すべての用事を終えて家に帰った時には、もう深夜だった。薄暗い月明かりがリビングを照らし、部屋中が冷え冷えとした雰囲気に包まれていた。疲れ果てた体を引きずりながら寝室に戻ると、壁には真っ白な「寿」の文字が貼られている。なんて皮肉なんだろうと思いながら、ベッドに残っているリボンを取り除いて、そのまま横になった。充電しようとスマホを手に取ったら、ちょうど柳原春香の投稿が目に入った。「あなたに出会えて幸せ」添えられた写真には、彼女と関山陽介が寄り添い、恋人の指輪をつけて互いを見つめ合っている様子が映っている。以前なら、これを見たらすぐに彼に問い詰めていただろう。でも今は、ただスマホの画面を閉じて、そのまま寝ることにした。その後何日も、陽介からの連絡は一切なく、代わりに春香のSNSで彼との仲睦まじい投稿ばかりが目に入ってきた。彼らがキスをしたり、一緒に買い物を楽しんだりしている写真が次々と流れてきても、私はもう気にせず、離婚の準備を始めた。陽介とは大学時代からの付き合いで、8年間一緒に過ごしてきた。結婚式を挙げたのは最近だが、実は大学を卒業したのと同時に衝動的に結婚届を出していた。式も、結納も、指輪もなく、ただ愛だけがあればそれでよかった。でも、今となってはその愛も消え、ただ虚しさが残るだけだ。半月が経ったある日、家で弁護士が作成した離婚届を眺めていると、玄関のドアが突然開く音が聞こえた。顔を上げると、陽介が春香の手を引いて入ってきた。目が合った瞬間、陽介の顔には一瞬、気まずそうな表情が浮かび、彼は慌てて春香の手を離してぎこちない声で言った。「春香はまだ海を見たことがないから、連れて行ってやったんだ。お前は妊娠してるんだから、医者にも安静にするよう言われてるだろ......」私は何も返さず、再び離婚届に目を戻し、「うん、分かった」とだけ言った。彼が言いかけた言葉が喉に詰まってしまい、私がパソコンの前に座って無反応でいるのを見て、逆に彼のイライラが増していった。冷たい声で問い詰めてきた。「いい加減にしろよ。春香は海辺に行ったことがないって言っただろ、だから連れて行ったんだ。それに、ハネムーンに行くのはいつでもいいじゃないか、何を騒いでるんだ!」続けて「春香とはただの......」と言いかけた
Last Updated : 2024-11-05 Read more