「母さん、なんだよその汚い格好は。今日は矢島家の人間も、会社の偉い人たちも来てんだぞ。こんなみっともない親がいるって知られたら、俺の立場はどうなると思ってるんだ!」恭一は私の姿を見るなり、露骨に顔をしかめた。乗り継ぎバスで疲れた体に鞭打ちながら、私は精一杯の笑顔を作った。息子の結婚のために、私は長年住み慣れた家を手放した。バブル前に買った家だったから、なんとか今の相場で恭一たちの新居のローンの頭金になった。ありがたいことに、藤原グループに入社した息子の将来を見込んで、不動産屋さんも融資を通してくれた。家を売った後は、少しでも出費を抑えようと、駅裏の古いアパートの六畳一間で暮らすことにした。窮屈で不便だけれど、息子が幸せな家庭を築けるなら、それだけで私は満足だった。けれど恭一は、「あんな場末のボロアパートに住んでるなんて恥ずかしい」と、婚約直後から新居に引っ越してしまった。今朝も、遅刻しそうだから車で迎えに来てと頼んだのに、明日から新生活なんだ。余計な手間かけんな」と、突き放すように言い放った。仕方なく、朝一番のバスに飛び乗って、なんとか人前式に間に合ったというのに。ところが会場に着くなり、息子から浴びせられたのは容赦のない叱責だった。恭一の声は周りにも聞こえていただろう。近くの参列者たちが、私の方をちらちらと見ている。あからさまな軽蔑の視線に、私は顔を上げる勇気もなかった。それでも、取り繕うように笑って、小さな声で言った。「これね、恭一くんが大学生の時に買ってくれた服なの。大切な日まで取っておいて......」「うっせえな。めぐみが来る時間だ。お前の姿なんか見せたくねえんだよ」息子は私の言葉を遮り、いらだたしげに続けた。「それと、親族紹介の時も、壇上になんか来んじゃねえぞ。矢島家の連中の前で恥かかせんな」そう言い放つと、私の不自由な足を一瞥し、踵を返して豪華なホテルのエントランスへと消えていった。息子の背中と、華やかな式場の装花を眺めながら、私の胸は締め付けられるように痛んだ。「新郎様はお若いのに、有望な方だそうですわね。藤原グループのエリート社員で、幹部候補とか」「新婦様とは大学時代からのお付き合いだとか。ご実家も、一人娘の結婚とあって、新居のマンションまでプレゼントなさったんですって」新
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