おかしなオーナー のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 9

矢代隆之介も外出できなかったため、私と鈴木裕の部屋にやってきた。彼はバルコニーに立ち、煙草を吸っていた。立ち上る煙の層が、部屋全体に憂鬱な空気を漂わせていた。私も悲しみと怒りを抑えきれず、立ち上がって部屋を出ようとした。鈴木裕が私の腕を掴んで言った。「あかね、君も無茶するつもりか？」私は鈴木裕の手を振り払い、コートを手に取って言った。「私は美紀の部屋に行ってくる。あなたは矢代隆之介をちゃんと励ましてあげて」私は矢代隆之介にルームカードを借りて部屋に入った。すると右側から鋭い視線を感じ、一瞬で振り返った。それは、大きな鏡の付いたクローゼットだった。鏡に映った自分を見つめた。月白色の膝丈トレンチコートを着て、黒い髪を後ろに流し、褐色のマーチンブーツを履いている。私は鏡に引き寄せられたが、左上の薄い埃の層に、長さの違う点や大文字の「一」が書かれているのを見つけた。これはモールス信号だ！光のせいで一部が見えにくいのかもしれないと思い、ベッドサイドと洗面所のライトを消した。全ての内容が浮かび上がった。私はモールス信号を書き写し、翻訳すると「逃げろ」という三文字だった。私は全身に冷や汗をかいた。これは誰が書いたのだろうか、美紀が書いたとしたら、彼女は何か知っていたのだろうか。その時、外からノック音が聞こえ、店主の声がした。「矢代さん、いらっしゃいますか？私はこの店のオーナーです。お部屋を引き取らなければなりませんが、一時的に新しい部屋をご用意しました」私は手でモールス信号を消し、部屋の中を探し回った。しかし、外から再び急なノック音が聞こえた。私は仕方なくドアを開けた。「矢代さんは隣の部屋に行きました。私は今この部屋にいますが、ここはとても良いので、変える必要はありません」

午前1時、私はまだ神経を張り詰めていた。私は時間を見つめながら、「もうこんな時間だ、問題があるならとっくに起きているはずだ」と心の中で思った。私は深呼吸をして体を伸ばし、休もうとした時、ドアノブが静かに下に回されているのが見えた。私はすぐに鈴木裕にメッセージを送り、その後寝たふりをした。布団で頭を覆った後、頭の中には恐ろしい蛇鬼や牛神のことばかりが浮かんでいた。誰かがこっそりと部屋に入ってきた。私は脇で微かな足音を聞きながら、一対の手が私の体に触れてきたのを感じた。私は反射的に飛び起きた。視線が驚愕と醜さに満ちた顔に合った。その顔はまるで焼き魚が盛られた皿のようだった。顔の五官はそれぞれが主張し合っていて、互いに認め合わないような感じだった。その男は私が起きているのを見て、強引に押さえつけてきた。私は布団で彼の頭を覆い、その隙に彼の脇をすり抜けた。その男はすぐに追いついてきた。私は柔道を少し学んでいたので、何とか二三回彼と応戦したが、相手は男であり、体力の差が大きかった。彼を倒した後、私はすぐに逃げ出した。エレベーターに乗り込んで初めて、1階以外のボタンが全く反応しないことに気づき、私の心はぎゅっと締め付けられた。魚のような顔をした男が追いついてきて、私を引き戻そうとした。私は彼の腕に噛みついた。痛みで男は私の髪を掴んでいた手を放し、その隙に私は飛び出した。私は階段の入り口に駆けつけ、ちょうど鈴木裕と矢代隆之介を見つけた。後ろの男は私が人を連れているのを見て、逃げ出した。「この店はやっぱり問題があるね。さっきも二人が来て捕まえようとしたけど、俺たちが追い払ったよ」矢代隆之介が自慢げに言った。彼は続けて言った。「それで、今どうすればいい？」「警察を呼ぶしかないけど、その前にまず逃げなきゃ」鈴木裕は私を抱き寄せ、眼鏡を押し上げながら周囲を見回して言った。「急げ、奴らがまた戻ってくるかもしれない」

小さな村に入ったが、この村は非常に奇妙で、三周しても最初に来た場所に戻ってきた。矢代隆之介は崩れたように言った。「俺たちは迷路に入ってる」本当にそうだ。私は地図を開いて、この村が地図上で表示されている面積が大学のバスケットボールコートほどもないことに気づいた。本当に奇妙だ。私は頭を上げて鈴木裕に尋ねた。「本当に奇妙ね。この場所はこんなに小さいのに、まっすぐ歩けばもう外に出ているはずでしょう」「いや、僕たちは道に沿って歩いてる。水の流れに沿って進むべきだ」鈴木裕もかなりのプレッシャーを感じていて、息が少し荒くなっていた。矢代隆之介はイライラして言った。「信じられるのか？」「信じられないなら、ここで待っててもいいよ」鈴木裕は不機嫌そうに答えた。鈴木裕が怒っているのがわかった。矢代隆之介はしぶしぶ謝った。彼は声は大きいが、意外と小心者だ。彼のマネージャーによると、彼は撮影現場で指を少し切っただけでも、専門の医師に包帯をしてもらうように頼んだということだ。周囲は真っ暗で、照明はすべて携帯電話の懐中電灯で行っていた。私たちは水源を探して外に向かい、枯れた井戸でササッという音を聞いた。私は声を出した。「誰かいますか？」音が大きくなったので、私は音の出所をたどり、井戸のそばに頭を近づけて中を見ると、そこには閉じ込められた女性がいた。正確に言えば、それは縛られている女性だった。「裕、矢代、ここに女性がいる！」矢代隆之介が駆け寄ってきて、手足の長い彼は自ら進んで救出に行くと言った。鈴木裕は矢代隆之介を引き止めて言った。「荒れ果てた野外で、枯れた井戸に突然女性がいるなんて非常に怪しくないか？」私もそれがばかげているとは思うが、見て見ぬふりをするのは少し残酷だと思った。「彼女をここに置いておくのは危険だ、私たちは……」遠くから叱責の声が聞こえてきた。「誰がそこにいるんだ？」やって来たのは一団の人々で、手には農具を持っており、来る者が善意を持っていないことがわかった。どうやら、この善人というのは私たちが望んでなれるものではないようだ。私たちは群衆に追い出され、村を去らざるを得なかった。小さな町のアーチ橋に駆け上がり、私は両手で膝を支えながら大きく息をついた。「不思議だな、なんで迷子になってる

鈴木裕は私の頭を撫でながら言った。「泣かないで、早く外に出よう。矢代隆之介がまだ外で待っているから」「彼女たちを連れて行ってもいい？」普段映画で聖母のような行動を見ると嫌悪するが、本当に目の前にいる生きた命を見捨てるのは心が痛む。五人だと目立ちすぎる。鈴木裕は矢代隆之介にその二人の女性を先に逃がすように指示した。私は鈴木裕に支えられながら辛うじて歩いていた。一歩踏み出すたびに、まるで裸足で刃の上を歩いているようだ。再びその小さな木の橋を渡ると、牛を引いている小さな女の子がいて、背中には小さな荷物を背負っていた。彼女は私たちを見るやいなや、すぐに村の方に叫んだ。「逃げたぞ、人が逃げ出した！」古い慣習に染まった場所では、子供の心さえも黒い。私は鈴木裕の肩に置いた手を引っ込め、二人で走り出した。田んぼには他の村民も働いていた。彼らは腰を曲げ、うつむいていたが、あの小さな女の子の叫び声を聞いて立ち上がった。疲れ果てた私たちは、当然これらの村人たちに敵わない。こうして誘拐された女性たちが深山から逃げ出すのが難しいのも無理はない。以前私たちに嫌がらせを受けたフロント係が、今は軽蔑の目で私と鈴木裕を見つめ、魚皿顔の男に向かって言った。「あのネットドラマの俳優もどこにいるの？あの時一番口が悪かったやつよ！」魚皿のような顔の男が前に出て、鈴木裕に平手打ちをくらわせた。その音は響き渡り、彼は黄ばんだ歯を見せながら口を開けた。「お前たちの仲間はどこだ？」「お前たちの行動は違法だ、早く俺たちを解放するように忠告する」鈴木裕は目を上げ、怒りに燃える瞳で言った。「淳、こいつが話さないなら、彼女を殴ってやれ。話すかどうか見てやろう！」淳と呼ばれた男の瞳が輝き、いやらしい目で私を見つめて、「この女、本当に美しいな」と言った。淳の顔がまるで交通事故現場に匹敵すると言うならば、彼の卑劣な視線はまるで下水の油のようで、見るだけで吐き気がした。私は頑固に顔を背けたが、この動作が淳を怒らせた。彼は手で私の顔を押し戻し、貪欲な目で私を見つめた。「ちくしょう、まだ生意気か。お前より綺麗な女も散々遊んできたが、お前も逃がさないぞ！」淳は私の髪をつかみ引きずろうとした。さらに腕を高く持ち上げ、私に再び噛まれるのを恐れている。私は乱暴