旅行を早めに切り上げ、夫・佐藤錦司を驚かせようと帰宅した私。今年で結婚40周年、いわゆるルビー婚を迎える年だ。だが、あの広い別荘に戻ると、家政婦も執事も誰一人いなかった。特に気にせず中に入ると、寝室の浴室から水音が聞こえてきた。曇ったガラス越しに、二つの影が微動だにせず浴槽に浸かっているのが見えた。恐る恐る近づいてみると、そこにいたのは、いつも真面目な夫・錦司と彼の初恋相手、高橋美佳だった。浴槽の周りには、ハート型の赤いキャンドルが並べられ、二人は目を閉じて抱き合ったまま。そして、美佳の体の下からは「ゴボゴボ」と妙な音が聞こえ、何かが隠れているようだった。結婚して40年近くも経ったのに、錦司は私とこんなロマンチックなことを一度だってしたことがない。それなのに、今、美佳と一緒に浴槽で……あんな風に楽しんでいるなんて。しかも、気持ち良さそうにぐっすり眠っているなんて!その思いが頭をよぎると、怒りで膝が震え、手を震わせながら証拠写真を撮り、娘の絢菜に送った。【絢菜、これ見て!お父さんと美佳、これ何してるの……?】数分後、絢菜から返信が来た。【ほんと呆れるわ。こんな年になってAI遊びとか?全然リアルじゃないし!】【お父さんが言ってたよね。お母さんも美佳おばさんも彼の人生で一番大事な女だって。それで何が不満なの?】【人生で青春なんて何度もないんだから、お父さんがたった一度の青春を懐かしむくらい許してあげたら?お母さん、ホント自分勝手だよね!】【美佳おばさんみたいに優しくて素直な人が相手ならいいじゃない。お母さんみたいに何もできない、更年期みたいに文句ばっか言う人とは違うんだから!】非難のメッセージを読みながら、胸が締め付けられるような気持ちになった。【絢菜、あのね……あの時あなたが交通事故にあったとき、私、3日間も輸血して助けたじゃない……どうしてそんなひどいことを言えるの?】すると、絢菜から電話がかかってきた。「お母さん、その話まだ言うの?何回も聞いたよ!今日ちょうど生理だから、必要なら血を抜いて返してやるよ!」一方的に電話を切られ、私はただ呆然とその場で立ち尽くしていた。目の前の赤ら顔の二人を見つめながら、この40年間の自分が馬鹿みたいに思えてきた。浴槽のそばで泣き疲れ、ティッシュを1箱使い切った頃、ふと
Last Updated : 2024-11-28 Read more