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おまゆた
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Novels by おまゆた

〜恋愛ゲームのラスボス転生〜

〜恋愛ゲームのラスボス転生〜

 前世で有名だった恋愛ゲーム『プリンセス・ジ・グランドハーツ』に登場する悪役──ジセル・エリナスに転生してしまっていた眞(まこと)。  数々の可憐なヒロイン達が登場するこの世界。当然の如くハーレムを満喫できると思っていた眞だが、このまま何もせずに過ごしていると──将来の自分が必ず死んでしまうということに気付いてしまった。  眞は脳内で必死に記憶を辿り、そこに存在する原作知識を隅から隅まで探ってみると、自身が生存できる唯一の方法を発見する。  そしてそれは……このゲームの主人公である勇者と──恋人になるというモノであったッ!!  
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Chapter: 第十話
「ごちそうさま」「あら〜? 今日はジセルの大好きな、えーっと……『チキン南蛮?』なのに、もう食べないのぉ〜?」 父リオネルは今、書斎で仕事に没頭している。その為ジセルが食卓のある部屋に戻ると、母ソフィアはひとり静かに夕食を済ませなければならない。そんな状況を憂うように、ソフィアはどこか寂しげな表情でジセルに声をかける。(確かに俺はチキン南蛮が大好きだ。前世の世界で、赤坂の〇ん〇んでんというお店のチキン南蛮を初めて食べた時の事は……今でも忘れられない。あれはまるで、心の奥底から『食ってみな、飛ぶぞ!!』という熱い衝動が溢れ出すほどだった)「ごめん、ちょっと今日は疲れてて……できれば早めに横になりたいんだ」(だが今日は何故か全然食欲が湧かない。母が食べ終わるまでここで座って待っていてもいいが……起きていると脳内に近頃の様子がおかしいレアの映像が浮かび続けるため、早めに寝たい) ジセルは寂しげな表情を浮かべる母と、皿に残されたチキン南蛮に一度だけ視線を向けると──心の中で小さな葛藤を抱えながらも、後ろ髪を引かれる思いで部屋の入口へと向かう。「そうなの〜? ならしっかり休んで、ルーナちゃんが来る時に備えないとねぇ〜」 ソフィアの温かい声がやや物憂げな夕暮れの空気に溶け込む。そしてジセルは──その言葉だけは聞き流すように、静かに足早に歩き始めた。****** 廊下に出ると、ジセルの足音が硬い床材に響く。夕陽が窓から差し込み、長い影を廊下の壁に映し出している。かすかな風が通り抜け、時計の針の音とともに、彼の心のざわめきを映し出すかのようだった。   心の中では昼間の出来事の記憶が静かに渦巻き、未来への不安とともにじわじわと広がっていた。彼の肩は重くどこか疲れた表情を浮かべながらも、先へ進む決意を秘めているのが感じられる。 ジセルは部屋と部屋の間にある広い廊下を通り抜けた。廊下の先には幼い頃から見慣れた自室のドアが控えており、そのドア越しに静かな光と、どこ
Last Updated: 2025-02-11
Chapter: 第九話
 ジセルの部屋は、柔らかな午後の日差しが窓から斜めに差し込み、埃がキラキラと舞う中、どこか懐かしく温もりを感じさせる空間になっている。壁には今より幼い頃の写真や思い出の品々が飾られ、木の温もりを感じる床には、日常の静けさと共に、どこかしら不穏な期待が漂っている。  そんなことはさておき──先程からレアの様子がおかしい。「ふんふふーん♪」 ルーナが来るまでの間、ジセルはこの部屋で静かに待機していた。いつも通りの自室、見慣れた風景──だが、今日の空気は普段とは違っている。何故かレアが、部屋の隅々まで目を輝かせながら鼻歌を奏でつつ掃除を始めたのだ。その姿は、部屋に降り注ぐ柔らかな光と相まって、まるで春風に誘われた花びらのように軽やかだった。「お〜お〜随分とルンルンしてるなぁ、レア。めちゃめちゃ上機嫌じゃないか?」「え〜? そうかな? ふふっ」 ──やべぇ……やべぇよぉ! ジセルの胸の中で、どうしてこんなにも異様な空気が漂うのか理解し難く、不安と苛立ちが渦巻いている。 相手の心の奥に何が潜んでいるのか、全く読めない。こんなにも機嫌が良いレアは、決して慣れ親しんだ姿ではない。(一体何がそんなに楽しいんだよ、こいつは! レアがこんなんになっちまう事なんて、今までに無かっただろうがッ!) ジセルの心臓は不規則なリズムを刻みながら、警戒と戸惑いで大きく膨れ上がっていた。「ル、ルーナが家に来る事がそんなに嬉しいのか?」「へ? ふふっ、なんでルーナが来ることで僕が嬉しくなると思うの? あははっ! ジセルったら、面白いこと言うね! あ〜おかし!」(……おかしいのはお前だよバカっ!!) レアの言葉に、ジセルの心の中では怒りと不安が交錯する。(どう考えても、レアは普段この程度事で笑い転げるような奴じゃない。どこも面白くない事で腹抱えてるお前の方がオモ……いや、もはや冗談でもオモロいなんて言えないわ。正直怖い、非常に怖い!) 部屋の窓からは、木々のざわめきと遠くで聞こえる鳥のさえずりが、平穏な午後のひとときを彩っている。しかしその平穏さとは裏腹に、ジセルは今──自分の内側で荒れ狂う感情を抑えきれずにいた。「そ、それにしてもルーナ遅いなぁ? 別れてからもう数時間は経ってるし。あまりにも時間がかかりすぎだと思わないか?」「う〜ん、確かにそうだね。もしかしたら今
Last Updated: 2025-02-10
Chapter: 第八話
 現在、彼が居るのは大庭園内。いつもルーナと会っている木製の椅子がある所──付近の草むらの中だ。「やべぇ……緊張してきた。学園に誘うなんて……一体どう誘えば良いんだ!」 などと脳を無駄にフル回転させることで、緊張を和らげようとしているジセル。「普通に誘えばいいじゃん……」「は、は〜? 普通ってナンデスカ~? 貴方が言う普通っていうのは所詮貴方の普通であって俺にとっての普通とは違うというか、そもそも貴方にとっての普通どころか俺にとっての普通が分からないから悩んでいるわけで……たった今俺の脳内で、どうせこのまま時間を浪費するだけだという結論がでたため──実家に帰らせていただきますッ!」「……めんどくさっ」 Uターンをして帰宅しようとしたジセルの首根っこを掴んで、元の位置に戻すレア。もはや遠慮という物は無くなっている様だ。「……何すんだよ」「……ジセルの方こそ何してるのさ。このまま帰ったらソフィア様に怒られるんじゃない?」「そんなに言うなら俺の代わりにレアが誘ってくれれば良いじゃん」「……やだ!」 そんなジセルの態度を見たレアは、その整った綺麗な水色の眉を少し寄せ──プイッとそっぽを向く。「なんでやねんッ! 別に俺が誘ってもお前が誘っても変わらないだろ!? そうすれば俺は怒られずに済むし、もし失敗したとしてもレアがフラれただけで俺がフラれた判定にはならないし!」「いや、別にそれは良いさ。ただ……ルーナちゃんのことを考えると、ね。というか、こんな話してて良いの? ルーナちゃん、さっきからずっとあそこで魔法の練習してるみたいだけど」 そう言って──いつの間にか木製の椅子の横に立ち、球体状の水を掌で弾ませて遊んでいるルーナへと指を向けるレア。「ホントだぁ。スゴイな〜」「いや……『スゴイな〜』じゃなくて!」(いやぁ〜良く見てみると本当にスゴイ。前は『べろちゅー』の事しか考えていなかったから、細かい技術まで意識を向けるということはできなかったけど)「ルーナは頭が良い……失敗しても常にその原因を考えて、同じ失敗をしない為に思考錯誤しているのが分かる。そしてそれを専門の知識無しで、感覚で理解出来る運動神経というか……肉体制御が上手く、勘もある」 おそらく前世の世界でFPSゲームでもやらせたら、時間さえあればトッププロのレベルまで到達できる程の才能
Last Updated: 2025-01-31
Chapter: 第七話
「……ふわぁ……あ?」「あ、ジセル。おはよう!」「んあぁ? あぁ……おはよう、レア」 昨日は流石に疲れたのか、帰宅直後に爆速で眠ってしまったジセル。「随分とぐっすり寝てたね。もうお昼だよ〜!」(それはヤバいな。俺が寝たのは昨日の夕方とかだったから……)「……マジか。う~わ──口がベトベトじゃん……相当爆睡しちまったなぁ」 口から流れ出た涎は枕に大きなシミを作っている。夕飯も食べずに寝た為、昼に起きた彼はもう既に夕食に加えて朝食も抜いてしまっている。現在進行形で非常にお腹が空いていて、なかなか体を動かす事ができない。「お昼はどうする?」 ──ちょっと夫婦みたいな雰囲気を出して言うな。 と、ジセルは内心でツッコんだ。「あぁ……食べる」「分かった! ちょうどランチの時間だから厨房の人に伝えて来るね!」「あ、うん。ありがとうレア」(物凄く助かるし、有難いという気持ちでいっぱいではあるが──何故当たり前のようにレアが俺の部屋にいるのか) そう困惑した様子でレアの方へと視線を向けるジセル。レアが担当している仕事のメインは一応『ジセル専属の付き添い人』である。ではあるのだが、別に同じ部屋で一緒に寝ている訳ではない。 幾ら専属と言えど、通常は──主人の部屋に入る際にノックをして『返答がない場合は勝手に入室せず、後ほどまた伺う』というようにしなければならないはずだ。しかし、彼にそのような事をされた記憶などジセルには微塵も無い。(──一体、俺の世話をどこまで担当しているのだろうか。そう言えば以前も……目が覚めたら既にこの部屋に居た。あの時は初めまして且つ、自己紹介やら……あと他にも色々あったせいで気にする暇が無かったな) |昨日《さくじつ》にて──帰宅後、ジセルの眠気が流石に限界だったため直ぐに自室へと向かったが、彼と別れたレアがエリナス夫妻の部屋へと向っていった様子を確認した……というのは鮮明に覚えている。(……そういやそういう約束でレアをつけて貰ったんだっけ。嘘をつけとまでは言わないが……全てを話すのはやめて欲しいという俺の気持ちをレアは汲んでくれているだろうか) ──昼食を食べる時にでも軽く探ってみるかぁ。 と、自室の扉へと手をかけるジセルであった。 食卓に着いた彼は長いテーブルにある7つの椅子の内、普段座っている──端から3番目の椅
Last Updated: 2025-01-31
Chapter: 第六話
「俺は──恋人が欲しい!」 ジセルの心からの叫びを聞いて首を傾げたままではあるが、一応は耳を傾けているルーナ。「ある日、思い出したんだ……──俺は変態だった、とッ!」 そう、ジセルは思い出した。自分が|瑠璃川 眞《へんたい》だと言う事、その過去を。「俺自身、かなり性欲がある。今は理性で抑える事が出来ているが、将来の自分がこの欲望を抑えることができるのかどうかを確信できなかったッ!」 ──この男、本音である。自身が変態であるという事実も、前世から己の魂に存在するモノの事であり、自身の未来に関わる重要な話と言えなくもないが──真に伝えるべきはそちらでは無い。 将来の伴侶にすべき人物は決まっており、”その人物を恋人とするために協力して欲しい”と……そう伝えなければならないはずであった。 「……」「……」 ルーナもレアも真剣に聞いてくれてはいるが、少々呆れ気味なのが顔に出てしまっている事にジセルはまだ気付かない。「そして俺は考えたッ! 将来、その性欲を解消できるくらいラブラブな彼女でも作れば良いんじゃね? ……と。一体どうすればそんな事ができるのか。俺は領主の息子だから、普通に過ごしていれば両親に選んで貰った人間と結婚して、子孫くらいは余裕で作れただろう……だが果たしてそこに愛はあるのか? 俺は相手にも幸せになって貰わないと興奮しないタイプなんだッ!」「──わぁ、変態だぁ」 ジセルの事を変態だと言うレアの顔は何故か少し嬉しそうだ。自分だけではなく、親友であるこの男までもが変態だったという事実に喜びを感じているのだろう。「じゃあどうすれば、女の子とラブラブになれる? 将来暇があったらイチャイチャできるくらいラブラブな伴侶を作れる? と、その方法を考えた。そうそれがッ! 『今から幼馴染でも作って、相手をべろちゅーで依存させればイけるんじゃね』作戦だった!」「ふーん」「……僕の初めての親友がこんなクズだなんて嫌だよ!」 口ではそう言っているが──レアの顔がみるみる悦びに満ちているのが、ジセルの水晶体にはハッキリと映っている。「そしてッ! ……アレ? そういや……前に領民と顔を合わせる目的で領内を回った時に、めちゃめちゃ可愛い子いたな? と思った俺は、その子を見かけたこの庭園へとやってきた」「……へぇ」「ジセル……僕の横から伝わってくる負の
Last Updated: 2025-01-31
Chapter: 第五話
「……ところで、さっきからジセルの後ろの方でこっちを見てる人ってだれ?」「えっ」 (あぁ……もしかしてレアか? ……ってレアかッ!? いぃ〜や、バレるの速過ぎッ!)「え? そんな人居るの?」 恐らくレアをガン見しているのであろうルーナ。背後のレアへとどうしても身体を向けることが出来ないまま──どうにかしてルーナの気を逸らそうと恍け始めるジセル。「うん、あっちの木の所に……こっちを見てる女の子がいる!」「え、マジ? 女の子!? どこどこッ!」「……ねぇ、どうして女の子って聞いた途端にそんな反応するの?」 しかし『女の子』という単語が耳を掠めた瞬間、コンマ1秒で振り向いてしまう|この男《バカ》。ルーナはそれにより、シセルを簡単に動かす為の言葉を一つ覚えてしまった。(さて何処にいるのかな〜……って、やっぱりレアじゃねーかッ! アイツ……隠れていないにも程があるだろ! ルーナの発言が『木の後ろに〜』や『隠れて見てる〜』とかじゃなくて、後ろの方やらあっちの木の所やら抽象的な事ばかりだったという事に、少しだけ違和感を感じてはいたが……もはや何も遮蔽物がない道のド真ん中に棒立ちしてんじゃねぇかお前!)「あの女の子……もしかして、ジセルの……知り合い?」「へ? あ、あぁ。アイツは……」 ジセルはレアを友達と紹介して、普段から『べろちゅー』をしていると勘違いされる訳にはいかないが──レアの事を|女の子《・・・》と言ったルーナに対しての返答を考えようとした時、シセルの脳内に今朝の記憶が駆け巡る。 ──……だっでッ! ぼぐっひぐ……男で良かっだなんでッ! ──うん、分かった! 親友の僕に任せてッ!! 初めは怖い程の無表情を浮かべ、水色という髪の色も相まってより冷たい雰囲気を醸し出していたのにも関わらず、爆速で泣き顔から笑顔まで晒す事となったレア。 詳しくは知らない、知らないが──そうなってしまうということは、女の子扱いされるのが嫌になる程の相当な理由があるのだろう。 ──ならばジセルが取れる選択は一つしかない。「……はぁ〜」「ジセル……?」「アイツはただの知り合いじゃなくて……僕の男友達で、親友なんだ」 そう、例え普段から男同士で『べろちゅー』をしていると思われたとしても──素直にレアを男友達として紹介するという選択しか。「……しんゆう?」
Last Updated: 2025-01-31
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