その日の朝、私は三輪車を押しながらやっとの思いで家に戻った。毎日朝3時に起きて市場に行き、新鮮な野菜を仕入れて準備して屋台を出す。この生活をずっと私一人でこなしてきた。それなのに、夫は遊び回るために、私が稼いだお金を使い込んでいる。その日、自宅に戻ると普段家にいない夫がなんとそこにいた。それどころか、テーブルには食事まで用意されていた。こんなの初めてだ。私は内心「もしかしたら改心して、これからは私と平穏に暮らしてくれるのかもしれない」と期待してしまった。でも、その期待は瞬く間に裏切られた。夫は私の背後に立ち、隙を突いて一枚の布で私の口を塞いだ。そしてもう片方の手で鋭い果物ナイフを持ち、迷うことなくそれを私の首元に突き立てたのだ。真っ赤な血潮が吹き出し、川のように流れた。私はその場で死んだ。悔しさのあまり、目も閉じられないままだった。やがて私の魂は肉体から抜け、空中に漂い始めた。自分の手元をぼんやり見た。まるで霧のように透き通っている。人は死ねば全てが終わるんだと思っていたけれど、今知った。死んでも魂というものは残るんだ、と。「もう片付けた?」部屋に声が響いた。その後、現れたのは一人の女だった。その女、すごく色っぽい顔立ちをしていた。男を惑わせるような狐みたいな目に、形の整った鼻梁、その下の唇は艶やかな紅色をしていて熟れた果実のようだった。肌は陶器のように白く滑らかで、細くてしなやかな体つきに、歩く仕草さえも妙に色っぽい。高野良平はその女が出てくると、急いで近寄り彼女を抱き寄せた。その目は、彼女の顔から一瞬たりとも離れていない。「あぁ、お待たせしたね。さあ、俺がたっぷり付き合ってあげるから」「ふーん、やだぁ~」女は恥じらうような表情を浮かべた。二人は一緒に寝室へ戻り、その後すぐに女の喘ぎ声が聞こえてきた。その一方で、私――正確には私の遺体は今も血のたまりの中に横たわっているというのに、殺した張本人はこんなふうに快楽に溺れている。怒りと悔しさで胸が引き裂かれそうだった。どうしてこんなひどいことをされなきゃならない?結婚して何年も、私は文句も言わずに働き続け、一人で娘を大切に育て上げた。それなのに殺されるって、一体どんな仕打ちだ。まだ嫁入りする娘の花嫁姿を見ることもできずに死ぬ
Last Updated : 2024-11-29 Read more