吹雪が舞い散る中、人々は押すな押すなの混雑で、遊園地内の「氷の世界」へと詰めかけていた。氷彫刻を覆う真紅の幕がゆっくりと開かれると、場内からどよめきと歓声が沸き起こった。まるで生きているかのような精巧な氷彫刻の数々に、観客たちは息を呑んだ。その中でも群を抜いて人々の目を引いていたのは、中央に鎮座する「絶望の花嫁」だった。純白のウェディングドレスに身を包んだ花嫁は、この世のものとは思えないほどの美しさだった。けれど、その艶やかな瞳からは熱い涙が零れ落ち、透明な雫となって儚げな頬を伝っていた。「これぞ芸術の極み!」「なんて美しいんでしょう!感動しました!」称賛の嵐の中、作品の前に立つ榊麗子の唇には、勝利者の微笑みが浮かんでいた。群衆に囲まれながら、その表情は一層の輝きを増していく。私の夫、鈴木源は彼女の細い腰に手を添え、ほんの一瞬目が合った瞬間、二人の間に甘い空気が流れた。二年前、夫は氷彫刻にビジネスチャンスを見出し、遊園地に「氷の世界」をオープン。破格の報酬で榊麗子を総合デザイナーとして招聘したのだ。そして、私の悪夢の幕開けとなった。気がつけば、二人の関係は怪しげなものとなり、私の実の息子までもが彼女と娘の味方になっていった。氷の世界の気温が刻一刻と下がっていく中、息子のロロは榊さくらちゃんに高級な白狐のケープを、まるで宝物を扱うかのように優しく掛けている。「まあ、ロロったら世界一優しいお兄ちゃんね」榊麗子が膝をついて息子の頭を撫でると、ロロの頬は照れて薔薇色に染まった。鈴木源はさくらちゃんを抱き上げ、その可愛らしい頬をそっと撫でる。まるで絵に描いたような幸せな四人家族——。「本日より三夜連続で、祝田先生特製の花火を街中で打ち上げさせていただきます。我が遊園地の功労者、麗子への感謝の意を込めて」鈴木源がそう宣言すると、観客から大きな拍手が沸き起こった。祝田先生の花火は一発が何十万もする代物だという。誰も思い出さない。鈴木源には鈴木美咲という妻がいることを。誰も気にかけない。私と源の娘が群衆の最後尾で、薄手の秋物を一枚羽織っただけの姿で、凍えながら身を縮めていることを。その小さな体は既に紫色に変色していた。娘の目尻に凍りついた涙を拭おうとした私の手は、儚くも彼女の体をすり抜けた。ああ、そ
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