胃がキリキリと痛む中、ようやく病院から帰ってきたところで、桐谷明彦が私の手首を掴んだ。「へえ......強気じゃないか。前田社長がなんて言ったか、知ってるか?『白崎を甘やかしすぎだ』ってさ。この契約、台無しにしたのはお前のせいだ。すぐに前田社長に謝ってこい」その手を振り払いながら、私は冷たく言い返した。「行かないわ。礼儀も知らないクライアントに頭を下げるなんて、冗談じゃない」そしてゆっくり、明彦を睨みつけながら続けた。「どうしてもあんな相手と取引を続けたいっていうなら、私は辞めるだけ」私の言葉に明彦が一瞬、驚いたように私を見つめた。それでも、私は動じず、テーブルの前まで歩くと、バッグから薬を取り出して口に放り込む。顔を上げると、彼はいつの間にかスマホに目を落としていて、気の抜けたような笑みさえ浮かべていた。「会社に用があるから、出かける」「......分かったわ」私の冷静さに驚いたのか、明彦は一瞬だけ戸惑いの表情を見せたが、そのまま部屋を出る前に言い捨てた。「前田社長の件、あとでちゃんと説明しておけよ」ふん、ともつかないように言い残して、さっさと彼は出ていった。私は気にせずノートパソコンを開き、メールを打ち込む。「桜庭先生、お話いただいていた上場企業への転職、前向きに考えております」半年ほど前、桜庭先生から「転職を考えた方がいい」と勧められた。私が明彦の会社で営業をしていると知ったとき、彼は驚きと落胆を隠せなかったようだった。「結花、君はもっと自分の学びを生かせる道を歩むべきだ。あの会社はリスクが大きすぎる」桜庭先生の言葉には心が揺れたけど、その頃の私はまだ明彦を愛していた。大学から数えて8年、私たちはまるで一つの存在のように溶け合っていると思っていたのだ。でも、それは幻想だった。彼にはもう「新しい相手」がいたのだから。そう、西園寺華音─あの新人秘書がね。明彦が私にとってどんな人間なのか、今はもうよく分かる。私の体調なんて気にも留めず、お酒まで飲ませて契約を取らせようとする。そんな彼に、未練なんて残るはずもない。私は退職願をすぐに送信し、スパッと会社に別れを告げた。その時、スマホが光って通知が入った。華音がSNSに、明彦の背中を撮った写真を載せていたのだ。「食べたいって言った
Huling Na-update : 2024-11-05 Magbasa pa