冷たい海水が私の体を包み、骨まで冷え切る寒さが襲いかかってきた。必死にもがきながら、最後の頼みの綱を掴もうと手を伸ばす。ぼんやりと見えたのは、操舵室から飛び出して海に飛び込む江口丞の姿だ。「江口丞!私はここよ!」海の轟音にかき消されそうになりながら、必死に手を振る。微かな声だったが、彼の視線が一瞬こちらに向いた。だがその瞬間、江口丞は顔をそらし、近くで漂う高柳瑠衣に一直線に向かっていった。「瑠衣!怖がるな、俺が来た!」江口丞の声には焦りが滲んでいた。高柳瑠衣は彼の胸に寄りかかり、弱々しく囁く。「江口兄ちゃん、寒いよ......私、もうすぐ死んじゃうのかな?」その儚げな声に、江口丞の眉がきつく寄せられ、彼女をさらにしっかりと抱きしめた。「大丈夫、俺がついてる。すぐ病院に連れていくから。」江口丞は高柳瑠衣をまるで壊れやすい宝物のように優しく救命ボートへと抱き上げる。その温もりに溢れた眼差しは、かつて見たこともないほどだ。私も懸命にボートの縁を掴み、震える指で必死にしがみつこうとした。しかし、江口丞は突然振り返ると、その手を叩き落とした。「こんな時に何をやってるんだ?まだ取り入ろうとしてるのか?」冷たい視線が私を刺し貫く。「お前は泳げるだろう?演技なんかするな!ボートは他にもたくさんあるんだ」その言葉と共に、私は再び海へと叩き落とされ、喉に冷たい水が流れ込んできた。江口丞が一瞬手を差し伸べかけたが、高柳瑠衣が彼の手を掴んでかすかな声で訴えた。「江口お兄ちゃん......もう病院には間に合わないかも......息ができない......」その瞬間、江口丞の顔色が真っ青になり、彼は「お前も後からボートで来い、瑠衣には時間がない!」と言い残して、救命ボートを加速させてその場を去っていった。エンジン音が轟く中、私は最後の水を咳き出した。彼に伝えたかった、私は本気だと。観覧船から落下した時、私の脚は船体に激しくぶつかり、折れた脚はもう動かない。それでもし仮に無事だったとしても、混乱した乗客たちはすでに救命ボートを取り尽くしていた。遠ざかる小艇を絶望的に見つめながら、私は少しずつ海水に飲み込まれていった。けれど、もういい。この言葉など、どうせ江口丞には届かない。彼を愛して三年。けれど結局、彼の目には私はただ
Last Updated : 2024-11-15 Read more