「明日には入院手続きだよね。お金、ちゃんと準備できてるの?」 入院を翌日に控え、私は気持ちを整えながらキッチンにいる夫に声をかけた。 ところが、夫は果物の皿を持って出てきて、自分で一口食べてからのんびり答えた。 「お金?全部他人に渡したけど?」 一瞬、私は耳を疑った。結婚して以来こんな冷たい言葉を聞いたことがなかった。思わず聞き返してしまった。 「他人に......?どういうこと?」 「莉奈(りな)にだよ」 その名を聞いた瞬間、私の思考は停止した。信じられない。あれは私の命を救うためのお金だったのに。なんで彼女に?どうして?何があったの? 問い詰める私に、夫は面倒くさそうにこう言い放った。 「店を開くために渡したんだ。投資って知らないのか?」 精神的にも追い詰められていた私は、まさに駄目押しをされた気分だった。 感情のブレーキが効かなくなり、思わず夫に殴りかかり、持っていた果物もひっくり返してしまった。 「大輝(たいき)!あれは私の命のお金だったんだよ!どうしてそんなことができるの?!」 しかし、次の瞬間には彼に突き飛ばされ、床に叩きつけられた。 「この狂った女が!莉奈が店を開くのにお金がいるんだ!俺が彼女に金を渡して何が悪い? お前なんか胃がんの末期だろ?どうせ治らないんだし、死人が生きてる人間と金を取り合うな!俺と母さんが両方失うなんて御免だ!」 その場に座り込んで、私は心底思った。この人、こんな人だったっけ? 大学時代に知り合って、学生時代を共に過ごし、結婚まで辿り着いた彼。私は孤児だったけれど、大輝は全く気にせず、むしろ私の孤独な人生を支えてくれる優しい人だった。 友人や同僚からも「いい人だね」と評判で、結婚後も献身的に私を支えてくれていた。激しい喧嘩なんてしたことがなかったのに...... 少し前、大輝と一緒に定期健康診断を受けた。そのとき、私は胃がんと診断された。そしてその瞬間から、彼の態度は劇的に変わり、家の貯金400万円をあっという間に他人の店のために使ってしまった。 私は思わず疑問に思った。今まで一緒に過ごしてきた人間は一体何だったのか。この人は本当に人間の皮を被っているだけじゃないのか、と。 呆然としている私を見て、大輝は少しだけ声のトーンを落として、自分なりの理
Read more