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第14話

Author: 五ちゃん
それを聞いて、遙華は呆然としていた。複雑な気持ちがその顔に現れた。

遠い昔、景市にも同じようなことを言われていた。景市は自分をちゃんと安心させるために、ブラックカードまでくれた。

それで自分は仕事をやめて、主婦になったのだ。

景市は最初からこのブラックカードは限度額がないから、好きに使っていいと言っていたが、遙華は一度も使ったことがなかった。

しかし自分の娘はすぐに手術費用が必要だったあの時、自分の貯金がない遙華は初めてこのブラックカードを使った。

なのに看護師に景市がこのカードを利用停止にしたから、1円も使えないと知らされた。

その後景市に電話してお金を借りようとしたが、景市は貸さない上に、自分の娘を「早く死んだほうがいい」と呪った。

その時から、学んだ遙華は狂ったようにお金を稼ぐようになり、

自分の娘のために使うお金以外、自分のためには1円も使わないようにしていた。

冬夢が二人のために使ったお金も、遙華はなんとかして返すようにしていた。

「借金を滞納せず無駄遣いせず」というモットーは遙華の自分ルールとなった。

遙華は手にあるケースをしまって、なにか返事しようとした時、冬夢のスマホのバイブがいきなり騒がしく鳴った。

電話に出た途端、助教の焦っている声が向こうから届いてきた。

「岩崎先生、ついさっき交通事故で意識不明の重体になった患者さんが搬送されてきたんです。

元々他の担当医者が手術をするんですが、その方はずっと藤井さんのお名前を呼んでいまして、少し見に来ます?」

それを聞いた遙華と冬夢は困惑した顔で見合わせた。

頷いた遙華を見て、冬夢はようやく「今すぐ行く」と返事した。

助教が電話で言ったことを聞いて、遙華は嫌な予感がした。

あの患者はずっと自分の名前を呼んでいたと、さっき助教が言っていた。

しかしこの世界でも自分はただの孤児で、知り合いは冬夢以外ほとんどいないのだ。

意志不明の状態でもずっと自分の名前を呼んでいそうな人は、景市しか思いつかなかった。

突然、遙華は自分が帰ってからいなくなったシステムのことを思い出した。

システムが言うには、宿主が攻略ミッションを達成したら、次の宿主を探すとのことだ。

あの時システムは自分をあっちの世界へ連れていくことができるのなら、景市をこっちの世界に連れてくることもできるのでは……
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  • あの人のいない春   第15話

    遙華のぶるぶると震えている体に気づいて、冬夢はすぐに前に出て、彼女を守っていた。「患者さん、僕の彼女に近づかないでもらえませんか?」「ドカーン!」まさに寝耳に水で、景市は驚いた顔で目の前の二人を見て、どうしても信じられなかった。「彼女?」遙華は自分の妻だぞ。他の男の彼女になるわけがない!「何を言ってるんだ!?」景市は考えもせずに、そのまま拳を振り上げて殴ろうとした。冬夢は後ろの遙華を守りながら、その拳を受け止めて、力強く後ろに押した。その瞬間、景市はよろよろと後ろに倒れていて、後ろに支えてあげる人がいたおかげで転ばずに済んだ。悔しがっている景市がもう一回拳を振ろうとした時、遙華はいきなり冬夢の後ろから前に出てきた。そして冷たい目で景市を睨んでいた。振りかけの拳は一瞬で止まった。景市が何か言いそうなところで、遙華は急に手を振ってビンタを食らわした。「パチン!」強いビンタの音が手術室に響いた。遙華は落ち着いた口調で、「いい加減にして」と言った。遙華にビンタされた景市はそのまま固まった。長らく反応できなかった。それを見て、冬夢はすぐに他の医者に頼んで、景市を押さえて手術室に戻してもらった。騒動の後、病院の廊下はまた静寂に戻った。遙華は深くため息をついて、苦笑いを浮かべながら顔を上げて、冬夢と目を見合わせた。「ちゃんと紹介してなかったね。あの人が私の元夫だよ」景市との結婚証明書はあっちの世界で限定のものだから、「元夫」と呼んでも間違っていなかった。壁にかかっている時計の針が3周も回って、遙華はようやく冬夢に景市との過去のことをすべて話せた。自分が攻略ミッションの執行者であることも含めて、すべて残らずに冬夢に話した。「あの人と出会ったことはきっと人生で一番幸運なことだって思ってた。だから迷わずに家に帰るチャンスを諦めたの。でも、あの人が記憶を失ったあの1ヶ月で、私、ようやく悟ったの。あの人のためにあの世界に残ったことが人生で一番馬鹿げたことだって」冬夢は遙華を抱きしめた。遙華の過去を聞いて、まるで自分の経験のようにすごく心が痛いのに、どう慰めればいいか分からなかった。景市は重い傷を負ったが、手術が終わって外に押し出されても、ずっと意識を保ったままで目を瞑っていなかった。

  • あの人のいない春   第16話

    「いや、遙華、汚れてなんかない!」景市は無理してベッドから降りて、遙華の手を掴もうとした。「会いに来る前からもうきちんと体を洗ったから!」遙華はすうっとその手を振り払って、冷たい声で怒鳴った。「触らないでよ!あんたを見るだけで、奈々子と二人でやった光景が頭から離れないの!景市、あんたには本当に反吐が出るわ!」それを聞いて、景市は心が壊れそうなくらい苦しかった。「遙華、そんなこと言わないで。本当に全然汚れてないから」そう言いながら、慌てている景市はまた遙華の手を掴もうとした。「確認してもいいよ。本当にきれいなんだ」次の瞬間、強い風がいきなり横から襲ってきて、「パーン」と景市に当たった。「遙華に触るな!」ドアの前で待っている冬夢はずっと外から病室の状況を覗いていた。景市が止められたにもかかわらず、遙華の手を掴もうとしている姿を見て、冬夢はすぐに駆けつけて、景市を押し倒した。「広瀬、もう一度言うよ。また遙華に触ろうとしたら、絶対に許さないから」そう言って、冬夢は遙華の手を引いて外へ歩き出した。「遙華!」景市に後ろからどれだけ呼ばれようとも、遙華は全然振り返らなかった。それから、遙華は毎日家のドアの前で色々な花束とプレゼントを見かけていた。全部自分があっちの世界で好きだった花束とプレゼントだったから、すぐに誰からの贈り物か分かった。最初、遙華は気にしていなかった。ただ清掃員に清掃している時についでに捨ててもらった。しかし捨ててもらったたびに、翌日に景市からより多くのプレゼントを持った。耐えられなくなった遙華は、次に景市からプレゼントをもらった時に、地に置かれているプレゼントをそのまま景市に投げつけた。「景市、あんた一体何がしたいのよ!?あんたのこと好きじゃないし、あんたなんかのために振り返ったりしないって言ったでしょ?何をしても無駄だよ」景市は投げられたプレゼントをギュッと抱えて、悔しそうな口調で言葉を発した。「遙華を振り返らせる以外、俺には何ができるんだ?遙華は俺の妻なのに、まだ離婚もしてないのに、なんで他の男と一緒にいるんだよ!」そう言いながら、嫌そうな顔をして遙華の後ろの部屋に目を向けた。遙華が今住んでいる家も一応立派で広い家だが、景市と結婚した後一緒に

  • あの人のいない春   第17話

    景市は冬夢の腕の中の娘を見て、少し目が濡れた。色々傷つけられすぎたからか、娘は景市を見てものすごく怯えていた。ずっと冬夢の腕に入り込もうとした。そのような娘を見て、景市の心が急にチクッとして、体の両側に垂れている手も震えが止まらなかった。あれは自分の実の娘で、自分の一番可愛がりたかったお姫様なのに、今はこんなに自分のことを拒んでいる。景市は悔しそうな顔で、手を伸ばして娘を抱っこしようとしたら、隣の遙華に力強く振り払われた。「この子に触らないでよ!」その手に気づいて不安になってきたか、冬夢の腕の中の子どもはいきなりギャーギャー泣き出した。それにびっくりした冬夢はすぐに子どもを慰めながら部屋のほうに戻ろうとした。「いやだ!」中に飛び込もうとしている景市を見て、遙華はすぐ景市の前で塞いでいた。「景市、あんたは入っちゃだめ!」娘の泣き声を聞いて、景市の心は激しく動揺していた。それで焦っているような顔で、「一回入らせてその顔を見させてくれ。俺の娘でもあるんだぞ!」といった。遙華は「ふふ」と皮肉な笑い声を上げて、「あんたの娘?自分の娘の命に関わることでもどうでもよくて、何度も何度も娘のことを呪ってきた父親なんかいる?」と答えた。景市は顔色が真っ青になった。何度も何か言いたそうで、何も言えなかった。しかし遙華はそれで逃すこともなく、逆に一歩ずつ距離を縮んで景市を詰めていた。「景市、あんたはあんだけあの子を傷つけることをしてきて、あの子にとって、最初から父なんかじゃないわ」ずっと黙っている景市を見て、遙華はようやく元の位置へ戻ってきた。そして振り返ってドアを閉じた。景市はそのままぼんやりして何分間もそのドアを見つめていた。大丈夫だ。自分にはまだ時間がある。必ず遙華を振り返らせるから。そう思って、景市は早足でエレベーターのほうへ行った。その時、横の家のドアに貼ってある「ショートセール」という広告ポスターが突然景市の目に入った。景市は足を止めてじっとポスターを見ていた後、さっとそれを剥がした。翌日の朝、遙華はドアを叩いている「コンコン」の音に起こされて、まだ完全に夢から覚めていない時に、そばにいる冬夢はそっとそのほっぺたにキスをした。「そのまま寝てていいよ。僕が見てくる」遙華は「うん」と答え

  • あの人のいない春   第18話

    それにびっくりした遙華はよろよろと後ろに下がって、「高すぎでしょ!?」と言った。その瞬間、色々な感情が遙華の心に渦巻いた。冬夢がそこまで自分の子を大切にしてくれているとは思わなかった。まだ結婚しないのに、自分の娘と血も繋がっていないのに、そんなに自分たちのことを大切にしている。そう思うと、遙華の瞼は一瞬で濡れた。自分はまだこれ以上の愛で答えられない時、まだ未来のことで躊躇っている時、冬夢は何も求めずに、先に自分の愛を全部遙華とその娘に捧げた。その涙目を見て、冬夢の心がギュッとなった。慌てて涙を拭いてあげて慰めていた。最後、遙華は冬夢のダジャレに笑わされた。「冬夢からのプレゼントを全部持って行っちゃったらどうするの?」冬夢は「ふふ」と笑って、遙華の額にキスした。「遙華はしないよ……」「何してんだ!?」怒鳴り声が遠くから届いて、二人の甘い雰囲気を完全に壊した。遙華は少し眉を顰めてドアのほうを向いた。険しい表情で自分たちを見ている景市がすぐに目に入った。黙っている二人を見て、景市は急にイライラしてきた。早足で歩いてきて、遙華の手を掴もうとした。しかし冬夢に即座に振り払われた。「広瀬、何をするんだ?遙華と僕が何をしてもお前とは関係ないだろ?」遙華も景市のせいで気分がドン底に沈んだ、そのまま冬夢の手を掴んで外へ連れ出した。沈黙だけの車内で、雨が窓に落ちる音以外、遙華と冬夢の心臓の鼓動しか聞こえなかった。遙華が黙りながらただ窓の外を眺めている姿を見て、冬夢は複雑な気持ちが一瞬目から溢れ出した。何も言わずに、ただ遙華の手の上にそっと手を置いて、ギュッと握りしめた。長い沈黙を経て、遙華はようやく冬夢のほうを向いて、申し訳無さそうに「ごめんね。せっかくの休みなのに」と言った。本当は家に帰りたくなかった。でも景市はずっと自分と話がしたいと後ろから追いかけてきていた。それがどうしても嫌だった。景市を見るだけで、遙華は彼が記憶を失った時に自分にしたことを思い出してしまう。景市と二人きりなんてできないのだ。冬夢がそれを聞いて、呆然とした。本能で遙華を慰めようとした時に、車の後ろから繰り返し鳴らされたクラクションが聞こえた。振り返ったら、冬夢は後ろから自分たちを追い詰めようとするあのラングラーを

  • あの人のいない春   第19話

    でかい衝撃の音が前から耳に入った。エアバッグがすぐに出てきて、勢いで前にぶつかる遙華をしっかりと受け止めた。その一瞬、遙華は心臓が止まると思っていた。まだ息も整えていないうちに、そのラングラーが自分たちの車を越して、そのままその白い車にぶつかった光景が目に映った。「パーン!!」一瞬で、事故現場は大騒動になった。パトカーと救急車のサイレン音と周りの人の泣き声が混ざりあって、そのすべてが顔色が真っ青になった遙華の目に入った。隣の冬夢にギュッと肩を掴まれえ、焦っている声で自分の名前を呼ばれて、遙華はようやく我に返った。不意に後ろのジュニアシートのほうを見て、娘は無事だと確認したら、遙華はやっと娘を冬夢に渡した。そして片手で髪を揉みながら、ドアを開けて車から降りた。道中は惨状だった。景市の車は前の白い車に入り込んで、フロントバンパーは丸ごと凹んでいた。運転席で、景市の頭はすでに血だらけなのに、両手はハンドルを握りしめたままだった。遙華は深呼吸して、広い歩幅でその車の前まで行って、ドアを開けて、その中から死にかけた人を引っ張り出した。「遙華……」目の前の遙華を見て、景市は目を輝かそうとするところで、遙華からビンタを食らった。「景市、あんたはあと何回娘と私を殺そうとするの!?娘と私が追い詰められて死んじゃわないと、許してくれないの?」景市は傷ついたような目をした。そして慌てながら口を開いた。「ち、違うんだ、遙華……俺はただ遙華を止めて、そして遙華と……」「もういい、景市!」遙華は怒りのあまり全身が震えていた。絶望に満ちた口調で、「あんたの言い訳なんか聞きたくない。今すぐ消えてください。もう娘と私を邪魔しないで」と言った。そして、遙華はもう二度と振り返らずに、後ろを向いて戻ろうとした。それを聞いた景市は一瞬で焦りだした。本能で追いかけようとしたが、次の瞬間、視界が暗くなって、完全に意識を失ってしまった。それからの数日間、娘にまた何かあるのが怖くて、遙華は一歩も離れずにずっと娘のそばで守っていた。冬夢も子どものことが心配で、毎日早めに病院から帰ってきた。しかし今日だけ、冬夢がずっと家に帰ってこなかった。遙華はどんどん不安になってきて、すぐに冬夢に電話をした。だが、向こうから届いたのか助教の声

  • あの人のいない春   第20話

    言い終わった瞬間、景市の濡れた瞼が遙華の目に入った。遙華の記憶で、景市の涙は稀なものだった。数回だけ涙を流したのは、全部自分のためだった。景市の涙を見たら、遙華はどれほど冷たい態度を取ったとしても、すぐに慰めたから。自分の涙は遙華の弱みだと知って、景市は毎回遙華に傷つけられた時、瞼を濡らした。しかし今、景市がどれくらい泣いても、遙華は何もしてあげなかった。興味も持たずに、後ろを向いて外に出ようとした。次の瞬間、遙華はその人に後ろから抱きつかれた。そのドキドキする心臓の鼓動と、震えている声が遙華の耳に入った。「遙華、君と娘が離れてから、俺は死ぬほど苦しんでた。どんな説明でも通じないのは分かってる。でもやっぱり『もしかしたら』って思って、もしかしたら、遙華は情けをかけて許してくれるかもしれないって」遙華は微動もしなかった。言葉も発さなかった。ただ静かに立っているだけだった。その姿を見て、景市はますます辛くなってきた。ここ数日、遙華は自分に手を出したり、怒ったり、無視したりしてきた。情けだけどうしてもかけてくれなかった。景市は震えながらポケットから数珠つなぎになっているお守りを取り出して、遙華に見せた。「遙華が言ったんだ。俺が一回遙華を傷つけてしまたら、お守り1本を取ってあげるって。ほら、こんなにもお守りを取ってあげたぞ。どうか許してくれないか?」自分でも無理やりすぎると思っていたか、景市はまた譲歩して、「少なくとも、償うチャンスがほしいんだ。本当に悪かったんだ。俺たちにはまだ娘もいるし、そういうチャンスをくれないか?」といった。遙華はただ黙り続けて、自分を抱きついている腕から抜け出した。そして、振り返って景市を見ていた。「景市、あんたはいつもそう。毎回私を傷つけた後、いつも自分が謝れば償えば済むって思ってる。しかしあんたがいくら謝っても、償っても、娘と私が負った傷は変わらないよ」遙華は深く息を吸って、言い続けていた。「それに、それはもう傷つけるレベルじゃないわ。娘と私は命を落としそうなところだったよ」景市が何か言いたそうなところで、焦っている声が後ろから届いてきた。「遙華!」次の瞬間、遙華は急いで帰ってきた冬夢に腕に抱きしめた。「何かされてないよな?」帰ってきた冬夢を見て、遙華は

  • あの人のいない春   第21話

    遙華はじっと冬夢を見つめていた。その目には自分のことしかなかった。手をギュッと握りしめながら、遙華は心の底の複雑な気持ちを抑えた。冬夢が自分のことも、自分の娘のことも大切にしているのは知っている。しかしそこまで大切にしているとは思わなかった。自分の娘を実の娘のように可愛がってきただけでなく、娘の1歳の誕生日のためにそんなに手間のかかる準備をしているとは。もし娘と自分に出会わなかったら、冬夢のような男はきっとモテるだろう。それなのに自分を選んでくれたなんて。言葉ではまとまらないくらい色々な感情が混ざっていた。しばらくしたら、遙華は一言しか発さなかった。「なんでそこまで……?」「遙華、僕のしているすべてがちゃんと考えてから決めたんだ。遙華とこの子に出会ったことに後悔したことは一度もない。もうこの子の産まれた日と生後1ヶ月の記念日を見逃したから、今回の1歳の誕生日は絶対に見逃したくないんだ」遙華は涙を堪えて、冬夢を抱きついた。時間が流れていき、遙華はようやく細い声で、「ありがとう……」と言った。遙華の娘の1歳の誕生日パーティーに、たくさんの人がお祝いに来た。みんな素直に祝福して、くれたプレゼントもどれも素敵だった。冬夢は片手で娘を抱き上げながら、片手で遙華と手を繋いで、来てくれたゲストに1人ずつ挨拶をした。1歳の誕生日に、娘のあだ名も決められた。「安ちゃん」という名前だった。遙華は娘に多くは求めていなかった。ただ安泰な人生を歩んでほしいだけだった。パーティーの途中で、会場の前からいきなり騒ぎが起こっているような物音がした。すぐに、パーティーの担当者がやってきて、ひそひそと冬夢に耳打ちをした。冬夢の顔色は微妙に変わった。そして担当者に「先に警備員にそのままあいつを止めてもらって。すぐに行くから」隣りにいる遙華は一瞬で誰が起こした騒ぎか分かった。遙華は冬夢の手を引っ張って、「やっぱり私が行こう。私の原因もあるし」と言った。冬夢は反対しているような顔をしたが、遙華は自分の手をポンポンと叩いた。「大丈夫。ちゃんと自分の身を守るから」会場の外の隅っこで、景市は何人かの警備員に椅子に固定された。やってきた遙華を見て、景市は冷静を失い、椅子から立ち上がろうとした。「遙華!」しかし遙華の次

  • あの人のいない春   第22話

    「俺は……」景市は何か言いたそうなところで、いきなり目を丸くした。「危ない!」次の瞬間、遙華は景市にしっかりと身で守られた。「パーン!」クリスタルのようなペンダントライトが景市の頭上の天井から勢いよく落ちて、景市の頭にぶつかった瞬間、爆散した。ガラスの破片は景市の血と混ざって粉々に飛び散った。手術室の外で、遙華は椅子に座ってぼうっとしていた。景市が自分を守った時のことが頭から離れなかった。隣に座っている冬夢は遙華の手を握りしめて、手に伝わる温度で慰めていた。ついに、手術室のドアが開けられた。二人はすぐに立ち上がったら、医者に厚く重なった診断書を渡された。「患者さんの状況は少々複雑ですね」遙華はぼんやりしていた。そして診断書を受け取って、冬夢と一緒に捲りながら医者の説明を聞いていた。聞けば聞くほど、二人の気持ちが重くなっていた。遙華は景市がひどい怪我をしたとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。医者の話によると、景市は記憶障害を負ったので、記憶を取り戻したものの、すでに頭に取り返しのつかない損傷を残してしまったそうだ。それから、景市は重ね重ね事故に遭ってしまい、身体能力はもう限界だそうだ。いくら良い治療や薬を使っても、もう長く生きられないのだと。遙華は手を握りしめて、結局それを聞けなかった。だが景市が病室に搬送されてから、遙華はようやく口を開いた。「入って見てもいいですか?」医者に許可されたら、遙華は冬夢に頷いて、景市のいる病室に踏み入れた。窓の外から温かい日差しが入って、景市の顔を照らした。しかしそれでも、景市の顔は血の気のないままだった。ぐっすり眠っているその顔を見て、色々な感情が遙華の胸に渦巻いた。前回二人きりになったのはいつだったか、もう思い出せなかった。ぼんやりした記憶の中で、毎回景市に会っただけで、喧嘩して、不愉快な空気で別れた。遙華は深くため息をついた。もう一度目を開いたら、景市のその淀んだ目と合った。「遙華……」遙華は落ち着いた顔で景市を見ていた。「景市、どうせ同じことを言うんでしょ?でも私の性格、あんたも分かってるはずだよ。私、何かを嫌いになったら、もう好きになることはないよ。小さい頃、1回魚の骨が喉に刺さったことがあって

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  • あの人のいない春   第24話

    景市が亡くなったあの瞬間、遙華はいきなり心が何か刺されたかのようにチクッと痛みだした。そして不安が全身に襲ってきた。遙華はどうして自分はこうなるのか分からなかった。看護師がその手紙を冬夢に渡して、冬夢がまた遙華に渡したら、ようやく答えが見つかった。「何、これ?」冬夢は躊躇しているような目で遙華を見ていた。そしてようやく困った口調で、「広瀬が遙華に書いたお別れの手紙だ」と答えた。遙華は呆然としていた。しばらく迷っていたら、やっと冬夢からその手紙を受け取った。この手紙はあまりに短く、遙華は一瞥しただけで全てを飲み込んだ。だが、この手紙はあまりに長く、彼女は長い時間をかけてようやく現実に戻ってこられた。。「ごめん」から始まって、「さようなら」に終わる手紙だった。最後の1行に、景市は「遙華が来世、もう俺なんかに会わないように」と伝えた。涙が遙華の目を濡らした。10歳の景市が遙華の目に浮かんだ。景市は影みたいにずっと自分についてきて、「好きだ」と言った。17歳の景市も目に浮かんだ。景市は自分に告白した男性を全員倒して追い出して、「付き合おう」と言った。22歳の景市も目に浮かんだ。景市は大金を使って島を丸ごと買ってくれた。「結婚しよう」と言った。最後、23歳の景市も目に浮かんだ。景市は夜中に車で病院に向かって走ってきて、「俺たちの愛の結晶の爆誕を見届けたい」と言った。最後の最後、スーツを着ていて、自分の大好きなバラを持っている景市も目に浮かんだ。景市は微笑んで、「さようなら」と言った。遙華は深く息を吸った。気づいたら、冬夢がもう指で自分の涙を拭いていた。冬夢に向かって、遙華は笑顔で答えた。「大丈夫よ。ただ急すぎただけ。あいつの死に対して、何を言えばいいか分からないけど、昔のすべてもそれと同時に消えるべきなんじゃないかなって思って。私も自分の人生を歩み続けないと。これから、あいつが私にとって、ただの無関係の人よ」言い終わったら、遙華は迷いもせずにこの手紙を暖炉の火の中に捨てた。その手紙はすぐに炎に燃やされた。灰も残されずに。ショックを受けていないか心配だからか、遙華に何かに遭わないように、ここ数日、冬夢はずっと遙華から離れずに守っていた。そのような冬夢を見て、遙華はずっと自分は大丈夫だから

  • あの人のいない春   第23話

    景市は顔を上げて、横の窓のほうを向いた。自分の痩せっている姿がガラスに映っていた。自分の身体を長らくじっと見つめていて、ようやく悔しそうな口調で、「俺のミッションは完全に失敗した、な?」と聞いた。システムがそれに対する返事は沈黙だった。本当は最初から景市はこのミッションを達成できる気がしなかった。むしろ、このシステムも、このミッションも、ここ数日であったことも全部走馬灯だと思っていた。自分はとっくに死ぬべきだった。今日じゃなくて、事故に遭って記憶を失ったあの日に死ぬべきだった。まだそのように執着していたのは、ただ奇跡を期待していただけだった。奇跡的に遙華と仲直りができることを期待していた。昔遙華が自分のプロポーズを受け入れてくれるように、プロポーズ前日にわざわざ額ずきながら999段の階段を上って、その上の寺で願いをかけたように。額ずきながら階段を上ってきた翌日、遙華は本当に涙で顔を洗いながら受け入れてくれた。あの時、景市は本当にこの世に奇跡が存在していると信じていた。しかし今はどれだけ願っても、奇跡は訪れなかった。景市は無気力にベッドで長らく座っていた。最後はようやくあの灰になっても覚えている電話番号を押した。戻る前に、遙華とちゃんと別れを告げたかった。しかし1回目、2回目、3回目……電話がずっと繋がらなかった。景市の目にあったハイライトもどんどん消えていった。安ちゃんが危篤状態の時に、遙華が自分にかけた電話が繋がらないその絶望感がようやく分かった。第99回目の電話も繋がらなかった。ここで景市はようやく諦めた。それから何も言わずに紙とペンを取り出して、長いお別れの手紙を書いた。そしてちゃんと遙華に届くように、看護師に遙華に渡すよう何度もお願いした。最後、景市はシステムを呼び出した。「システム、攻略ミッションは諦めた。今元の世界に連れ戻して」白い光が差した。その後、病室のベッドに誰もいなかった。同時に、あっちの世界で、1ヶ月以上も眠った景市はようやく目が覚めた。その瞬間、無数の医者がその部屋に入ってきた。景市が目覚めたのは医学的な奇跡だと称賛しようと思ったら、その体に様々な不治の病が診断され、歓喜な目が悲しみに満ちた目になった。最後、主治医は暗い顔をして

  • あの人のいない春   第22話

    「俺は……」景市は何か言いたそうなところで、いきなり目を丸くした。「危ない!」次の瞬間、遙華は景市にしっかりと身で守られた。「パーン!」クリスタルのようなペンダントライトが景市の頭上の天井から勢いよく落ちて、景市の頭にぶつかった瞬間、爆散した。ガラスの破片は景市の血と混ざって粉々に飛び散った。手術室の外で、遙華は椅子に座ってぼうっとしていた。景市が自分を守った時のことが頭から離れなかった。隣に座っている冬夢は遙華の手を握りしめて、手に伝わる温度で慰めていた。ついに、手術室のドアが開けられた。二人はすぐに立ち上がったら、医者に厚く重なった診断書を渡された。「患者さんの状況は少々複雑ですね」遙華はぼんやりしていた。そして診断書を受け取って、冬夢と一緒に捲りながら医者の説明を聞いていた。聞けば聞くほど、二人の気持ちが重くなっていた。遙華は景市がひどい怪我をしたとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかった。医者の話によると、景市は記憶障害を負ったので、記憶を取り戻したものの、すでに頭に取り返しのつかない損傷を残してしまったそうだ。それから、景市は重ね重ね事故に遭ってしまい、身体能力はもう限界だそうだ。いくら良い治療や薬を使っても、もう長く生きられないのだと。遙華は手を握りしめて、結局それを聞けなかった。だが景市が病室に搬送されてから、遙華はようやく口を開いた。「入って見てもいいですか?」医者に許可されたら、遙華は冬夢に頷いて、景市のいる病室に踏み入れた。窓の外から温かい日差しが入って、景市の顔を照らした。しかしそれでも、景市の顔は血の気のないままだった。ぐっすり眠っているその顔を見て、色々な感情が遙華の胸に渦巻いた。前回二人きりになったのはいつだったか、もう思い出せなかった。ぼんやりした記憶の中で、毎回景市に会っただけで、喧嘩して、不愉快な空気で別れた。遙華は深くため息をついた。もう一度目を開いたら、景市のその淀んだ目と合った。「遙華……」遙華は落ち着いた顔で景市を見ていた。「景市、どうせ同じことを言うんでしょ?でも私の性格、あんたも分かってるはずだよ。私、何かを嫌いになったら、もう好きになることはないよ。小さい頃、1回魚の骨が喉に刺さったことがあって

  • あの人のいない春   第21話

    遙華はじっと冬夢を見つめていた。その目には自分のことしかなかった。手をギュッと握りしめながら、遙華は心の底の複雑な気持ちを抑えた。冬夢が自分のことも、自分の娘のことも大切にしているのは知っている。しかしそこまで大切にしているとは思わなかった。自分の娘を実の娘のように可愛がってきただけでなく、娘の1歳の誕生日のためにそんなに手間のかかる準備をしているとは。もし娘と自分に出会わなかったら、冬夢のような男はきっとモテるだろう。それなのに自分を選んでくれたなんて。言葉ではまとまらないくらい色々な感情が混ざっていた。しばらくしたら、遙華は一言しか発さなかった。「なんでそこまで……?」「遙華、僕のしているすべてがちゃんと考えてから決めたんだ。遙華とこの子に出会ったことに後悔したことは一度もない。もうこの子の産まれた日と生後1ヶ月の記念日を見逃したから、今回の1歳の誕生日は絶対に見逃したくないんだ」遙華は涙を堪えて、冬夢を抱きついた。時間が流れていき、遙華はようやく細い声で、「ありがとう……」と言った。遙華の娘の1歳の誕生日パーティーに、たくさんの人がお祝いに来た。みんな素直に祝福して、くれたプレゼントもどれも素敵だった。冬夢は片手で娘を抱き上げながら、片手で遙華と手を繋いで、来てくれたゲストに1人ずつ挨拶をした。1歳の誕生日に、娘のあだ名も決められた。「安ちゃん」という名前だった。遙華は娘に多くは求めていなかった。ただ安泰な人生を歩んでほしいだけだった。パーティーの途中で、会場の前からいきなり騒ぎが起こっているような物音がした。すぐに、パーティーの担当者がやってきて、ひそひそと冬夢に耳打ちをした。冬夢の顔色は微妙に変わった。そして担当者に「先に警備員にそのままあいつを止めてもらって。すぐに行くから」隣りにいる遙華は一瞬で誰が起こした騒ぎか分かった。遙華は冬夢の手を引っ張って、「やっぱり私が行こう。私の原因もあるし」と言った。冬夢は反対しているような顔をしたが、遙華は自分の手をポンポンと叩いた。「大丈夫。ちゃんと自分の身を守るから」会場の外の隅っこで、景市は何人かの警備員に椅子に固定された。やってきた遙華を見て、景市は冷静を失い、椅子から立ち上がろうとした。「遙華!」しかし遙華の次

  • あの人のいない春   第20話

    言い終わった瞬間、景市の濡れた瞼が遙華の目に入った。遙華の記憶で、景市の涙は稀なものだった。数回だけ涙を流したのは、全部自分のためだった。景市の涙を見たら、遙華はどれほど冷たい態度を取ったとしても、すぐに慰めたから。自分の涙は遙華の弱みだと知って、景市は毎回遙華に傷つけられた時、瞼を濡らした。しかし今、景市がどれくらい泣いても、遙華は何もしてあげなかった。興味も持たずに、後ろを向いて外に出ようとした。次の瞬間、遙華はその人に後ろから抱きつかれた。そのドキドキする心臓の鼓動と、震えている声が遙華の耳に入った。「遙華、君と娘が離れてから、俺は死ぬほど苦しんでた。どんな説明でも通じないのは分かってる。でもやっぱり『もしかしたら』って思って、もしかしたら、遙華は情けをかけて許してくれるかもしれないって」遙華は微動もしなかった。言葉も発さなかった。ただ静かに立っているだけだった。その姿を見て、景市はますます辛くなってきた。ここ数日、遙華は自分に手を出したり、怒ったり、無視したりしてきた。情けだけどうしてもかけてくれなかった。景市は震えながらポケットから数珠つなぎになっているお守りを取り出して、遙華に見せた。「遙華が言ったんだ。俺が一回遙華を傷つけてしまたら、お守り1本を取ってあげるって。ほら、こんなにもお守りを取ってあげたぞ。どうか許してくれないか?」自分でも無理やりすぎると思っていたか、景市はまた譲歩して、「少なくとも、償うチャンスがほしいんだ。本当に悪かったんだ。俺たちにはまだ娘もいるし、そういうチャンスをくれないか?」といった。遙華はただ黙り続けて、自分を抱きついている腕から抜け出した。そして、振り返って景市を見ていた。「景市、あんたはいつもそう。毎回私を傷つけた後、いつも自分が謝れば償えば済むって思ってる。しかしあんたがいくら謝っても、償っても、娘と私が負った傷は変わらないよ」遙華は深く息を吸って、言い続けていた。「それに、それはもう傷つけるレベルじゃないわ。娘と私は命を落としそうなところだったよ」景市が何か言いたそうなところで、焦っている声が後ろから届いてきた。「遙華!」次の瞬間、遙華は急いで帰ってきた冬夢に腕に抱きしめた。「何かされてないよな?」帰ってきた冬夢を見て、遙華は

  • あの人のいない春   第19話

    でかい衝撃の音が前から耳に入った。エアバッグがすぐに出てきて、勢いで前にぶつかる遙華をしっかりと受け止めた。その一瞬、遙華は心臓が止まると思っていた。まだ息も整えていないうちに、そのラングラーが自分たちの車を越して、そのままその白い車にぶつかった光景が目に映った。「パーン!!」一瞬で、事故現場は大騒動になった。パトカーと救急車のサイレン音と周りの人の泣き声が混ざりあって、そのすべてが顔色が真っ青になった遙華の目に入った。隣の冬夢にギュッと肩を掴まれえ、焦っている声で自分の名前を呼ばれて、遙華はようやく我に返った。不意に後ろのジュニアシートのほうを見て、娘は無事だと確認したら、遙華はやっと娘を冬夢に渡した。そして片手で髪を揉みながら、ドアを開けて車から降りた。道中は惨状だった。景市の車は前の白い車に入り込んで、フロントバンパーは丸ごと凹んでいた。運転席で、景市の頭はすでに血だらけなのに、両手はハンドルを握りしめたままだった。遙華は深呼吸して、広い歩幅でその車の前まで行って、ドアを開けて、その中から死にかけた人を引っ張り出した。「遙華……」目の前の遙華を見て、景市は目を輝かそうとするところで、遙華からビンタを食らった。「景市、あんたはあと何回娘と私を殺そうとするの!?娘と私が追い詰められて死んじゃわないと、許してくれないの?」景市は傷ついたような目をした。そして慌てながら口を開いた。「ち、違うんだ、遙華……俺はただ遙華を止めて、そして遙華と……」「もういい、景市!」遙華は怒りのあまり全身が震えていた。絶望に満ちた口調で、「あんたの言い訳なんか聞きたくない。今すぐ消えてください。もう娘と私を邪魔しないで」と言った。そして、遙華はもう二度と振り返らずに、後ろを向いて戻ろうとした。それを聞いた景市は一瞬で焦りだした。本能で追いかけようとしたが、次の瞬間、視界が暗くなって、完全に意識を失ってしまった。それからの数日間、娘にまた何かあるのが怖くて、遙華は一歩も離れずにずっと娘のそばで守っていた。冬夢も子どものことが心配で、毎日早めに病院から帰ってきた。しかし今日だけ、冬夢がずっと家に帰ってこなかった。遙華はどんどん不安になってきて、すぐに冬夢に電話をした。だが、向こうから届いたのか助教の声

  • あの人のいない春   第18話

    それにびっくりした遙華はよろよろと後ろに下がって、「高すぎでしょ!?」と言った。その瞬間、色々な感情が遙華の心に渦巻いた。冬夢がそこまで自分の子を大切にしてくれているとは思わなかった。まだ結婚しないのに、自分の娘と血も繋がっていないのに、そんなに自分たちのことを大切にしている。そう思うと、遙華の瞼は一瞬で濡れた。自分はまだこれ以上の愛で答えられない時、まだ未来のことで躊躇っている時、冬夢は何も求めずに、先に自分の愛を全部遙華とその娘に捧げた。その涙目を見て、冬夢の心がギュッとなった。慌てて涙を拭いてあげて慰めていた。最後、遙華は冬夢のダジャレに笑わされた。「冬夢からのプレゼントを全部持って行っちゃったらどうするの?」冬夢は「ふふ」と笑って、遙華の額にキスした。「遙華はしないよ……」「何してんだ!?」怒鳴り声が遠くから届いて、二人の甘い雰囲気を完全に壊した。遙華は少し眉を顰めてドアのほうを向いた。険しい表情で自分たちを見ている景市がすぐに目に入った。黙っている二人を見て、景市は急にイライラしてきた。早足で歩いてきて、遙華の手を掴もうとした。しかし冬夢に即座に振り払われた。「広瀬、何をするんだ?遙華と僕が何をしてもお前とは関係ないだろ?」遙華も景市のせいで気分がドン底に沈んだ、そのまま冬夢の手を掴んで外へ連れ出した。沈黙だけの車内で、雨が窓に落ちる音以外、遙華と冬夢の心臓の鼓動しか聞こえなかった。遙華が黙りながらただ窓の外を眺めている姿を見て、冬夢は複雑な気持ちが一瞬目から溢れ出した。何も言わずに、ただ遙華の手の上にそっと手を置いて、ギュッと握りしめた。長い沈黙を経て、遙華はようやく冬夢のほうを向いて、申し訳無さそうに「ごめんね。せっかくの休みなのに」と言った。本当は家に帰りたくなかった。でも景市はずっと自分と話がしたいと後ろから追いかけてきていた。それがどうしても嫌だった。景市を見るだけで、遙華は彼が記憶を失った時に自分にしたことを思い出してしまう。景市と二人きりなんてできないのだ。冬夢がそれを聞いて、呆然とした。本能で遙華を慰めようとした時に、車の後ろから繰り返し鳴らされたクラクションが聞こえた。振り返ったら、冬夢は後ろから自分たちを追い詰めようとするあのラングラーを

  • あの人のいない春   第17話

    景市は冬夢の腕の中の娘を見て、少し目が濡れた。色々傷つけられすぎたからか、娘は景市を見てものすごく怯えていた。ずっと冬夢の腕に入り込もうとした。そのような娘を見て、景市の心が急にチクッとして、体の両側に垂れている手も震えが止まらなかった。あれは自分の実の娘で、自分の一番可愛がりたかったお姫様なのに、今はこんなに自分のことを拒んでいる。景市は悔しそうな顔で、手を伸ばして娘を抱っこしようとしたら、隣の遙華に力強く振り払われた。「この子に触らないでよ!」その手に気づいて不安になってきたか、冬夢の腕の中の子どもはいきなりギャーギャー泣き出した。それにびっくりした冬夢はすぐに子どもを慰めながら部屋のほうに戻ろうとした。「いやだ!」中に飛び込もうとしている景市を見て、遙華はすぐ景市の前で塞いでいた。「景市、あんたは入っちゃだめ!」娘の泣き声を聞いて、景市の心は激しく動揺していた。それで焦っているような顔で、「一回入らせてその顔を見させてくれ。俺の娘でもあるんだぞ!」といった。遙華は「ふふ」と皮肉な笑い声を上げて、「あんたの娘?自分の娘の命に関わることでもどうでもよくて、何度も何度も娘のことを呪ってきた父親なんかいる?」と答えた。景市は顔色が真っ青になった。何度も何か言いたそうで、何も言えなかった。しかし遙華はそれで逃すこともなく、逆に一歩ずつ距離を縮んで景市を詰めていた。「景市、あんたはあんだけあの子を傷つけることをしてきて、あの子にとって、最初から父なんかじゃないわ」ずっと黙っている景市を見て、遙華はようやく元の位置へ戻ってきた。そして振り返ってドアを閉じた。景市はそのままぼんやりして何分間もそのドアを見つめていた。大丈夫だ。自分にはまだ時間がある。必ず遙華を振り返らせるから。そう思って、景市は早足でエレベーターのほうへ行った。その時、横の家のドアに貼ってある「ショートセール」という広告ポスターが突然景市の目に入った。景市は足を止めてじっとポスターを見ていた後、さっとそれを剥がした。翌日の朝、遙華はドアを叩いている「コンコン」の音に起こされて、まだ完全に夢から覚めていない時に、そばにいる冬夢はそっとそのほっぺたにキスをした。「そのまま寝てていいよ。僕が見てくる」遙華は「うん」と答え

  • あの人のいない春   第16話

    「いや、遙華、汚れてなんかない!」景市は無理してベッドから降りて、遙華の手を掴もうとした。「会いに来る前からもうきちんと体を洗ったから!」遙華はすうっとその手を振り払って、冷たい声で怒鳴った。「触らないでよ!あんたを見るだけで、奈々子と二人でやった光景が頭から離れないの!景市、あんたには本当に反吐が出るわ!」それを聞いて、景市は心が壊れそうなくらい苦しかった。「遙華、そんなこと言わないで。本当に全然汚れてないから」そう言いながら、慌てている景市はまた遙華の手を掴もうとした。「確認してもいいよ。本当にきれいなんだ」次の瞬間、強い風がいきなり横から襲ってきて、「パーン」と景市に当たった。「遙華に触るな!」ドアの前で待っている冬夢はずっと外から病室の状況を覗いていた。景市が止められたにもかかわらず、遙華の手を掴もうとしている姿を見て、冬夢はすぐに駆けつけて、景市を押し倒した。「広瀬、もう一度言うよ。また遙華に触ろうとしたら、絶対に許さないから」そう言って、冬夢は遙華の手を引いて外へ歩き出した。「遙華!」景市に後ろからどれだけ呼ばれようとも、遙華は全然振り返らなかった。それから、遙華は毎日家のドアの前で色々な花束とプレゼントを見かけていた。全部自分があっちの世界で好きだった花束とプレゼントだったから、すぐに誰からの贈り物か分かった。最初、遙華は気にしていなかった。ただ清掃員に清掃している時についでに捨ててもらった。しかし捨ててもらったたびに、翌日に景市からより多くのプレゼントを持った。耐えられなくなった遙華は、次に景市からプレゼントをもらった時に、地に置かれているプレゼントをそのまま景市に投げつけた。「景市、あんた一体何がしたいのよ!?あんたのこと好きじゃないし、あんたなんかのために振り返ったりしないって言ったでしょ?何をしても無駄だよ」景市は投げられたプレゼントをギュッと抱えて、悔しそうな口調で言葉を発した。「遙華を振り返らせる以外、俺には何ができるんだ?遙華は俺の妻なのに、まだ離婚もしてないのに、なんで他の男と一緒にいるんだよ!」そう言いながら、嫌そうな顔をして遙華の後ろの部屋に目を向けた。遙華が今住んでいる家も一応立派で広い家だが、景市と結婚した後一緒に

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