仕事から帰宅して玄関を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、ソファで脚を組んでひまわりの種をポリポリ食べている森田美代子の姿だった。あの女は私に向かってにやりと笑いかけてきた。「お帰りなさい、優子さん」私の表情が固まった。なぜここにいるのか理解する前に、あの女はソファから立ち上がり、私の前まで来ると、「びっくりした?予想外だったでしょう?あなたの旦那さんと息子さんが直々に私を呼び戻してくれたのよ。悔しいでしょう?」森田は得意げに言い放った。「血のつながりってそういうものなの。私と健一、大輔との絆は、あなたみたいなよそ者には決して理解できないわ!」あの女の表情は、相変わらず吐き気を催すようなものだった。その顔を見ただけで胸が悪くなり、問い詰めようとした矢先、部屋から出てきた健一と大輔と目が合ってしまった。二人の笑い声は、私の姿を認めた瞬間にピタリと止んだ。居間に流れる沈黙が、まるで空気を凍らせているようだった。さっきまで得意げだった森田は、手のひらを返したように態度を豹変させ、「健一を責めないで。このお婆さん、もう長くないから、どうしても家に入れてって頼んだのよ」と哀れっぽく訴えかけた。高圧的な態度を一変させ、しおらしく検査結果を取り出す。「検査でがんが見つかったの。子宮がんよ。もう私の命も長くない、希望なんて何もないわ」森田は涙声で続けた。「私を追い出すなんて、人でなしのすることよ」まるで追い出されることを恐れているかのような演技。見事な演技で涙を流しながら、床に座り込んだ森田。「この老いぼれの最期の願い、叶えてくださらない?」私は森田の完璧な演技を冷ややかに見つめ、それから沈黙を通す健一と大輔に視線を移した。「二人はどう思うの?」私と森田美代子の不仲の理由。健一だって分かっているはずだ。あの時、事態がここまで深刻化したからこそ、私たちの結婚生活を守るため、健一は苦渋の決断で森田を実家に戻してもらった。そして何度も誓ったはずだ——この先、最期の親孝行の時が来ても、決して森田を私の前に現すことはないと。そして今。わずか数年で。健一は昔の誓いなど忘れ果て、黙って私の前に立ち、青ざめた顔で私の手を掴んだ。「孝は百行の本だ」健一は重々しい声で言い放った。「産後のあの件を、いつまでも
最終更新日 : 2025-01-03 続きを読む