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第68話
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永遠の毒薬 第69話
乃亜は紗希の手を引いて後ろに隠し、凌央と目を合わせた。「凌央、あなたも一応は頭がいい商人でしょう？他人を疑う前に、まず証拠があるかを考えてみなさい。それに、このレストランには監視カメラがあることを知っているはず。もし紗希がやったと思うなら、まずはカメラの映像を確認して、責めることができるようになったら、責めてください！」乃亜はゆっくりと話した。もし凌央がすぐに顔を赤らめて怒り出したら、彼女は思わず「頭を使ってから行動して！」と言ってやりたかった。美咲は必死に凌央の服を引っ張り、焦った様子で言った。「凌央、本当に私が自分でうっかり転んだだけなの。誰のせいでもないわ！」実際、あれはわざと転んだのだ。凌央は美咲を見下ろし、「怖がらなくていい。俺が守るから、正直に言ってごらん」と言った。乃亜はその優しげな言葉に胸が痛くなった、顔が少し青ざめた。彼らは夫婦で、毎日一緒に寝ている。最も親密な時間を共にしているはずなのに、今、目の前に立っている彼は、美咲にしか目を向けず、まるで彼女には気づいていないかのようだ。紗希は乃亜の変化に気づき、急いで手を握りしめ、低い声で言った。「乃亜、もう何も言わないで。お願い、冷静になって」彼女の手のひらは冷たく、乃亜の心もまるでその手のように冷たいのかと思った。紗希は少し心配になった。深く息を吐き出してから、紗希は凌央に向かって言った。「凌央さん、私があなたに偏見を持たれているのはわかっていますが、さっき私が通り過ぎたとき、確かに彼女には触れていませんでした。信じないなら、カメラの映像を確認してみてください！」もし乃亜を巻き込む心配がなければ、今すぐにでも美咲を引き裂いてやりたかった。あんなやり方、本当に腹が立つ。すぐに罠を仕掛けようとするなんて。凌央の視線は乃亜に向けられ、「乃亜弁護士も同じ考えか？」と冷たく尋ねた。さっきまでは「乃亜」と呼んでいたのに、今では「乃亜弁護士」だ。乃亜の胸が痛む。凌央はわざと彼女との距離を取ろうとしているのだろうか。「何も言わないのか？もしかして心当たりがあるのか？」美咲の心臓は激しく打ち、凌央の服を必死に引っ張りながら、「凌央、本当に自分で転んだだけよ！他の誰のせいでもないわ！お願い、監視カメラを確認しないで！私を座らせてくれる？」と言った。
永遠の毒薬 第70話
「監視カメラを確認しなくても、ここで義姉さんの素晴らしいパフォーマンスが見れるから！」彼女は「義姉さん」という言葉をわざと強調した。美咲は心の中で焦った。まさか乃亜が動画を撮っていたとは思っていなかった。あの女、本当に卑劣だ！本当に計算が高い！今の状況は完全に不利だ！どうしよう？気絶でもしようか？お腹が痛いと言い張るか？でも、それらはもう使い古した手段だ。何度も使ったら、すぐにバレてしまう。リスクが高すぎる！最終的に、美咲は覚悟を決めた。もうどうでもいいと思うことにした。なぜなら、誰が押したかなんて言ってないし、ずっと自分で転んだと言っている！紗希は乃亜に向かって親指を立て、「ナイス！ハニー！」と叫んだ。これであの陰険な女はもう何も言えなくなった！凌央は目を細め、乃亜の手に持っているスマホをじっと見つめ、冷気を発していた。美咲はその冷気を感じ取った、心の中で恐怖を抱いた。もし凌央が一気に怒って彼女を見捨てたら、これからどうすればいいのだろう？「自分で座って休めるか？」凌央は腰をかがめて美咲を地面に置いた、声を柔らかくした。美咲は彼の言葉に不安を感じつつ言った。「凌央......一人で帰りたくない」乃亜はスマホを美咲の顔に向けて撮影しながら言った。「お姉さんは、あなたと義弟が関係を持っていることをみんなに知られたがっているの？それとも、浮気相手になりたいの？」美咲は慌てて手で顔を隠し、「凌央、助けて！」と叫んだ。実は彼女は乃亜が騒げば騒ぐほど、むしろ自分に有利だと思っていた。そうすれば、乃亜が追い出されるだろう！凌央は美咲の手首を強く掴み、引き寄せ、目を赤くしながら言った。「乃亜、食事に呼んだのに来なかったのに、後からこっそり来て、俺と美咲が食事をしている動画を撮って、離婚の裁判で有利にしようとしているんだろう？そうだろう？」3年前、あなたは私を騙して結婚した。そして、3年後には私の財産を手に入れようとしている。素晴らしいやり方だ！彼がそう思ったのは、乃亜が離婚弁護士であることに敏感に感じていたからだ。乃亜は心臓が締めつけられるような痛みに襲われ、あっという間に顔色を失った後、手を上げて凌央の頬を打った。「あなた、最悪！私が離婚したいとしても、こんな方法で証拠を
永遠の毒薬 第71話
「謝罪しろ！」凌央は打たれた頬をさすりながら、低い声で言った。実際、彼は彼女に厳しく罰を与えようと思っていた。しかし、乃亜が悲しそうな顔をしているのを見て、その思いを抑えた。無意識のうちに、乃亜を悲しませたくなかった。乃亜は唇を噛んだ。彼女は悪くないのに！謝る必要なんてない！「謝罪しろ、二度言わせるな！」凌央はさらに強い口調で言った。彼が求めているのはただの「ごめんなさい」ではなく、彼女の屈服だった。紗希は急いで乃亜を引き離し、凌央に向かってお辞儀をした。「乃亜の代わりに謝ります。ごめんなさい！」これで凌央が乃亜を許してくれるかどうかは分からなかった。乃亜は目に涙を浮かべていた。紗希が謝るのは、凌央がわざと乃亜を困らせないようにするためだ。でも、凌央がどんな人間か分かっているのか。もし凌央が紗希を困らせたら、今日、紗希が無事で済むわけがない。息を大きく吸い込んで、心を落ち着けた後、乃亜は紗希を引き寄せ、急いで凌央に言った。「紗希を困らせないで！関係ないんだから！凌央、私が謝るから。ごめんなさい！」美咲は薄く笑いながら言った。「紗希さんと乃亜、本当に仲良しですね。謝ることまで助け合って。もし凌央があなたに死ねと言ったら、あなたも死ぬんですか？」これは明らかに紗希に対して言った言葉だった。今の豪門の世界の友達関係は、みんな偽物の姉妹みたいだね！美咲は、紗希と乃亜が本当に親友だとは信じていなかった。凌央の黒い瞳が乃亜の顔に向けられ、軽く笑った。「謝罪するのにその態度か？」その言葉には明らかに嘲笑が含まれていた。紗希は美咲が意図的に凌央を刺激しようとしていることを察して、急いで言った。「もし凌央さんが私に乃亜の代わりに死ねと言ってきたら、私は喜んで死にます！」彼女の命は乃亜に助けられたから、今度は自分が乃亜のために命を投げ出す覚悟だ。乃亜の目には涙が浮かび、紗希の手をしっかり握りしめ、「本当にバカだよ、紗希」と低く呟いた。紗希が自分のためにしてくれることを、乃亜は分かっている。でも、どうしても紗希に辛い思いをさせたくない。そのとき、周りの人々が小声で話し始めた。「え、あの人、桜華市で有名な離婚弁護士じゃないか？名前はなんだっけ？」「乃亜だよ。見た目もいいし、仕事もできる、桜華
永遠の毒薬 第72話
だって、まだ凌央に特効薬を頼まなければならないから。もし凌央を怒らせたら、薬をもらえなくなってしまう。そうなれば、祖母はずっと苦しみ続けることになる。それを考えると、胸が痛くなった。「うん、行こう」凌央はそう言って、すぐに背を向けて歩き出した。美咲は乃亜をひとめ睨んだ、その後急いで凌央を追いかけた。乃亜は二人の背中を見ながら、胸が痛くなった。凌央は美咲に対して本当に甘やかしている！紗希は急いで乃亜を引っ張って、食事のテーブルに向かって座った後、顔を近づけて小声で言った。「乃亜、今からサプライズがあるのよ！」乃亜は少し考えた後、二杯のお茶を注ぎ、紗希に一杯渡してから尋ねた。「サプライズって、何？」凌央と結婚してから3年が経った。彼女の生活はまるで止まった水のようで、全く波風が立たなかった。だから、彼女はサプライズに期待することなんてなかった。紗希はわざと謎めいた顔をして、「当ててみて！」と言った。乃亜は少し考えた後、「もしかしてプレゼントでもくれるの？」と微笑みながら言った。あと2日で彼女の誕生日だし、紗希がプレゼントを前もって渡す可能性もある。「違う！」紗希は首を振り、「物じゃない、人よ！」と言った。「人？まさか男の人を紹介してくれるの？」乃亜は冗談を言ってからすぐに笑った。彼女は既婚者だし、浮気なんてするはずがない。凌央は箸を握りながらも、食欲を失っていた。最近、乃亜は以前よりも冷静で、あまり彼の近くに来ないことに気づいた。彼女が話すときも、以前のように親密さを感じない。まるでただの普通の関係のようで、毎晩一緒に寝ている夫婦とは思えないほどだった。その考えをすぐに払いのけ、凌央は考えを整理して、お茶を一口飲んだ。お茶がどんな味か、まったく分からなかった。美咲は凌央が不機嫌だということを察し、思わず歯を食いしばった。乃亜が凌央の気分に影響を与えるのは、決して良い兆しではない！その時、誰かが店のドアを開けて入ってきた。その人物が通り過ぎるとき、凌央はその顔を見て、すぐに気づいた。拓海がここで食事をするのは偶然ではない。ふふっ......乃亜、この女、ほんとうに大胆だな！美咲は凌央の冷たい雰囲気を感じて、少し怖くなった。表面では凌央は彼女に優しくしているけ
永遠の毒薬 第73話
乃亜は一瞬ぼんやりして、それからようやく理解した。思わず自分を指さしながら聞いた。「私に？」拓海は静かにうなずいた。「もうすぐ誕生日だろう？明日から出張で、お祝いできそうにないんだ。だから、少し早いけどプレゼントを渡しておこうと思ったんだ」乃亜は軽く微笑んだ。「覚えていてくれたんだね。ありがとう。でも、気持ちだけ受け取るよ。プレゼントはもらえない」恵美が拓海を想っている以上、自分は彼と距離を取らなければならない。恵美が怒ったら、きっと面倒なことになる。それに、自分は今、凌央の妻だ。世間が知らなくても、それは事実だ。この結婚が続く間は、誰とも曖昧な関係になるつもりはない。乃亜の言葉を聞いて、拓海の胸に鈍い痛みが走った。しかし、表情には出さずに、静かに言った。「こんなの、ただの手作りの小物だよ。高価なものじゃないし、気にする必要はない」彼がデザインし、心を込めて作ったものだった。ずっと前から、乃亜に贈ろうと思っていたものだ。「拓海さん、私は......」乃亜が再び断ろうとしたその時、紗希が拓海の手から小さなジュエリーボックスを取り上げ、蓋を開けた。そこには、星をかたどったダイヤのピアスが輝いていた。「乃亜、星のピアスだよ。もらわないの？」紗希は小首をかしげながら聞いた。彼女は知っている。乃亜が昔から星を好きだったことを。きっと気に入るはずだ。拓海はグラスを握る手に力を込めた。彼は今でも覚えている。乃亜がまだ子供だった頃のこと。ピアノの練習の音がうるさいと叱られ、夜遅くに家を追い出された日。彼は必死に探し回り、やっと自宅の庭の芝生に横たわる乃亜を見つけた。星を見上げながら、乃亜は小さくつぶやいた。「お星さまにお願いしたの。叶うといいな......」「どんなお願い？」拓海がそう聞くと、乃亜はきらきらした瞳で言った。「星を二つちょうだい。そしたら、毎日お願いごとができるから！」「どうして二つ？」「一つだけだと、寂しいでしょ？二つなら、寄り添えるから幸せなんだよ」その言葉を、彼はずっと心に刻んでいた。なのに、プレゼントを渡す機会はいくらでもあったのに、いつも逃してしまった。まるで、自分と乃亜の関係のように。乃亜はそっとジュエリーボックスを手に取
永遠の毒薬 第74話
紗希は少し苛立って、遠くにいる凌央を横目で見た。さっき、乃亜の目が一瞬輝いたのを見逃さなかった。彼女はこのピアスを気に入っていた。でも、凌央がいるせいで受け取れなかった。凌央、この男、ほんとにうっとうしい！プレゼントのやり取りがひと段落し、三人は食事を始めた。なんとなく、気まずい沈黙が流れた。乃亜は箸を動かしながら、ぼんやりと考え事をしていた。すると、突然、胃がムカムカしてきた。彼女は慌てて箸を置き、口を手で覆いながら、「ちょっと、トイレ行ってくる！」そう言い残し、足早に席を立った。拓海は彼女の後ろ姿を見つめ、穏やかな顔にわずかに寂しさを滲ませた。紗希も乃亜の背中を見送ったが、彼女の事情を知っているだけに、席を立とうとしてやめた。乃亜は「できるだけ多くの人に知られたくない」と言っていた。もし誰かに利用されたら困るから。凌央は乃亜の動きを目で追いながら、箸を置き、静かに立ち上がった。「俺もトイレ」美咲が優しく微笑んだ。「うん、行ってらっしゃい」乃亜はトイレに駆け込み、勢いよく吐いた。妊娠が分かってから、こんなにひどく吐いたのは初めてだ。何度も何度も吐き、最後には胆汁まで込み上げてきた。ようやく落ち着いたころ、水道をひねり、口をすすいだ。身なりを整え、深呼吸をし、扉を開けると――目の前に、タバコを吸っている凌央がいた。乃亜は一瞬、表情を引き締めると、何もなかったかのように歩を速めた。しかし――すれ違いざまに、突然、手首を掴まれた。低くかすれた声が響いた。「乃亜、俺たちはまだ離婚してないんだぞ。それなのに、拓海とデートか？」乃亜はクスッと笑い、顔を上げた。「あなたこそ、美咲と一緒にベタベタしてるくせに？既婚者ってこと、すっかり忘れてるんじゃない？」本当に、自分勝手な男。「帰るぞ」凌央はタバコを指で押しつぶし、冷たく言った。彼と美咲の間には何もない。けど、いちいち説明する気にもなれない。「やだ、離して。あなたと一緒にいたくない」吐き気のせいで体がだるく、言い争う気力もなかった。凌央は鼻で笑った。「俺といたくない？じゃあ誰といたいんだ？拓海か？」その声には、怒りが滲んでいた。乃亜はウンザリしたようにため息をついた。
永遠の毒薬 第75話
乃亜は一瞬驚いたが、すぐに状況を理解した。そして、顔が少し熱くなった。「さっき、ちょっと唇を噛んじゃったの」実際には、凌央の唇を噛んだのだ。「はい、これで拭いて」紗希がティッシュを差し出した。拓海の黒い瞳は奥深く、彼が何を考えているのかは分からない。乃亜はティッシュを受け取り、口元を拭きながら、洗面所の前での凌央の突然の行動を思い出し、少しイライラした。凌央は私のこと、いったい何だと思ってるの？キスしたいからって、勝手にしていいわけ？周りにどう思われるかなんて、気にしてないの？もし美咲だったら、絶対にこんなことしないのに！「そういえば、乃亜、拓海さんがすごい案件を紹介してくれたの！もし時間あったら手伝ってくれない？一人じゃちょっと大変でさ」紗希が明るく言った。乃亜はティッシュを置き、紗希に向かって軽く頷いた。「いいよ。これからはたぶん暇になると思うし」美咲が桜華法律事務所に来たなら、案件を取られるのは目に見えている。きっと、今までみたいに忙しくはならないだろう。「えっ？桜華法律事務所、大丈夫？だって、あんたが暇になるなんて信じられない！」紗希は乃亜がどれだけ忙しく働いていたかを知っている。離婚する夫婦なんて、どこにそんなにいるのよ？「違うよ。桜華法律事務所は今、凌央が買収して、美咲が私の上司になったの」乃亜は苦笑した。「少し暇になるのも悪くないよ。ずっと裁判ばかりで、本当に疲れた」何年も離婚訴訟を担当し、愛し合っていたはずの夫婦が顔を真っ赤にして罵り合う姿を見てきた。だから、もし凌央と離婚することになったら、絶対にきれいに別れよう。醜く争うのは、もううんざりだ。「凌央のバカ！あの女に夢中になって、何も見えてないじゃん！ほんとムカつく！」紗希は怒り心頭で、今にも凌央をぶん殴りに行きそうな勢いだ。「まあまあ、いいじゃん。ちょっとした休暇だと思えば」乃亜は笑って肩をすくめた。「その分、紗希の仕事を手伝えるし。弁護士やるより、そっちのほうが楽だしね」「まったく、あんたって人は......あんな才能があるのに、なんで隠してるの？もし本気でやったら、私の事務所なんてあっという間に潰れるわよ！」紗希はため息をついた。「凌央のせいで、あんたが失ったもの
永遠の毒薬 第76話
乃亜の成長を見守っていた間に，拓海は家族に内緒で特別な先生を雇い、彼女にいろいろなことを教えた。琴、囲碁、書道、絵画、文武両道。拓海にとって、乃亜はずっと大切な存在だった。もし、あの年に乃亜が凌央に出会わなかったらなら。今ごろ彼女は田中家の妻になっていたのかもしれない。でも......紗希は乃亜の過去を知っている。だから、彼女が拓海に感謝するのは当然だった。乃亜が拓海と出会ったおかげで、愛されて大切にされながら成長できたのだから。そして紗希自身も、乃亜と出会ったからこそ、生きることができたのだ。「私に才能なんてなかった。ただ、拓海がお金をかけて先生を雇ってくれたから、その気持ちを無駄にしたくなくて、一生懸命頑張っただけ」過去を振り返ると、思うと乃亜が本当に幸せだったのは、拓海と一緒にいた時間だけだった。もし、あの時、凌央に出会っていなかったら。もし、彼に惹かれなかったら。私は、田中家の妻になっていたかもしれない。きっと幸せだっただろう。でも、現実に「もしも」なんてない。「さ、過去の話はやめ！ほら、ご飯を食べましょう！」乃亜の目が少し赤くなったのを見て、紗希は慌てて話題を変えた。拓海は黙ってお椀にスープを注ぎ、それを乃亜に差し出す。「飲んで」「拓海、ありがとう」乃亜は微笑みながら礼を言った。彼が自分を好きなのはわかっている。でも、もう過去には戻れない。二人の関係は、そこで終わっていた。凌央は、その光景をじっと見つめているところだった。乃亜が拓海に微笑みかけ、拓海が優しい目で乃亜を見つめた。その瞬間、胸の奥がざわついた。この女、まだ俺の妻だぞ？なのに、もう別の男に媚びを売っているのか？美咲は、凌央の切れた唇を見つめ、心の中で怒りで震えていた。さっき凌央が洗面所に行ったとき、乃亜も行ったんだ。この傷、間違いなく乃亜がやったに違いない！洗面所で凌央を誘惑してしまって、今度は拓海に媚びを売るなんて......信じられない！それぞれが心に複雑な思いを抱えながら、食事は静かに終わったものだった。食事の後、乃亜は紗希を誘ってショッピングに行こうとした。拓海は「用事がある」と言い、その場を去った。車に乗ると、彼はそっと小さな箱を開いた
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永遠の毒薬 第100話
凌央は眉をひそめ、ふと隣にいる乃亜に目を向けた。彼はずっと理解できなかった。なぜおじいさんが乃亜にこんなに偏っているのか！創世の株は言われた通りに渡し、蓮見家の伝家の宝物もあっさり送ってしまう。乃亜という女性は計算高く、心が冷たい。どこがいいのか、まったく分からない。「もうすぐ病院に到着する、いくつか話したいことがある」少し間を置いてから、凌央は言った。「乃亜も一緒に行く」乃亜もいると聞いて、おじいさんの声が突然柔らかくなった。「分かった、待っているよ」電話を切った後、凌央は深く息を吐いた。おじいさんが急に美咲を海外に送ろうとするのは、ただ事ではない！もし乃亜が裏で何かをしていることがわかったら、容赦しない！すぐに車は病院の前に到着した。凌央は手を伸ばして乃亜を降ろした。腕を強く握られて、乃亜は思わず眉をひそめた。「凌央、放して！」凌央は低い声で言った。「放して欲しいのか？逃げたいのか？」そう言いながら、少し力を緩めた。乃亜は振り向き、彼を見つめた。「さっき、祖母の主治医から特効薬について電話があった。あなたが言った通りに進めるつもりだから、信じて欲しい。私は美咲に謝りに行く、たとえ無実でも！」凌央は桜華市で権力を握る男だ。真実を調べるのは簡単なことだ。それでも、彼は美咲の一方的な言葉を信じ、真実を調べようとはしない。いくら言っても無駄だ。素直に謝れば、少しでも凌央に良い印象を与えられるかもしれない。次に薬を頼むときも楽になるだろう。二人の結婚生活がここまで来てしまって、考えるだけで悲しくなる。凌央は半目で低く警告した。「おじいさんの前では、ちゃんと話せ！」乃亜はその意味を理解し、胸が痛むが、それでも頷いて答えた。「分かった！」彼女は凌央に逆らいたくなかった。祖母の命が彼からの薬にかかっているからだ。凌央はもう一度彼女を見てから、歩き出した。乃亜は平底の靴を履いていたが、凌央の歩幅が大きく、歩く速度についていけない。「凌央、少しゆっくりできない？」息を切らせて、急いで言った。凌央は彼女をちらっと見て、顔をしかめて言った。「本当に足が短いな」乃亜は何も言わず、気にしないようにした。彼がどう言おうと、もうどうでもいい。どうせ、二人は長く一緒にいられない。二人はエレベー
永遠の毒薬 第99話
「美咲は妊娠している。それを助けることに何か問題でもあるのか？」凌央は気にした様子もなく言った。美咲はかつて彼を助けてくれた。今、彼女が困っているのであれば、助けるのは当然だ。乃亜はそんな凌央の言葉に、もう何も言う気力がなくなった。「じゃあ、証明書を交換するために私と一緒に行けばいい。あなたが彼女を助けるなり、結婚するなり、勝手にすればいいわ。私は財産も何もいらないから、すべて放棄する。こんなに大度な女性は他にいないと思うわ」乃亜は冷静に言った。凌央は彼女を冷たく見つめ、「乃亜......」と冷笑した。その瞬間、携帯電話が鳴り、凌央は言葉を呑み込んだ。乃亜は彼を見つめ、微笑みながら言った。「電話よ。出てあげて」彼女が言った通り、凌央は美咲に関しては何かと気にする。それがどうしても乃亜の心に引っかかる。「俺と美咲の間には何もない、余計なことを言うな！」凌央は乃亜を睨みつけた。彼女の言葉が、どうしても気に障った。「分かってるわ、あなたと美咲の間には何もない。でも......美咲が妊娠しただけよ！父親も分からない、つまり......望まれない子どもよ」乃亜は心の中で少し後悔した。未出生の子どもを非難するつもりはなかったが、凌央が何度も自分の限界を越えてきたから、どうしても言いたくなった。凌央はその言葉を聞いて、顔を真っ赤にして怒りをあらわにした。「乃亜、もう一度『望まれない子ども』なんて言ったら、ただでは済まさない！」乃亜は髪をかき上げながら言った。「あなた、私に対してもそんなに優しくないじゃない」美咲の名前を出すたびに、まるで尾を踏まれた猫のように激しく反応する。それでも、乃亜は怒りを抑えて、凌央と争うつもりはなかった。彼女は妊婦だから、感情をコントロールしないと、胎児に影響を与えかねない。凌央はそんな乃亜の様子を見て、少し驚いたように目をそらした。彼女が前と違う気がした。もしかして、彼女が言う通り、もう自分を愛していないのだろうか？携帯のベルが鳴り続け、凌央は仕方なく通話を受けた。「凌央、今どこにいるの？もう着いた？」美咲の声が涙で震えていた。凌央は少し眉をひそめて、「あと少しで着く」と答えた。乃亜と結婚して3年、彼女が泣くのを見たことはほとんどない。美咲はよく泣いていた。「おじいちゃんが
永遠の毒薬 第98話
美咲の件は、私がやったこと。おじいさんが怒って美咲を海外に送ることになったのも、私が告げ口したから。要するに、美咲に関することは全部私が関わっている。これが偏心ってもんだね。凌央は少し苛立った様子で、低い声で言った。「乃亜！ちゃんと説明しろ！」乃亜は怒りを抑え、顔の笑顔を消した。「凌央、私がおじいさんに電話をかけていないって信じないなら、もう何を説明すればいいの？」美咲に関することになると、凌央はまるで頭を使わずに、最も普通の考えすらしない。山本はすぐに車の仕切りを上げ、エンジンをかけた。蓮見社長が蓮見夫人にこんなふうに接するのは良くないと思っているが、どうにもできない。彼には蓮見社長を説得する力もないし、蓮見夫人を助けることもできない。時々、彼は蓮見夫人のことを気の毒に感じることがある。美咲の件で元々心が乱れていた凌央は、乃亜にそう言われて、怒りがすぐに爆発した。手を伸ばし、乃亜の首を強く掴んだ。「もし美咲に何かあったら、お前も一緒に後悔しろ！」首を掴まれ、乃亜の呼吸が苦しくなり、目を大きく開けて彼を見つめた。胸の中で痛みが走った。「凌央、あなたは私があなたを愛していることを利用して、何度も私を傷つけてきた！私の心は肉でできてるんじゃないの。痛いし、苦しい！凌央、もう一度言うけど、私が離婚したいのは本当！もう、あんたを愛していないのも本当よ！」彼女は一語一語を、力を振り絞って言った。昔は一生一緒になることを夢見ていた。でも今、気づいた。結婚生活では私だけが本気で心を捧げて、凌央は肉体だけで心はない。以前は、彼と一緒にいればそれで良いと思っていた。でも今、気づいた。尊厳のない愛なんて、大切にされるわけがない。涙を流している彼女の顔には、透明な涙が頬を伝い、破れたような印象を与えて、見ている者の胸を痛める。凌央は心に何かを感じ、無意識に手を離した。彼も怒りに任せて手を出してしまった。謝りたかったが、口から言葉が出なかった。乃亜は手で首を揉みながら、微笑んで言った。「わかってる、久遠家はこれまであなたからかなりの金額を受け取ったけど、離婚のときに借用書を書いて、ゆっくり返していくよ。離婚後の財産分けについても、私は潔く身を引くと約束する、何も欲しくない。凌央、もし明日暇なら、市役所で
永遠の毒薬 第97話
乃亜は顔を横に向けて彼を見、淡々と口を開いた。「どうして？」以前は凌央を愛して、24時間彼の側にいたいと思っていた。しかし、今、彼が言ったことを聞いた後、どうして彼にすがることができるのか？もちろん、できるだけ距離を置く方がいい。山本は乃亜の問いに答えられず、しばらく言葉を詰まらせた。まさか、凌央が怒っていることをそのまま言わなければならないのだろうか？「蓮見社長は忙しくないの？どうしてまだ車に乗らないの？先に行ってもいいよ？」乃亜は淡々とした表情で言った。「私も後で用事があるので、時間を無駄にしたくない」祖母の特効薬が1週間分届いた。これで少しは楽になるだろう。この1週間で、彼女は美咲に謝るべきだ。そして、心から謝るべきだ。美咲が彼女を陥れた件は、真相が明らかになった後で、きちんと仕返しをするつもりだ。「君子の仇討ちには、十年の猶予も長くない！」だ。山本は車の外をちらりと見て、思わず息を呑んだ。幸い、凌央は聞いていなかったようだ。そうでなければ、また乃亜が苦しむことになる。凌央はもちろん、乃亜の言葉を聞いていた。そして冷たく鼻を鳴らした。この女はなかなかやるな。自分の専属秘書まで凌央から彼女を引き離すなんて！車に腰を下ろしながら、冷たく乃亜を一瞥した。「後ろに座れ。話がある」乃亜は眉をひそめ、イライラしている。彼女は謝罪しに行くことを約束したのに。なぜ彼が怒っているのか、理解できない！「乃亜、もう一度言う。後ろに座れ！」凌央は言葉に力を入れて言った。乃亜は深く息を吸い、胸の中で溜まった怒りを抑え、「何を聞きたいの？直接聞けばいいじゃない。私、聞いてるから」と言った。彼女は今、彼に対して強い拒絶感を持っている。近づきたくない。「山本、薬を取り戻せ！」凌央は顔をしかめ、声が冷たくなった。乃亜は歯を食いしばり、拳を強く握りしめた。凌央は本当に最低だ！山本は恐る恐る、乃亜をちらりと見て、気を使いながら言った。「蓮見夫人、後ろに座った方がいいですよ」こんなことで手に入れた薬を無駄にしてはいけないから。乃亜は顔が青ざめ、胸の中で怒りが爆発しそうになった。凌央はわざと彼女を追い詰めている！けれど、彼女は強気に断ることができず、素直に車のドアを開けて降りた。冷たい風
永遠の毒薬 第96話
すぐに、山本がドアを開けて入ってきた。凌央は目を上げて彼の後ろを見て、眉をひそめた。「乃亜はどこだ？」山本は少し迷った後、答えた。「女性用トイレを探してきましたが、誰もいませんでした」山本の言葉が終わると、凌央の表情がすぐに暗くなった。「彼女に電話しろ！すぐに戻らせろ！さもなければ、後悔することになるぞ！」山本は一瞬彼を見たが、心の中で乃亜を心配していた。「蓮見夫人、一体何をしたのだろ。凌央がこんなに怒るなんて......」「早く電話しろ！」凌央は冷たく言った。その頃、乃亜は会社の下の花壇に座り、電話を受けていた。祖母の担当医が、1週間分の特効薬を届けたことを伝え、すでに祖母にその薬を使ったと報告してきた。医者によれば、祖母の精神状態は良好だという。その話を聞いた乃亜は、止まっていた涙がまた溢れ出すのを感じた。「すぐに祖母を見に行きます。ありがとうございます」「お礼なんていりません。薬を送ってくれた人に感謝してください」医者は謙虚に言った。乃亜は、その言葉から薬を送ってくれた人物が誰なのか分かっていた。しかし、彼には感謝しなかった。医者と祖母の病状について少し話をした後、乃亜はお礼を言って電話を切った。電話をかけようとしたその時、山本からの着信が入った。電話を受けると、山本が言った。「山本さん、何か？」乃亜は心の中で山本が何を伝えたくて電話をかけてきたのかは分かっていたが、あえて知らないふりをした。「蓮見夫人、迷子になったんですか？俺が迎えに行きますよ」山本は直接彼女がどこにいるのかを尋ねることなく、違う言い方をした。「私は下の花壇に座っている。あなたが下に来て」乃亜は心の中で凌央を憎んでいたが、祖母のことを思うと、従わざるを得なかった。もし彼に逆らったら、祖母に使った特効薬がすぐに取り上げられてしまう。それは祖母のためにもならないから、仕方なく彼の指示に従うことにした。「分かりました！」山本は電話を切ると、すぐに凌央にその内容を伝えた。凌央は眉をひそめた。あの女は一緒にいるのがそんなに嫌なのか？下で冷たい風に当たっている方がマシだというのか？「凌央様、下に行って奥様を迎えに行きますか？」山本は凌央の様子を見て、少し迷ったが、声をかけた。「お前は車を運転して、俺は少し片付けてから
永遠の毒薬 第95話
「乃亜、私はあなたが私を憎んでいることは分かっているけど、本当にあなたと話したいんだ！私が何かするなんて心配しないで！」美咲は真剣な口調で言った。乃亜は唇の端を少し上げ、「じゃあ、今すぐ凌央のオフィスに来て、私たち三人で話をしよう」と答えた。彼女は手を使うつもりはなかった。そうじゃなければ、美咲が今彼女の上に立っているはずがない。「凌央のところにいるの？何しに行った！」美咲の声は急に高くなり、焦っている様子が伝わった。「夫に会いに行くのは、夫婦として自然なことでしょ。あなたが焦る理由はないでしょ？」そう言って、乃亜は電話を切った。美咲が電話をかけてきた時点で、ろくなことがないと分かっていたので、わざわざ会う気はなかった。携帯を置いた後、乃亜は水を飲んで顔を洗い、手を拭いてから洗面所を出た。オフィスのドアの前に立つと、ドアの向こうから凌央の声が聞こえた。「俺が彼女と寝るのは、ただ生理的な欲求を満たすためだよ。だって、彼女は外の女よりもずっと清潔だし」「もし彼女が本当に離婚を言い出したら、どうするって？ふん、そんなことは絶対に許さない！あれだけ、俺が久遠家に何千万も投資して、彼女にもたくさんの金を使ってるんだから。もし離婚したら、俺の金も時間も無駄になる！それに、俺はまだ飽きてないから。飽きたら、法務部に頼んで裁判を起こさせて、彼女を丸裸にしてやるさ」その言葉を聞いた乃亜は、もう耐えられず、急いで背を向けてエレベーターへ向かって走り出した。エレベーターに乗り込むと、長い間抑えていた涙が止まらなくなり、頭の中であの男の言葉が何度も響き渡った。まさか......凌央が自分と寝たのは、ただの生理的な欲求を満たすためだった。そして、外の女よりも自分の方が「清潔」だからだなんて。離婚しない理由は、まだ飽きていないからだって？飽きたら、彼女を法律で追い詰めて、丸裸にするつもりだった。凌央は本当に商売の天才だ。自分の最後の価値を絞り取って、そしてまた捨てる。そんな男を、私は九年間も愛していたなんて。本当に、笑っちゃうわ！その頃、社長室で凌央は眉を揉みながら、少しイライラした様子で言った。「母さんの話は終わった？もう用があるから切るよ」「凌央、分かってると思うけど、今、蓮見家の他の家族が創世を狙って動い
永遠の毒薬 第94話
とにかく、真実が明らかになるまでは、すべての証拠が乃亜を犯人だと指し示している。それなら、彼女が背後で指示した人物だと見なされても仕方がない。美咲が告発すれば、乃亜は法的な責任を負うことになる。今やるべきことは、美咲に謝罪するだけで、何も複雑なことはない。乃亜は歯を食いしばりながら、一言一言をかみしめて言った。「凌央、考えたことがある？もし私があなたにこんなに傷つけられて、心が折れたら、いつかあなたから離れるかもしれないって」凌央は全く気にしなかった。「もしお前が本当に離れるつもりなら、とうの昔に離れているだろう。わざわざ三年も待たないはずだ」その言葉には、少し嘲笑が含まれていた。乃亜は胸が痛むのを感じた。凌央の言う通り、彼女は本当に離れたくなかった。何度も傷つけられたにもかかわらず、彼を留めるために必死に理由を作り続けた。以前はそれを愛だと思っていたが、今になって、それがいかに愚かなことだったのかを痛感していた。そして、その深い愛情が、凌央には全く価値がないものだと感じていた。「もし心配なら、今すぐ電話して薬を手配する。おばあさんに薬を使わせてから、謝罪しに行ってもいいぞ」凌央は、自分が大きな譲歩をしたつもりでいるようだった。乃亜が拒否すれば、それは愚かだと思っていた。「今すぐ電話して！薬を先に手に入れてからじゃないと、私の祖母が苦しむじゃない！」凌央がそう言った以上、乃亜は何も言えなかった。どんなに不満でも、祖母の健康が最優先だ。彼女は祖母が苦しんでいるのを見過ごすことはできなかった。それは親不孝だ。凌央は携帯を取り出し、電話をかけた。乃亜はその様子を見ながら、胸の中で決意を固めていた。電話を終えた凌央は手を伸ばして乃亜を引き寄せようとした。「薬はすぐに届くから、ここで待ってろ」乃亜は一歩後ろに下がり、凌央の手を避けながら言った。「私は祖母の担当医に薬のことを先に知らせておく」そう言って、急いでオフィスを出て行った。凌央はその背中を見つめながら、眉をひそめた。たかが謝罪するだけじゃないか。土下座するわけじゃないし、そんなに嫌がる理由がわからない。オフィスを出た乃亜は、急に胃がムカムカしてきて、口を押さえながら急いでトイレに駆け込んだ。しばらく吐き続け、ついには胆汁まで吐き出しそうだった。
永遠の毒薬 第93話
凌央は唇を噛み、淡々と答えた。「わかった」「じゃあ、乃亜が謝ってくれたら、私が警察に行って告発を取り下げるわ。凌央、どう思う？」美咲は明らかに媚びた口調で言った。凌央は乃亜を一瞥し、「わかった、まずはそのままでいい」と答えた。「凌央......」美咲は言いたそうな顔をしたが、結局何も言わなかった。「まだ何か言いたいことがあるのか？」凌央は低い声で尋ねた。乃亜は思わずその顔を見てしまった。胸元が水で濡れて体にぴったりと貼り付き、禁欲的でありながらもどこかセクシーだった。乃亜は、数年前、初めて凌央を見た時のことを思い出した。彼の美しさにすぐに引き込まれ、完全に心を奪われた。今思い返すと、当時の自分は本当に浅はかだった。美咲は少し躊躇した後に言った。「乃亜が私の電話番号をブロックして、全然連絡が取れないの」凌央は目を細めて、「俺が連れて行く」と答えた。「凌央、もし乃亜が行きたくないって言ったら？」美咲は心配そうに尋ねた。「間違ったことをしたなら、きちんと責任を取らないとだろ。もういい、俺はこの件を手配するから、お前はゆっくり回復に専念してくれ」凌央は冷静に言った。「凌央、もし乃亜が嫌がっても無理強いしないでね」美咲は心配そうに言った。「今すぐ彼女を連れて行く！」凌央は冷たく答えた。美咲はその言葉を聞き、事がうまくいったことを確信し、素直に凌央にお礼を言って電話を切った。乃亜はその言葉を聞いて、嫌な予感が胸をよぎった。美咲は一体何を言ったのだろうか？「乃亜、今から一緒に病院に行こう」凌央は携帯を手にして立ち上がり、乃亜に向かって歩きながら、拒否できない口調で言った。乃亜は眉をひそめ、「どういうこと？」と尋ねた。美咲は何をしようとしているの？凌央はそのまま続けた。「お前が美咲を事故に遭わせたんだ。幸い、美咲は手を骨折しただけで、腹の中の赤ちゃんも無事だ。他に怪我もない。だから、お前は一緒に病院に行って美咲に謝ってきてくれ。謝罪が終わったら、美咲はすぐに告発を取り下げるだろう」乃亜はその言葉を聞いて驚き、凌央をじっと見つめた。「美咲が自演自導した芝居で、私を殺人犯に仕立て上げて、謝罪しろって？あんな下手な演技、どうして信じるの？」凌央は創世グループを短期間で発展させた人物だ。決断力と洞察
永遠の毒薬 第92話
乃亜は突然立ち上がり、手にしていたカップの水をそのまま凌央の顔にかけた。「三年間も夫婦として毎晩同じベッドで寝ていたのに。来る前、証拠がなくてもあなたは私を信じてくれると思ってた。でも、結局は私が勘違いしていたのね！この件について真実を知りたいのなら、裏で余計なことをしないで！必ず真実を突き止めてみせるから！」乃亜はここに来るべきではなかったと後悔していた。美咲に会いに行って、思いっきり殴ってやればよかったと心の中で思った。凌央は顔を拭い、黒い瞳で乃亜をじっと見つめながら冷笑を浮かべた。「そんなに自信があるなら、わざわざここで騒ぐ必要はないだろう？」一体誰がこの女に水をかける度胸を与えたんだ。乃亜はその冷たい言葉を無視し、彼と目を合わせながら、胸が痛むのを感じていた。彼女の心はすでに壊れていた。今度こそ、本当に諦めるしかないと思った。この問題が解決したら、凌央と離婚して、美咲に彼を譲るつもりだった。しばらくの沈黙が続き、部屋に静寂が広がった。突然、携帯電話が鳴り、沈黙を破った。凌央は携帯を取り出し、乃亜は画面に「美咲」という名前が表示されているのを見て、思わず唇を引きつらせた。凌央は少し眉を上げた。乃亜は立ち上がり、部屋を出るために歩き出した。凌央が電話をかけるための空間を作るためだ。凌央は彼女の背中を見つめ、どこかで何かを失うような予感がした。その瞬間、思わず口を開けて叫んだ。「乃亜！」乃亜はほんの少し足を止め、振り返った。「車の事故については、調査を進める」凌央は少し戸惑いながらも続けた。普段なら彼女の感情に配慮することはないはずだったが、今回はなぜか少し気にしてしまった。「通話が終わってから言って」乃亜は、三年間の経験から一つの法則に気づいていた。彼女と凌央の関係が少しでも和らぐと、必ず美咲から電話がかかってくる。事故だとか、体調が悪いだとか、その理由はいつも同じだ。それを信じる凌央に、何度も一人で放置された。美咲が電話をかけてきたということは、きっと乃亜が凌央を訪ねていることを知っているのだろう。おそらく、またどこか具合が悪くて、凌央に付き添ってほしいと言っているのだろう。彼女は本当に情けない気持ちでいっぱいだった。凌央は唇をかみしめ、鳴り続ける着信音に耐えきれず、結局電話を取った。「凌
