また状況は彼女の思惑通りにはいかなかったみたい。「よくそんな非情なこと言えるわね」私は呆れ果ていた。「じゃあ何が聞きたいの?あなたみたいに泣き叫んで、許してあげるって言うのを期待してた?お花畑な妄想は終わり?早く寝なさい。夢の中なら何でも叶うわよ」私は彼女から十歩以上離れた位置をキープ。ネットの助言通り、近づかないように気をつけた。もし自分から飛び降りておいて、私が押したなんて言い出したら面倒だもの。甘奈の精神は限界寸前みたい。「いつまで私を追い詰めれば気が済むの!」彼女が後ろに二歩下がると、私も同じように後退。満足げに頷いた。ふふ、これで十分な距離。これなら私に濡れ衣を着せることもできないでしょう。私が無視すると、また例の台詞を始めた。「私だって普通の生活がしたかった。全部あなたのせいよ!「私があなたを野良犬みたいに、あちこちで噛みつかせたっていうの?」「あなたって......」彼女は憤慨して言葉を失ったようだ。この位置から、甘奈の震える足がよく見える。10分も無駄にしたが、どうせ飛び降りる勇気なんてないでしょ。日差しも強いし、サングラスをかけて、後ろも振り向かずに立ち去った。後ろで喚き続ける甘奈なんて完全スルー。私に道徳心がなければ、道徳で縛られることもないもの。会社に戻ったとたん、新人秘書が息を切らして駆け込んできた。「社長!山田さんが飛び降りました!」ちょっと意外だった。あの小心者が、ライブ配信で視聴者を脅すくらいしかできないと思ってたから。「死んだ?」新人秘書は首を振って、付け加えた。「あの、降りようとしたみたいですが、足を滑らせて......」「ネットの反応は?」秘書がパソコンを私の前に置いた。「そもそも私たちに正当性がありますから、非難の矛先は向いていません」私はその件には見切りをつけて、仕事に没頭することにした。今じゃ調べるまでもなく、ネット上で甘奈の近況が分かるもの。あの日、下にエアマットは敷かれていたけど、あれだけの高さから落ちれば、生きてても半身不随は避けられない。今や両足が麻痺して、一生車椅子生活だそう。皮肉なことに、彼女の入院先は、脳梗塞の父と同じ病院なのだ。ここまでの結末は、全て自業自得ってことね。
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