CEO's Love Triangle

CEO's Love Triangle

last updateLast Updated : 2023-04-21
By:  Leo UI Ongoing
Language: English
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Synopsis

Jane Pearson, beautiful young CEO, finds herself in a fight for both love and her company. She falls in love with the new head of security at her company Michael Cooper, after he saves her from a kidnapping. But he doesn't love her, instead he loves her assistant, Alice Gerrard. Jane is being sabotaged at every turn as someone or someones are trying to steal her company from her. She is down and confused at every turn. Will she ba able to overcome all the adversity and win the love of her life?

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Chapter 1

Chapter One

 |白石澪《しらいしみお》は、二十六年間の人生の中で、自分が『誰かに選ばれる人間』だと思ったことがない。

「ごめんね、お姉ちゃん。私、ほんとダメでぇ……」

 ソファに座った妹の|美羽《みわ》が、困ったように眉を下げる。

 ふわふわに巻いたグレージュの髪。淡いピンクのネイル。思わず守ってあげたくなるような可愛らしい顔。

「バイト先でも失敗ばっかりで……」

「ううん。気にしないで。それよりも、美羽は早く休んで? 体に障るわ」

 澪は笑った。美羽の代わりにノートパソコンの前に座って、大学の課題のレポートに向き合う。

 澪が働く花屋は、比較的穏やかな客が多い、しかし今日は珍しくクレーム対応をして、頭も心も疲れ切っていた。

 それでも、疲れたなんて言えない。

 美羽は昔から身体が弱かったから。

「ありがとう、お姉ちゃん。おやすみなさい」

「おやすみ、美羽」

 澪の部屋を出ていく美羽の背中を見送って、ドアが閉まったのを確認してから小さく息を吐き出す。澪ひとりきりになった静かな部屋に、静かにキーボードを叩く音と、参考資料をめくる紙が擦れる音だけが響いた。

 父が亡くなってから、白石家はずっと苦しかった。だから澪は、高校を卒業してすぐ働いた。

(そういえば、明日、家賃払っておいてってお母さんに言われていたんだった……忘れないようにしないと)

 大学に進学した妹の美羽の学費も、家賃も、生活費も。全部澪が払ってきた。

 ――お姉ちゃんだから。

 その役割と言葉だけで。

 翌朝、寝不足の目を瞬かせながら朝食を作っていると、母から声をかけられ澪は、いつも通り笑顔を作って顔を上げた。

「澪、|拓真《たくま》さん、今夜来るんでしょ?」

 母の声に、澪は小さく頷く。

「うん。夕飯、一緒に食べるって」

「あらぁ、よかったじゃない」

 そう言いながらも、母が嬉しそうに見ているのは澪ではなく美羽だった。澪の婚約者である|七瀬拓真《ななせたくま》は、昔から美羽を可愛がっていた。

 妹だから。

 家族だから。

 そう思っていた。

 ――今日までは。

     ◇

『ごめん、澪。仕事長引いて、今日は無理かも』

 仕事終わり。スマートフォンに届いていたメッセージに、澪は小さく息を吐いた。

 今日は交際記念日だった。

 小さなケーキも買った。拓真の好きな煮込みハンバーグも作った。デパートで少し奮発して買ったワインも、職場で先輩に作ってもらったちょっと豪華なブーケも、今日は用なしになってしまった。

でも、仕事なら仕方がない。また別の日に埋め合わせをすればいいだけのことだと、自分に言い聞かせながら

『わかった。お仕事お疲れさま』

 と、送信した直後だった。

「え……?」

 駅前のホテルの前を、澪が通りかかったときだ。

そのエントランスから出てきた横顔は、拓真だった。

 そして。

「……み、わ?」

 拓真の腕に、妹が抱きついていた。

 そして、次の瞬間。

 拓真が、美羽の唇をなぞるように触れて、そっと唇を重ねた。

 優しく。

愛おしそうに。

 まるで、何度も繰り返してきたみたいに。

 澪の頭は真っ白になった。

「え、やだ……っ、お姉ちゃん……?」

美羽の声が澪の意識を引き戻した。

 驚いたように見開かれた可愛らしい目が、澪のことを見ていた。

今更、早く隠れなければ、なんて思考が追いついてきて、澪は思わず一歩足を後ろに引いた。

「ち、違うの、お姉ちゃん……!」

 美羽が涙声を出しながら、一歩、澪へと足を踏み出す。

 けれど……その口元は笑っていた。

 言葉と声と表情があまりにチグハグで、ぐちゃぐちゃだった澪の心はさらに困惑の渦に飲み込まれていく。

「違うんだ、澪!」

 拓真が何か言っている。

「なにが、違うの?」

 そう震えた声で返すだけで精一杯だった。

 あんなキス、私にはしてくれたことがあっただろうか。

 あんなにも、優しくて、愛おしそうなキス。

――もう、なにも聞こえなかった。

 澪は逃げるように走り出した。

 水滴が、頬にぽつりと当たった。

 いつの間にか、空は真っ黒で、雨が降りだしていた。

 そういえば、夕方から雨予報だったかしら、とどこかで冷静ぶっている自分が考えている。

 雨に濡れることも構わず、走り続ける。

 息が苦しい。

 胸が痛い。

 それなのに。

 ――どうして。

 最初に浮かんだのが怒りじゃなくて、

『私が悪かったのかな』

 だった。

「……っ」

 視界が滲む。

 そのときだった。

 強い風に煽られて、ブーケの入った花屋の紙袋が手から滑り落ちる。

「あ……!」

 咄嗟に追いかけた澪は、そのまま車道へ飛び出した。

 鋭いブレーキ音。

 高級車が、目の前で止まる。

 心臓が止まるかと思った。

「申し訳ありません。お怪我は……っ」

 運転席から降りてきた男が、そこで言葉を止めた。

 黒い手袋。

 あっという間に雨で濡れていく黒髪。

 息を呑むほど整った顔。

 男は地面に散らばった花を見つめ、それからゆっくり澪を見た。

 氷みたいに冷たい目だった。

 しかし、その瞳が、次の瞬間激しく揺れる。

「……どうして」

 低い声が震えている。

 澪は困惑したまま立ち尽くし、その男を見つめることしかできなかった。まるで、視線を縫い付けられたかのように。

 男は雨の中、ゆっくり澪へ近づく。

 そして、震える指先で澪の胸元に手を伸ばした。

 首からさげた小さな白い花のお守りが、そっと持ち上げられる。

 幼い頃から澪がずっと持っているものだ。どこで買ったものなのかもすっかり忘れてしまったけれど、澪はずっとこのお守りを大切にしてきた。

「やっと見つけた」

 男が、掠れた声で紡ぐ。

「俺の花」

柔らかくゆるむ口元を見た。その瞬間。雨で濡れ冷えた体に温もりが宿る。

 男に腕を引かれ、抱き締められていると気付いたのは、数秒遅れてのことだった。

 このときの澪はまだ、この出会いが澪の世界を少しずつ変えていくことを知りもしなかった。

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