伊藤志田の父親・伊藤大辅は、ギャンブルで多額の借金を抱え、追い詰められた末に仲間と宝石店を襲った。警察が駆けつけると、逃げ道を失った伊藤大辅は客を人質に取り、「邪魔するな、さもないと殺すぞ!」と叫んだ。慌てた彼のナイフは人質の首元に深く食い込み、ついには動脈を切りそうなほど深く傷つけてしまった。緊迫した状況の中、警察が発砲。伊藤大辅はその場で死亡した。その発砲をした男が、私の父だった。「伊藤を捕まえれば済む話じゃないのよ!私たち親子はどうやって生きていけばいいの?」伊藤志田の母親は私の父の前で泣き崩れた。 「彼が罪を犯したのは事実だけど、死刑に値する罪じゃないはずよ!」 その「死罪じゃない」という一言が父の心に罪悪感を植え付け、それ以来、父は何度も彼らに手を差し伸べるようになった。伊藤の家は、いつの間にか父の「第二の家」になっていった。 給湯器が壊れれば修理に駆けつけ、食料がなければ買って届ける。伊藤の母親が病気になれば病院へ連れて行き、治療費まで出していた。このことが原因で、母と父は何度も口論になった。「母子家庭で大変なんだ。俺にできることくらいはしてやりたいんだ」父は母に何度も頭を下げ、「悪かった、機嫌を直してくれよ」と謝る。 「彼らが大変なら、私たちは大変じゃないとでも?今月だって生活が苦しいのよ!」それでも父は頭を下げ、「もう少し待ってくれ、給料日が近いから」とその場をしのっていた。こういったことが日常茶飯事になり、やがて母も何も言わなくなった。ある日、夕食中に父が伊藤の母から電話を受けた。「ブレーカーが落ちた」という理由でまた出かけてしまった。 母は無言のまま食事を続け、ふいにこう言った、「もし私たちが離婚したら、あなたはどっちにつく?」 驚いて何も言えない私に、母は「冗談よ、気にしないで」と笑ったが、その笑顔はとても悲しげだった。その夜、私はもやもやした気持ちを抱えたまま眠った。あの日のことを思い返すたびに、後悔していった。その日は、ニュースでは「50年ぶりの豪雨」と報じていた。 雨音が窓に激しくぶつかり、不快なほど耳に響いた。 母の言葉が頭を離れず、さらに苛立った。イヤホンをつけ、音楽の音量を最大にした。その後、父がよろめきながら部屋に入
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