手術が終わり、意識が戻った私は、目の前の分厚い包帯をそっと触った。どれだけ覚悟を決めていても、これから先ずっと闇の中で過ごす日々を思うと、どうしても悲しみが込み上げてくる。手術の前、夫の佐藤辰樹は私の手をしっかりと握りしめてこう慰めてくれた。「怖がらなくていいよ。これからは俺が君の目になるから」その言葉に、私は大きな勇気をもらった。予定では二時間かかる手術だったが、彼の執刀で滞りなく進み、予定よりも早く終わった。しかし、麻酔が切れると、目の周りが焼けるような痛みを感じ始めた。「看護師さん、佐藤先生を呼んでもらえますか?」看護師が「わかりました」と答え、足音が遠ざかっていった。やがて戻ってきた看護師はこう言った。「佐藤先生はまだ忙しそうなので、もう少しお待ちください」今日の辰樹には、私の手術しか予定がなかったはず。それなのに、何をそんなに忙しくしているのだろう?そう思った瞬間、自分の考えに罪悪感を覚えた。私が眼球摘出手術を決意したとき、辰樹は特に休みを取り、細やかに私の世話をしてくれた。食事から生活リズムに至るまで、全てを厳密に管理し私をとても甘やかしてくれた。そんな彼に甘えきっている私がこんな疑問を抱く資格なんてない。だから私はそれ以上看護師に追及するのをやめた。けれど、退勤時間が近づいても辰樹は一向に来なかった。痛みが我慢できなくなった私は、彼に電話をかけた。「何をそんなに急かしてるんだ?」電話越しの辰樹の声には、明らかに苛立ちが含まれていた。「俺がこの間、君の世話をするためにどれだけ仕事を犠牲にしたと思ってるんだ?」「でも……痛くてたまらないの。様子を見に来てくれない?」と、私は小さな声で訴えた。すると、辰樹はさらに怒りを露わにした。「術後の反応としては普通のことだろう。まさか、俺の技術を疑ってるのか?」その問い詰めるような口調は、これまでの優しく思いやりのある辰樹とはまるで別人だった。「そ、そんなことない……」と、私は怯えた声で答えた。辰樹は容赦なく叱りつけた。「盲目になったなら自立することを覚えろ。誰かに頼るばかりじゃダメだ。心奈を見てみろ、彼女はちゃんと順応してるじゃないか」そう言い放つと、彼は電話を一方的に切った。辰樹が自ら鈴木心奈の名前を出し
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