仕事帰りに何気なく買った宝くじが当たり、額を見た瞬間に頭がクラクラした。十億円。一瞬で人生が変わる金額だ。すぐに会社を辞める決意を固め、上司の机に辞表を叩きつける。あの女好きの上司の顔を見ることももうない。その足で新幹線に飛び乗り、故郷への切符を握りしめた。車内では興奮が冷めやらず、家族それぞれにどんなプレゼントを贈ろうかと想像が膨らむ。母さんには広大な庭付きの豪邸、義妹の美羽には五部屋ある川沿いの大きなマンション。父さんには愛用しているSUVの最新モデル、弟の智樹には夢にまで見たスポーツカーを……一つひとつ計画を立てながら、ふと電話をかけた。迎えに来てもらおうと思ったのだ。「もしもし、父さん?私、帰ってきたよ」「ああ?どうして帰ってきた?」「仕事を辞めたんだ。実はその理由は……」だが、その言葉を最後まで聞いてもらうことはなかった。電話は途中でブツリと切れ、ビジー音が鳴るだけになった。胸に抱いていた喜びは半分以上消え失せ、不安を抱えたまま家の扉を開ける。だが、その先に待っていたのは温かい家族の迎えなどではなく……熱い液体が頭から降りかかり、立ち尽くす私の足元にいつも駆け寄ってきてくれる愛犬のマロンの姿はなかった。「マロンはどこ?」凍えるような冷たさが全身を走り、私は掠れた声でそう問いかけた。美羽が血に染まった桶を放り投げ、嘲るように私を見つめる。「当然殺したわよ。今まであんたの稼ぎも大して残らなかったのに、あんな犬のエサ代なんて無駄だったのよ」「それに、今はお前、無職なんだろ?そんな貧乏人の犬なんて誰が面倒見るかっての。それより肉にして栄養にした方がマシじゃない?」愕然としたまま、台所へと駆け込む。そこにあったのは、小鍋に浮かぶ血まみれの肉片だった。マロンは、私が両親に中学を辞めさせられ、働かされるようになった頃から、ずっと一緒だった。辛い時、悲しい時、彼は私の手を優しく舐めてくれた。しかし、そのマロンはもういない。無念だったのだろうか。台所には抵抗した痕跡すらなかった。マロンが最期に思ったことは何だったのだろう。なぜこんな仕打ちを受けたのか、きっと彼には分からなかったに違いない。怒りと悲しみが胸に押し寄せる。「私、毎月家に四十万円も送金してたのよ。な
Read more