬のフサフサな毛を撫でて、可愛いと褒めた。結城理仁の目利きは良い。選んだ犬と猫はとても可愛かった。佐々木陽は言うまでもなく、結城理仁に抱っこされていた彼は下に降りると暴れ出した。犬と遊びたかったのだ。内海唯花は携帯を取り出すと、犬と猫の写真を撮った。しかし、すぐにはインスタにアップしなかった。結城理仁はちょっと前まで彼女のインスタもフォローしていたのだが、今は……彼はフォローを外していたのだ。「内海さん、さっき撮った写真を俺に送ってくれないかな」結城理仁は彼女の機嫌が良い隙を見計らって、彼女のLINEを取り戻そうとしたのだ。内海唯花はしれっと「あなた、私のLINE友だちを削除したでしょ。どうやって写真を送るのよ。自分で好きなだけ写真を撮ったらいいわ」と言った。結城理仁は黙ってしまった。少しして、彼は内海唯花の傍に近寄っていくと、こっそりと彼女の服を引っ張った。内海唯花が彼のほうへ目線を向けた時、彼の整った顔が少し赤くなっていた。「内海さん、俺が間違ってた。俺達、もう一回友だち登録しないか?」内海唯花は目をぱちぱちさせた。彼の顔はどんどん赤くなっていった。彼のようにプライドが高い人がこのように低い姿勢を見せて、わざわざ犬と猫を買ってきて飼ってもいいと言ってくれたので、唯花は寛大にLINEのQRコードを開き友だち登録をした。「今後、また私を削除したら、永遠にブロックして二度と友だち登録してあげないんだからね」結城理仁は彼女と友だ

コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status