Under The Seeing Moon

Under The Seeing Moon

last updateLast Updated : 2021-02-09
By:  Flint Argus ClaymoreOngoing
Language: English
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Synopsis

Fenrir Jenkins, a city boy who decided to live in the woods, gets hunted by a group of men. When the moon peered above the clouds, he transforms into the very being he hunted for sport. He meets a girl who got lost in the forest and takes her into his home. In a sudden tragic turn of events, he accidentally takes the life out of her. After the incident, the monster within him took over. A mysterious man guides him back into his human form. Fenrir decides to leave the forest. Then he finds a girl who looks similar to his previous lover and he follows her into the city. What awaits him there? Will he be able to break the curse or will he lose his humanity forever?

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Chapter 1

Takeover

私は手土産を買い直し、一人で実家へ向かった。今日はこどもの日だ。

両親は当然、不思議そうな顔をした。

「清晃くんは?一緒に来るって言ってただろう?」

「二人とも、何かあったの?」

私は笑顔を作った。

「ごめんね、お父さん、お母さん。急に会社から連絡があって、仕事になっちゃったんだって」

両親はすぐに納得してくれた。

「仕事なら仕方ないわね」

けれど私は、スマホに表示された夫の元カノ――雨宮さゆり(あまみや さゆり)のInstagramを見つめていた。

投稿には、一言のコメントと九枚の写真。

【彼が用意してくれたサプライズ!こんなに考えてくれてたなんて嬉しい!】

私が何日も調べてようやく選んだ、山の幸を使った詰め合わせ。

それがすべて開封され、調理されていた。

きれいな皿に盛りつけをしている、一組の手。すらりと長い指。くっきりと浮いた関節。そして、右手の親指に残る一本の傷痕。

ひと目でわかった。夫――高瀬清晃(たかせ きよあき)の手だ。

それと同時に気づいた。左手の薬指から、結婚指輪が消えている。

外した跡すら残っていなかった。

私たち共通の友人が、その投稿にいいねを押し、コメントを残している。

【だから前から言ってるじゃん。二人、結婚しちゃえばいいのに!】

私はその投稿に、そっと「いいね」を押した。

すると、すぐに清晃からメッセージが届いた。

【高瀬柚葉(たかせ ゆずは)、せっかくの休みなのにお前が俺を追い出したんだろ。だからって道端で飯食えっていうのか?】

【俺に文句言うだけならまだしも、さゆの前でまで騒いで恥かかせるなよ。ほんとみっともない】

並んでいるのは、私を責める言葉ばかり。

「いいね」を一つ押しただけで、いったい何が「騒いだ」ことになるのか、私にはわからなかった。

それに――

『さゆ』

清晃は元カノのことを、いつも親しげにそう呼ぶ。

なのに、私にはそんな特別な呼び方はない。

以前、私にも何か二人だけの呼び名が欲しいと伝えたことがある。けれど清晃は、まるで気にも留めなかった。

「昔からそう呼んでるんだから仕方ないだろ。ただの呼び方じゃん。

いちいち気にしすぎなんだよ」

私は画面を上へスクロールし、これまでの清晃とのやり取りを遡った。

【ミルクティー、まだ届かないんだけど。もう二時間以上経ってるよ。配達員さんに何かあったんじゃない?確認してみてくれる?】

【住所変えるの忘れてた。さゆの家に届いた】

【デフォルトの届け先、うちに変えてくれない?彼女の住所もスマホから消してほしい】

【たかがミルクティー一杯だろ。そんなヒステリックになるなよ、みっともない。自分でもう一杯頼めばいいじゃん】

でも、春限定の新作ミルクティーを買ってくれると言い出したのは、清晃のほうだった。

私は二時間以上も楽しみに待っていた。

結局、期待を裏切られたうえに責められた。

さらに前まで遡る。

【ねえ、もうすぐ十二時だよ。クリスマス終わっちゃうよ?用意してるって言ってたサプライズは?】

【また届け先変えるの忘れて、さゆの家に送った。今度埋め合わせする】

…………

いったいいつからだろう。

私と清晃のメッセージは、こんなやり取りばかりになっていた。

宅配便の届け先を間違える。デリバリーの住所も間違える。

今年のゴールデンウィークは一緒に私の実家へ行こうと、去年から約束していた。

それなのに清晃は、私の両親への贈り物をさゆりの家へ送り間違えた。挙げ句の果てには、自分までさゆりの家へ行き、彼女と一緒に休日を過ごしている。

私は、結婚指輪を外した清晃の手が写る写真を黙って見つめた。

自分がどうしようもなく滑稽に思えた。

もしかすると、何度も繰り返された宅配便の「送り間違い」も、デリバリーの「届け先間違い」も、忘れていたわけでも、うっかりしていたわけでもなかったのかもしれない。

最初から、清晃が何かを届けたかった相手は、元カノただ一人だったのではないか。

間違っていたのは住所じゃない。訂正されるべきだったのは――私のほうだ。

そのとき、スマホが二度震えた。清晃とのトーク画面を閉じる。

連絡していた弁護士からだった。

【高瀬様、こんにちは。連休中に失礼いたします。離婚協議書が完成しましたので、お送りいたします】

両親に別れを告げ、私は自宅へ戻った。

弁護士から送られてきた離婚協議書を印刷し、今まさに離婚届に署名しようとした、そのとき。

清晃が帰ってきた。両手に持っていた二つの紙袋を、私に差し出す。

「あんな詰め合わせ、どこでも買えるだろ。食べられたくらい、もういいじゃん。それより、お義父さんとお義母さんに買った服はちゃんと取り返してきたから。

今回は俺が悪かったよ。夜、フレンチ連れてってやるから。それで埋め合わせってことで、いいだろ?」

私は何も言い返さなかった。両親には持病がある。だからこそ、あの詰め合わせは原材料まで一つひとつ確認して、何日もかけて選んだものだった。あの商品を扱っているのは、あの店だけだ。

どこにでも売っているものなんかじゃない。

けれど、それを清晃に説明することもしなかった。

私がフレンチを好きではないことも。

もう何度も伝えているからだ。

私のことなんて、何度繰り返しても、清晃が覚えることはない。

ただ私のことを、面倒くさい、神経質だ、いちいちうるさい、そう思うだけ。

もう、どうでもよかった。

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