「どういたしまして、それは私の役目だから!」沙織はにこにこしながら、「明日は学校だけど、叔母さん、送ってくれるの?」と無邪気に聞いた。「ごめんね、叔母さんは明日の朝、飛行機に乗らなきゃならないの」沙織が答える前に清次が口を挟んだ。「飛行機に?どこへ行くの?」「櫻橋町。写真コンテストの授賞式に参加するの」清次は一瞬動きを止め、無表情で前方を見つめた。彼は賢太郎がそのコンテストの審査員の一人であることを覚えていた。彼も櫻橋町に戻っているはずだった。清次は少し唇を噛んだ。「わぁ、叔母さんすごい!」と沙織は目を輝かせて感嘆した。月曜日、幼稚園で沙織は教室に入ると隣の席の子に聞いた。「今日は誰が送ってくれたの?」「うちのママだよ。どうして?」と同席の子が不思議そうに答えた。沙織はわざとため息をついて、「今日は叔母さんが送ってくれたの。ママは櫻橋町に行ったからね」この幼稚園に通う子供たちは皆、裕福な家庭の子供たちだったので、運転手や家政婦が送迎するのは特別なことではなかった。予想通り、同席の子が尋ねた。「櫻橋町に何しに行ったの?」「授賞式に参加するためだよ。ママの写真がコンテストで一等賞を取ったんだ」「すごいね、君のママ!」沙織は少し口元を緩め、すぐに真顔に戻し、「賞は見せてくれるって言ってたけど、もっと一緒にいてほしいな」とため息をついた。同席の子はすぐに「君のママは何でもできるんだね、いいなぁ。うちのママは家で何もしないし、買い物ばっかりしてるんだ」と羨ましそうに言った。沙織はにこりと笑って、「でも、君のママは君と一緒にいる時間が多いんでしょ?それもいいことだよ」虹崎市から櫻橋町までは飛行機でおよそ3時間だった。由佳は飛行機から降り、スマホの電源を入れながら荷物を取りに向かった。スマホの電源が入ると、数件のLineメッセージが届いた。賢太郎は昨日、由佳の便を確認していて、ちょうど5分前にメッセージを送ってきていた。「到着したか?」「荷物を取ってるところだから、あと少し待って」「分かった。今日は昼食をご馳走するよ。何が食べたい?」「寿司かな?」「いいね」由佳は荷物を引きながら混雑した到着ロビーで足を止め、周囲を見渡した。少し離れたところに賢太郎がスーツ姿で立っていた。そ
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