深夜、月明かりが冷たく肌を刺す中、疲れ果てた体でようやく家にたどり着いた私がまず目にしたのは、玄関の女主人の場所に無造作に置かれた江野遥のハイヒールだった。江野遥がこの家を訪れるのはこれが初めてではない。3年前、彼女が福原グループのシニアパートナーになった頃から、「仕事の話」を理由に頻繁に出入りしていた。早朝だろうと深夜だろうと、たとえ外が土砂降りでも、彼女の「仕事熱心」を止めるものは何もなかった。最初のうちは、私も福原紀行に抗議したことがある。しかし、彼は私に向かって冷たく言ったのだ。「会社が稼いでいるおかげで、お前みたいな何もしない人間が楽して暮らせるんだぞ」それ以降、私がまた文句を言えば福原紀行は口をきかないまま、何日も私を無視するのが常だった。最終的には私が折れて謝るしかなかった。あの頃、私はまだ福原紀行を愛していた。だから自分を納得させていたのだ。しかしその結果が、今私の手にあるたった二百グラムの骨壺だった。皮肉な笑みを浮かべながら家に入ると、目に飛び込んできたのは、福原紀行と江野遥が新婚生活のために私が用意したソファで熱いキスをしている姿だった。薄暗い照明の下、江野遥の白い頬は赤らみ、酔いしれて福原紀行にだらしなくもたれかかっていた。私が家に入ると、福原紀行はまず私が抱えている骨壺に目をやり、それから江野遥をそっと押し離し、丁寧にソファに横たえた。そして、こう言った。「どうやら本当に死んだようだな。演技じゃなくて」福原紀行は目を伏せたまま、上から目線で私を見下ろしていた。声色は一見すると慰めのようだが、その言葉には苛立ちが透けて見えた。「まだ足りないのか?わかったよ。言ってやるよ。俺は後悔してる」彼を見つめたまま、私は呆れたように笑った。母が倒れたあの時、彼は「ただの芝居だ」と言い切り、「本当に死ねばいい」とまで吐き捨てた。そして、結婚式を続行するよう命じたのだ。今、母は彼の望み通り本当に死んだ。それなのに、こんな口調で「後悔してる」と言われても、笑うしかなかった。本来なら――今日は私にとって一生に一度の、最も幸せな日となるはずだった。20年想い続けた幼なじみとついに結婚できる日だったからだ。そのうえ、私は福原紀行にもう一つのサプライズのプレゼントを用意していた。福原紀行は精
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