江城の年に一度のオークションには、父と一緒に参加した。今日は、私にとっても、父にとっても非常に重要な日だ。母の遺品がこのオークションに出品されているからだ。オークションの主催者は、父の旧友であり、私たちは最前列に席を用意された。しばらくして、母のルビーのネックレスが出品された。「2,000万!」私はいきなり高値をつけた。「1億」数秒後、誰かがその価格を数倍にも引き上げた。その声には聞き覚えがあった。振り返ると、驚くべきことにそれは裕也の秘書だった。彼は私に気づいた途端、戸惑った様子で、すぐに視線をそらした。秘書が1億もの大金を持っているはずがない。間違いなく裕也が出したものに違いない。彼の表情を見て、私は瞬時に悟った。このネックレスが誰の為に買われるものなのか。今、裕也が大切にしている女性、深山菫の為だと。「あれは裕也くんの秘書じゃないか?」父も彼に気づいた。「彼はお前の為に入札しているのか?彼に今日来るって伝えなかったのか?」私は首を振った。最後に裕也が家に帰ってきたのは1ヶ月以上前。私たちは暫く連絡を取っていない。仮に伝えたとしても、彼は気にも留めなかっただろう。私の表情を伺った父は何かを悟ったように、顔を曇らせ、「1億2,000万」と札を上げた。「2億」向こうは全くためらわずに再び札を上げた。「3億」「6億!」父の手は震え、再び札を上げようとしているようにも見えたが、最終的には無力に膝の上に手を下ろした。父は小さな会社を経営していて、そんな大金は持ってない。「バン、バン、バン」ギャベルの音が鳴り響き、落札が決定された。私は父と共に、母の遺品がケースに戻され、裏側に運ばれていくのをただ見つめていた。その後のオークションには、もう身が入らなかった。オークションが終わると同時に、私はすぐに立ち上がり、裕也の秘書の元へと向かった。「田中さん」と私は彼を呼び止めた。彼は一瞬足を止め、振り返った。「なぜオークションに来たんですか?」と私は尋ねた。心の中に、まだごく僅かな希望があった。もしかしたら、裕也の指示ではないのかも知れない。彼が答える前に、上階からイキイキとした女性の声が聞こえてきた。「三好さん、彼は私の連れです
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