娘の茉里奈が物理競技大会に出場するその日、私は地方で裁判を抱えていて、彼女に付き添うことができなかった。訴訟が終わったら、彼女が青京大学への推薦を勝ち取ったという嬉しい知らせを聞けると思っていた。ところが、届いたのは彼女の訃報だった。私は慌てて帰り、霊安室で茉里奈の遺体を見た。そこには無数の青あざと歯型が残されていた。目の前が真っ暗になり、その場で力尽きて倒れ込み、涙が止めどなく頬を伝った。警察は傍らで深くため息をついた。「あなたがこの子の母親ですね」「父親と連絡が取れなかったため、まずあなたに連絡しました」「お悔やみ申し上げます。犯人はすでに逮捕しました」警察の話では、茉里奈は昨夜、市内のホテルに泊まり、今朝の物理競技大会に出場する予定だったという。しかし、50歳の男がホテルで彼女を強姦し、さまざまな道具で虐待し、命を奪ったのだ。その言葉は、まるで鋭い刃のように、私の肉を一片ずつ削り取っていった。私の娘は、まだ花のように美しい年齢だった。それを、あのクズが無惨に奪ってしまったのだ!心が裂けるほど泣きじゃくったあと、冷静になってふと思い出したことがあった。茉里奈がどうしてこんな目に遭ったのだろう?そういえば、以前夫の野村和則に念を押したことを思い出した。茉里奈が安全に大会に出場できるよう、絶対に彼女から目を離さないでほしいと頼んだのに。茉里奈にこんなことが起きたのに、あの人はどこにいたんだろう?そう考えると、私は震える手で携帯を取り出し、野村和則に電話をかけた。呼び出し音が何度も鳴ったが、電話に出る気配はなかった。十数回目でようやく電話が繋がった。彼の口調は終始苛立っていた。「何だよ、何度も電話してきて。今忙しいんだ!」「誰もがお前みたいに暇だと思うなよ!」その言葉の直後、電話越しに騒がしい音楽と司会者の声が聞こえてきた。司会者の声は興奮に満ちていた。「おめでとうございます!菊池賢也さんが本日、物理競技大会で優勝し、青京大学の推薦枠を手にしました!」続いて聞こえてきたのは、菊池賢也本人の感謝の声だった。「今回の推薦枠を得られたのは、野村おじさんと母のおかげです。二人がずっと支えてくれたからこそです」その言葉を耳にした瞬間、全身が凍りつき、身体中に寒気が走った。
Last Updated : 2024-12-03 Read more