お読みくださり、ありがとうございます。 《名前について》 越乃 佐加江(こしの さかえ) 青藍(せいらん) 天狐(てんこ) 鬼治(きじ) また明日、お会いしましょう。
「ただ、佐加江。これは病気ではないから、気にやむ事ではないよ」「でも子供が産めるって、僕は男だし。第一、そんな話、聞いたことない」「表にはでないけど、実は希にあることなんだよ」 突きつけられた現実に、佐加江は混乱していた。が、越乃は淡々と説明を続ける。 その体質がオメガと呼ばれること、子供は産めるが男性としては生殖機能がかなり低いことなど、丁寧な説明で理解はできたが到底、受け入れることができなかった。「佐加江は、特別な子なんだよ」 「特別?」「神様に選ばれた子。素晴らしいじゃないか」 どこが、と言いかけたが佐加江はグッと飲み込んだ。(大好きなおじさんに、嫌われたくない……) 赤の他人の佐加江を男手ひとつで、ここまでなに不自由なく育ててくれた越乃に感謝こそすれ、反抗的な態度をとるなど考えられなかった。「……おじさんは、僕がそんな体質で気持ち悪くない?これからも側にいてくれる?」「越乃先生、オメガの子がいるって?」 カンファレンスルームの扉が開き、越乃より年上の男性がノックもなく入ってきた。「教授、今日は学会だったのでは」 「ああ。日程を早めて帰ってきたんだ」 先ほどまで落ち着いていた越乃が、明らかに動揺していた。愁いを含んだような越乃の表情に、何となくではあるがオメガであることは人には言ってはいけないことなのだ、と佐加江は感じた。「少し診察させてもらってもいいかな、佐加江君」 藤堂と名乗った男性ーー。 たまに、越乃から話には聞いていた。同郷で目をかけてもらっている、といつか話していた。何より、この藤堂と越乃は、佐加江の今は亡き両親の知人だったらしい。「おじさん……」 越乃は何か言おうとした口を噤み、静かに立ち上がった。「佐加江、発情抑制薬の在庫が薬剤部にあるか問い合わせしてくる」 「発情抑制……って。おじさん、待って
「越乃先生の許可は取ってある」 そんな風には見えなかった。それともあらかじめ、そんな段取りになっていたのかもしれないが、それならば越乃はあんな顔をしなかっただろう。 佐加江は、大勢に囲まれうつむく事しかできなかった。羞恥で耳まで真っ赤になり、心臓は壊れたようにドクドクと鳴っている。そんな佐加江の事など気に留める様子もなく、学生が用意したキャスター付きの椅子に座った藤堂はラテックス製の手袋をはめ、未発達な陰茎、陰嚢を触りながら「やはり小さいね」と言い舐めるように見ていた。「この子は越乃 佐加江君、十四歳」「越乃先生のお子さんですか?」「血のつながりはない。亡くなった知り合いの子を越乃先生が育てているんだ」 物心ついたころから越乃と一緒にいる佐加江に、両親の記憶はない。自宅の火災で亡くなったと聞いているが、写真すら燃えてしまったらしく佐加江は両親の顔も知らない。だから「おじさん」とは呼んでいるものの、越乃のことは本当の父親だと思っている。ただこの場にいる学生にそれを言う必要があるのか、佐加江は疑問だった。「佐加江君は、オメガだ」「オメガって……、あのオメガのことですか?」「そう。第二の性のオメガだ。そろそろ発情が起こってもおかしくない年頃だ。そこのCT画像を見ると、前立腺のところに黒くなっている部分があるだろう。それが前立腺小室。男性器とは違って、しっかりと発達している」「前立腺小室?」「男の子宮だ。高齢者の中にはまだいるが若年の症例は、もう見ることはないだろう。皆、よく勉強させて頂きなさい。誰か、キシロカインゼリーをもってきてくれ」 どよめき立つ学生のうち一人が、弾かれたようにカンファレンスルームを出て行った。残った学生は手袋をするように指示されている。「や……、やめてください」 テーブルの上へ乗せられた佐加江は膝を曲げ、横を向かされた。安全への配慮に気付いた学生が、佐加江の手足を軽く押さえつける。教授の手前、気を利かせたのだろう。が、それによって
世界は第二の性を忘れた。 オメガも ベータも アルファも みんな平等に みんな普通に 産まれながらにして優劣があってはいけないと新薬の開発が進み、国主導で老若男女問わず全国一斉に行われた遺伝子操作。 当初、国民には死をもたらす重篤な伝染病のワクチン接種だと知らされた。 先人が抗う事なく受け入れてきた遺伝を、無理やり捩じ曲げるような試み。 国を挙げての人体実験。 第一世代から産まれた子供は、粒を揃えたように全てがベータになり、知能も運動能力も皆、同じ程度。 ずば抜ける者もいなければ、落ちこぼれる者もいない。 そんな結果を受け、男女関係なく産まれてすぐこのワクチン接種は義務化され、新薬がさらに改良された第二世代は、最良の結果をもたらした。 人類が背負った業に、勝ったとも言われた研究。 神に勝ったとも揶揄された。 そして、 世界は全てが平らになった。♢♢♢「また、来よる」「天狐様は、お行きください」「クク……。あのわらべは、甲であるな。鬼殿が可愛がるのがようわかるわ」「私はそういうわけでは」「あの芳しい香りが、我は堪らなく好きでの」 佐加江は、人がせわしなく出入りしている蔵を横目に、茅葺屋根の古い屋敷のある庭を出た。 田んぼのあぜ道を通り、黄金色した穂先を垂らした稲を指先でシャラシャラと撫でながら、イナゴが跳ぶと恐れおののき、真っ赤な鳥居が幾重にも建つ鬼治稲荷へ走る。 六歳にしては身体が小さい佐加江は途中、曼珠沙華を折り、片手に三本づつ花火のような紅い花弁の花を握りしめ、鳥居をくぐった。向かったのは、狐が祀られている社を通り過ぎ、その裏手にひっそりと佇む傷だらけの寂れた小さな祠。「鬼様、今日もお花とってきました」 昨日、供えた曼珠沙華が枯れている。背後に深い洞窟を背負った祠の扉が細く開いていることに気づいた佐加江は辺りを見回した。「鬼様!」 社裏の縁に腰掛けながら、天狐と茶をのんびり飲んでいた青藍に向かって、佐加江は蹴られた毬のごとく両手を広げて走ってくる。「なぜでしょうか。あの童には私の姿が見えてしまうのです。天狐様の結界が強く張られている、この境内であっても」「見えているのは、霊力の弱い鬼殿だけだ。我は見えておらん」 フワフワの尻尾で青藍の背中をひと撫でした天狐は、姿を消した。
青藍の霊力が弱いのは耳とうのせいだ。悪さをしないよう、話をよく聞くよう耳朶に大きな穴が空けられ、太い輪っかが閻魔の手によって産まれた時から付けられている。「こんにちは! 鬼様」 文字通り一直線に走って来た佐加江は階段でつまずき、顔から転びそうになったところを青藍の腕に抱きとめられた。「ごきげんよう」「鬼様が、悪いことしか覚えていられないって言うから、お花盗ってきたの。ほら六本も。僕、悪い子でしょう? だから、僕のこと覚えていてくださいね」「おや、本当だ。お前はとてもとても悪い子ですね。忘れぬよう心に刻まねば」 『僕』と言わなければ、佐加江は色白で口が達者な女児のようだ。「おでこのツノも、そのトゲトゲの歯も、ぜーんぶ、大嫌いです」「嫌い、ですか」 佐加江は、特に彼の髪が好きだ。さめざめと輝く真冬の月のような色をしていて、いつだか寒かった日には首に巻きつけて遊んだ。「僕、大きくなったら鬼様と結婚するんです。二十歳を過ぎたら絶対に」「そんな事を言った覚えはありませんが」 佐加江の頬はぷーっと膨らんだ。父親代わりの越乃の故郷であるこの鬼治へ来るたび、佐加江は青藍に『結婚してください』と言っている。が、一向に頷いてくれない。昨日もその前も、しいて言えば、去年も佐加江は青藍にプロポーズしている。「鬼様」 膝の上へ乗ってきた佐加江が手を伸ばし、決して鋭くはない一角を摩る。最初は指先で、そのうち小さな手のひらで握ってゆっくりと。すると彼はいつも目を細め、表情を和らげる。今日もそうだ。「お前は怖くないのですか、私が」 青藍が小さい頃、人間の世界へ出て行っては村の子供たちによく石を投げられたものだ。『わぁ!化け物だ!!』 もう何百年と前の話だが、その頃はまだ、この村にも子供がたくさんいた。「怖い怖い! 鬼様なんか大嫌い」 突然、顔を真っ赤にして大きな声を出した佐加江に青藍は目を丸くした。「急にどうしたと言うのですか」「こうすれば、鬼様は僕をいつも覚えていてくれるはず」 言いたくのない事を口にした佐加江は、不貞腐れていた。「青藍」「セイラン?」「私の名です」 佐加江の顔は青空のようにぱあっと晴れ渡り、手のひらに書かれた良くわからない漢字に何度も頷いていた。「あ! 雨」 頬に触れた小さな雨粒に、佐加江は空を見上げた。晴れているの
「さかえーッ!」「越乃のおじさんだ」 遠くから越乃の声が聞こえる。ヒタヒタと近づいてくる靴音に、佐加江は青藍の膝からピョンと飛び降りて振り返った。「ここであった事は」「秘密でしょ。僕、その約束は絶対まもる! 鬼様のお嫁さんになりたいもの」 白いシャツに襟元の蝶々結びの細いリボン、それと同色の黒い膝までの半ズボン姿。小さなローファーを履いているのは、帰省のためにおめかししてきたのだろう。佐加江はどこからどう見ても男児だ。しかし、唇の前でひとさし指を立てて笑った顔が愛くるしい。「佐加江、こんな所にいたのか。探し……」 白衣を着た越乃が、おそらく見えていないであろう青藍には目もくれず、血相を変えて走ってきた。「ごめんなさいッ」 手を叩かれ、佐加江が手にしていた曼珠沙華が地面へとパッと散った。さしていたコウモリ傘を境内へ投げ出し、越乃はスラックスのポケットから取り出したハンカチで佐加江の手を拭った。「曼珠沙華には、毒があるんだ。ごめんな、痛かったろ。おじさん、慌てちゃって」 「平気……。赤ちゃん、産まれたの?」「佐加江、何度も教えただろ。佐加江は赤様と呼びなさいって」「赤様……」「少し時間がかかりそうだから、日暮れ前にご飯にしようと思ってね。佐加江がどこにもいないから、心配したんだぞ」 越乃と手を繋ぎ、歩き出した佐加江はコウモリ傘の中へ入ったものの肩が濡れていた。 地面に落ちた曼珠沙華を拾いあげた青藍が、後ろ手に小さく手を振る背中をいつまでも見つめている。「ーー鬼殿のそんな切なげな顔、初めて見たわ。千年の付き合いとて、我は鬼殿の名を知らんかったぞ」 「この雨は、天狐様の仕業ですね」 「人が来た事を知らせたのだ」 大きな尻尾を揺らし笑っている天狐は、普段は村人に化けたりしている人たらし。男女関係なくあの世の屋敷へ連れ込んで、いかがわしいことばかりを繰り返している。今は桐生と言う少年が、それはそれは気に入っているようだ。『おら! 天狐どこ行った。ここから出せよ』 つい先ほどまで、静かだった境内に桐生の声が地中深くから聞こえてくる。「目を覚ましたようだな。昨夜は、朝方までまぐわっておったのよ」 わずかに鼻先をくすぐる匂いに、青藍は眉根を寄せた。
「天狐様……、この匂いは」「結界をいま少し強くせねば、駄目なようだ。こんなところまで、芳しい匂いがしておる。どうだ、鬼殿。この匂い。我々、丙にはたまらんだろ」 天狐は牙をむき出しにし、ペロリと真っ赤な唇を舐めた。「あの男、偶然にも甲であってな。我に落ちるまで、まだうなじを噛んでおらんのだ。発情がそろそろかと思うてな、放ったらかしにしておる」 四肢をついて座る天狐のまたぐらでは、匂いに誘われるように陰茎がニョキニョキと出たり入ったりしていた。「今夜は、あの山々に怪火が灯るかもしれぬ」「それは……」「お狐様へ、桐生が嫁入りするのだ。ひれ伏すのは、我の方だがの」 自身の事を「お狐様」と呼び、ブルッと身震いをした天狐は全身の毛を舐め、毛づくろいを始める。 人間社会ではオメガ、ベータ、アルファと呼ばれる第二の性も、あやかしの世界では、甲乙丙。子を宿せるものが甲と呼ばれ一番良いものとされ、身分が高いあやかしほど丙なのだ。 ましてやあやかしの丙を産み落とせるのは、甲の男。あるいは、その逆も然りーー。肉体的に同一性のまぐわいでしか、丙が産まれないのだ。しかし、甲の出生については、あやかしですら分からない。「この匂いには、勝てぬ」『天狐、早く来てくれよ。俺……、もう我慢できねぇよ』「ふふ。あの童も発情を迎えるのが楽しみだの、鬼殿」「そう言うつもりは、私には毛頭ございませぬ」「仮紋まで刻んでおいて、いまさら。一週間ほど屋敷にこもるゆえ、青臭い鬼殿は心配なさらぬよう」 天狐は実に愉快そうに笑い、社へ飛び込んで行った。 その夜、鬼治村を囲む山嶺に怪火が無数に灯った。 村人は赤子が産まれた事への神の怒りだと早々に雨戸をしめ、誰一人として外へ出ようとしなかった。が、深夜になり、鳥居の前へ横付けした車から麻袋を担いだ男が一人ーー。
「はぁ……、はぁ……」 男は額に脂汗をかき、息を荒げながら境内へと入ってきた。天狐の社を通り過ぎ、祠の奥にある洞窟へと入って行く。麻袋から見えた生気なくダラんと垂れた脚は骨と皮だけで、内腿へと流れ出た血がどす黒く変色していた。 その背後をついていく死神が社の裏手に腰をおろした青藍に気付き、黄ばんだ歯をむき出しにしてニタリと笑う。 青藍は、屋敷の回廊へ意識を飛ばす。 今さっき灯ったばかりの蝋燭の炎が赤々と燃え盛り、その近くにあったまだ半分以上残った蝋燭の火は、今にも消えようとしている。 あの袋の中の者は、まだ息がある。 佐加江が落として行った曼珠沙華を握りしめたまま、青藍は夜が明ける頃まで、ザクッ、ザクッと穴を掘る音を聞いていた。 しばらくすると、回廊の炎がふっと消えた。 魂が天上へ向かうように、細く長い煙が立ち登る。それが、この者が今生で何も悪いことをしてこなかったと言う証だ。 手を泥だらけにした男が、祠に刃を向ける。それは、この鬼治に|古《いにしえ》より伝わる儀式だった。「ーー鬼様、魂を刈り取ったでごせぇやす」 青藍の腕にも、祠と同じように傷がつき、鮮血がぽたり、ぽたりと落ちた白装束は赤く染まっていく。「この村の者は、いつまでこれを繰り返すのでしょうか」 やけに腰の低い死神は、いつもながらにやけている。「時代が変わったとはいえ、この村の者の甲への扱いは非道うごぜぇやす。まるで物か道具にしか思ってないようで」「ですから、私は佐加江に仮紋を刻んだのです」 鬼の機嫌取りを得意とする死神は、青藍の独り言に何度も大きく頷いていた。
世界は第二の性を忘れた。 オメガも ベータも アルファも みんな平等に みんな普通に。 産まれながらにして優劣があってはいけないと新薬の開発が進み、国主導で老若男女問わず全国一斉に行われた遺伝子操作。 当初、国民には死をもたらす重篤な伝染病のワクチン接種だと知らされた。 先人が抗う事なく受け入れてきた遺伝を、無理やり捩じ曲げるような試み。 国を挙げての人体実験。 第一世代から産まれた子供は、粒を揃えたように全てがベータになり、知能も運動能力も皆、同じ程度。ずば抜ける者もいなければ、落ちこぼれる者もいない。そんな結果を受け、男女関係なく産まれてすぐこのワクチン接種は義務化され、新薬がさらに改良された第二世代は、最良の結果をもたらした。 人類が背負った業に、勝ったとも言われた研究。 神に勝ったとも揶揄された。 そして、 世界は全てが平らになった。……と、思われていた。「国民主権だの、男女同権だのと皆、平等を謳っていたんだ。これで満足だろう」「しかし」「ならば特区を作ったらいい」「特区、ですか」「特別にワクチン接種を免除する地区を作る、これでどうかな」「そんな事、国民が納得するはずありません」「政治に国民がいたことがあったか」 「民主主義であれば、国民の理解を求めるのは当然のことかと」「君は、まだこのワクチン接種に反対なのか。民意などどうでもいい、理解も求める必要はない。敗戦国である我々は、受け入れなくてはならないんだ。第二の性の研究を続ける君への私のせめてもの譲歩案だ。私と君の故郷である鬼治を特区とする。君は第二の性の研究を続けられる。但し、これは極秘事項だ。すぐに密書を鬼治へ届けてくれ」「ですが、総理」 テーブルを手のひらで打つ激しい音が公邸の一室に響く。カランと煙草の吸殻が山のようにあった灰皿が床へ落ち、灰が宙を舞った。 密書を手にした彼は肩を落とし、秘書の背中を見ながら玄関へ向う。「どうぞよろしく、との事です」 あばら家も多く立ち並び、小学校教員の初任給が二千円と言われた時代。玄関に揃えられた彼の靴には、当時、最高額紙幣だった千円札が目一杯ねじ込まれていた。「……これは、何の真似です」「総理からです。我々の鬼治をどうぞよろしく、との事です」 深く頭を下げた秘書が、微笑んだ。 その晩、
「越乃先生の許可は取ってある」 そんな風には見えなかった。それともあらかじめ、そんな段取りになっていたのかもしれないが、それならば越乃はあんな顔をしなかっただろう。 佐加江は、大勢に囲まれうつむく事しかできなかった。羞恥で耳まで真っ赤になり、心臓は壊れたようにドクドクと鳴っている。そんな佐加江の事など気に留める様子もなく、学生が用意したキャスター付きの椅子に座った藤堂はラテックス製の手袋をはめ、未発達な陰茎、陰嚢を触りながら「やはり小さいね」と言い舐めるように見ていた。「この子は越乃 佐加江君、十四歳」「越乃先生のお子さんですか?」「血のつながりはない。亡くなった知り合いの子を越乃先生が育てているんだ」 物心ついたころから越乃と一緒にいる佐加江に、両親の記憶はない。自宅の火災で亡くなったと聞いているが、写真すら燃えてしまったらしく佐加江は両親の顔も知らない。だから「おじさん」とは呼んでいるものの、越乃のことは本当の父親だと思っている。ただこの場にいる学生にそれを言う必要があるのか、佐加江は疑問だった。「佐加江君は、オメガだ」「オメガって……、あのオメガのことですか?」「そう。第二の性のオメガだ。そろそろ発情が起こってもおかしくない年頃だ。そこのCT画像を見ると、前立腺のところに黒くなっている部分があるだろう。それが前立腺小室。男性器とは違って、しっかりと発達している」「前立腺小室?」「男の子宮だ。高齢者の中にはまだいるが若年の症例は、もう見ることはないだろう。皆、よく勉強させて頂きなさい。誰か、キシロカインゼリーをもってきてくれ」 どよめき立つ学生のうち一人が、弾かれたようにカンファレンスルームを出て行った。残った学生は手袋をするように指示されている。「や……、やめてください」 テーブルの上へ乗せられた佐加江は膝を曲げ、横を向かされた。安全への配慮に気付いた学生が、佐加江の手足を軽く押さえつける。教授の手前、気を利かせたのだろう。が、それによって
「ただ、佐加江。これは病気ではないから、気にやむ事ではないよ」「でも子供が産めるって、僕は男だし。第一、そんな話、聞いたことない」「表にはでないけど、実は希にあることなんだよ」 突きつけられた現実に、佐加江は混乱していた。が、越乃は淡々と説明を続ける。 その体質がオメガと呼ばれること、子供は産めるが男性としては生殖機能がかなり低いことなど、丁寧な説明で理解はできたが到底、受け入れることができなかった。「佐加江は、特別な子なんだよ」 「特別?」「神様に選ばれた子。素晴らしいじゃないか」 どこが、と言いかけたが佐加江はグッと飲み込んだ。(大好きなおじさんに、嫌われたくない……) 赤の他人の佐加江を男手ひとつで、ここまでなに不自由なく育ててくれた越乃に感謝こそすれ、反抗的な態度をとるなど考えられなかった。「……おじさんは、僕がそんな体質で気持ち悪くない?これからも側にいてくれる?」「越乃先生、オメガの子がいるって?」 カンファレンスルームの扉が開き、越乃より年上の男性がノックもなく入ってきた。「教授、今日は学会だったのでは」 「ああ。日程を早めて帰ってきたんだ」 先ほどまで落ち着いていた越乃が、明らかに動揺していた。愁いを含んだような越乃の表情に、何となくではあるがオメガであることは人には言ってはいけないことなのだ、と佐加江は感じた。「少し診察させてもらってもいいかな、佐加江君」 藤堂と名乗った男性ーー。 たまに、越乃から話には聞いていた。同郷で目をかけてもらっている、といつか話していた。何より、この藤堂と越乃は、佐加江の今は亡き両親の知人だったらしい。「おじさん……」 越乃は何か言おうとした口を噤み、静かに立ち上がった。「佐加江、発情抑制薬の在庫が薬剤部にあるか問い合わせしてくる」 「発情抑制……って。おじさん、待って
♢♢♢ ひとまわり大きな学生服に身を包んだ佐加江は、大学病院の受付で緊張していた。検査の結果が出ているから、と学校帰りに病院へ来るよう越乃に今朝、言われたのだ。 「すいません。産婦人科の越乃先生に用があって来ました」 ここは、越乃の職場。東京の第三次医療を支える現場とあって、救急車がひっきりなしにやってくる様子を目の当たりにした。そんな場所に中学生がひとりとは、なんとも不釣り合いで健康な佐加江自身、最前線で働く越乃が自分のために時間を割いてくれることを申し訳なく思った。 越乃の専門は産婦人科。 親代わりに佐加江を育ててくれている越乃の仕事を誇りに思っているが、知れば知るほど『産婦人科』と言葉にする事に気恥ずかしさを覚える年頃でもある。 「息子さんかしら?」 「はい」 「先生から伺ってますよ。先ほど、オペが終わったそうなので病棟にきて欲しいとの事です。そこのエレベーターから八階へ上がってください。東病棟です」 「ありがとうございます」 言われるまま八階へ向かった。産まれたばかりの赤ちゃんが並ぶ新生児室を通り過ぎ、分娩室の前では頭を抱える若い父親の姿があった。それを横目に案内されたのは、カンファレンスルーム。 「佐加江、わざわざ悪かったな」 「おじさん」 曲線を描くテーブルがある殺風景な小さな部屋で待っていると、ほどなくして青い術衣に白衣を着た越乃がやってきて、|忙《せわ》しなくそこにあったパソコンを立ち上げた。こんな間近で越乃が仕事をする姿を見たことがなく、妙に胸がざわつく。 「家で説明しても良かったんだけど事情が事情だけに、きちんと話しておかないといけないと思ってね」 「事情って?」 「血液検査は軽い貧血程度だから、特に問題なかった。ただ、このあいだCTも撮っただろ?」 「うん」 「その事で説明したいんだ。……ここの部分」 CT画像がパソコンに映し出され、その一部を越乃がゆび指した。が、佐加江は見たところで何も分からない。首を傾げていると、画面が立体画像に切り替わった。 「子宮だ。正確には、前立腺小室と言うんだけど」 「子宮……?」 「佐加江は、子供が産めるって事だ」 「冗談でしょ?」 部屋は、シーンと静まり返る。 こんなところまで呼んでおいて何の冗談かと笑おうとした
世界は第二の性を忘れた。 オメガも ベータも アルファも みんな平等に みんな普通に。 産まれながらにして優劣があってはいけないと新薬の開発が進み、国主導で老若男女問わず全国一斉に行われた遺伝子操作。 当初、国民には死をもたらす重篤な伝染病のワクチン接種だと知らされた。 先人が抗う事なく受け入れてきた遺伝を、無理やり捩じ曲げるような試み。 国を挙げての人体実験。 第一世代から産まれた子供は、粒を揃えたように全てがベータになり、知能も運動能力も皆、同じ程度。ずば抜ける者もいなければ、落ちこぼれる者もいない。そんな結果を受け、男女関係なく産まれてすぐこのワクチン接種は義務化され、新薬がさらに改良された第二世代は、最良の結果をもたらした。 人類が背負った業に、勝ったとも言われた研究。 神に勝ったとも揶揄された。 そして、 世界は全てが平らになった。……と、思われていた。「国民主権だの、男女同権だのと皆、平等を謳っていたんだ。これで満足だろう」「しかし」「ならば特区を作ったらいい」「特区、ですか」「特別にワクチン接種を免除する地区を作る、これでどうかな」「そんな事、国民が納得するはずありません」「政治に国民がいたことがあったか」 「民主主義であれば、国民の理解を求めるのは当然のことかと」「君は、まだこのワクチン接種に反対なのか。民意などどうでもいい、理解も求める必要はない。敗戦国である我々は、受け入れなくてはならないんだ。第二の性の研究を続ける君への私のせめてもの譲歩案だ。私と君の故郷である鬼治を特区とする。君は第二の性の研究を続けられる。但し、これは極秘事項だ。すぐに密書を鬼治へ届けてくれ」「ですが、総理」 テーブルを手のひらで打つ激しい音が公邸の一室に響く。カランと煙草の吸殻が山のようにあった灰皿が床へ落ち、灰が宙を舞った。 密書を手にした彼は肩を落とし、秘書の背中を見ながら玄関へ向う。「どうぞよろしく、との事です」 あばら家も多く立ち並び、小学校教員の初任給が二千円と言われた時代。玄関に揃えられた彼の靴には、当時、最高額紙幣だった千円札が目一杯ねじ込まれていた。「……これは、何の真似です」「総理からです。我々の鬼治をどうぞよろしく、との事です」 深く頭を下げた秘書が、微笑んだ。 その晩、
「はぁ……、はぁ……」 男は額に脂汗をかき、息を荒げながら境内へと入ってきた。天狐の社を通り過ぎ、祠の奥にある洞窟へと入って行く。麻袋から見えた生気なくダラんと垂れた脚は骨と皮だけで、内腿へと流れ出た血がどす黒く変色していた。 その背後をついていく死神が社の裏手に腰をおろした青藍に気付き、黄ばんだ歯をむき出しにしてニタリと笑う。 青藍は、屋敷の回廊へ意識を飛ばす。 今さっき灯ったばかりの蝋燭の炎が赤々と燃え盛り、その近くにあったまだ半分以上残った蝋燭の火は、今にも消えようとしている。 あの袋の中の者は、まだ息がある。 佐加江が落として行った曼珠沙華を握りしめたまま、青藍は夜が明ける頃まで、ザクッ、ザクッと穴を掘る音を聞いていた。 しばらくすると、回廊の炎がふっと消えた。 魂が天上へ向かうように、細く長い煙が立ち登る。それが、この者が今生で何も悪いことをしてこなかったと言う証だ。 手を泥だらけにした男が、祠に刃を向ける。それは、この鬼治に|古《いにしえ》より伝わる儀式だった。「ーー鬼様、魂を刈り取ったでごせぇやす」 青藍の腕にも、祠と同じように傷がつき、鮮血がぽたり、ぽたりと落ちた白装束は赤く染まっていく。「この村の者は、いつまでこれを繰り返すのでしょうか」 やけに腰の低い死神は、いつもながらにやけている。「時代が変わったとはいえ、この村の者の甲への扱いは非道うごぜぇやす。まるで物か道具にしか思ってないようで」「ですから、私は佐加江に仮紋を刻んだのです」 鬼の機嫌取りを得意とする死神は、青藍の独り言に何度も大きく頷いていた。
「天狐様……、この匂いは」「結界をいま少し強くせねば、駄目なようだ。こんなところまで、芳しい匂いがしておる。どうだ、鬼殿。この匂い。我々、丙にはたまらんだろ」 天狐は牙をむき出しにし、ペロリと真っ赤な唇を舐めた。「あの男、偶然にも甲であってな。我に落ちるまで、まだうなじを噛んでおらんのだ。発情がそろそろかと思うてな、放ったらかしにしておる」 四肢をついて座る天狐のまたぐらでは、匂いに誘われるように陰茎がニョキニョキと出たり入ったりしていた。「今夜は、あの山々に怪火が灯るかもしれぬ」「それは……」「お狐様へ、桐生が嫁入りするのだ。ひれ伏すのは、我の方だがの」 自身の事を「お狐様」と呼び、ブルッと身震いをした天狐は全身の毛を舐め、毛づくろいを始める。 人間社会ではオメガ、ベータ、アルファと呼ばれる第二の性も、あやかしの世界では、甲乙丙。子を宿せるものが甲と呼ばれ一番良いものとされ、身分が高いあやかしほど丙なのだ。 ましてやあやかしの丙を産み落とせるのは、甲の男。あるいは、その逆も然りーー。肉体的に同一性のまぐわいでしか、丙が産まれないのだ。しかし、甲の出生については、あやかしですら分からない。「この匂いには、勝てぬ」『天狐、早く来てくれよ。俺……、もう我慢できねぇよ』「ふふ。あの童も発情を迎えるのが楽しみだの、鬼殿」「そう言うつもりは、私には毛頭ございませぬ」「仮紋まで刻んでおいて、いまさら。一週間ほど屋敷にこもるゆえ、青臭い鬼殿は心配なさらぬよう」 天狐は実に愉快そうに笑い、社へ飛び込んで行った。 その夜、鬼治村を囲む山嶺に怪火が無数に灯った。 村人は赤子が産まれた事への神の怒りだと早々に雨戸をしめ、誰一人として外へ出ようとしなかった。が、深夜になり、鳥居の前へ横付けした車から麻袋を担いだ男が一人ーー。
「さかえーッ!」「越乃のおじさんだ」 遠くから越乃の声が聞こえる。ヒタヒタと近づいてくる靴音に、佐加江は青藍の膝からピョンと飛び降りて振り返った。「ここであった事は」「秘密でしょ。僕、その約束は絶対まもる! 鬼様のお嫁さんになりたいもの」 白いシャツに襟元の蝶々結びの細いリボン、それと同色の黒い膝までの半ズボン姿。小さなローファーを履いているのは、帰省のためにおめかししてきたのだろう。佐加江はどこからどう見ても男児だ。しかし、唇の前でひとさし指を立てて笑った顔が愛くるしい。「佐加江、こんな所にいたのか。探し……」 白衣を着た越乃が、おそらく見えていないであろう青藍には目もくれず、血相を変えて走ってきた。「ごめんなさいッ」 手を叩かれ、佐加江が手にしていた曼珠沙華が地面へとパッと散った。さしていたコウモリ傘を境内へ投げ出し、越乃はスラックスのポケットから取り出したハンカチで佐加江の手を拭った。「曼珠沙華には、毒があるんだ。ごめんな、痛かったろ。おじさん、慌てちゃって」 「平気……。赤ちゃん、産まれたの?」「佐加江、何度も教えただろ。佐加江は赤様と呼びなさいって」「赤様……」「少し時間がかかりそうだから、日暮れ前にご飯にしようと思ってね。佐加江がどこにもいないから、心配したんだぞ」 越乃と手を繋ぎ、歩き出した佐加江はコウモリ傘の中へ入ったものの肩が濡れていた。 地面に落ちた曼珠沙華を拾いあげた青藍が、後ろ手に小さく手を振る背中をいつまでも見つめている。「ーー鬼殿のそんな切なげな顔、初めて見たわ。千年の付き合いとて、我は鬼殿の名を知らんかったぞ」 「この雨は、天狐様の仕業ですね」 「人が来た事を知らせたのだ」 大きな尻尾を揺らし笑っている天狐は、普段は村人に化けたりしている人たらし。男女関係なくあの世の屋敷へ連れ込んで、いかがわしいことばかりを繰り返している。今は桐生と言う少年が、それはそれは気に入っているようだ。『おら! 天狐どこ行った。ここから出せよ』 つい先ほどまで、静かだった境内に桐生の声が地中深くから聞こえてくる。「目を覚ましたようだな。昨夜は、朝方までまぐわっておったのよ」 わずかに鼻先をくすぐる匂いに、青藍は眉根を寄せた。
青藍の霊力が弱いのは耳とうのせいだ。悪さをしないよう、話をよく聞くよう耳朶に大きな穴が空けられ、太い輪っかが閻魔の手によって産まれた時から付けられている。「こんにちは! 鬼様」 文字通り一直線に走って来た佐加江は階段でつまずき、顔から転びそうになったところを青藍の腕に抱きとめられた。「ごきげんよう」「鬼様が、悪いことしか覚えていられないって言うから、お花盗ってきたの。ほら六本も。僕、悪い子でしょう? だから、僕のこと覚えていてくださいね」「おや、本当だ。お前はとてもとても悪い子ですね。忘れぬよう心に刻まねば」 『僕』と言わなければ、佐加江は色白で口が達者な女児のようだ。「おでこのツノも、そのトゲトゲの歯も、ぜーんぶ、大嫌いです」「嫌い、ですか」 佐加江は、特に彼の髪が好きだ。さめざめと輝く真冬の月のような色をしていて、いつだか寒かった日には首に巻きつけて遊んだ。「僕、大きくなったら鬼様と結婚するんです。二十歳を過ぎたら絶対に」「そんな事を言った覚えはありませんが」 佐加江の頬はぷーっと膨らんだ。父親代わりの越乃の故郷であるこの鬼治へ来るたび、佐加江は青藍に『結婚してください』と言っている。が、一向に頷いてくれない。昨日もその前も、しいて言えば、去年も佐加江は青藍にプロポーズしている。「鬼様」 膝の上へ乗ってきた佐加江が手を伸ばし、決して鋭くはない一角を摩る。最初は指先で、そのうち小さな手のひらで握ってゆっくりと。すると彼はいつも目を細め、表情を和らげる。今日もそうだ。「お前は怖くないのですか、私が」 青藍が小さい頃、人間の世界へ出て行っては村の子供たちによく石を投げられたものだ。『わぁ!化け物だ!!』 もう何百年と前の話だが、その頃はまだ、この村にも子供がたくさんいた。「怖い怖い! 鬼様なんか大嫌い」 突然、顔を真っ赤にして大きな声を出した佐加江に青藍は目を丸くした。「急にどうしたと言うのですか」「こうすれば、鬼様は僕をいつも覚えていてくれるはず」 言いたくのない事を口にした佐加江は、不貞腐れていた。「青藍」「セイラン?」「私の名です」 佐加江の顔は青空のようにぱあっと晴れ渡り、手のひらに書かれた良くわからない漢字に何度も頷いていた。「あ! 雨」 頬に触れた小さな雨粒に、佐加江は空を見上げた。晴れているの
世界は第二の性を忘れた。 オメガも ベータも アルファも みんな平等に みんな普通に 産まれながらにして優劣があってはいけないと新薬の開発が進み、国主導で老若男女問わず全国一斉に行われた遺伝子操作。 当初、国民には死をもたらす重篤な伝染病のワクチン接種だと知らされた。 先人が抗う事なく受け入れてきた遺伝を、無理やり捩じ曲げるような試み。 国を挙げての人体実験。 第一世代から産まれた子供は、粒を揃えたように全てがベータになり、知能も運動能力も皆、同じ程度。 ずば抜ける者もいなければ、落ちこぼれる者もいない。 そんな結果を受け、男女関係なく産まれてすぐこのワクチン接種は義務化され、新薬がさらに改良された第二世代は、最良の結果をもたらした。 人類が背負った業に、勝ったとも言われた研究。 神に勝ったとも揶揄された。 そして、 世界は全てが平らになった。♢♢♢「また、来よる」「天狐様は、お行きください」「クク……。あのわらべは、甲であるな。鬼殿が可愛がるのがようわかるわ」「私はそういうわけでは」「あの芳しい香りが、我は堪らなく好きでの」 佐加江は、人がせわしなく出入りしている蔵を横目に、茅葺屋根の古い屋敷のある庭を出た。 田んぼのあぜ道を通り、黄金色した穂先を垂らした稲を指先でシャラシャラと撫でながら、イナゴが跳ぶと恐れおののき、真っ赤な鳥居が幾重にも建つ鬼治稲荷へ走る。 六歳にしては身体が小さい佐加江は途中、曼珠沙華を折り、片手に三本づつ花火のような紅い花弁の花を握りしめ、鳥居をくぐった。向かったのは、狐が祀られている社を通り過ぎ、その裏手にひっそりと佇む傷だらけの寂れた小さな祠。「鬼様、今日もお花とってきました」 昨日、供えた曼珠沙華が枯れている。背後に深い洞窟を背負った祠の扉が細く開いていることに気づいた佐加江は辺りを見回した。「鬼様!」 社裏の縁に腰掛けながら、天狐と茶をのんびり飲んでいた青藍に向かって、佐加江は蹴られた毬のごとく両手を広げて走ってくる。「なぜでしょうか。あの童には私の姿が見えてしまうのです。天狐様の結界が強く張られている、この境内であっても」「見えているのは、霊力の弱い鬼殿だけだ。我は見えておらん」 フワフワの尻尾で青藍の背中をひと撫でした天狐は、姿を消した。