第9話

実際、自分でも分からないほど、いったい何度こんな夜を繰り返したのだろう。

眠れない夜、悪夢にうなされ、なかなか寝付けない時間。

デッキチェアに身を預け、目を閉じた瞬間、あの暗い地下室に引き戻されたような錯覚に陥った。

耳元には罵声や侮辱、汚い言葉が容赦なく突き刺さる。

「天城さん？天城さん、大丈夫ですか？」

突然目を見開くと、目の前には翔太の端正で穏やかな顔があった。

彼は静かな表情を崩さないまま、少し眉をひそめた。

「思った以上に厳しい状態ですね。でも大丈夫です。僕を信じてくれれば、きっと乗り越えられます」

彼が差し出してくれた水のコップを受け取り、私は静かに礼を言った。

「ありがとう」

「どういたしまして。実は、僕たち、以前会ったことがあるんですよ」

彼の言葉に驚き、私は顔を上げた。

彼は軽く瞬きをして、記憶を探るような仕草を見せた。

「子供の頃です」

「僕はご両親を知っています。彼らのこと、本当に残念に思っています」

私の記憶には、彼に関するものはまったくなかった。

それを察したのか、彼は少し笑いながら付け加えた。

「あなたはよく僕を引っ張って、一緒にバービー人形で遊んでいたんですよ」

私は申し訳なさそうに彼を見つめた。

子供の頃、バービー人形遊びに付き合わせた相手は多すぎて、正直、思い出せなかった。

彼は首を軽く振り、突然真剣な表情になった。

「ご両親は、本当に素晴らしい方々でした。もし今のあなたを見たら、きっととても心を痛めるでしょうね」

「だからこそ、彼らのためにも、自分の殻を破り、光を見つけてほしい」

その時の翔太は、まるで柔らかな光をまとっているように見えた。

彼の瞳を見つめていると、自然と胸の中に小さな希望が灯るような気がした。

私は拳をぎゅっと握り、視線を落としながら小さく「ありがとう」と呟いた。

心理治療を3回終えた後、私は感謝の気持ちを込めて翔太を食事に誘い、一緒にレストランを訪れた。

しかし、席についた途端、目の前に現れたのは、腕を組んで店に入ってきた行章と佳乃だった。

行章は私と翔太を見つけると、顔から笑みを消し、表情は一瞬で冷たく険しくなった。

彼は大股で私たちのテーブルに歩み寄り、怒りを露わにして声を上げた。

「天城思真、離婚したい理由がようやく分かったぞ！お前、もう俺を裏切