Share

第4話

Author: 陳年
警察署で事情聴取を終え、私は帰ろうとしていた。すると、直樹の叔父とばったり出くわした。

どうやら警察は既に彼に連絡したようだ。

私を見つけると、彼は思わず鼻で笑った。

「面白いか?わざわざ芝居を打って、警察にお金を払って俺を騙すつもりか?」

私は視線を下に落とし、もう彼を見なかった。

「私がそんな力があって、警察に賄賂を贈って芝居に付き合ってもらえると思う?両親の遺体は既に斎場に運ばれた。今すぐ近藤直樹に連絡して、さっさと斎場に向かうように伝えて」

私の隣にいる警官たちが皆重い顔をしているのを見て、叔父の顔色が一気に曇った。

「お前......冗談はよせ。そんな冗談は全然面白くない」

「真帆、叔父さんに芝居だと言ってくれ!騙されているんだと!早く冗談だと言ってくれ。叔父さんは絶対怒らないから!」

私は冷静に、目の前で次第に錯乱していく男を見つめ、深いため息をついた。

何か慰めの言葉をかけようと思ったが、彼は突然狂ったように怒鳴り始めた。

「お前のせいだ!なぜ言わなかった?芝居じゃないと言わなかったのはなぜだ!お前が二人を殺したんだ。お前は殺人犯だ!」

同情の眼差しは一瞬で冷たいものに変わり、声も硬くなった。

「言ったはずよ。私が芝居をしていると言ったのは近藤直樹よ。あなたが彼を信じることを選んだなら、相応の代償を払わなきゃ」

目の前の人は一瞬で力が抜け、そのまま床にへたり込んだ。私の服の袖を掴み、泣きじゃくりながら言った。

「直樹に両親が殺されたことを......どうやって伝えればいいか分からない......頼むから、君が伝えてくれないか?」

断ろうと思ったが、ふと頭に閃いたので引き受けた。

警察署を出ると、すぐに弁護士に電話をかけた。

「井上弁護士、今すぐ離婚届がほしいの。用意をお願いします。その後の離婚裁判もよろしくお願いします」

電話を切ると、私は近藤直樹の家へ急いだ。その途中で離婚届を取った。

家に着くと、近藤直樹と七瀬がちょうど帰ってきたところだった。近藤直樹は疲れた顔で一晩中寝ていないようだった。

私は少し驚いて、探るように聞いた。

「もう......知ってるの?」

七瀬は我が物顔で私のベッドに座り、不機嫌そうに言った。

「何を知ってるって?直樹は病院で私の世話をして心配してくれていたから、徹夜したのよ」
Locked Chapter
Continue Reading on GoodNovel
Scan code to download App

Related chapters

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第5話

    私は離婚届を近藤直樹の目の前に広げ、静かに言った。「疲れたの。離婚しましょう」近藤直樹の顔色が冷たくなった。彼は嘲笑するように言った。「本気で言ってるのか?」私は言った。「本気よ」彼はペンを取り、軽い口調で言った。「喜んで受け入れるさ。ただし、後悔しないでくれよ。離婚した後、毎日うちに泣きに来るなんてことはやめてくれ。うっとうしい」私は少し笑った。「絶対にないわ」近藤直樹はさっとサインを書いた。「待って!!!」桜井七瀬は離婚届に一目散に目をやると、顔色が一変し、悲鳴を上げた。「直樹!財産分与のところを見て!この女、両親の遺産を全部持っていこうとしてる。許さない!!!」近藤直樹は書類を手に取り、驚いて私を見た。「速水真帆。まさか、こんなに欲深いとは思わなかったよ。あれは俺の両親だ。遺産をお前に残すわけがない!」私は軽くため息をついた。「信じるか信じないかは別として、両親が亡くなる前の遺言はそう言っていたのよ」近藤直樹は目を真っ赤にした。憎々しそうに私を見つめた。「証拠はあるのか?」私には確かに証拠がなかった。私は2通目の離婚届を取り出した。そこには私が何ももらわずに出ていくと明確に書かれていた。その書類を彼の前に置いた。「両親の遺産がなくても、ちゃんと生きていけるわ。両親の言葉を信じるなら1通目にサインして。信じないなら2通目にサインして。私は近藤家に借りはないから」近藤直樹はその場に立ったまま、なかなかペンを取ろうとしなかった。近藤直樹の携帯が振動した。かけてきたのは叔父だった。彼は疑わしそうに電話に出ると、向こうの人の嘆きの声が部屋中に響き渡った。「直樹、早く斎場に来てくれ!お前のお父さんとお母さんが殺されたんだ。お姉さんが死んだ......お姉さんが死んじゃったよ!」言葉を続けるうちに、声は嗚咽に変わり、最後には泣き崩れた。桜井七瀬は慌てて近藤直樹の手を取った。少し後ろめたそうに言った。「直樹、叔父さんの演技、すごくうまいわね。真帆姉さんが何か薬でも飲ませたのかしら。ここまであなたを騙せるなんて......」近藤直樹は何も言わなかったが、顔色はどんどん悪くなっていった。不安な予感が心の中でぐるぐる回っていた。私は近藤直樹に言った。「伝え

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第6話

    近藤が選択しなかったことを、私が選んだ。この数年で私は起業し、今ではそれなりの会社になった。義理の両親が遺産を私に残してくれたが、彼と財産を争うつもりはない。両親を亡くし、彼は本当に哀れだ。孤児と争う理由なんてない。私は丸裸で出ていくことを選び、その後の数日で弁護士と調整した。最後に近藤の同意を得るだけだった。葬儀場に着くと、中は不快なタバコの臭いが充満していた。近藤の叔父は一晩で数十歳も老けたように見え、目は充血し、私を見るなり救世主のように飛びついてきた。「真帆ちゃん、直樹を見捨てないと思ってたよ!奥にいるから、早く説得してあげて......」私は嫌な予感がして、急いで葬儀場に入った。ドアを開けると、床に転がっているものにつまずいた。いや、ものというより、生気を失った人だ。「近藤!?」私は驚いて叫び、目の前で自暴自棄に横たわる彼を信じられなかった。彼の目は虚ろで、一晩で白髪になり、知らない人が見たら死んだのは彼だと思うだろう。「真帆?」彼は床から這い上がり、高価な服は汚れ、袖には吸殻が付いていた。「やっと来てくれた?来てくれてよかった、よかった......まだ君がいてくれて......」私は見下ろすように彼を見つめ、硬い口調で言った。「勘違いしないで。離婚の話をしに来たの」彼の目は信じられないという表情を浮かべ、無意識に私の袖を掴んだ。「そんなはずない!まだ俺を愛してるんだろ?」「ごめん、本当に間違ってた。桜井と付き合うべきじゃなかった、君を怒らせるべきじゃなかった......桜井はこの間一度も見舞いに来なかったのに、君だけが俺のことを気にかけてくれてる......」彼の目は次第に陰険になった。「両親が生きてた時は、親戚は皆近づいてきたのに、死んだ途端葬式にも来ない。皆両親の遺産を狙ってる......」私は冷たく言った。「そんなの私には関係ない。離婚届にサインしてほしいだけ」近藤は震える手でペンを取り、全身の力を振り絞って四文字書いた途端、気を失った。私は彼を病院に運ぶこともせず、踵を返した。この男とは、もう何の関係もない。

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第7話

    自分のことを片付けてから、実家で数日休養した。両親は私と近藤のことを責めず、ただこの数年虐待を受けていなかったか心配してくれた。心が温かくなり、当時なぜ一人で勇気を出して近藤と結婚したのかと後悔した。私には愛してくれる両親がいて、自分の仕事と学業もあった。私は十分で幸せな人生を送っていたのに、どうして「結婚」という泥沼に足を踏み入れてしまったのだろう。私は笑いながら両親に言った。「私の人生は今からやっと本当の意味で始まるの。もう誰のためにも生きない」数日後、警察から電話があった。近藤が人を殺し、今は刑務所にいるという。私は面倒くさそうに警察に聞いた。「すみません、それと私になんの関係があるんですか?」「真帆さん、犯人はあなたに会いたいと名指しで言っています。あなたに会えなければ自殺すると言っているんです」私は眉をひそめた。「彼が死のうが私に関係ありませんよ」結局警察に説得され、私は不機嫌に刑務所へ向かった。近藤は強化ガラス越しに私を見つめ、目は赤く充血し、私を見た瞬間涙が止まらなくなった。彼は完全に正気を失ったように、口では繰り返し言うだけだった。「ごめん、離婚しないで......」私は冷たく彼を見つめ、聞いた。「桜井を殺したの?」「あいつは死ぬべきだ!」近藤は突然我を忘れ、怒鳴った。「両親を殺したのはあいつのせいだ!あいつがいなければ、俺がこんな状況に陥ることなんてなかった!」私はようやく事の顛末を知った。当時近藤は命の恩人である私と結婚せざるを得なかったが、桜井が帰国した後嫉妬のあまり発狂しそうになった。彼女は密かに人を雇って近藤の両親を誘拐し、近藤に離婚させ自分が名実ともに近藤の妻になるよう脅迫した。しかし彼女の読みは外れた。彼女が雇った誘拐犯は3人いたが、そのうちの1人は以前から近藤家の財産を狙っていた。彼は本気でその4億円が欲しかったのだ。桜井は狭量で、どうしても金を払おうとせず、誘拐犯を罵倒した。誘拐犯は憤慨して近藤の両親を殺害し、金を盗んで逃走したが、逃走中に捕まってしまった。私は無表情でうなずき、眼前の狂った男を見つめた。数日前まで豪華な御曹司だったとは思えない。「で、あなたが私にそれを話す目的は何?同情してほしいの?」私は冷笑した。「

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第1話

    近藤直樹が初恋の女・桜井七瀬と会っている時、私は丁度誘拐犯から電話を受けた。「4億円だ!1時間以内に用意しろ。1時間後に中央大橋の橋の下に金を置いとけ。警察に知らせたら人質は殺すぞ!」前世の経験から、私はスピーカーホンにして直樹にも聞こえるようにした。振り返ると、直樹の顔は暗く歪んでいた。彼は嘲笑した。「真帆、よくもまあそんな厚かましいことができるな。七瀬を追い払うために、俺の両親を巻き込んで芝居を打つなんて」彼の想像する涙声を上げずに、私は冷ややかに言った。「私は演技などしていない。義理の両親が誘拐され、身代金4億円が必要なの。今すぐお金を下ろしてきて」直樹は冷ややかな目で私を見つめ、無表情にそう言った。「結婚しても俺の愛が得られないから、金をだまし取ろうってわけか」私たちは20年来の付き合いだ。子供の頃、私が彼の命を救ったことから、両親の間で婚約が決まった。しかし直樹は私の境遇を見下していることは分かっていたし、留学中の初恋の女性・七瀬のことを忘れられないのも知っていた。それでも私は彼を愛していたから、気にしなかった。結婚前、もし直樹が望まないなら、今ならまだ婚約を解消して七瀬のもとへ行けると伝えた。彼は私を一瞥もせず、ただ淡々と「俺は自発的にやっている」と言うだけだった。結婚後、直樹はさらに冷淡になった。彼を知ってから一度も、彼は私を正面から見てくれたことがない。これが彼の性格なだけで、心の中では私を愛しているのだと自分を慰めていた。しかし七瀬が帰国した時の直樹の嬉しそうな笑顔を見て、私は心に深い傷を負った。結局のところ、彼は一度も私の味方になってくれなかった。私は徐々に冷静さを取り戻し、冷たい目で直樹を見つめた。もう彼に期待はしない。唇を震わせながら、冷静に言った。「私はあなたのお金を騙し取ろうなんて、これっぽちも考えたことはありません。そんな卑劣なことは絶対にしません」「信じる信じないはあなた次第ですが、今あなたの両親は誘拐されています。芝居なんかじゃありません」「私を信じるなら一緒に警察に行きましょう。信じないなら邪魔しないでください。私は人命を助けに行きます」 私の異様なまでの冷静さと、直樹への我慢の限界が伝わったのか、彼はその場に立ち尽くした。そっと七瀬を退けてドアに向かおう

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第2話

    誘拐犯から警察に通報しないよう言われたが、私は良く考えた末、通報することにした。専門的な事は専門家に任せるべきだ。通報を済ませると、私は大股で警察署に向かった。署に着く前、知人から電話があった。発信者を見て眉をひそめ、通話ボタンを押す。 「チッ」直樹の従兄弟、青山隆だ。相変わらず私に不機嫌そうな声で言った。「イタズラ電話って楽しいか?直樹兄さんはどこが悪いか。どうしてそんなつまらないことをするんだ?」直樹の親族は皆私を見下している。優しくしてくれるのは義父母だけだ。だからこそ、二人を助けなくては。 私は冷静に言った。「青山さん、直樹さんから私がイタズラ電話をしたって聞いたの?」向こうの沈黙が私の推測を裏付けた。私は冷笑する。「警官のくせに、市民からの通報を無視して私をバカにするなんて。このまま動かないなら、あんたを告発するわよ」青山はもう取り繕うこともせず、大声で怒鳴った。「直樹兄さんと結婚したからって調子に乗るな!お前なんか田舎者の貧乏人じゃないか。近藤家に入り込んだこと自体が不幸だ。お前なら今すぐ死ねばいい!」 「桜井七瀬が急に海外へ行かなかったら、直樹兄さんがお前なんか選ぶわけないだろ。夢見るな、売女め。お前は七瀬の爪の垢を煎じて飲む程度がお似合いだ」無表情で電話を切り、もう一度110番。ついでに青山も告発した。 ......警察署に着くと、私は義父母が誘拐された経緯を詳しく説明し、犯人から掛かってきた電話の録音と番号も提出した。捜査員が至急調べたが、難しい顔をしている。 電話の録音から犯人が声を変えていたことがわかった。携帯電話番号も未登録で、向こうからしか掛けられず、こちらからは連絡も位置特定もできない。「私の口座に2億円ある。まずはそれを」財布からカードを取り出そうとして、私は表情を曇らせた。 カードは真っ二つに折られ、中の資金も凍結されていた。深呼吸をして、会社の秘書に電話をかける。「10分以内に会社の金をいくら用意できる?」 「3億円なら。すぐ送金して」犯人を追跡できないなら、要求に応じるしかない。4億円は大金だが、義父母の命と引き換えなら安いものだ。まだ1億円足りない。頭の中で人選を考え、すぐに直樹の叔父に電話した。 「叔父さん、直樹の両親が誘拐され

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第3話

    電話を切った警官は難しい顔で首を振った。犯人から直接電話があっても、位置特定はできないらしい。振り返ると、丁度通りかかった青山隆の姿が目に入った。彼は全てを聞いていて、顔面蒼白になっている。「義姉さん......直樹兄さんの両親が本当に誘拐されたの?でも直樹兄さんは義姉さんと芝居をしてるって言ってたのに......」私は彼に構っている暇はない。直樹に電話して真相を伝えるよう言った。焦りながら時計を見る。直樹の叔父の経済力なら、1億円を送金するのにそんなに時間はかからないはずだ。しばらくして、叔父に電話をかけた。「真帆ちゃん?」私が口を開く前に、向こうは深いため息をついた。「嘘をつくのはよくないよ、真帆ちゃん。直樹の家族で、君を心から迎え入れてくれたのは両親だけだったね。君を可哀想だと思って、もっと親身になろうとしたけど......哀れな人には憎むべき点もあるんだね。嘘ばかりつくから、直樹みたいないい子にも嫌われるんだよ」私の顔から血の気が引いた。どうあがいても1億円は集まらないことを悟った。「叔父さん、直樹さんから私が芝居をしてるって聞いたの?」私は少し焦った口調で言った。「私を信じなくてもいいです。でも今、警察が私の隣にいて、私が本当のことを言ってるって証明してくれます......」直樹の叔父はため息ばかりついて、私の言葉を遮った。「警官のふりをする人を雇って俺を騙す必要はないよ。今日は騙せたとしても、自分自身を騙し続けられるかい?真帆ちゃん、君が直樹を愛していて手放したくないのはわかる。でも直樹には好きな人がいて、その人も戻ってきたんだ......もし本当に辛いなら、直樹と離婚したらどうかな......」私は言葉を最後まで聞かずに、顔面蒼白で電話を切った。今、義理の両親の命が危険に晒されているのに、なぜ親族は皆、これを私が直樹に難癖をつけるためにやっていると思うのだろう?その時、隆がようやく直樹に電話がつながった。「直樹兄さん、聞いて!今、非常事態なんだ。叔父さんと叔母さんが本当に誘拐されて......警察が......」言い終わる前に、向こうからだらけた声が聞こえてきた。どうやら電話に出たのは七瀬らしい。「隆、あんたまで真帆に付き合って芝居をするようになったの?いくら貰ったか言って

Latest chapter

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第7話

    自分のことを片付けてから、実家で数日休養した。両親は私と近藤のことを責めず、ただこの数年虐待を受けていなかったか心配してくれた。心が温かくなり、当時なぜ一人で勇気を出して近藤と結婚したのかと後悔した。私には愛してくれる両親がいて、自分の仕事と学業もあった。私は十分で幸せな人生を送っていたのに、どうして「結婚」という泥沼に足を踏み入れてしまったのだろう。私は笑いながら両親に言った。「私の人生は今からやっと本当の意味で始まるの。もう誰のためにも生きない」数日後、警察から電話があった。近藤が人を殺し、今は刑務所にいるという。私は面倒くさそうに警察に聞いた。「すみません、それと私になんの関係があるんですか?」「真帆さん、犯人はあなたに会いたいと名指しで言っています。あなたに会えなければ自殺すると言っているんです」私は眉をひそめた。「彼が死のうが私に関係ありませんよ」結局警察に説得され、私は不機嫌に刑務所へ向かった。近藤は強化ガラス越しに私を見つめ、目は赤く充血し、私を見た瞬間涙が止まらなくなった。彼は完全に正気を失ったように、口では繰り返し言うだけだった。「ごめん、離婚しないで......」私は冷たく彼を見つめ、聞いた。「桜井を殺したの?」「あいつは死ぬべきだ!」近藤は突然我を忘れ、怒鳴った。「両親を殺したのはあいつのせいだ!あいつがいなければ、俺がこんな状況に陥ることなんてなかった!」私はようやく事の顛末を知った。当時近藤は命の恩人である私と結婚せざるを得なかったが、桜井が帰国した後嫉妬のあまり発狂しそうになった。彼女は密かに人を雇って近藤の両親を誘拐し、近藤に離婚させ自分が名実ともに近藤の妻になるよう脅迫した。しかし彼女の読みは外れた。彼女が雇った誘拐犯は3人いたが、そのうちの1人は以前から近藤家の財産を狙っていた。彼は本気でその4億円が欲しかったのだ。桜井は狭量で、どうしても金を払おうとせず、誘拐犯を罵倒した。誘拐犯は憤慨して近藤の両親を殺害し、金を盗んで逃走したが、逃走中に捕まってしまった。私は無表情でうなずき、眼前の狂った男を見つめた。数日前まで豪華な御曹司だったとは思えない。「で、あなたが私にそれを話す目的は何?同情してほしいの?」私は冷笑した。「

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第6話

    近藤が選択しなかったことを、私が選んだ。この数年で私は起業し、今ではそれなりの会社になった。義理の両親が遺産を私に残してくれたが、彼と財産を争うつもりはない。両親を亡くし、彼は本当に哀れだ。孤児と争う理由なんてない。私は丸裸で出ていくことを選び、その後の数日で弁護士と調整した。最後に近藤の同意を得るだけだった。葬儀場に着くと、中は不快なタバコの臭いが充満していた。近藤の叔父は一晩で数十歳も老けたように見え、目は充血し、私を見るなり救世主のように飛びついてきた。「真帆ちゃん、直樹を見捨てないと思ってたよ!奥にいるから、早く説得してあげて......」私は嫌な予感がして、急いで葬儀場に入った。ドアを開けると、床に転がっているものにつまずいた。いや、ものというより、生気を失った人だ。「近藤!?」私は驚いて叫び、目の前で自暴自棄に横たわる彼を信じられなかった。彼の目は虚ろで、一晩で白髪になり、知らない人が見たら死んだのは彼だと思うだろう。「真帆?」彼は床から這い上がり、高価な服は汚れ、袖には吸殻が付いていた。「やっと来てくれた?来てくれてよかった、よかった......まだ君がいてくれて......」私は見下ろすように彼を見つめ、硬い口調で言った。「勘違いしないで。離婚の話をしに来たの」彼の目は信じられないという表情を浮かべ、無意識に私の袖を掴んだ。「そんなはずない!まだ俺を愛してるんだろ?」「ごめん、本当に間違ってた。桜井と付き合うべきじゃなかった、君を怒らせるべきじゃなかった......桜井はこの間一度も見舞いに来なかったのに、君だけが俺のことを気にかけてくれてる......」彼の目は次第に陰険になった。「両親が生きてた時は、親戚は皆近づいてきたのに、死んだ途端葬式にも来ない。皆両親の遺産を狙ってる......」私は冷たく言った。「そんなの私には関係ない。離婚届にサインしてほしいだけ」近藤は震える手でペンを取り、全身の力を振り絞って四文字書いた途端、気を失った。私は彼を病院に運ぶこともせず、踵を返した。この男とは、もう何の関係もない。

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第5話

    私は離婚届を近藤直樹の目の前に広げ、静かに言った。「疲れたの。離婚しましょう」近藤直樹の顔色が冷たくなった。彼は嘲笑するように言った。「本気で言ってるのか?」私は言った。「本気よ」彼はペンを取り、軽い口調で言った。「喜んで受け入れるさ。ただし、後悔しないでくれよ。離婚した後、毎日うちに泣きに来るなんてことはやめてくれ。うっとうしい」私は少し笑った。「絶対にないわ」近藤直樹はさっとサインを書いた。「待って!!!」桜井七瀬は離婚届に一目散に目をやると、顔色が一変し、悲鳴を上げた。「直樹!財産分与のところを見て!この女、両親の遺産を全部持っていこうとしてる。許さない!!!」近藤直樹は書類を手に取り、驚いて私を見た。「速水真帆。まさか、こんなに欲深いとは思わなかったよ。あれは俺の両親だ。遺産をお前に残すわけがない!」私は軽くため息をついた。「信じるか信じないかは別として、両親が亡くなる前の遺言はそう言っていたのよ」近藤直樹は目を真っ赤にした。憎々しそうに私を見つめた。「証拠はあるのか?」私には確かに証拠がなかった。私は2通目の離婚届を取り出した。そこには私が何ももらわずに出ていくと明確に書かれていた。その書類を彼の前に置いた。「両親の遺産がなくても、ちゃんと生きていけるわ。両親の言葉を信じるなら1通目にサインして。信じないなら2通目にサインして。私は近藤家に借りはないから」近藤直樹はその場に立ったまま、なかなかペンを取ろうとしなかった。近藤直樹の携帯が振動した。かけてきたのは叔父だった。彼は疑わしそうに電話に出ると、向こうの人の嘆きの声が部屋中に響き渡った。「直樹、早く斎場に来てくれ!お前のお父さんとお母さんが殺されたんだ。お姉さんが死んだ......お姉さんが死んじゃったよ!」言葉を続けるうちに、声は嗚咽に変わり、最後には泣き崩れた。桜井七瀬は慌てて近藤直樹の手を取った。少し後ろめたそうに言った。「直樹、叔父さんの演技、すごくうまいわね。真帆姉さんが何か薬でも飲ませたのかしら。ここまであなたを騙せるなんて......」近藤直樹は何も言わなかったが、顔色はどんどん悪くなっていった。不安な予感が心の中でぐるぐる回っていた。私は近藤直樹に言った。「伝え

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第4話

    警察署で事情聴取を終え、私は帰ろうとしていた。すると、直樹の叔父とばったり出くわした。どうやら警察は既に彼に連絡したようだ。私を見つけると、彼は思わず鼻で笑った。「面白いか?わざわざ芝居を打って、警察にお金を払って俺を騙すつもりか?」私は視線を下に落とし、もう彼を見なかった。「私がそんな力があって、警察に賄賂を贈って芝居に付き合ってもらえると思う?両親の遺体は既に斎場に運ばれた。今すぐ近藤直樹に連絡して、さっさと斎場に向かうように伝えて」私の隣にいる警官たちが皆重い顔をしているのを見て、叔父の顔色が一気に曇った。「お前......冗談はよせ。そんな冗談は全然面白くない」「真帆、叔父さんに芝居だと言ってくれ!騙されているんだと!早く冗談だと言ってくれ。叔父さんは絶対怒らないから!」私は冷静に、目の前で次第に錯乱していく男を見つめ、深いため息をついた。何か慰めの言葉をかけようと思ったが、彼は突然狂ったように怒鳴り始めた。「お前のせいだ!なぜ言わなかった?芝居じゃないと言わなかったのはなぜだ!お前が二人を殺したんだ。お前は殺人犯だ!」同情の眼差しは一瞬で冷たいものに変わり、声も硬くなった。「言ったはずよ。私が芝居をしていると言ったのは近藤直樹よ。あなたが彼を信じることを選んだなら、相応の代償を払わなきゃ」目の前の人は一瞬で力が抜け、そのまま床にへたり込んだ。私の服の袖を掴み、泣きじゃくりながら言った。「直樹に両親が殺されたことを......どうやって伝えればいいか分からない......頼むから、君が伝えてくれないか?」断ろうと思ったが、ふと頭に閃いたので引き受けた。警察署を出ると、すぐに弁護士に電話をかけた。「井上弁護士、今すぐ離婚届がほしいの。用意をお願いします。その後の離婚裁判もよろしくお願いします」電話を切ると、私は近藤直樹の家へ急いだ。その途中で離婚届を取った。家に着くと、近藤直樹と七瀬がちょうど帰ってきたところだった。近藤直樹は疲れた顔で一晩中寝ていないようだった。 私は少し驚いて、探るように聞いた。「もう......知ってるの?」七瀬は我が物顔で私のベッドに座り、不機嫌そうに言った。「何を知ってるって?直樹は病院で私の世話をして心配してくれていたから、徹夜したのよ」

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第3話

    電話を切った警官は難しい顔で首を振った。犯人から直接電話があっても、位置特定はできないらしい。振り返ると、丁度通りかかった青山隆の姿が目に入った。彼は全てを聞いていて、顔面蒼白になっている。「義姉さん......直樹兄さんの両親が本当に誘拐されたの?でも直樹兄さんは義姉さんと芝居をしてるって言ってたのに......」私は彼に構っている暇はない。直樹に電話して真相を伝えるよう言った。焦りながら時計を見る。直樹の叔父の経済力なら、1億円を送金するのにそんなに時間はかからないはずだ。しばらくして、叔父に電話をかけた。「真帆ちゃん?」私が口を開く前に、向こうは深いため息をついた。「嘘をつくのはよくないよ、真帆ちゃん。直樹の家族で、君を心から迎え入れてくれたのは両親だけだったね。君を可哀想だと思って、もっと親身になろうとしたけど......哀れな人には憎むべき点もあるんだね。嘘ばかりつくから、直樹みたいないい子にも嫌われるんだよ」私の顔から血の気が引いた。どうあがいても1億円は集まらないことを悟った。「叔父さん、直樹さんから私が芝居をしてるって聞いたの?」私は少し焦った口調で言った。「私を信じなくてもいいです。でも今、警察が私の隣にいて、私が本当のことを言ってるって証明してくれます......」直樹の叔父はため息ばかりついて、私の言葉を遮った。「警官のふりをする人を雇って俺を騙す必要はないよ。今日は騙せたとしても、自分自身を騙し続けられるかい?真帆ちゃん、君が直樹を愛していて手放したくないのはわかる。でも直樹には好きな人がいて、その人も戻ってきたんだ......もし本当に辛いなら、直樹と離婚したらどうかな......」私は言葉を最後まで聞かずに、顔面蒼白で電話を切った。今、義理の両親の命が危険に晒されているのに、なぜ親族は皆、これを私が直樹に難癖をつけるためにやっていると思うのだろう?その時、隆がようやく直樹に電話がつながった。「直樹兄さん、聞いて!今、非常事態なんだ。叔父さんと叔母さんが本当に誘拐されて......警察が......」言い終わる前に、向こうからだらけた声が聞こえてきた。どうやら電話に出たのは七瀬らしい。「隆、あんたまで真帆に付き合って芝居をするようになったの?いくら貰ったか言って

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第2話

    誘拐犯から警察に通報しないよう言われたが、私は良く考えた末、通報することにした。専門的な事は専門家に任せるべきだ。通報を済ませると、私は大股で警察署に向かった。署に着く前、知人から電話があった。発信者を見て眉をひそめ、通話ボタンを押す。 「チッ」直樹の従兄弟、青山隆だ。相変わらず私に不機嫌そうな声で言った。「イタズラ電話って楽しいか?直樹兄さんはどこが悪いか。どうしてそんなつまらないことをするんだ?」直樹の親族は皆私を見下している。優しくしてくれるのは義父母だけだ。だからこそ、二人を助けなくては。 私は冷静に言った。「青山さん、直樹さんから私がイタズラ電話をしたって聞いたの?」向こうの沈黙が私の推測を裏付けた。私は冷笑する。「警官のくせに、市民からの通報を無視して私をバカにするなんて。このまま動かないなら、あんたを告発するわよ」青山はもう取り繕うこともせず、大声で怒鳴った。「直樹兄さんと結婚したからって調子に乗るな!お前なんか田舎者の貧乏人じゃないか。近藤家に入り込んだこと自体が不幸だ。お前なら今すぐ死ねばいい!」 「桜井七瀬が急に海外へ行かなかったら、直樹兄さんがお前なんか選ぶわけないだろ。夢見るな、売女め。お前は七瀬の爪の垢を煎じて飲む程度がお似合いだ」無表情で電話を切り、もう一度110番。ついでに青山も告発した。 ......警察署に着くと、私は義父母が誘拐された経緯を詳しく説明し、犯人から掛かってきた電話の録音と番号も提出した。捜査員が至急調べたが、難しい顔をしている。 電話の録音から犯人が声を変えていたことがわかった。携帯電話番号も未登録で、向こうからしか掛けられず、こちらからは連絡も位置特定もできない。「私の口座に2億円ある。まずはそれを」財布からカードを取り出そうとして、私は表情を曇らせた。 カードは真っ二つに折られ、中の資金も凍結されていた。深呼吸をして、会社の秘書に電話をかける。「10分以内に会社の金をいくら用意できる?」 「3億円なら。すぐ送金して」犯人を追跡できないなら、要求に応じるしかない。4億円は大金だが、義父母の命と引き換えなら安いものだ。まだ1億円足りない。頭の中で人選を考え、すぐに直樹の叔父に電話した。 「叔父さん、直樹の両親が誘拐され

  • 義理の両親が誘拐された後、かつての恋人を世話するために病院で魂を失った夫   第1話

    近藤直樹が初恋の女・桜井七瀬と会っている時、私は丁度誘拐犯から電話を受けた。「4億円だ!1時間以内に用意しろ。1時間後に中央大橋の橋の下に金を置いとけ。警察に知らせたら人質は殺すぞ!」前世の経験から、私はスピーカーホンにして直樹にも聞こえるようにした。振り返ると、直樹の顔は暗く歪んでいた。彼は嘲笑した。「真帆、よくもまあそんな厚かましいことができるな。七瀬を追い払うために、俺の両親を巻き込んで芝居を打つなんて」彼の想像する涙声を上げずに、私は冷ややかに言った。「私は演技などしていない。義理の両親が誘拐され、身代金4億円が必要なの。今すぐお金を下ろしてきて」直樹は冷ややかな目で私を見つめ、無表情にそう言った。「結婚しても俺の愛が得られないから、金をだまし取ろうってわけか」私たちは20年来の付き合いだ。子供の頃、私が彼の命を救ったことから、両親の間で婚約が決まった。しかし直樹は私の境遇を見下していることは分かっていたし、留学中の初恋の女性・七瀬のことを忘れられないのも知っていた。それでも私は彼を愛していたから、気にしなかった。結婚前、もし直樹が望まないなら、今ならまだ婚約を解消して七瀬のもとへ行けると伝えた。彼は私を一瞥もせず、ただ淡々と「俺は自発的にやっている」と言うだけだった。結婚後、直樹はさらに冷淡になった。彼を知ってから一度も、彼は私を正面から見てくれたことがない。これが彼の性格なだけで、心の中では私を愛しているのだと自分を慰めていた。しかし七瀬が帰国した時の直樹の嬉しそうな笑顔を見て、私は心に深い傷を負った。結局のところ、彼は一度も私の味方になってくれなかった。私は徐々に冷静さを取り戻し、冷たい目で直樹を見つめた。もう彼に期待はしない。唇を震わせながら、冷静に言った。「私はあなたのお金を騙し取ろうなんて、これっぽちも考えたことはありません。そんな卑劣なことは絶対にしません」「信じる信じないはあなた次第ですが、今あなたの両親は誘拐されています。芝居なんかじゃありません」「私を信じるなら一緒に警察に行きましょう。信じないなら邪魔しないでください。私は人命を助けに行きます」 私の異様なまでの冷静さと、直樹への我慢の限界が伝わったのか、彼はその場に立ち尽くした。そっと七瀬を退けてドアに向かおう

Scan code to read on App
DMCA.com Protection Status