川原和馬の視点梨奈が自分が意図的に単位を落とされたと俺に打ち明けた時、瞬間的なヒーロー気取りの衝動が俺の思考を支配した。そして、絵里が人生で初めて開催した講演会で、観衆全員の前で彼女を平手打ちしてしまった。本当は、手を振り下ろした直後に後悔した。しかし、梨奈は泣き顔で俺に甘え、絵里は既に何の面白みもない存在に見えた。その後、彼女が単位を落とされたのは他人からの不正行為の通報によるもので、絵里には何の関係もないことを知った。さらに、梨奈が病気を理由に俺を家から引き離した後、その事実を知った俺は激しい怒りを覚えたが、彼女の優しさに再び溺れてしまい、「大丈夫」と自分に言い聞かせていた。絵里は強い女性だ。彼女は俺を愛しているし、少し宥めればまた元通りになるだろうと高をくくっていた。しかし、再び家に帰った時、一見何も変わっていないようで、何かが静かに変わっているのを感じた。テーブルの上には離婚届が置かれていた。信じられず、思わず失笑しながらその書類を破り捨てた。だが、時間が経つにつれ、彼女は俺を無視し続け、帰宅した俺の目に飛び込んできたのは流産手術の明細書だった。その瞬間、俺は心底恐ろしくなった。自分の手で俺たちの子どもを殺してしまったのだと実感したからだ。俺は絵里をよく知っていた。彼女が俺を知るように。だからこそ狂ったように彼女を探し回った。最後、彼女を見つけたのはニュース番組だった。そこに映っていた彼女は、以前のような輝きを取り戻しており、全身から自信に満ちた光を放っていた。俺は急いで江野崎に向かい、彼女を取り戻せるかもしれないという希望を抱いていた。雨の中でわざと立ち尽くし、彼女が心を動かしてくれることを願い、朝のランニングコースで「偶然」を装い彼女に会おうとした。しかし、俺は気づいていなかった。自分がどれだけ彼女に無関心だったかを。彼女が病院に入院する羽目になったのは俺のせいだった。そして、梨奈は俺を追うために病院で彼女を脅迫していた。あの子は俺たちの間に横たわる解決不可能な壁だった。俺たちにはもう未来がないと悟った俺は、海城に戻り、梨奈を厳しく叱責した。庭の桜の木は枯れかけていた。俺は海城中の園芸師を集め、この木を救うために尽力した。周囲の人々は俺を「木のためにそこまでやるなんて正気じゃない」と笑ったが、気にも
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