共有

第5話

作者: 卿和
「澄香、あんた、頭がおかしくなったのか!

明らかに、あんたが悠翔の命を救う薬を壊したんじゃない!それでも足りずに、今は嘘を言って私の息子を陥れようとしてる!」

姑の目は怒りで満ち、まるで火を吹きそうだ。

隼人は私がこんなことを言うなんて予想していなかったようで、自嘲気味に唇を引きつらせた。

「もし本当にそうだったらよかったのに……そうすれば、俺が先に悠翔を止められたのに。

俺が死んでも構わない。せめて、あの子を守れたなら」

隼人は顔を覆いながら、涙を堪えている。指の隙間から微かに涙声が漏れた。

その真剣な姿は、周囲の人々の憤りをさらに煽った。

「こいつ、完全に頭がおかしいんじゃないか?」

「自分の息子を殺しておいて、全然反省してない。そして今度は罪を隠そうと隼人を悪者にしてる」

「本当に可哀想だよ、隼人と姑さんがこんな冷血な女と一緒になったなんて」

「こんな悪女、どうして生きているんだ?死んで当然だろう!」

周囲の友人たちも黙っていられず、次々に私を非難し始める。

「澄香、お前には人間としての心があるのか?隼人がここまで頑張って助けようとしてるのに、それを逆手に取って罪をなすりつけようなんて」

「そうだそうだ、隼人がこんなにお前のために頑張ってたんだ。全市を駆け巡ってお前のためにサプライズを準備してたんだ。みんな見てた、覚えてる」

「私たち、ちゃんと見てるし心に留めているよ!彼は本当にあんたを心の底から愛しているんだ!」

「でも今、お前は自分の罪を逃れようとして、あの人に罪を着せようとしてるんだろ?本当にそれでいいのか?」

「今、この時点で、お前は悠翔を殺しただけじゃなく、この家まで壊したんだ!」

みんなの声がどんどん激しくなり、まるで私をその場で処刑しろと言わんばかりだ。

私はその視線を受けながら、静かに笑った。

隼人の作り笑いの上手さには感心する。

それに、私だって――一度死んだことがあるからこそ、見抜けるようになった。

私はその場のすべての視線を背負い、思わず声を出して笑った。

「隼人、もうやめなよ」

「あなたが仕組んだこと、全部知ってるんだから」

隼人は肩を僅かに震わせ、私の言葉に驚いた様子で立ちすくむ。

しばらくして、彼は表情を整え、私を見つめて言った。
ロックされたチャプター
GoodNovel で続きを読む
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

関連チャプター

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第6話

    「澄香、どうしてそんなことを言うんだ!」 隼人は傷ついたように後ろに一歩退き、声を震わせて言った。 「悠翔も君も、俺にとっては一番大切な、愛する人たちなんだ」 隼人の顔には悲しみが色濃く浮かび、彼の言葉にはその深い思いがにじみ出ていた。 それを見た周囲の人々は、心から彼を可哀想だと思い始めた。 「こんなにいい旦那さん、どうしてこんな女が妻なんだ?」 「本当に運命の不公平だ。こんな良い男が、どうしてこんな女と一緒にいるの?」 「もし彼が私の旦那だったら、喧嘩しても自分で自分を叩きそうだ」 次々と嫉妬や怒りの声が私に向けられる。 私は隼人の演技を無視して、胸を腕で抱え、静かにバッグから一枚の書類を取り出した。 「これがあなたにとって一番大切なものじゃないかしら」 そう言って、私は保険証書を彼の前に投げ出した。 証書には、はっきりと記載されていた―― 保険契約日、ちょうど一週間前。 被保険者は私と悠翔。 そして、受取人は隼人だけ。保険金目当てで妻を殺す事件はすでにいくつかあり、これにはどうしても疑いを感じてしまう。 「まさか……反転するの?」 「こんなこと、あっていいの?」 会場内は一瞬にしてざわめき、疑念と噂が入り混じった。 隼人はその表情を崩さず、冷静にスマホを取り出し、私の保険証書を見つめながら説明した。 「忘れたのか?私たちは毎年、人身保険に入っている。 今回は販売担当が連絡を忘れたので、最近補完しただけだ。 過去の記録を見せてあげることもできるよ」 隼人は無理に自信を見せつけるように、スマホを解錠し、堂々とした態度で私に証明しようとしていた。 「君は俺の妻だ。こんなことが起きるわけがない。 それに、悠翔のアレルギー反応は誰も予測できなかった」 「俺と母さんも、ゲストが食べるものを何度も確認して、悠翔はずっと大丈夫だった。 でも、彼は結局……」 隼人の言葉は途中で途切れ、何かに気づいたようだ。 姑がぼそりと口を開いた。 「悠翔、ケーキを食べてアレルギー反応を起こしたんじゃないの?」 そして、そのケーキが私が買ったものであることに気づく。 姑は目を見開き、テーブルに置かれたケーキをしっかりと見つめた。 そのまま口に一口運ぶと、先ほど

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第7話

    周囲の人々は驚きの表情を浮かべ、私が自ら警察に通報したことに困惑していた。 誰もが私が狂ってしまったのだと思い込み、殺人犯が自ら捕まりに行くなんてあり得ないことだと認定していた。 警察が到着すると、みんなが一斉に駆け寄り、口々に私の罪を告げ始めた。 「警察の方、この毒婦です!自分の息子をアレルギーで殺しておいて、今度は自ら手を汚して息子を窒息させました!」 「しかも、薬を自分で壊して息子の命を奪ったんです!」 「私たちは証人です、彼女が犯人だと証明できます!」 その場に残った医者も、悠翔が確かに窒息死したことを証言していた。 その症状は、アレルギー反応の典型的なものだった。 警察官が私の前に立ち、冷徹に告げた。 「澄香さん、協力をお願いします。こちらへお越しいただけますか?」 私は静かに首を横に振った。 「すみませんが、それは無理です」 私が拒否すると、場の空気が一瞬で凍りついた。 みんなが私を見て、まるで私が自殺行為をしているかのように感じた。 警察はわずかに眉をひそめ、私ははっきりと言った。 「私は殺人なんてしていません。 そして、私の夫、隼人が私と息子を殺そうとしたことを通報したいです」 その言葉に、周囲から嘲笑が上がった。 「なんて狂ったことを言ってるんだ、いまさら自分の罪を他人に押しつけるのか?」 「お前が息子を殺したのを、自分のせいにしているだけだろ!」 姑は私を指さし、怒りに満ちた声で叫ぶ。 「この女、どうしても許せない!悠翔を殺したのに、まだ隼人に罪を擦り付けようとしてる!」 「こんな女、さっさと捕まえてしまえ!」 「牢獄にぶち込んで、永遠に出られなくしてやれ!」 「こんな害虫、さっさと処分しろ!」 私への罵声がますます激しくなり、みんなが私をその場で抹殺するような気持ちで私を見ていた。 隼人は目をそらし、痛そうに言った。 「澄香、どうして悠翔をこんな目に遭わせたんだ? 俺は君を許せない。でも、これからも悠翔のことは守り続ける。 罪を認めてくれ、そうすれば軽くなるかもしれない」 今の隼人は、まるで良い夫の仮面をかぶっているかのようだった。 私は冷笑を浮かべ、言った。 「私は何もしていない、どうして認める必要があるの?」

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第8話

    その場にいた全員が驚き、言葉を失った。 隼人の目がわずかに震え、彼は冷静を装いながら言った。 「何を言ってるんだ?悠翔がどうして君の子じゃないって? 俺は誓う、君を裏切っていない」 私は冷静に隼人を見つめた。 「もちろん、あなたは私を裏切っていないわ。でも、悠翔は私の子じゃない。そして、悠翔はあなたの本当の子どもでもない」 その言葉が、会場にいた全員を完全に困惑させた。 警察官が少し混乱した様子で聞いた。 「つまり、亡くなった子どもは、あなたたちが養子にした子どもだということですか?」 私は首を横に振った。 その前に、隼人がすぐに口を開いた。 「違う。悠翔は間違いなく俺たちの実子だ。 君は十月十日、あの子をお腹に宿して、毎日俺がそばで支えてきたじゃないか。 出産の時も、俺は隣にいて、君を支えていた。 それに、悠翔が生まれてから、君は絶対に誰にも任せなかった。いつだって、君が一番そばにいて、悠翔の面倒を見ていた。 悠翔は、ずっと君と一緒だった。どうして、そんなことが言えるんだ?」 隼人の言うことには矛盾がないように思えた。 姑も同調して言った。 「澄香、私たちが何をしたっていうの?どうしてこんなに何度も私たちを傷つけるの?」 二人はまるで一心同体のように、私に責任を押し付けようとする。 警察官は厳しい表情で、すぐには判断せず、私に質問した。 「私たちは誰も冤罪をかけません。ですが、あなたが要求する解剖は今すぐにはできません。他に証拠はありますか?」 私はしっかりと答えた。 「もちろん」 私は最初から、解剖がスムーズに進むとは思っていなかった。 すべては、姑と隼人の反応を試すためのものだった。 私は静かに歩み寄り、姑の方へ向かった。 姑は私を警戒するように見つめながら言った。 「何をするつもりよ!みんなの前で私を殺すつもり?」 隼人は姑を守るように後ろに立ち、私が少しでも不自然な動きを見せれば、すぐに制止しようと準備している。 周囲の目が私の一挙一動に注がれている。 私は静かに、床に落ちていたフォークを拾い上げた。 そのフォークには、ケーキのクリームがついていた。 「これが証拠よ」 姑はホッとした表情を見せたが、すぐにまた皮肉な口調で言

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第9話

    姑は少し安心したように見えたが、すぐに目の前に横たわる青白い顔の悠翔を見て、再び冷水を浴びせられたかのように驚愕した。 「あんた、どうして悠翔の死を使って私を騙すんだ!」 隼人も適切に口を開いた。 「俺も、悠翔がアレルギーだなんて思いたくない。でも、みんな目の前で悠翔が発作を起こしたのを見てる。 俺も知ってる、悠翔が君の実子じゃないこと、君にとってはショックだったんだろう。 だから、君は悠翔を殺して、俺と母さんに復讐しようとしたんだと思う……俺には言うことがない。 澄香、罪を認めてくれ。俺は君を憎む資格はないけれど、ずっと悠翔を守るよ。そして、君の罪を償う」 隼人の言葉は、確かに情に溢れていたが、全てが悠翔の死を私に押し付けるものだった。 私は、彼が簡単に認めるとは思っていなかった。 私は証拠の書類を取り出した。 ケーキを買った後、すぐに悠翔を病院に連れて行き、全身の検査を受けさせた結果、 悠翔はピーナッツアレルギーなどなかったことがわかった。 姑は書類を手に取ると、それをすばやく読んでいた。 「これ、捏造でしょ! もし悠翔がアレルギーなんかじゃないなら、どうしてケーキを食べただけでこんなことになったんだ?」 私は少し目を上げ、冷静に言った。 「答えは、隼人にあるよ」 その言葉に、全員が一斉に隼人に視線を集中させた。 隼人は暗い目をして、ゆっくりと口を開いた。 「確かに、悠翔は俺の子どもじゃない。でも、彼は俺の弟だ。どうして俺が彼を害するなんて思うんだ?」 姑も隼人を擁護した。 「悠翔がピーナッツアレルギーじゃないって言っても、他のアレルギーかもしれないじゃない。 もし、薬を捨てなければ悠翔は死ななかったんじゃないの?あんたは彼をアレルギーで殺したわけじゃないけど、間接的に彼を死に追いやったんだ!」 「そうだ。罪を認めろ」 隼人の目は、どこか冷たく沈んでいた。 彼はまだ諦めていないようだった。 私は隼人を直視して言った。 「認めたくないなら、私が代わりに言うことにしよう」 「八年前、大きな事故があって、あなたはもう子どもを作れなくなった。 あなたはそれを受け入れられなくて、最後に母さんが精子バンクから卵子を選び、あなたの代わりに子どもを妊娠させた。

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第10話

    隼人の顔色が急に変わった。 私は一切引き延ばすことなく、続けた。 「悠翔が生まれてから、姑の関心はすべて悠翔に向けられた。 毎週心理カウンセリングを受けて、自分で催眠をかけても、あなたはその嫉妬を抑えきれなかった。あなたは、悠翔が姑の愛を奪ったことを恨んでいる。 そして、あなたは計画を実行するために、よく悠翔に混ぜた薬を与えて、アレルギー反応を引き起こす偽の兆候を作り出していた。 そして今日も、薬に手を加えた。 あなたはあらかじめ悠翔に薬を与えた。そして、その薬こそが、彼を死に至らしめた本当の原因だ」 私は唇をわずかに噛みしめた。 正直言えば、悠翔を助けようとしたこともあった。 しかし、隼人はすべてを計算していた。もしも私が悠翔を家に連れて帰らなくても、結局彼は死んでいたのだ。 姑は信じられないという表情で目を見開いた。 「隼人、本当に……本当に、彼女が言っている通りなの? お母さんにだけ、真実を教えて」 姑は隼人の服の袖を握りしめ、まるで溺れかけた人が最後の浮き草をつかむかのように必死だった。 予想外にも、隼人は笑みを浮かべた。 「残念だけど、彼女が言っている通りだ」 その言葉に、姑は崩れ落ちるように泣き崩れた。 彼女は隼人にむかって、力いっぱい殴りかかり、心の底からの叫びをあげた。 「どうして、どうしてこんなことをしたんだ! 悠翔はあんたの弟よ!あんたは彼を育ててきたんだ!彼があんたの息子だと言っても、何もおかしくないはずでしょ!」 姑は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、隼人に向かって嘆き続けた。 しかし、突然、隼人は大きな声で笑い始めた。その笑い声は次第に冷徹なものへと変わり、彼の目は冷たい光を放ち始めた。 「俺はあいつを殺したかったんだ。どうしてあいつが、みんなの愛を独り占めできる? 最初は彼、次は澄香。 母さんが言ったんだろ、家に金がないから俺の治療ができなかったって。 俺は気にしない、ほんとうに。 君が博士の息子が欲しいって言ったから、俺は努力した。君が俺に成功してほしいって言ったから、俺は達成した。 君たちは口では俺を愛してるって言うけど、あのクソガキが現れると、俺には一切目もくれなくなった。 その後、俺は分かった。君たちが言ってた愛なん

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第1話

    「ママ、これ食べたい!」 息子の柔らかい声が耳元で響いた。 私はハッと我に返った。 三歳の息子がガラスケースの中のケーキを指さし、じっと私を見つめている。 店員さんはにっこりと笑って、言った。 「こちらは当店の新作で、ピーナッツ味のケーキです。ピーナッツが50%も入っていて、とてもおいしいですよ。 上には手作りのピーナッツキャラメルが乗っていて、今日残り一つです」 「ママ、これがいい!」 息子は私の足にしがみついて、買わなかったら絶対に離れないという勢いだ。 その光景が、私の頭の中で繰り返し再生される。 今日は私の誕生日。 前世では、息子がピーナッツを食べてアレルギー反応を起こし、1時間後に―― でも、あの時私は確かにイチゴのケーキを買ったはずだ。 しかも、息子が食べるものは何もかも、ピーナッツが含まれていないか再確認していた。 それなのに、なぜ息子はアレルギー反応を起こしたのだろう? 私は無意識に指をつまんで、疑問が心を覆っていった。 ふと、携帯が震えて、姑からのボイスメッセージが届いた。 「澄香(すみか)、家の抗アレルギー薬が切れたわ。 悠翔(はると)がピーナッツアレルギーだから、あとで絶対に気をつけてね。ピーナッツが入った食べ物を買わないで」 姑の優しい声が、イヤホンから聞こえてきた。 前世と同じように、注意を促してくる。 目の前にいる息子の、あのいたずらっぽい顔が、前世で病気で顔色が悪かった息子の顔と重なる。 私は思い付く。 もしかして、この状況が繰り返されているのでは? 私は姑に返事をせず、慎重に息子をなだめる店員に微笑んで言った。 「すみません、このケーキを包んでください。上にピーナッツパウダーを倍にして追加してください」 店員は何も変わらず、手際よくケーキを包み込んでいく。 淡い黄色のピーナッツパウダーをかけられたケーキは、より一層美味しそうに見えた。 息子はうれしそうに私に甘えて言った。 「ママ、ありがとう!悠翔はママが大好きだよ!」 私は息子の頭を撫でながら言った。 「お利口さんね。気に入ったなら、後でいっぱい食べて、残さないようにね」 「うん!絶対に全部食べるよ!」 息子は指で三本の約束をして、満面の笑みでキスをして

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第2話

    「悠翔!どうした?!」隼人の慌てた声がドア越しに響き、部屋に届いた。 私は冷静にドアを開ける。 時計の針はちょうど6時を指していた。まさに前世で息子に異変が起きた時間だ。 リビングには、息子が地面に倒れている。 テーブルの上には私が買ったケーキがあり、一口分が欠けていた。 息子の顔色は青白く、無意識に喉を掻きむしっている。 明らかにアレルギー反応が出ている。 隼人は顔を真っ青にして、薬を探して部屋中を引っ掻き回している。 私を見て、隼人の目がパッと明るくなる。 「澄香、悠翔がアレルギー反応を起こしてる!薬、確か持ってたよね?」 「うん、持ってる」 私は頷くが、動きはない。 息子の顔色がますます悪くなり、姑が堪えきれずに声を上げる。 「薬があるなら、早く出してよ!」 周りにいた友人たちも、私を急かす。 「そうだよ!この子がこんなに苦しんでるのに!」 「澄香、薬、どこにあるの?普段持ち歩いてるバッグの中か、服のポケットに入ってるの?」 「早く、早く見つけてあげて!」 その言葉に、部屋の中の人々は一斉に動き出し、息子のために薬を探し始めた。 まるで、みんなが一斉に蜂のように動き出している。 「探さなくていい」 私は突然声を発し、みんなの動きを止めた。 「薬はここにある」 そう言って、淡い青色の薬の錠剤を手のひらに出す。 隼人の顔に安堵の色が浮かぶ。 「それだ!早くそれを!悠翔に飲ませないと!」 隼人は私の手を掴み、息子を助けられることに対する喜びを表情に浮かべていた。 でも、私がしたのは、彼の予想を裏切る行動だった。 私は軽く笑いながら、その薬を香檳タワーに投げ込んだ。 薬は泡を立てながら、ゆっくりと底に沈んでいく。 その瞬間、周りは完全に凍りついた。隼人は目を見開き、息を呑んだ。 「澄香、いったい何をしてるんだ! それは悠翔の命を救う薬だろう!」 隼人は震える手を伸ばし、薬を取り出そうとするが、薬はもう酒に溶けてしまっていた。 隼人はそれ以上遅らせてはならないと感じ、息を呑み込み、両手で私の肩を強く掴む。 「澄香、お願いだから、冗談はやめて。 普段の冗談なら許せる。でも、今回は息子の命がかかってるんだよ!薬を出してくれ! お

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第3話

    15分後、医者がようやく到着した。 周りの人々は慌ててスペースを作り、息を呑んで医者の救命処置を見守る。 しかし、悠翔はすでに意識を失っていた。 体中にアレルギー反応による赤い発疹が広がり、手足の痙攣も弱くなっている。一目見ただけで、もう助からないかもしれないと分かった。 私は冷たく立ち尽くしていた。 何の感情も見せない私の態度に、ついに誰かが口を開いた。 「澄香さん、悠翔くんがどうなるか分からないのに、なんでそんな冷静でいられるんですか?」 「本当に彼のお母さんなの?」 私が何も答える前に、隼人が一歩前に出て言い返した。 「すみません、澄香もきっとショックを受けすぎてるんです。 家の中で、いちばん悠翔を気にかけていたのは彼女なんです。皆、どうか責めないでください」 隼人はいつものように私をかばい、落ち着いた笑顔を浮かべて周囲をなだめる。 前世でも、どんな時でも彼はこうして私を守っていたっけ。 医者は懸命に処置を続けていたが、すでに遅かった。 悠翔の瞳孔は9ミリ以上拡張し、心電図の線が一本に変わる。 医者はため息をつき、申し訳なさそうに首を横に振った。 「申し訳ありません……私たちは最善を尽くしました」 姑はその場に崩れ落ち、大声で泣き叫んだ。 「悠翔、まだ助かるわ、先生、お願い、どうかもう一度助けて! 悠翔、目を開けて!おばあちゃんがそばにいるのよ!お願いだから、行かないで!」 姑の悲痛な声が響き渡り、隼人もその場で呆然と立ち尽くしていた。 彼は頭を振りながら、自分に言い聞かせるように声を震わせた。 「違う……そんなはずない…… 悠翔はまだ3歳なんだ。たかがアレルギーだろ?助かるはずだ、そうだろ?」 隼人は周りの人々に助けを求めるような目を向けるが、誰も直視することができない。 医者は器具を片付けながら静かに告げた。 「お気持ちは分かりますが……どうかお気を強く持ってください」 楽しいはずの誕生日パーティーは、悲劇の舞台と化していた。 姑は、悠翔の遺体を抱きしめながら、私を睨みつけた。 「澄香!すべてあんたのせいだ! なんで悠翔の命を救う薬を捨てたの?どうしてあんなことをしたの?」 彼女の視線が私を貫き、その場の全員も同じように私を非難する目

最新チャプター

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第10話

    隼人の顔色が急に変わった。 私は一切引き延ばすことなく、続けた。 「悠翔が生まれてから、姑の関心はすべて悠翔に向けられた。 毎週心理カウンセリングを受けて、自分で催眠をかけても、あなたはその嫉妬を抑えきれなかった。あなたは、悠翔が姑の愛を奪ったことを恨んでいる。 そして、あなたは計画を実行するために、よく悠翔に混ぜた薬を与えて、アレルギー反応を引き起こす偽の兆候を作り出していた。 そして今日も、薬に手を加えた。 あなたはあらかじめ悠翔に薬を与えた。そして、その薬こそが、彼を死に至らしめた本当の原因だ」 私は唇をわずかに噛みしめた。 正直言えば、悠翔を助けようとしたこともあった。 しかし、隼人はすべてを計算していた。もしも私が悠翔を家に連れて帰らなくても、結局彼は死んでいたのだ。 姑は信じられないという表情で目を見開いた。 「隼人、本当に……本当に、彼女が言っている通りなの? お母さんにだけ、真実を教えて」 姑は隼人の服の袖を握りしめ、まるで溺れかけた人が最後の浮き草をつかむかのように必死だった。 予想外にも、隼人は笑みを浮かべた。 「残念だけど、彼女が言っている通りだ」 その言葉に、姑は崩れ落ちるように泣き崩れた。 彼女は隼人にむかって、力いっぱい殴りかかり、心の底からの叫びをあげた。 「どうして、どうしてこんなことをしたんだ! 悠翔はあんたの弟よ!あんたは彼を育ててきたんだ!彼があんたの息子だと言っても、何もおかしくないはずでしょ!」 姑は涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、隼人に向かって嘆き続けた。 しかし、突然、隼人は大きな声で笑い始めた。その笑い声は次第に冷徹なものへと変わり、彼の目は冷たい光を放ち始めた。 「俺はあいつを殺したかったんだ。どうしてあいつが、みんなの愛を独り占めできる? 最初は彼、次は澄香。 母さんが言ったんだろ、家に金がないから俺の治療ができなかったって。 俺は気にしない、ほんとうに。 君が博士の息子が欲しいって言ったから、俺は努力した。君が俺に成功してほしいって言ったから、俺は達成した。 君たちは口では俺を愛してるって言うけど、あのクソガキが現れると、俺には一切目もくれなくなった。 その後、俺は分かった。君たちが言ってた愛なん

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第9話

    姑は少し安心したように見えたが、すぐに目の前に横たわる青白い顔の悠翔を見て、再び冷水を浴びせられたかのように驚愕した。 「あんた、どうして悠翔の死を使って私を騙すんだ!」 隼人も適切に口を開いた。 「俺も、悠翔がアレルギーだなんて思いたくない。でも、みんな目の前で悠翔が発作を起こしたのを見てる。 俺も知ってる、悠翔が君の実子じゃないこと、君にとってはショックだったんだろう。 だから、君は悠翔を殺して、俺と母さんに復讐しようとしたんだと思う……俺には言うことがない。 澄香、罪を認めてくれ。俺は君を憎む資格はないけれど、ずっと悠翔を守るよ。そして、君の罪を償う」 隼人の言葉は、確かに情に溢れていたが、全てが悠翔の死を私に押し付けるものだった。 私は、彼が簡単に認めるとは思っていなかった。 私は証拠の書類を取り出した。 ケーキを買った後、すぐに悠翔を病院に連れて行き、全身の検査を受けさせた結果、 悠翔はピーナッツアレルギーなどなかったことがわかった。 姑は書類を手に取ると、それをすばやく読んでいた。 「これ、捏造でしょ! もし悠翔がアレルギーなんかじゃないなら、どうしてケーキを食べただけでこんなことになったんだ?」 私は少し目を上げ、冷静に言った。 「答えは、隼人にあるよ」 その言葉に、全員が一斉に隼人に視線を集中させた。 隼人は暗い目をして、ゆっくりと口を開いた。 「確かに、悠翔は俺の子どもじゃない。でも、彼は俺の弟だ。どうして俺が彼を害するなんて思うんだ?」 姑も隼人を擁護した。 「悠翔がピーナッツアレルギーじゃないって言っても、他のアレルギーかもしれないじゃない。 もし、薬を捨てなければ悠翔は死ななかったんじゃないの?あんたは彼をアレルギーで殺したわけじゃないけど、間接的に彼を死に追いやったんだ!」 「そうだ。罪を認めろ」 隼人の目は、どこか冷たく沈んでいた。 彼はまだ諦めていないようだった。 私は隼人を直視して言った。 「認めたくないなら、私が代わりに言うことにしよう」 「八年前、大きな事故があって、あなたはもう子どもを作れなくなった。 あなたはそれを受け入れられなくて、最後に母さんが精子バンクから卵子を選び、あなたの代わりに子どもを妊娠させた。

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第8話

    その場にいた全員が驚き、言葉を失った。 隼人の目がわずかに震え、彼は冷静を装いながら言った。 「何を言ってるんだ?悠翔がどうして君の子じゃないって? 俺は誓う、君を裏切っていない」 私は冷静に隼人を見つめた。 「もちろん、あなたは私を裏切っていないわ。でも、悠翔は私の子じゃない。そして、悠翔はあなたの本当の子どもでもない」 その言葉が、会場にいた全員を完全に困惑させた。 警察官が少し混乱した様子で聞いた。 「つまり、亡くなった子どもは、あなたたちが養子にした子どもだということですか?」 私は首を横に振った。 その前に、隼人がすぐに口を開いた。 「違う。悠翔は間違いなく俺たちの実子だ。 君は十月十日、あの子をお腹に宿して、毎日俺がそばで支えてきたじゃないか。 出産の時も、俺は隣にいて、君を支えていた。 それに、悠翔が生まれてから、君は絶対に誰にも任せなかった。いつだって、君が一番そばにいて、悠翔の面倒を見ていた。 悠翔は、ずっと君と一緒だった。どうして、そんなことが言えるんだ?」 隼人の言うことには矛盾がないように思えた。 姑も同調して言った。 「澄香、私たちが何をしたっていうの?どうしてこんなに何度も私たちを傷つけるの?」 二人はまるで一心同体のように、私に責任を押し付けようとする。 警察官は厳しい表情で、すぐには判断せず、私に質問した。 「私たちは誰も冤罪をかけません。ですが、あなたが要求する解剖は今すぐにはできません。他に証拠はありますか?」 私はしっかりと答えた。 「もちろん」 私は最初から、解剖がスムーズに進むとは思っていなかった。 すべては、姑と隼人の反応を試すためのものだった。 私は静かに歩み寄り、姑の方へ向かった。 姑は私を警戒するように見つめながら言った。 「何をするつもりよ!みんなの前で私を殺すつもり?」 隼人は姑を守るように後ろに立ち、私が少しでも不自然な動きを見せれば、すぐに制止しようと準備している。 周囲の目が私の一挙一動に注がれている。 私は静かに、床に落ちていたフォークを拾い上げた。 そのフォークには、ケーキのクリームがついていた。 「これが証拠よ」 姑はホッとした表情を見せたが、すぐにまた皮肉な口調で言

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第7話

    周囲の人々は驚きの表情を浮かべ、私が自ら警察に通報したことに困惑していた。 誰もが私が狂ってしまったのだと思い込み、殺人犯が自ら捕まりに行くなんてあり得ないことだと認定していた。 警察が到着すると、みんなが一斉に駆け寄り、口々に私の罪を告げ始めた。 「警察の方、この毒婦です!自分の息子をアレルギーで殺しておいて、今度は自ら手を汚して息子を窒息させました!」 「しかも、薬を自分で壊して息子の命を奪ったんです!」 「私たちは証人です、彼女が犯人だと証明できます!」 その場に残った医者も、悠翔が確かに窒息死したことを証言していた。 その症状は、アレルギー反応の典型的なものだった。 警察官が私の前に立ち、冷徹に告げた。 「澄香さん、協力をお願いします。こちらへお越しいただけますか?」 私は静かに首を横に振った。 「すみませんが、それは無理です」 私が拒否すると、場の空気が一瞬で凍りついた。 みんなが私を見て、まるで私が自殺行為をしているかのように感じた。 警察はわずかに眉をひそめ、私ははっきりと言った。 「私は殺人なんてしていません。 そして、私の夫、隼人が私と息子を殺そうとしたことを通報したいです」 その言葉に、周囲から嘲笑が上がった。 「なんて狂ったことを言ってるんだ、いまさら自分の罪を他人に押しつけるのか?」 「お前が息子を殺したのを、自分のせいにしているだけだろ!」 姑は私を指さし、怒りに満ちた声で叫ぶ。 「この女、どうしても許せない!悠翔を殺したのに、まだ隼人に罪を擦り付けようとしてる!」 「こんな女、さっさと捕まえてしまえ!」 「牢獄にぶち込んで、永遠に出られなくしてやれ!」 「こんな害虫、さっさと処分しろ!」 私への罵声がますます激しくなり、みんなが私をその場で抹殺するような気持ちで私を見ていた。 隼人は目をそらし、痛そうに言った。 「澄香、どうして悠翔をこんな目に遭わせたんだ? 俺は君を許せない。でも、これからも悠翔のことは守り続ける。 罪を認めてくれ、そうすれば軽くなるかもしれない」 今の隼人は、まるで良い夫の仮面をかぶっているかのようだった。 私は冷笑を浮かべ、言った。 「私は何もしていない、どうして認める必要があるの?」

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第6話

    「澄香、どうしてそんなことを言うんだ!」 隼人は傷ついたように後ろに一歩退き、声を震わせて言った。 「悠翔も君も、俺にとっては一番大切な、愛する人たちなんだ」 隼人の顔には悲しみが色濃く浮かび、彼の言葉にはその深い思いがにじみ出ていた。 それを見た周囲の人々は、心から彼を可哀想だと思い始めた。 「こんなにいい旦那さん、どうしてこんな女が妻なんだ?」 「本当に運命の不公平だ。こんな良い男が、どうしてこんな女と一緒にいるの?」 「もし彼が私の旦那だったら、喧嘩しても自分で自分を叩きそうだ」 次々と嫉妬や怒りの声が私に向けられる。 私は隼人の演技を無視して、胸を腕で抱え、静かにバッグから一枚の書類を取り出した。 「これがあなたにとって一番大切なものじゃないかしら」 そう言って、私は保険証書を彼の前に投げ出した。 証書には、はっきりと記載されていた―― 保険契約日、ちょうど一週間前。 被保険者は私と悠翔。 そして、受取人は隼人だけ。保険金目当てで妻を殺す事件はすでにいくつかあり、これにはどうしても疑いを感じてしまう。 「まさか……反転するの?」 「こんなこと、あっていいの?」 会場内は一瞬にしてざわめき、疑念と噂が入り混じった。 隼人はその表情を崩さず、冷静にスマホを取り出し、私の保険証書を見つめながら説明した。 「忘れたのか?私たちは毎年、人身保険に入っている。 今回は販売担当が連絡を忘れたので、最近補完しただけだ。 過去の記録を見せてあげることもできるよ」 隼人は無理に自信を見せつけるように、スマホを解錠し、堂々とした態度で私に証明しようとしていた。 「君は俺の妻だ。こんなことが起きるわけがない。 それに、悠翔のアレルギー反応は誰も予測できなかった」 「俺と母さんも、ゲストが食べるものを何度も確認して、悠翔はずっと大丈夫だった。 でも、彼は結局……」 隼人の言葉は途中で途切れ、何かに気づいたようだ。 姑がぼそりと口を開いた。 「悠翔、ケーキを食べてアレルギー反応を起こしたんじゃないの?」 そして、そのケーキが私が買ったものであることに気づく。 姑は目を見開き、テーブルに置かれたケーキをしっかりと見つめた。 そのまま口に一口運ぶと、先ほど

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第5話

    「澄香、あんた、頭がおかしくなったのか! 明らかに、あんたが悠翔の命を救う薬を壊したんじゃない!それでも足りずに、今は嘘を言って私の息子を陥れようとしてる!」 姑の目は怒りで満ち、まるで火を吹きそうだ。 隼人は私がこんなことを言うなんて予想していなかったようで、自嘲気味に唇を引きつらせた。 「もし本当にそうだったらよかったのに……そうすれば、俺が先に悠翔を止められたのに。 俺が死んでも構わない。せめて、あの子を守れたなら」 隼人は顔を覆いながら、涙を堪えている。指の隙間から微かに涙声が漏れた。 その真剣な姿は、周囲の人々の憤りをさらに煽った。 「こいつ、完全に頭がおかしいんじゃないか?」 「自分の息子を殺しておいて、全然反省してない。そして今度は罪を隠そうと隼人を悪者にしてる」 「本当に可哀想だよ、隼人と姑さんがこんな冷血な女と一緒になったなんて」 「こんな悪女、どうして生きているんだ?死んで当然だろう!」 周囲の友人たちも黙っていられず、次々に私を非難し始める。 「澄香、お前には人間としての心があるのか?隼人がここまで頑張って助けようとしてるのに、それを逆手に取って罪をなすりつけようなんて」 「そうだそうだ、隼人がこんなにお前のために頑張ってたんだ。全市を駆け巡ってお前のためにサプライズを準備してたんだ。みんな見てた、覚えてる」 「私たち、ちゃんと見てるし心に留めているよ!彼は本当にあんたを心の底から愛しているんだ!」 「でも今、お前は自分の罪を逃れようとして、あの人に罪を着せようとしてるんだろ?本当にそれでいいのか?」 「今、この時点で、お前は悠翔を殺しただけじゃなく、この家まで壊したんだ!」 みんなの声がどんどん激しくなり、まるで私をその場で処刑しろと言わんばかりだ。 私はその視線を受けながら、静かに笑った。 隼人の作り笑いの上手さには感心する。 それに、私だって――一度死んだことがあるからこそ、見抜けるようになった。 私はその場のすべての視線を背負い、思わず声を出して笑った。 「隼人、もうやめなよ」 「あなたが仕組んだこと、全部知ってるんだから」 隼人は肩を僅かに震わせ、私の言葉に驚いた様子で立ちすくむ。 しばらくして、彼は表情を整え、私を見つめて言った。

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第4話

    誰も、私がそんなことを言うとは思わなかった。 場が一瞬で静まり返り、周囲には針が落ちる音さえ聞こえそうな空気が漂う。 私は悠翔の全身に広がる赤い発疹を見て、眉をひそめた。 「早く死ぬでもなく、遅く死ぬでもなく、どうしてわざわざ私の誕生日を選んで死ぬの?本当に縁起が悪いわ」 その言葉が引き金となり、周囲の視線が怒りに燃えた。 「澄香、悠翔くんは君の息子だろう!なんでそんな冷血なことが言えるんだ!」 「たった3歳の子どもだぞ?さっきまであんなに嬉しそうに、母親と一緒にケーキを食べるのを楽しみにしてたのに……」 「澄香、こんな酷い人間だったなんて。どうして今まで君と友達だったんだろう」 怒りと非難の声が一気に私に集中する。 隼人は信じられないという表情で私の手首を掴んだ。その力は強く、手が痛むほどだ。 「澄香!そんなことを言うな! 悠翔がいなくなったショックは分かるけど…… だからって、自分を責めるようなことを言ったって、彼は戻ってこないんだぞ。悠翔だって、君が自分を傷つけるのを望んでいるはずがない!」 隼人の声は真剣で、一語一語が必死だった。 あたかも、私が愛するがゆえに取り乱し、口にしてしまった言葉を擁護するかのように。 私は、ふっと笑った。 そして一言ずつ、間を置いて言った。 「私は……わざと悠翔に薬を渡さなかったのよ」 その言葉に何のためらいもなかった。むしろ、楽しむかのような表情すら浮かべていた。 それを見た姑は狂ったように私に飛びかかってきた。 「澄香!あんたなんか、生きてる資格なんてない!この毒婦が! 人殺し!この手で息子を殺した女だ! 彼女の顔を世間に晒してやれ! この女がどれだけひどい人間か、みんなに教えてやるんだ!」 声を合わせた罵倒が広がり、会場の人々はこぞってスマホを構え、私に向けてカメラのシャッターを押した。 無数のフラッシュが私を囲むように光り、ネット上にはすぐに私への非難の声が溢れた。 「こいつ、本当に悪魔みたいな女だ。地獄に堕ちろ!」 「白いドレスなんか着て、清純ぶるなよ!お前の汚い本性は隠せないんだよ!」 「自分の息子を殺すなんて、畜生以下のクズだ!」 悪口は次々と飛び交い、私は「冷血な母親」や「毒婦」といったレッテルを貼ら

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第3話

    15分後、医者がようやく到着した。 周りの人々は慌ててスペースを作り、息を呑んで医者の救命処置を見守る。 しかし、悠翔はすでに意識を失っていた。 体中にアレルギー反応による赤い発疹が広がり、手足の痙攣も弱くなっている。一目見ただけで、もう助からないかもしれないと分かった。 私は冷たく立ち尽くしていた。 何の感情も見せない私の態度に、ついに誰かが口を開いた。 「澄香さん、悠翔くんがどうなるか分からないのに、なんでそんな冷静でいられるんですか?」 「本当に彼のお母さんなの?」 私が何も答える前に、隼人が一歩前に出て言い返した。 「すみません、澄香もきっとショックを受けすぎてるんです。 家の中で、いちばん悠翔を気にかけていたのは彼女なんです。皆、どうか責めないでください」 隼人はいつものように私をかばい、落ち着いた笑顔を浮かべて周囲をなだめる。 前世でも、どんな時でも彼はこうして私を守っていたっけ。 医者は懸命に処置を続けていたが、すでに遅かった。 悠翔の瞳孔は9ミリ以上拡張し、心電図の線が一本に変わる。 医者はため息をつき、申し訳なさそうに首を横に振った。 「申し訳ありません……私たちは最善を尽くしました」 姑はその場に崩れ落ち、大声で泣き叫んだ。 「悠翔、まだ助かるわ、先生、お願い、どうかもう一度助けて! 悠翔、目を開けて!おばあちゃんがそばにいるのよ!お願いだから、行かないで!」 姑の悲痛な声が響き渡り、隼人もその場で呆然と立ち尽くしていた。 彼は頭を振りながら、自分に言い聞かせるように声を震わせた。 「違う……そんなはずない…… 悠翔はまだ3歳なんだ。たかがアレルギーだろ?助かるはずだ、そうだろ?」 隼人は周りの人々に助けを求めるような目を向けるが、誰も直視することができない。 医者は器具を片付けながら静かに告げた。 「お気持ちは分かりますが……どうかお気を強く持ってください」 楽しいはずの誕生日パーティーは、悲劇の舞台と化していた。 姑は、悠翔の遺体を抱きしめながら、私を睨みつけた。 「澄香!すべてあんたのせいだ! なんで悠翔の命を救う薬を捨てたの?どうしてあんなことをしたの?」 彼女の視線が私を貫き、その場の全員も同じように私を非難する目

  • アレルギーで息子が窒息、私は薬を捨てた_   第2話

    「悠翔!どうした?!」隼人の慌てた声がドア越しに響き、部屋に届いた。 私は冷静にドアを開ける。 時計の針はちょうど6時を指していた。まさに前世で息子に異変が起きた時間だ。 リビングには、息子が地面に倒れている。 テーブルの上には私が買ったケーキがあり、一口分が欠けていた。 息子の顔色は青白く、無意識に喉を掻きむしっている。 明らかにアレルギー反応が出ている。 隼人は顔を真っ青にして、薬を探して部屋中を引っ掻き回している。 私を見て、隼人の目がパッと明るくなる。 「澄香、悠翔がアレルギー反応を起こしてる!薬、確か持ってたよね?」 「うん、持ってる」 私は頷くが、動きはない。 息子の顔色がますます悪くなり、姑が堪えきれずに声を上げる。 「薬があるなら、早く出してよ!」 周りにいた友人たちも、私を急かす。 「そうだよ!この子がこんなに苦しんでるのに!」 「澄香、薬、どこにあるの?普段持ち歩いてるバッグの中か、服のポケットに入ってるの?」 「早く、早く見つけてあげて!」 その言葉に、部屋の中の人々は一斉に動き出し、息子のために薬を探し始めた。 まるで、みんなが一斉に蜂のように動き出している。 「探さなくていい」 私は突然声を発し、みんなの動きを止めた。 「薬はここにある」 そう言って、淡い青色の薬の錠剤を手のひらに出す。 隼人の顔に安堵の色が浮かぶ。 「それだ!早くそれを!悠翔に飲ませないと!」 隼人は私の手を掴み、息子を助けられることに対する喜びを表情に浮かべていた。 でも、私がしたのは、彼の予想を裏切る行動だった。 私は軽く笑いながら、その薬を香檳タワーに投げ込んだ。 薬は泡を立てながら、ゆっくりと底に沈んでいく。 その瞬間、周りは完全に凍りついた。隼人は目を見開き、息を呑んだ。 「澄香、いったい何をしてるんだ! それは悠翔の命を救う薬だろう!」 隼人は震える手を伸ばし、薬を取り出そうとするが、薬はもう酒に溶けてしまっていた。 隼人はそれ以上遅らせてはならないと感じ、息を呑み込み、両手で私の肩を強く掴む。 「澄香、お願いだから、冗談はやめて。 普段の冗談なら許せる。でも、今回は息子の命がかかってるんだよ!薬を出してくれ! お

コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status