最初にその日記帳に加減されている数字を見たとき、それは伊織が昔、家計を記録していた帳簿だと思った。私たちが付き合い始めた頃はとても貧しく、できるだけ出費を抑えるようにしていた。伊織は毎日の収支をノートに書き留めており、支出は黒いペン、収入は赤いペンで記録していた。彼女は「こうすることで、毎日どれだけ目標に向かって頑張っているかが分かる」と言っていた。貧しい時代にはそれが妙案のように思えたが、後に裕福になっても、伊織は毎日欠かさず記帳を続けていた。表には当初、減点項目がほとんどなく、その理由も冗談のようなものだった。例えば「ペットボトルのキャップを開けてあげなかった、-1点」だったが、後で黒ペンで線を引いて「-0.5点」に修正されていたり、「朝食を食べなかった、-2点」や「他の女性に声を掛けられた、-2点」といった具合だ。一方、加点項目はさらに多く、「大学の授業に遅刻しなかった、+10点」「同棲後、ゴミを捨てに行った、+20点」といった日常の些細な行動がほとんどだった。だが、1年前から徐々に減点項目が増え始めた。そしてちょうど1年前のその日、伊織は2つの記録を残していた。「鶴也が一緒に記帳するって言った、+20点!」時間は昼休みが終わる頃、彼女が家に帰ったタイミングだ。「鶴也が残業だと嘘をついて、実はバーに行っていた、-3点」これは初めて減点がこんなにも重かった記録で、時間は翌朝だった。その日、彼女は会社に私の昼食を届けに来たついでに、家で新しい家具を購入したことを話していた。話しながら記帳を始めた彼女を見て、新人アシスタントの山本結菜が微笑みながら言った。「伊織さんって、うちのおばあちゃんみたいですね。私のおばあちゃんも記帳が好きで、野菜を何円買ったかまで細かく記録してたんですよ。母は若い頃貧乏だったせいで、年を取っても豊かさを楽しめないっておばあちゃんを笑ってました。本当に参ったな、あのけちなおばあちゃん」それを聞いた私は、ほのぼのとした話だなと思い、軽く笑みを浮かべた。だが、隣の伊織は明らかに不愉快な顔をしていた。彼女は冷たい声で言った。「山本さんはきっと、幼い頃から裕福な家庭で育ったんでしょうね。記帳なんて行為が貧乏くさく見えるくらいに」結菜は顔を真っ赤にし、私たちの顔色を伺いながら小さな声で
最終更新日 : 2024-11-20 続きを読む