俺が生まれたのはスラム街の片隅。そこからどうして「天川グループ」の社長の息子だなんていう身分にたどり着けるのか、自分でも意味が分からない。これがドラマの話なら「あり得ない!」と笑い飛ばしてたかもしれないが、現実はもっとバカバカしいもんだ。あの日、実の親だと名乗る二人が俺を見つけたのは、街道の片隅。俺は子分たちを従えたまま、他のチームと大乱闘を終えたばかりだった。そのとき、二人の視線が俺の腕のタトゥーに吸い寄せられたのが分かった。そして彼らの目に映ったのは、「恐れ」と「嫌悪」。俺を「ろくでなし」と見る、典型的な反応だった。一瞬の後、彼らはその表情を取り繕い、慌てて駆け寄ってきた。そしてやたらと感極まった様子で俺の顔を撫で回し、ついには耳の後ろにある傷跡に触れた。「あなた……悠真(ゆうま)……なのよね?」どうやらそれは傷じゃなく、生まれつきの痣らしかった。俺は吸いかけのタバコを指先で弾き、地面に押し付けて消した後、ただ無言で頷いた。子分たちは何が起きているのか理解できず、「またどこかのチンピラの親が仕返しに来たのか?」なんて思っていたのだろう。警戒してさらに一歩俺の側に寄ってきた。「悠真!」と呼ばれているのに気づき、俺が声の主を見ると、きらびやかな服を着た中年女性が俺に抱きつき、声をあげて泣き始めた。「悠真、やっと会えたわ!27年……27年も探して……やっと見つけたのよ!」俺は眉を少し動かしただけで、状況がまるで飲み込めていなかった。何をどう解釈すればいいのか……頭が追いつかない。そこに現れたのが、俺と年の近い若い男。俺をまじまじと見つめるその顔立ちは、どことなく俺に似ている。「俺は天川星司(あまかわせいじ)。君の弟だ」と、彼は名乗った。そして「なぜ家族が27年もバラバラになったのか」を話し始めた。27年前、天川家の宿敵・鷹崎翔也(たかさきしょうや)が、生まれたばかりの俺を誘拐したらしい。翔也は身代金を要求し、家族はそれを支払ったものの──彼らのもとに戻ったのは「俺」じゃなく、偽物の赤ん坊だったそうだ。星司が語るのを俺は黙って聞き、無表情を保ったままだった。だが、気づくと俺よりもさらに顔色を悪くしている男がひとり、星司の背後に立っていた。その男の手は大きなコートのポケットの中で震えており、目も泳いでいた。
Last Updated : 2024-11-29 Read more