All Chapters of 銀のとばりは夜を隠す: Chapter 11 - Chapter 14

14 Chapters

第8話

 まぁ、わたしが学園で攫われたからなんですが。 え? 護衛の癖にあっさりと攫われるなよって? いやごもっともなんですが。 でもね? 最近アン様への襲撃がホント酷くて……。女学院の警備に公爵家の護衛を追加してもらって……と色々対策しても収まらない襲撃。 わたし自身が護衛だとはまだバレてないけど、それ以外の護衛については公爵様の方からアン様に伝えてもらった。本人に狙われてる自覚がある方が、いざって時に違ってくるしね。 それに……命を狙われること自体は正直今までもあったらしい。 それは『王太子の花嫁候補』って言うだけじゃなく、対外的には女性であるアン様を拉致して、身代金や公爵様の立場を危うくしようと動く者達の仕業だったりとか……。公爵様への逆恨みとかまぁ色々。 高位貴族の宿命だよ、とはティボー公爵様の弁だけど、誰だって命を脅かされるのはストレスだ。 なので、今回襲撃が頻繁に行われたことによって、アン様が精神的に少々参ってしまっても仕方なくて……。 それはアン様のお心が弱いとかでは決してなくて。 ……どんどん元気のなくなっていくアン様を見ていると……わたしもなんだか苦しくて。 なのでっ! ティボー公爵様にもご許可を取って、こちらから打って出ることにしたのだ。 証拠がないとか、隣国との関係が…とかそんなの、顔色の悪いアン様を前にしたら吹っ飛ぶというものだ。 アラン様モードの時も、普段の傍若無人な態度(世間でアレは俺様系というそうな)は鳴りを潜め、なんだか静か過ぎて……わたしの調子も狂うしね。 いっちょ本気出しますよっ! ……と思った矢先にわたしが襲われたので、これ幸いと攫われてみたわけです。 恐らくわたしが拉致された事は公爵家の護衛の方も直ぐに気づくでしょうし、そしたら現場を抑えて言い逃れのできない状
last updateLast Updated : 2025-04-18
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第9話

「ちょっとっ!! 公爵家の騎士達が大挙して押し寄せてきてるじゃないっ! ちゃんと手紙に一人で来るように書いたんでしょうねっ?!」 扉の外がにわかに騒がしくなった。 金切り声を上げているのは隣国の王女サマだろう。「一人で来なかったら、人質の命はないとも書いたのよねっ!? え? 田舎令嬢の一人や二人の命より、公爵家を脅迫した犯人を捕まえることを重要視した? ですてぇぇぇぇ!?」 ……でしょうね。 普通に考えて、自分より爵位の低い人間の命より、自らの家の矜持の方が大事だ。 冷たいとか、人の命に代えられないだろうという意見もあるだろうが、貴族は高位になればなるほど、矜持を穢されるというのは不名誉だ。 ていうか、絶対王女サマだって同じような立場になったら、同じように自分の矜持を傷つけたからって怒りそうなお人柄よね? 今までの態度を鑑みるに。 それに……。 そこまで考えて、一つ頭(かぶり)を振る。 太ももにくくり付けておいた短剣を構えて、コトに備える。 ていうか、身体検査も何もしなかったなぁ……。 田舎令嬢として甘く見られたのか、そもそもそこまで考える頭がなかったのか。 考えても仕方ないかと、じっと扉に集中する。 すっと耳を澄ませば、壁の向こうから剣戟の音と、何かが争う音が聞こえてきた。「え?! もう来たの?! 早くないかしら?! えぇ? わたくしが尾行されていた?! 気づいていたならどうして伝えないの?! ちょ……どこに行くの?! え? もう飽きたから帰るっ!? ちょっ!! どういうこと?! わたくしがこの国の王妃になるのを手伝ってくれるって……?! え……?」 仲間割れ? というか、王女サマの話し相手って……だれ?「ちょっと! 待ちなさいっ!! ちょ…
last updateLast Updated : 2025-04-19
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第10話

「何よなによなんなのよっ!! 自分が手を貸すから、絶対上手くいくって言ってたのに!! どうしてこうなるのっ!? おかしいでしょう!! おかしいじゃないっ!! わたくしはこの国の王太子に輿入れして、いずれ王妃になる人間よっ! さっさとわたくしを解放なさいっ!! この無礼者がっ!! ねぇ……痛いの……痛いのよ……離してくださらない? 腕が痛いわ? 床に押さえ付けられて苦しいの。 ねぇ……離して? 離しなさいっ! 無礼者っ! わたくしを誰だと思っているの?! 王族よ? 高貴な人間なのよ?! わたくしをこんな床に這いつくばらせるなんて、許されると思っているの?! 今すぐわたくしを離しなさいっ! そして自害なさいっ! それだけの事を貴方達はしているのですっ! 高貴なわたくしを跪かせたことを後悔しながら、死になさいっ!!」 公爵家の護衛に床へと押し付けられた王女サマが金切り声で叫ぶ。 言っている事は滅茶苦茶だし、激高したかと思えば、急にしおらしくなり、再び激高するという、情緒の乱高下が凄い。 ……これが、アレに関わった結果だというのなら、『厄介な隣人』はその名の通りの存在なのだろう。「……なんだコレは……? 狂ってるのか?」 綺麗な縦ロールだった金髪を振り乱して、ドレスが乱れるのも躊躇せず、自らを抑えつけている護衛から逃れようと、ジタバタと身体を動かす王女サマを見て、アラン様が呆れたように零した。 その声にピクリと反応した王女サマが顔を上げて、その視界にアラン様を映した。「まぁ! まぁ! 王太子様! わたくしを助けに来てくださいましたのね?! どうぞどうぞお早くっ! わたくしをこの無礼者たちから解放してくださいっ!」 暴れたせいでぐちゃぐちゃに乱れた髪とか、涙と汗で滅茶苦茶になったお化粧とか。 確
last updateLast Updated : 2025-04-20
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第11話

「うぁぁぁぁぁぁ!!! なによなによなによっ!! なんでそんなタヌンが王太子様の花嫁になるのよっ!! 許せないっ! 許せるわけがないわっ!! なんなのなんなのなんなのっ?! 上手くいくっていったじゃないっ!! どうしてあの女はここにいないの?! おかしいおかしいおかしい!! 全部わたくしの思い通りにならないなんてっ!! おかしいのよぉぉぉぉ!!!」「くっ! なんだこの力はっ?!」 慌てて再捕縛しようとした護衛達が、王女サマの腕の一振りで吹き飛ばされる。「なっ?!」 その異様な光景に、わたしを庇うように背に隠すアラン様。 ……守られるなんて経験がないので、ちょっとキュンとしたのは秘密だ。「おかしいおかしいおかしい゙ぃ!! お゙かじい゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!!」 え……こわぁ……。 真っ赤な唇が、耳元まで裂けたように見える。 同じくらい真っ赤な舌が、大きく裂けた口元からにょろりと覗く。 凶器かな? と思うくらい伸びて尖った爪をそういう武器のように構えて、狂気に染まった碧眼を炯々と光らせて……  アラン様に迫る王女サマ。 だからわたしは……。「っ?! レアっ?!」 アラン様の前に出て、鋭く尖った爪を、相手の手首を掴んで止め……切れない?! なんて力なのっ!? 力で押し負けそうになって、慌てて横に流す形にすれば、勢いだけで突っ込んできていた王女サマがぐらりと前に体勢を崩す。 前のめりに倒れる勢いのまま、無防備なお腹へ向けて、膝蹴りを放つ。「ぐげっ!」 高貴なお姫様らしからぬ呻き声をあげて、王女サマの身体がどさりと床に倒れ……壊れた操り人形のようにぴょんと立ち上がった。……その動きは既に人間の可動域を超えている。 そして、くる
last updateLast Updated : 2025-04-21
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