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第6話

作者: キャベツ
大輔が私の手を掴んで、少しトーンを落として言った。

「汐里、今日のことは僕が感情的になりすぎた。でもさ、お前だってわかるだろ?男にとって、妻の浮気が一番キツいってことぐらい」

「私にとって一番大事なのはね、危険な目に遭ったときに、旦那が無条件で信じて味方になってくれることなの。ちゃんと支えて、守ってくれることが何より必要なんだよ」

でも、今日の彼は加害者そのものだった。

「汐里、本当にごめん。次に同じことがあったら、絶対にお前の味方になるから」

私は彼の手を振り払って、はっきり言った。「次なんてない。私、離婚するって決めたから」

大輔は驚いた顔で私を見つめた。「僕たち7年も一緒にやってきたんだぞ?これっぽっちのことで離婚だなんて、おかしいだろ?」

私をみんなの前で平手打ちして、評判まで傷つけておいて、彼にとってはそれが「これっぽっちのこと」なんだ。

「その通り。離婚する。それに、この家は私の婚前財産だから、一週間以内に出て行ってね」

そう言い捨てて、迷わず車を発進させ、その場を後にした。その夜はホテルに泊まり、気楽にぐっすり眠った。

翌朝、目を覚ますと、昨日の出来事が地元のホットな話題になっていた。

【衝撃!小姑が兄嫁の身分証で病院へ!?さらに性病の濡れ衣を着せる暴挙!】

【嫁いびりの極み!姑、性病デマで娘の婚約披露宴を台無しに】

ネットで調べると、幸子たちが警察に連れて行かれた後のことも出てきた。調停の結果、幸子は結納金の返還だけでなく、損害賠償金や違約金、さらには手付金まで支払う羽目になったらしい。

幸子が強者には媚びへつらい、弱者には強く当たる人間だってことは、前からわかってた。麗奈の婚約者の家が少し裕福だったから、幸子も歯が立たなかったんだろう。

私は弁護士に連絡し、離婚協議書の作成を依頼した。それを大輔に送ったけど、彼は受け取りを拒否して「絶対に離婚なんかしない」と言い張った。

彼が拒否するなら、訴訟するしかない。

離婚を決めたのは感情的な思いつきじゃない。

前世では、噂話に巻き込まれ、近所の人から白い目で見られ、同僚からも孤立した。そんなとき、一番欲しかったのは旦那の支えと励ましだった。

でも、大輔はいつも適当に話を切り上げて、結婚前に見せてくれたような優しさも忍耐も消え失せていた。

そのせいで、私はどんどん自信を
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    私が殴られたのを見て、幸子は得意げに口を開いた。「お前、梅毒にかかってるんだってな。証拠だって揃ってるんだ。さあ、何か言い訳でもある?」私は診断書をぎゅっと握りしめ、その日付を指差しながら強い口調で言い返した。「この診断書、絶対に偽物だわ!7月14日はずっと会社で仕事してたの。病院なんか行けるわけないじゃない!」幸子は指を三本立てて、まるで神に誓うかのように声を張り上げた。「ここではっきり誓うわ!もしこの診断書が偽物だったら、私が車に轢かれて死ぬ!」幸子の勢いに圧倒されたのか、周りで見ていた人たちの視線も次第に彼女に傾いていく。「みんな離れとけよ。梅毒って移るらしいぞ」「見た目はあんなに清楚なのに、ほんと分からないもんだね」「こんな嫁もらっちゃったら、その家、終わりだよな」状況は完全に幸子のペースだ。このまま私が潔白を証明できなければ、前世と同じ結末を辿ることになるだろう。前世では、こんな中傷に囚われて、流言飛語の中で苦しみ続けた人生なんてもう二度とごめんだ。だけど、もしこの診断書が偽物じゃないとしたら......?一体どこから出てきたものなの?そもそも病院に行った覚えすらないのに!その時だった。麗奈が青ざめた顔で幸子の腕を掴み、小声で訴えた。「お母さん、この診断書、処分してって言ったでしょ!?なんでまだ持ってるのよ!」私はその言葉を聞いて、麗奈に向き直り問い詰めた。「この診断書のこと、前から知ってたの?」麗奈は目をそらし、しどろもどろになって何も言えない。その代わりに、幸子が口を挟んできた。「この診断書な、あんたが家に置きっぱなしにしてたんだよ。私と麗奈が偶然見つけたの。麗奈は優しいから、お前みたいな女にも情けをかけて、処分してやれって私に言ったのさ。なんにもなかったことにしてやれってな」その瞬間、私は数ヶ月前の出来事を思い出した。麗奈が身分証をなくしたと言って、私の身分証を借りて観光地に行ったときのことを。全てが繋がった。診断書が本物なのは間違いない。ただし、それに記載されている梅毒患者は私じゃなく、麗奈だったんだ。麗奈はこの病気がバレるのを恐れて、私の身分証を使って診察を受け、その診断書を家に放置した。それを幸子が見つけた結果、罪を私に押し付けようとした。けれど、あまり事を荒立てると最終的に真相が

  • 嫁いびりを受けた私に小姑が土下座して謝罪する   第2話

    同じテーブルに座っていた年配の人たちも、場を和ませようと苦笑いを浮かべながら言った。「汐里、お義母さんのことはよく知ってるだろ?お酒が入ると、あの人は言いたい放題になるんだから。今日は麗奈の晴れの日なんだからさ、嫁と姑で揉め事を起こして、他人に笑われるようなことはやめなさいよ」でも、私はその言葉を聞いても納得できなかった。鋭い声で言い放った。「じゃあこうしましょう。幸子さんが私に謝って、さっきの発言がでたらめだったってみんなの前で訂正してくれるなら、私は何もしません。でも、そうしないなら警察に通報して、名誉毀損で告訴します!」幸子は目を見開いて、怒りを露わに私を睨みつけた。「あんた、一体何様だと思ってるの?嫁が姑に謝れって?そんな話、昔から聞いたこともないわよ!」私も負けずに声を張り上げた。「じゃあ聞きますけど、姑が嫁を侮辱して、淫乱で汚らわしい病気を持ってるなんて嘘を広めるのは普通のことなんですか?そんなデマを流して、祟られますよ!」私の大声に、会場中の人がこちらを一斉に振り返ってきた。幸子の顔は怒りで真っ赤になり、叫び返してきた。「あんた、こんなに騒いで恥ずかしくないのか!」事態がどんどんエスカレートしていく中、義妹が涙ぐみながら懇願してきた。「お母さん、お願いだからやめて!今日は私の結婚式なの!」すると、別のテーブルに座っていた夫の大輔が、騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた。「お母さん、何を言い争ってるんだよ?遠くからでも声が聞こえてきたぞ」私はすぐに大輔の腕を掴み、悲痛な顔で訴えた。「お義母さんが、私が浮気してあなたを裏切ったって外で言いふらしてるの。それだけじゃない、汚らわしい病気までうつされたなんて......」夫として、しかもこれだけ多くの人がいる場で、「妻に浮気された」なんて話が出るのは到底許せることではないだろう。案の定、大輔の表情が一瞬で険しくなった。「お母さん、いい加減なこと言わないでください!汐里がどんな人間か、僕が一番よく知ってます。そんなこと、彼女がするわけがない!」大輔がはっきりと反論してくれたおかげで、周りの人たちも私に同情的な視線を向け始めた。「嫁姑問題は元々ややこしいけど、このおばさん、さすがにやりすぎだね」「自分の息子が浮気されたなんて嘘つく母親って、どんだけだよ」

  • 嫁いびりを受けた私に小姑が土下座して謝罪する   第1話

    「お義姉さん、ドレスの後ろのチャックを上げてくれませんか?」目を開けて周囲を見回すと、目の前には着替え中の義妹・麗奈(れいな)が立っていた。数秒してようやく、自分が生まれ変わったことを思い出した。でも、麗奈の頼みなんて聞いていられない。私は無視して部屋を出ると、そのまま宴会場へ向かった。そこでは、義母の幸子(ゆきこ)が麗奈の義母の手を握りながら、いかにも感慨深げに話しているところだった。「うちはね、小さい頃から娘にはしっかり教育をしてきたの。うちの娘、本当に素直で親孝行なのよ。だからうちの娘を嫁にもらうなんて、お宅の子はほんとにラッキーだと思うわ!......でもね、嫁のほうは最悪なのよ!まるで売女みたいに男を引っ掛け回して、あげくの果てには汚い病気まで持ち込んでくるんだから。ほんと、なんて不幸なのかしら!」その言葉に、周囲の人たちの目が一気に丸くなり、場の空気が凍りついた。誰も、自分の嫁をここまで公然と悪く言うなんて想像すらしていなかったのだ。知り合いらしい近所の人がぽつりと口を開いた。「汐里(しおり)さんって、そんな人には見えなかったけど......もしかして何かの誤解じゃない?」だが幸子は話を止めることなく続けた。「いやいや、みんなが見てるのは表向きの顔だけ。本当はね、あの女、夜中遅くまで帰ってこないことがしょっちゅうなのよ。どこで誰と寝てたのか、私にわかるわけないでしょ?それにこんな恥ずかしい家族の話、私が嘘つくと思う?」その瞬間、私の中で怒りがぐつぐつと煮えたぎった。前世で私は、この女のデタラメな話のせいで命を落としたのだ。今日という今日は、絶対にこの場で決着をつけてやる。麗奈が慌てて私の腕を掴み、懇願するように言ってきた。「お義姉さん、母がきっとお酒のせいで変なこと言っちゃっただけだから、お願い、今日は私の顔を立てて。結婚式だよ、大事な日なんだから、ここで揉め事を起こさないでほしいの」結婚してからの二年間、私は麗奈とはそこそこ良い関係を築いてきた。だから前世では、彼女にこう頼まれると、私はそのお願いを聞き入れていたものだった。でも今の私にとって、彼女の顔なんてどうでもいい。私の命より大事なものなんてないのだから。私は彼女の手を振り払うと、そのまま幸子の元へ向かった。幸子は相変わらず声

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